明石順平氏の財政爆発 アベノミクスバブルの破局の書評


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財政爆発 アベノミクスバブルの破局
著者:明石順平
出版社:KADOKAWA

本書の要約

アベノミクスの異次元の金融緩和は完全に失敗だったと著者は指摘します。国債バブルが弾けることで、円安が起こり、インフレに突入します。ハイパーインフレが起これば、多くの国民が不幸になるのです。今回のコロナがその爆発時機を早めるはずです。

アベノミクスはなぜ失敗したのか?

「異次元の金融緩和」は、今も継続しています。そう遠くない未来、恐ろしい副作用が爆発し、日本をどん底に叩き落とすでしょう。その時、この経済政策を推進・擁護してきた人達は、詭弁を弄して責任逃れをするでしょう。今は世界的にコロナウイルスが蔓延していますから、「全部コロナのせい」にして逃げようとするかもしれません。(明石順平)

弁護士の明石順平氏は、アベノミクスは完全に失敗だったと指摘します。大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起することで成長を狙ったアベノミクスの何が間違いだったのでしょうか?

第1の矢の大胆な金融政策というのは、日本銀行(日銀)が民間銀行にたくさんお金を供給してデフレを脱却するというものです。第2の矢である財政支出については、確かに民主党時代よりは支出を増やしましたが、大規模なものにはなっていません。第3の規制緩和については、労働基準法の改悪(高度プロフエッショナル制度の導入等)など、余計なことばかりしていました。アベノミクスの実態とは、量的緩和の継続でしかなかったのですが、この政策が国債バブルを引き起こし、日本経済のリスクを高めています。

2013年4月4日、日銀は、マネタリーベースを年間60兆~70兆円のペースで増加させることを決定しました。さらに、2014年10月31日、日銀は、この増加ペースを加速させ、年間80兆円のペースでマネタリーベースを増加させることを決定しました。国債を買いまくってマネタリーベースを増やす「買いオペ」によって、「(増税の影響を除いて)前年比2%の物価上昇」を達成することを目指したのです。

しかし、この政策は巷で言われるほど、成果をあげていないと著者は指摘します。
1.2014年度の実質民間最終消費支出はリーマンショックを超える下落率を記録した。
2.戦後初の「2年度連続で実質民間最終消費支出が下がる」という現象が起きた。
3.2015年度の実質民間最終消費支出は、アベノミクス開始前(2012年度)を下回った(消費がアベノミクス前より冷えた)。
4.2015年度の実質GDPは2013年度を下回った(3年分の成長率が1年分の成長率を下回った)。
5.暦年実質GDPにおいて、同じ3年間で比較した場合、アベノミクスは民主党時代の約3分の1しか実質GDPを伸ばすことができなかった。
6.2014年度は、オイルショックがあった1974年度以来の「名目はプラス成長、実質はマイナス成長」という現象が起きた。

実はアベノミクスによって物価は上がってます。毎年、2%のインフレが実現できていないだけで、アベノミクスが始まってから2019年までに、物価は7.2%上がっていたのです。

まさに「悲惨」の一言に尽きます。非常に短くまとめれば、「物価だけ上がってしまったので消費が異常に冷えた」ということです。たったの1行で説明できる極めて単純な失敗です。

アベノミクスによって円安が起こり、物価が上がっていましたが、国民の多くの給料は上がらず、消費を減らすことで、生活を防衛していたのです。景気が停滞する中で、消費税を上げたこと昨年来のコロナショックが引き金になり、日本経済の低迷が続いています。

膨大な借金で、自己負担国家になっていた日本

安倍政権は株価を上げたとが功績になってますが、次の3つが株価上昇の主な要因であって、株価は実体経済を反映していないと著者は指摘します。
①異次元の金融緩和
②日銀のETF購入
③年金資金の投入

通貨発行機関の日銀は、株価が下がる度にETFを買うことで、株価の下支えをしています。日銀と年金で株価を本来あるべき金額より大きく吊り上げて好景気を装っているのが、今の株価の実態です。これが安倍元総理の高い支持率を支えるひとつの要因になっていました。

価格が高いところで購入しているため、暴落した場合、日銀もGPIFも莫大な損失を出すことになります。日銀が債務超過になるような事態になれば、円が市場の信頼を失うことで、大幅な円安になる恐れがあります。円安インフレが起こった場合、物価が上がり、消費はますます低迷します。低所得者や年金生活者の暮らしはますます苦しくなるはずです。

日本のGDPの約6割を占めるのは国内消費であり、消費の源泉が賃金だからです。賃金下降を野放しにしたことがこの国の低迷の一因でしょう。ところが、その原因を見誤り、「とにかく物価を上げれば何とかなる」という発想の元に実施されたのがアベノミクスです。

アベノミクスは「戦後最悪の消費停滞」をもたらしましたが、それを覆い隠すために統計数字が改竄されいたことを著者は明らかにします。

日本の低迷の真の要因は賃金を下げたことで、消費が低迷したことです。賃金を抑えつけてきたことが、デフレを招き、名目GDPの停滞を引き起こしました。人件費は会社運営のためのコストの大きな部分を占めますが、ここを削ることで、商品やサービスの値段を異常に下げることが可能になってしまいます。それはデフレにつながります。さらにそうやって物価が上がらなければ、名目GDPは伸びません。名目GDPが伸びなければ、債務残高対GDP比を抑えることはできません。

日本の問題は膨大な借金で、過去に借りたお金の返済が多くなったために、他の投資に回せなくなっているのです。他国に比べ、コロナ禍対策が後手後手になっているのもこれが理由になっています。

税金というのは「取られっぱなし」ではありません。徴税された税金は、財政支出としてまた国民の元へ還ってくるのです。経済における消費の主体は、政府と企業と家計です。政府は大きな消費主体です。高負担の国は、政府がたくさん税金や社会保険料を取る一方で、たくさんお金を使うから、公的な雇用もたくさん生み出し、それが経済にも好影響を与え、結果的に経済成長につながっているのです。

欧米諸国は、日本のように借金を積み上げていないので、たくさん集めたお金は、今を生きる国民のために使っています。北欧のデンマークやフィンランドは、税金が高いにも関わらず、幸福度が高くなっていますが、これは国民にしっかりお金が使われているからです。

著者は、高福祉・高負担国家のデータを分析することで、自分の租税観を変えたと言います。それまでは、税金は「取られるもの」ではなく、「出し合って、支え合うもの」だと考えるようになったのです。国家が国民から信頼を得るためには、徹底的に情報公開し、国民の監視が行き届くようにしなければなりません。しかし、政治家は説明責任をを果たすことなく、税金の無駄遣いを続けながら、国民に自助ばかりを求めています。

日本は「経済成長すれば何とかなる」という発想で、国民に負担を求めることから逃げてきました。そして、結局未来に負担を押し付けてきたのです。

日本財政の歳入面での失敗を端的にまとめると次の3点に要約できます。
1.所得税と法人税を減税し過ぎた。
2.消費税が低すぎた。
3.賃金下落を放置した。

賃金は税金の源泉ですから、これが落ちれば当然税収も落ちてきま す。だから絶対下がってはいけません。世界と比較しても、下がっているのは日本だけです。企業にとって賃金は「負担」です。企業が残業代不払いや正規雇用の非正規雇用への置き換えを繰り返して負担から逃げた結果、国民の税負担能力が落ちてしまったのです。これでは増税できないのは当たり前です。それが財政悪化に拍車をかけます。

政治家が国民に良い顔をし、負担を求めなかったことが、日本に悲劇をもたらしたのです。税金が低いことを放置し、財政悪化を続ければ、国民は最終的に自助を求められるのです。

今後、アベノミクスの副作用が起こることは間違いありません。国債バブルが弾けることで、円安が起こり、インフレに突入します。ハイパーインフレが起これば、多くの国民が不幸になるのです。今回のコロナがその爆発時機を早めるはずです。

債務が膨らめば膨らむほど、爆発する可能性は高まっていきます。少子高齢化が進行した状態で通貨が崩壊するという事態を、人類は経験したことはありません。国家財政が縮小することで、日本は「自己責任国家」になっていくきます。「働けなくなったら死ね」という酷い状態に、日本はなりかかっているのです。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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