日本のなかの中国(中島恵)の書評

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日本のなかの中国
中島恵
日経BP

日本のなかの中国(中島恵)の要約

日本における中国人コミュニティは、近年、その様相を大きく変えつつあります。在日中国人のコミュニティは独自の経済圏を築き、日本社会とのつながりが希薄になる傾向があります。地域の「中国化」はビジネス機会を生む一方、文化や経済のバランス崩壊のリスクも伴います。相互理解と協力が今後の共生には不可欠です。

存在感を増す日本の中の中国人

日本にいながら、ほぼ中国人だけで構成されるコミュニティは、私たち日本人が知らないうちに、ネットとリアルの双方に猛烈な勢いで広がってきている。 彼らの多くが日本企業に勤務し、私たちともある程度の接点を持っているにもかかわらず、ここ一~二年、彼らの間に起きている〝地殻変動〟に私たちはほとんど気がついていない (中島恵)

日本における中国人コミュニティは、近年、その様相を大きく変えつつあります。かつては主に留学生や労働者が中心だった在日中国人社会ですが、今では経済的・文化的に自立した、より複雑で重層的なコミュニティへと進化しています。

経済面での活動は特に顕著で、日本企業において専門職や管理職として活躍する人材が増え、起業家としてビジネスを成功させる事例も増加しています。飲食業、IT業、不動産投資など、多岐にわたる分野で彼らの影響力が見られ、その経済活動の範囲は日本国内にとどまりません。

82万人という在日中国人の規模は、山梨県の人口にも匹敵し、日本経済に与える影響力は確実に増しています。 現代の中国人コミュニティの特徴の一つは、20代から30代の若い世代が中心となっていることです。

彼らは高度な専門知識や技術力を備えて来日し、ITエンジニアやデータサイエンティスト、経営管理職などとして活躍しています。彼らの存在は、従来の在日中国人のイメージを刷新し、より多様で先進的なコミュニティを形成しています。

経済活動においては、在日中国人コミュニティ内で完結する独自の経済圏が形成されています。飲食店、不動産投資、日用品販売など、生活に必要なあらゆるサービスが中国人経営者によって提供されることが増えていると著者は指摘します。

表面的には日本企業として運営されているものの、実質的なオーナーが中国人であるケースも少なくありません。特定のエリアには中国系ビジネスが集積し、独特な経済活動のネットワークが存在します。日本社会と密接に関わりながらも、独立した経済圏を維持するという現象は、現代の在日中国人コミュニティの大きな特徴と言えるでしょう。

さらに、SNSやオンラインネットワークの普及が、コミュニティの発展に大きな役割を果たしています。WeChatや小紅書(中国版のインスタ)といったプラットフォームを通じて、情報共有がリアルタイムで行われ、ビジネスの成功事例や生活に必要な情報が瞬時に拡散されます。

オンライン上のサロンやフォーラムでは、在日中国人同士が支え合い、経済的・文化的な結束力を強めています。こうしたネットワークは、物理的な距離や国境を超えた新しいコミュニティ形成のあり方を示しています。

一方で、彼らは日本社会との接点を持ちながらも、中国とも日本とも異なる「独自の世界」を築き上げています。日本に溶け込みつつも、中国の文化や習慣を維持し、二つの文化を融合させた新たなアイデンティティを育んでいます。

例えば、旧正月や中秋節といった伝統行事は今なお大切にされ、日本での生活と融合した形で祝われています。こうした独自の文化圏を維持しながら経済活動を展開する彼らの姿は、グローバル化が進む現代社会における「新しい共生のあり方」を象徴していると言えます。

中国人だけで行われるビジネスが増加

日本における在日中国人コミュニティは、表立っては見えにくいものの、急速に拡大し続けており、経済や文化の分野で独自のネットワークを築き上げています。彼らは政府主導のマスコミ報道よりも、口コミやSNSからの情報を重視し、生活やビジネスの判断を下す傾向が強いです。

そのため、日本人には気づかれにくい形で多くの業界に影響を与える存在になっています。 中国人ビジネスが成功を収めている背景には、SNSや独自の情報網を駆使する在日中国人の発信力が大きく関わっています。日本でのリアルな日常が中国人向けに発信されることで、日本に対する中国人の印象は近年、大きく改善されました。

観光地やビジネスの現場で日本の現実を知った中国人は、より安心して日本との経済交流を進めるようになり、日中間のビジネスチャンスがさらに広がっています。 特に在日中国人は独立心が旺盛で、雇用されるよりも自ら起業する道を選ぶ人が少なくありません。

不動産業界に限らず、建築やリフォーム、飲食業、美容整形、ネット通販、中古車販売、自動車修理といった幅広い分野でビジネスを展開しています。これらの業界では、日本語力がそれほど求められず、中国語のみでビジネスが成り立つケースも多いため、中国人同士でスムーズに取引が行われています。

こうしたビジネスの多くは、日本人のみならず、在日中国人や中国本土からの訪問者を顧客として想定しているため、日本にいながらも「中国人だけで回る経済圏」が形成されてきました。建築業や飲食業の現場では、中国人同士が取引し、サービスを提供し合うエコシステムがすでに完成しているのです。これにより、中国系ビジネスは日本国内において確かな存在感を持つようになりました。

日本人には見えない場所で、彼らは確実に独自のエコシステムを構築し、ビジネスを成功に導いているのです。 しかし、在日中国人の経済活動が盛んになる一方で、そのビジネスが中国人同士で完結してしまうことから、日本社会とのつながりが希薄になるという側面もあります。彼らが日本にお金を落としているものの、その経済活動の恩恵が日本人には感じられにくい状況も存在します。

観光客だと思っていた中国人が、実は日本に定住し、日常生活やビジネスを行っているという例も今後さらに増えるでしょう。 川口市などの地域では、中国人コミュニティが拡大し、中国文化が色濃く反映される現象が進んでいます。このような地域の「中国化」は、ビジネスチャンスを生み出す一方で、日本社会にとってリスクとも捉えられるかもしれません。

地域社会が過度に外国人コミュニティに依存してしまうことで、文化や経済のバランスが崩れる懸念があるためです。 今後、在日中国人コミュニティが日本社会とより良い関係を築いていくためには、相互理解と協力が不可欠です。経済や文化の交流を深め、新たな価値や文化を生み出すパートナーとして、日本人と在日中国人が共に成長していくことが理想です。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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