移民リスク
三好範英
新潮社
移民リスク (三好範英)の要約
国境管理は国家存立の根幹です。日本のクルド人問題はより広い外国人政策の試金石となっています。ドイツでは大量移民受入れ後の社会不安が右派政党躍進につながりました。日本は文化的同質性と国際化のバランスを取りながら、選択的な外国人受入れと統合政策を慎重に進める必要があります。
クルド人問題とは何か?
慎重な審査を経た結果、在留資格を失った外国人が、それを無視して残留を続ける状態が放置されれば、法秩序、治安に悪影響があることは明らかだ。川口、蕨市で起きていることは、その証明だろう。(三好範英)
日本における出入国在留管理政策は、移民の増加により、国家の根幹に関わる重要課題になってきました。移民を排斥する鎖国的政策は経済衰退をもたらす一方、無制限な人の流入は国の文化や国柄を変容させる可能性があります。この繊細なバランスは国家の将来と国民一人ひとりの生活に直接影響を及ぼしています。
現代日本では「国際化」や「多文化共生」という言葉が理想的状態として語られることが多いのが実情です。しかし、これらの概念は時に十分な検討なく使用され、その背景には途上国搾取論のような極端なリベラル的視点と、労働力確保を求める経済界の合理主義が結びついている側面も見受けられます。
クルド人問題は、日本の外国人政策における課題を顕著に示しています。これまでの外国人問題が抱える諸課題を内包するだけでなく、入管法の「抜け穴」を利用した長期滞在や集団による日本人への威嚇行動、ゴミや騒音など、特有の問題点も浮き彫りになっています。この問題への対応は、今後ますます多様化する外国人問題への試金石となるとジャーナリストの三好範英氏は指摘します。
政治的迫害から日本へ逃れてきたクルド人は存在するものの、その数は限定的だと言います。実際には日本とトルコを往復するクルド人の多くが、帰国後も迫害されずに生活している事実があると言うのです。
地方行政は外国人による負担増に直面しています。自治体医療における未収金問題や入院助産制度の利用増加が大きな課題となっています。また、退去強制令書が発付された仮放免中の子どもたちも地元の義務教育を受けることができ、大学や大学院に進学する若者もいる一方で、環境に恵まれず学校を中退したり非行化したりするケースも報告されています。
川口市の事例では、2024年5月時点で市立小中学校の全生徒数約4万2000人のうち、外国国籍の生徒は3100人に上り、そのうちトルコ国籍者は400人、毎年約50人ずつ増加している状況にあります。
クルド人は日本国内に強い血縁・地縁ネットワークを持つと同時に、トルコ国内にも同様のつながりを維持しています。多くの不法移民が送還されても新たな生活基盤を築くことが可能であると著者は主張します。特に犯罪歴のある外国人については、刑期終了後の送還を促進しなければ、日本人の安全が脅かされます。実際、川口市ではさまざまなトラブルに日本人が巻き込まれていますが、警察や司法はあまり機能していません。
移民先進国ドイツで起こったこと!
右派政党はこれまで投票所に足を運ばなかった有権者を動員することに成功した。ドイツの人々は移民の流入に不安を感じていて移民を受け入れる能力が限界に達しているという意識が多くの人の中にあった。(ドイツのジグムント駐日大使)
ドイツのメルケル前首相は、2015年のシリア内戦を契機に100万人以上の難民を受け入れ、「歓迎の文化」を掲げました。この寛大な政策は国際社会から高く評価される一方で、国内では大きな社会的・経済的課題を生み出しました。 特に顕著なのは、都市部での住宅不足や社会保障制度への負担増大、文化的摩擦の深刻化です。
ドイツでは、言語や文化的背景の違いから移民の社会統合が困難を極め、移民居住区のゲットー化や社会的孤立といった問題が発生しています。 また、労働市場への参入も容易ではなく、移民の失業率は依然として高い水準にあります。こうした状況を背景に、移民政策に批判的な政党が支持を拡大し、政治的分断が深まっています。
先ごろ行われたドイツの連邦議会選挙では、移民や難民に対して排他的な姿勢を掲げる右派政党「ドイツのための選択肢」が議席をほぼ倍増させ、第二党へと躍進しました。この選挙では、1990年の東西ドイツ統一以降最も高い投票率となる80%を超え、国民の関心の高さが表れています。
NHKによると、ジグムント駐日大使は、国民の不安を解消するためには移民政策の是正が課題になるとの認識を示し、すでに国境審査の厳格化や罪を犯した外国人の強制退去などが議論されていることを明らかにしました。この選挙結果は、寛容な移民政策が必ずしも国民の広範な支持を得られるものではなく、社会の受容能力を超えた受け入れが政治的分断や排外主義の台頭を招く危険性を示したのです。
ドイツの経験は、移民問題が単なる人道的課題だけでなく、国家のアイデンティティや社会の安定性に関わる重大な政治的テーマとなっていることを鮮明に示しています。 日本社会は国家、民族、言語、文化、歴史が一体となった稀有な国民国家です。
このような特性を持つため、多文化共生に関する議論が表面的になりがちで、異文化との摩擦の実態認識が希薄になっている面があります。日本社会の同質性は創造性の欠如や閉鎖性といった批判を受けることもありますが、同時にそれが社会の安定性や調和をもたらしている側面も無視できません。
唯一の、まとまりのある国民(民族)の圧倒的な支配こそが、自由な国の国内的な平和の唯一の基礎である。安定して自由な国家が存立するために必要なのは、その文化的支配が明確で疑問の余地のない多数派の国民がいることであり、そうした多数派への挑戦が無駄なことである。(ヨラム・ハゾニー)
イスラエルのヨラム・ハゾニーが指摘するように、国家には圧倒的な多数派がいることが重要です。日本も無制限な移民受け入れによって国のアイデンティティが変容するリスクを認識する必要があります。
ドイツと日本では歴史的背景や社会構造が異なるため、ドイツの経験をそのまま日本に当てはめることはできませんが、外国人の受け入れに際しては、雇用、教育、住宅、医療などの統合政策を包括的に準備すること、また受け入れ規模と速度を社会の許容範囲内に抑えることの重要性など、多くの教訓を得ることができます。
日本の移民政策は国家の価値観や制度と整合する形で慎重に進められるべきです。歴史的に日本は高度な技術や知識を持つ外国人を選択的に受け入れながら、文化的同質性を維持することで発展してきました。この伝統的アプローチを尊重しつつ、現代の課題に対応した選択的な外国人受け入れ政策を検討することが重要です。
メディア報道においても、不法滞在者の主張のみを一方的に報じるのではなく、法秩序の維持と国民の安全に配慮した均衡のとれた視点が求められると著者は指摘します。法に基づいた適正な対応を排外主義と混同せず、冷静で建設的な議論を進めていくことが日本社会の未来にとって不可欠です。
このような視点から、クルド人問題への対応は単に一部の外国人グループの問題ではなく、グローバル化が進む中で日本がどのような国家として存続していくかという根本的な問いを含んでいます。
ドイツの経験も踏まえながら、長期的な国益と人道的配慮のバランスを取り、社会の安定性を損なわない持続可能な移民・外国人政策を構築していくことが求められています。
日本固有の文化や社会的特性を大切にしながら、グローバル化が進む世界の中でバランスの取れた国際化を目指すことが重要です。その際、日本人の安全をどのように確保するか、また税金や社会保障の負担をどこまで受け入れるのかについて、具体的で現実的な議論を深めていく必要があります。
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