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偉い人ほどすぐ逃げる
著者:武田砂鉄
出版社:文藝春秋
本書の要約
政治家が責任を取らずに、説明から逃げることが日常化しています。安倍政権以降、リーダーの言葉が劣化し、隠蔽・改竄が当たり前になっています。メディアは政治家のイメージづくりに加担し、彼らの実態を国民に見えなくしています。政治家の発言をしっかり監視することが、国民・メディアの両方に求められています。
政治家の暴走が止まらない理由。
いつも同じことが起きている。偉い人が、疑われているか、釈明しているか、逆にあなたたちはどうなんですかと反撃しているか、隠していたものが遂にバレたか、それはもう終わったことですからと開き直っているか、だ。(武田砂鉄)
偉い人たちは、問題が起こったときに説明責任を果たさず、時間をかけて、逃げ切ることが当たり前になっています。
問題が発覚する→「どういうことですか」と問い詰められる→「いや、ご指摘には当たりません」などと逃げる→「いやいや、だから、どういうことなんですか」と再び問い詰められる→「ご指摘の点はすでに調査報告書に記されている通りです」などと逃げる→国民はものすごく問題が発覚する→「どういうことですか」と問い詰められる→「いや、ご指摘には当たりません」などと逃げる→「いやいや、だから、どういうことなんですか」と再び問い詰められる→「ご指摘の点はすでに調査報告書に記されている通りです」などと逃げる→国民はものすごく怒る→国民が忘れ始める→一部の国民が怒り続ける→大体の国民が忘れる→問い詰められていたほうが胸をなでおろす……このフローが何度も繰り返されているとライターの武田砂鉄氏は言います。
安倍政権、菅政権では、追求されても説明をスルーすることで、様々なことが忘れ去られています。安倍政権を継承した菅政権になると、ちゃんとした質疑応答すら成立しなくなり、国民のイライラは最高潮に達しています。コロナ禍の中で、決められない、行動しない、説明しない政治家がリーダーになることで、日本人は不幸になっています。
昨年、菅内閣が発足した直後の日本経済新聞社とテレビ東京が実施した緊急世論調査で、内閣支持率は74%になり、安倍内閣での前回調査からは19ポイント上昇しました。明確な政策が提示されることなく、国民は空気に流されたのです。農家出身・パンケーキが好きだという報道によって、人柄が支持されましたが、結局、記者会見で、説明すらできない総理大臣であることが明らかになりました。コロナ禍で後手後手の政策を繰り返し、今年になってからの支持率は急落しました。
メディアの報道姿勢が内閣に加担し、国民を不幸にする構図が出来上がっています。メディアが政治家を人柄で報道することがきっかけになり、内閣支持率を高めており、政治家の真の実力を隠しています。その結果、危機の際にリーダーシップを発揮できない政権が政治を担うことになります。菅首相の官房長官時代の記者会見で、メディアが厳しい質問をぶつけていれば、新型コロナで苦しむ現状を変えることもできたはずです。政治家が空気を操縦することにメディアが加担することで、国民が不幸になっています。
失敗認めない政権が、国民を不幸にする!
100億円も投じた、マイナンバー制度の個人向けサイト「マイナポータル」のサーバーの利用率が想定の 0.02%だったことが2019年に発覚している。マイナンバーのプロジェクトは、「すみません、失敗しました!」と認めるべきなのに、「いいや、失敗してません!」と言い張るためのプロジェクトと化している。
日本政府は何度もシステム投資で失敗を重ねます。エストニアの電子政府は低予算で作られたにもかかわらず、個人情報を保護しながら利便性を追求した結果、行政サービスの99%が電子化され、国民から支持されています。
一方の日本政府は開発に莫大な予算をかけ、様々なキャンペーンを行いましたが、マイナンバー・カードの普及は進みませんでした。国民と政府の信頼関係がない中で、新型コロナ禍の際の10万円の現金支給のオンライン申請にマイナンバー・カードを必須としたため、自治体窓口は大混乱になりました。
この給付では、マイナンバーをただ本人確認に使っているだけ、アナログな作業が役所にもたらされました。カードのデータ内にある情報を住民基本台帳の情報と照合し、それを複数の職員が確認したことで、時間がかかったのです。制度設計を怠り、自治体に丸投げする政府のDXが成功するはずがありません。
マイナンバーがこれほど失敗しているにも関わらず、日本政府は国民の個人情報を抜き取ろうとしています。運転免許証や国民健康保険、最終的には預金口座などとの紐付けが予定されています。失敗を認めない政府が、次々に新しい施策を打ち出しても、土台がダメなのですからシステムがよくなるわけがありません。本当にマイナンバーカードを普及させたければ、国民との信頼関係をまずは、構築すべきです。しかし、隠蔽・改竄が当たり前の現政権に、これを注文するのは不可能です。
システム会社に丸投げ、ITゼネコンが中抜きすることが日常化し、システム投資が巨大化する中で、マイナンバーカード以外でも、様々な施策が大失敗しています。
新型コロナウイルス感染者と濃厚接触した可能性を知らせるアプリ「COCOA(ココア)」が4カ月以上機能していなかった問題は、政治家のパフォーマンスが優先されたこと、厚生労働省に専門知識のある人材が少なかったことと、6社の開発会社の役割分担が不明確であったことが主な失敗の理由です。
安倍晋三前首相は、このアプリを感染対策の切り札と位置づけていましたが、必要な体制を整えずに、予算を浪費したのです。台湾のようにアプリが機能すれば、日本のコロナ禍の景色が変わっていたかもしれません。
五輪のアプリの開発費が73億円にのぼったと報道されていますが、こうなるともう意味がわかりません。外国人の観戦が難しくなった段階で、開発を止めなかったことで、膨大な予算を未だに食い潰しています。五輪のアプリ開発への批判をかわすために、オリンピックやパラリンピックが終わった後も、出入国管理に使うアプリとして活用すると言い出すなど、失敗を認めない姿勢が際立っています。
権力への監視を怠ったことで、政治家の暴走が止まりません。予算の無駄遣いだけでなく、改憲や個人の権利を阻害する悪法が次々と生まれています。武田砂鉄氏のように政治家のごまかしを見抜き、批判する姿勢をメディアが持たなければ、この国は劣化を続けます。言葉を蔑ろにするリーダーを許容している限り、失政が続き、日本は閉塞状況を抜け出せません。
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