チームレジリエンス 困難と不確実性に強いチームのつくり方 (池田めぐみ、安斎勇樹)の書評

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チームレジリエンス 困難と不確実性に強いチームのつくり方
池田めぐみ、安斎勇樹
日本能率協会マネジメントセンター

チームレジリエンス (池田めぐみ、安斎勇樹)の要約

チームレジリエンスを強化することで、ハードシングスを乗り越えられます。チームレジリエンスによって、組織の適応力、イノベーション能力、そして最終的には業績の向上につながります。チームの信頼関係やコミュニケーションを深めることで、困難な状況でも互いに支え合い、柔軟に対応できる組織を構築できます。

現代の組織に必要なチームレジリエンス

一寸先も見えない現代において、これまでのような「個人プレイ」ではなく「チームで成果を出す」ことが、あらゆる職種で求められるようになってきています。 しかし現実には多くの「困難」が降りかかり、チームの目標や基盤を脅かします。(池田めぐみ、安斎勇樹)

私たちを取り巻く環境は急速に変化し、将来の予測が困難な時代となっています。このような状況下では、個人の力だけでは課題解決が難しくなり、チームとしての取り組みがより重要になってきました。しかし、チームが直面する困難は実に様々で、リーダーを悩ませています。

例えば、新型コロナウイルスの感染拡大のような突如として起こる予期せぬ危機や、日々の業務負荷が徐々に蓄積していく慢性的な問題まで、その範囲は広範です。 これらの困難な課題、いわゆる「ハードシングス」に対して、チームには柔軟な対応力と乗り越えていく強さが求められています。

私が教えるiU(情報経営イノベーション専門職大学)の授業でも、この重要性を強調しています。先日、その授業にゲスト講義をお願いしているZENTechの代表取締役社長の金亨哲氏から心理的安全性AWARD 2024にお招きいただきました。そのイベントで金氏と鼎談をしていた安斎勇樹氏に興味を持ち、本書を購入しました。

安斎氏は、人と組織のコンサルティングファームMIMIGURIのCo-CEOでメンバーの池田めぐみ氏と共に「チームレジリエンス」という考え方を本書で深く掘り下げ、実践的な洞察を提供しています。著者たちは、人間が単に困難そのものだけでなく、不確実性の高まりによって強いストレスを感じることを指摘しています。この不確実性は、チームメンバー全員に恒常的なストレスを与え、常に「モヤモヤ」とした状態を生み出します。

しかし、問題はこれだけにとどまりません。 チームの各メンバーが自己防衛のために逃避的な行動を取り続けるとチーム全体の困難は解消されるどころか、むしろ増大してしまうと言います。課題解決のための疑問が解消されないまま、不確実性と困難は膨れ上がっていき、ますます迷路に陥ってしまいます。

この状況を打破するために、著者たちはチームレジリエンスという考え方を提唱しています。 チームレジリエンスとは、チーム全体が困難や不確実性に直面した際に、それを乗り越え、さらには成長の機会として活用する能力を指します。

チームレジリエンス=チームが「困難」から回復したり、 成長したりするための能力やプロセス

これは単なる「耐える力」ではなく、困難を通じて学び、適応し、より強くなる能力を意味します。 著者たちは、最新の学術研究の成果を紹介しながら、チームレジリエンスを育成するための具体的な方法を提案しています。その核心には、個人の逃避行動を乗り越え、チーム全体で困難に立ち向かう企業文化の醸成があります。

著者たちが指摘するように「独りよがりのレジリエンス」には限界があります。個人の努力だけでは、複雑化する社会の課題に対処するには不十分であり、むしろ孤立感を深める結果となりかねません。一方、チームとして協力することで、個々の強みを結集し、より大きな困難に立ち向かう力を生み出すことができます。 チームによるレジリエンス構築の利点は多岐にわたります。

まず、多様な視点と経験を持つメンバーが集まることで、問題に対する解決策の幅が広がります。一人では思いつかなかったアイデアが、チームの中で生まれる可能性が高まるのです。また、タスクの分担により、個々の負担が軽減されるとともに、効率的な問題解決が可能となります。

また、タスクの分担により、個々の負担が軽減されるとともに、効率的な問題解決が可能となります。 さらに、チーム内でのサポート体制は、メンバーの精神的なレジリエンスを高める上で重要な役割を果たします。困難に直面した際、チームメイトからの励ましや助言は、個人のモチベーションを維持し、前向きな姿勢を保つ助けとなります。

この情緒的なサポートは、長期的なレジリエンスの構築に不可欠な要素です。 効果的なチームワークを実現するためには、信頼関係の構築が基盤となります。オープンなコミュニケーションを通じて、メンバー間の理解を深め、互いの強みと弱みを認識することが重要です。この過程で、チームとしての一体感が生まれ、困難に立ち向かう際の結束力が強化されます。 また、チーム内での役割分担を明確にすることで、各メンバーが自身の専門性を最大限に発揮できる環境を整えることができます。

これにより、チーム全体のパフォーマンスが向上し、困難や不確実性に対する対応力が高まります。 チームでのレジリエンス構築は、単に困難を乗り越えるだけでなく、長期的な成長と発展をもたらします。メンバー間での知識やスキルの共有により、個々の能力向上が促進されます。

また、成功体験を共有することで、チーム全体の自信とモチベーションが高まり、将来の課題に対する準備が整います。 しかし、チームでのレジリエンス構築には課題もあります。異なる背景や価値観を持つメンバーが協力する中で衝突が生じる可能性があります。これを克服するためには、効果的な課題解決のスキルを身につけ、建設的な議論を通じて共通のゴールを見出す必要があります。

また、チーム内でのリーダーシップの在り方も重要です。適切なリーダーシップは、メンバーの潜在能力を引き出し、チームの方向性を明確にする上で不可欠です。ただし、リーダーシップは特定の個人に固定されるものではなく、状況に応じて柔軟に変化させることが求められます。

チームレジリエンスの3つのステップ

チームでレジリエンスを発揮することは、もちろん簡単なことではありません。そのアプローチを紐解くと、心をケアすること、自分の感情に向き合うこと、正しく問いを立てること、対話をすること、良い教訓を残すこと。これらを限られたリソースを使いながら組み合わせて実行する複合的な能力だといえます。

最新の研究によると、レジリエンスの高いチームは困難に直面した際に、3つの重要なステップを踏むことがわかっています。
1、課題を明確にして対処する
2、困難から学びを得る
3、被害を最小限に抑える

これらのステップは互いに関連し合い、循環的なプロセスを形成します。しかし、チームでレジリエンスを発揮することは簡単ではありません。それは複合的な能力であり、様々な要素を巧みに組み合わせる必要があるのです。

まず重要なのは、チーム内での素早い課題の共有です。問題を早期に発見し、共有することで、トラブルの解決もスピーディに行えます。その際、具体的な期限と担当者を決めることが大切です。

次に、チームメンバーの心身の健康に気を配ることが重要です。困難な状況下では、メンバーの精神的健康が脅かされる可能性があります。互いの状態に注意を払い、適切なサポートを提供することで、チームの回復力を維持できます。

また、自分の感情と向き合うことも大切です。困難な状況では、不安や怒り、挫折感などが生じやすくなります。これらの感情を抑え込むのではなく、認識し、適切に対処することが必要です。感情を適切に管理することで、より冷静な判断と効果的な行動が可能になります。

チーム内でのコミュニケーションも重要な要素です。開かれた対話を通じて、問題の本質を見極め、適切な問いを立てることができます。多様な視点を共有し、新たなアイデアを生み出すことで、効果的な解決策を見出せます。

困難を乗り越えた経験は、貴重な学びの機会です。その経験から得た教訓を将来に活かすことで、チームの回復力は継続的に強化されていきます。経験を振り返り、分析し、知識として蓄積する能力が求められます。

これらの要素を、限られた資源(時間、人材、資金など)の中で効果的に組み合わせて実行することが、チームレジリエンスの真髄です。チームの意識が一つになることで、事前に問題の芽を摘み取ることも可能になります。 チームレジリエンスの向上は、一時的な取り組みではなく、組織の文化として根付かせるべきものです。

リーダーは、これらの要素をチームに浸透させ、日常的な実践を促進する必要があります。定期的な振り返りと評価を通じて、チームの進捗を確認し、必要に応じてアプローチを調整することも重要です。 チームレジリエンスを高めるプロセスは、常に進化し続けます。新たな課題や環境の変化に応じて、チームの戦略や実践を適応させていく必要があります。

成功体験を共有し、チーム全体で学びを深めることで、さらなる成長につながります。 困難な状況下でこそ、チームの真価が問われます。レジリエンスの高いチームは、危機を機会に変え、新たな可能性を見出すことができます。これは、個々のメンバーの成長だけでなく、組織全体の発展にも大きく貢献します。

チームレジリエンスを強化することで、メンバーのストレスも軽減でき、パフォーマンスを高められます。これにより、チームの長期的な成功と持続可能性を確保できるのです。困難を恐れるのではなく、それを成長の糧とし、常に前進し続ける組織文化を築くことが、今後の企業競争力の鍵となるでしょう。

チームレジリエンスに必要な5つの基礎力と4つの戦略マトリクス

困難を乗り越えるためには、 チームの基礎体力をある程度 整えておく必要があるのです。

海外の様々な研究が示すように、チームが困難を乗り越え、成長するためには、強固なチーム基礎力が不可欠です。
この基礎力は
1、チームの一体感
2、心理的安全性
3、適度な自信
4、適応能力
5、ポジティブな風土
という5つの核心的要素から構成されています。

チームの一体感は、共通の目標やビジョンに向かって協力し合う力を生み出します。メンバー間の強い信頼関係と相互理解が、困難な状況下でも団結して前進する原動力となります。この一体感は、単なる仲の良さではなく、目的意識の共有と相互依存の認識から生まれるものです。

心理的安全性は、チームレジリエンスの中でも特に重要な要素として注目されています。これは、チームメンバーが自分の意見や懸念を自由に表現できる環境を指します。心理的安全性の高いチームでは、失敗を恐れることなく新しいアイデアを試すことができ、問題が発生した際にも建設的な対話を通じて解決策を見出すことができます。

心理的安全性を育むためには、リーダーシップの役割が極めて重要です。リーダーは自身の脆弱性やチームの問題を明らかにし、失敗から学ぶ姿勢を見せることで、チームメンバーにも同様の行動を促すことができます。リーダーがメンバーにとって身近な存在になることがポイントになります。

また、多様な意見を積極的に求め、建設的なフィードバックを奨励することも重要です。チームのみんなで困難を振り返り、教訓を得ることで、チームは強くなれます。ネガティブな経験から、ポジティブな学びを得ることを目指すことが重要です。

心理的安全性は、イノベーションと学習の基盤となります。メンバーが自由に意見を交換し、新しいアイデアを提案できる環境では、創造性が育まれ、問題解決能力が向上します。また、失敗を恐れずにチャレンジする文化は、チーム全体の成長と適応力を高めます。失敗の犯人を探したり、謝罪で終わりにするのではなく、困難をきちんと振り返り、学びや教訓を得るようにしましょう。

さらに、心理的安全性は、ストレス軽減とウェルビーイングの向上にも寄与します。自分の意見が尊重され、受け入れられていると感じることで、メンバーの職務満足度が高まり、結果としてパフォーマンスの向上にもつながります。

適度な自信もチームレジリエンスの重要な要素です。このチームならやれるという思いがあると、ハードシングスも乗り越えられます。

状況に適応する能力も、レジリエントなチームには不可欠です。状況に応じてメンバー一人一人が自発的に行動することが重要です。困難に直面した際の粘り強さと、柔軟な対応力の源となります。

急速に変化するビジネス環境において、柔軟性と適応力は生存と成功の鍵となります。これは単に変化に対応するだけでなく、変化をチャンスとして活用する能力を指します。

最後に、ポジティブな風土がチームレジリエンスを支えます。楽観的で協力的な雰囲気は、困難な状況下でもチームの士気を高め、創造的な問題解決を促進します。ポジティブな風土は、失敗を学びの機会として捉え、継続的な改善と成長を促す土壌となります。

そのためには前向きな声掛けとユーモアが欠かせないと著者たちは指摘します。ラグビーのイングランドチームは強いプレッシャーの中でユーモアを頻繁に用いていたのです。

これらの要素を統合的に育成することで、チームは困難を乗り越えるだけでなく、そこから学び、成長する力を獲得します。レジリエントなチームの構築は、組織の長期的な成功と持続可能性に大きく貢献し、不確実性の高い現代のビジネス環境において競争優位性の源泉となります。

著者たちが提唱する「レジリエンスの4つの戦略マトリクス」は、この複雑な概念を理解し、活用するための斬新な枠組みを提供しています。 このマトリクスは、ストレスへの対応方法と対処のスピードという2つの軸を基に構成されています。

縦軸はストレスをあしらう(回復する)か、その機会を活かす(成長につなげる)かを示し、横軸はゆっくり対処するか、すばやく対処するかを表しています。これらの軸の組み合わせにより、4つの異なるレジリエンス戦略が生まれます。

「風船型」は、機会を活かしつつゆっくりと対処する戦略です。この型は、ストレス状況を成長の機会として捉え、時間をかけて慎重に対応します。じっくりと状況を分析し、長期的な視点で最適な解決策を見出すことが特徴です。

「柳型」は、ゆっくりと対処しながらストレスをあしらう戦略です。この型は、柳の枝のようにしなやかに外部からの圧力を受け流し、徐々に元の状態に戻る能力を持ちます。急激な変化や過度の反応を避け、穏やかに時間をかけて回復することを重視します。

「バネ型」は、機会を活かしつつ素早く対処する戦略です。この型は、ストレス状況を迅速に分析し、それを成長の機会として積極的に活用します。バネのように素早く反応し、同時に高く跳躍するように、困難を克服しながら新たな高みを目指します。

「こぼし型」は、素早く対処しながらストレスをあしらう戦略です。この型は、水をこぼしたときのように、迅速に対応しつつ、ストレスの影響を最小限に抑えることを目指します。問題が大きくなる前に素早く対処し、元の状態に戻ることを重視します。

これら4つの戦略は、状況によって使い分けることが重要です。一つの戦略に固執するのではなく、場面に応じて柔軟に戦略を選択し、適用することで、より効果的なレジリエンスを発揮することができます。

この「レジリエンスの4つの戦略マトリクス」は、ストレス対処や困難克服の方法を体系的に理解し、実践するための有用なツールとなります。現代社会の複雑な課題に直面する中で、このマトリクスを活用することで、チームはより効果的にレジリエンスを発揮し、持続的な成長と適応を実現することができるのです。

チームレジリエンスの強化は継続的なプロセスであり、常に意識的な努力と投資が必要です。しかし、その見返りは大きく、組織の適応力、イノベーション能力、そして最終的には業績の向上につながります。今日のグローバルで複雑な経済環境において、チームレジリエンスの構築は、単なる選択肢ではなく、組織の生存と繁栄のための必須条件と言えるでしょう。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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