相続家族会議のすすめ:安心と信頼の遺産相続は「事前準備」が10割
藤本律夫 , ライフグループ
時事通信

最後に後悔しないために──本書が伝える「相続の新常識」
結論:相続の本質は「話し合い」と「資産の構え方」にあり、家族の信頼関係と資産を守るためには、早期の対話と資産分散が不可欠です。
原因:相続を先送りにする意識や現金重視の価値観に加え、認知症や突然の病気によって意思表示ができなくなるケース、そして家族間での事前共有不足が誤解やトラブルを招いています。
対策:早い段階から家族会議を始めて想いや現状を見える形で共有し、現金に偏らず不動産や株式、債券などに資産を分散させ、専門家の支援を受けながら定期的に計画を見直す体制を整えることが重要です。
3行で理解する:家族の未来を守る“相続家族会議”の核心
相続は「死後の手続き」ではなく、これからの暮らしと安心を築くための未来設計です。 「まだ早い」と感じる今こそが、家族で対話を始める絶好のタイミングです。 想いと資産を見える化する“相続家族会議”が、信頼と絆を守り、後悔のない承継を実現します。
親と向き合うタイミングを迷っているあなたへ
・最近、親の入退院や免許返納をきっかけに「これから」を考え始めた方
・相続のことが気になっているけど、どう切り出せばいいかわからない方
・兄弟・姉妹との関係が“もつれそう”な予感を感じている方
・財産が少ない家こそ、ちゃんと話しておく必要があると感じている方
・親の想いも大切にしながら、安心して暮らしを引き継ぎたいと願う方
読者が得られるメリット
・親と自然に相続の話ができる
・“きっかけの作り方”と対話のコツがわかる
・実家や遊休資産の扱いを含めた、具体的な資産の見直し方を学べる
・「現金=安全」ではない現実と、資産を守る分散の考え方が理解できる
・相続を前向きな家族時間に変えるマインドと具体的ステップが見える
結果として、家族関係を壊さずに資産と安心を“つないでいく力”が身につく
「まだ元気だから…」で後悔しないために──家族信頼を守る“相続家族会議”のすすめ
私たちが相続の現場で何度も目にしてきたのは、「元気なうちに話しておけばよかった」という後悔です。親御さんが突然倒れたり、認知症を発症されたりしたことで、意思確認が難しくなり、相続対策の選択肢が限られてしまうケースは少なくありません。
50歳を超えた頃から、私の周囲で相続を巡る悩みやトラブルに直面する人が増えてきました。「相続なんてまだ先の話」「うちには財産がないから関係ない」と考えている方も少なくありませんが、実際に相続を経験した人が口を揃えて言うのは、「もっと早く話しておけばよかった」という後悔の声です。
問題はいつも突然訪れ、準備をしなかったことで混乱が大きくなります。「まだ早い」と思っていたその一瞬が、「もう遅い」に変わるのは、誰にとっても避けがたい現実なのです。
とくに親が70代・80代に差しかかると、子ども世代である50代は、親の体調や暮らしの変化に気づく機会が増えてきます。入退院の増加や免許の返納、家事の困難さなどが見られるようになれば、それは“次のステージ”への移行を示すサインです。
そしてそのサインの先には、介護や認知症、実家の管理、そして相続といった現実的な課題が待ち受けています。親の暮らし方が変わると、家族全体の関係性や生活スタイルにも波紋が広がります。
だからこそ、変化に気づいた時点で「話せるうちに話す」「できるうちに準備する」ことが、何よりの優しさとなります。
今日、紹介する相続家族会議のすすめ:安心と信頼の遺産相続は「事前準備」が10割は、相続の固定観念を見直し、「元気なうちに始めることの重要性」を具体的かつ実務的に教えてくれる一冊です。
著者である藤本律夫氏は、広島を拠点とするライフグループの代表。行政書士・不動産・税務の専門家がチームとなって相続支援に取り組む同グループは、年間1000件以上の相続・不動産相談を受け、複雑な家族関係や資産構成に対しても丁寧な支援を行っています。
相続は、誰かが亡くなった後に初めて考えることではありません。それはむしろ、「いまの暮らしの延長線上にある未来の準備」です。多くの方が「死」を連想して相続の話題を避けがちですが、相続を“これから”のための話として捉え直せば、行動への心理的なハードルも下がります。そしてその第一歩となるのが、家族間の対話です。
法律や税制の知識だけでは、相続はうまくいきません。相続とは、「人」と「人」、「想い」と「暮らし」をつなぐ営みでもあるからです。
とはいえ、「相続の話をしよう」といきなり切り出してもうまくいかないのが現実です。お金や将来の話題は、多くの家庭で長年避けてきたテーマであり、唐突な提案はかえって壁を作ってしまいます。そこで重要になるのが、きっかけの作り方です。
たとえば、テレビや新聞で相続トラブルの話題が出た際に「うちもそろそろ考えたほうがいいかもしれないね」と軽いトーンで話し始めたり、「最近親戚でこんなことがあった」と身近なエピソードをきっかけにするなど、自然な入り口を設けることが心理的ハードルを下げる手助けになります。
初回の家族会議では、結論を出すことを目的にする必要はありません。まずは「今の気持ちを共有する」ことを目的とし、親の希望や子ども世代の不安などを率直に出し合う時間と位置づけることが大切です。
その後、収入や貯蓄、ローン残高、不動産の所在や価値といった具体的な数字や状況をオープンにし、情報を家族全体で共有していくことが建設的な議論の基盤になります。資産内容の不透明さは不信感や不満の温床となるため、「見える化」を通じて安心と納得感のある話し合いを進める必要があります。
こうして話し合いが定着してくれば、年に一度のペースでもよいので、家族会議を定期的に開くことが望ましいでしょう。状況の変化に応じて継続的に話し合いを続けることで、相続の準備は柔軟性を持った計画へと進化します。また、話し合いの内容は議事録などに記録しておくことで、後々の確認や誤解の防止に役立ちます。
相続前に資産の組み替えが重要な理由
「現金=安全」という思い込みは、相続や資産承継の計画を狭めてしまう危険があります。現金はあくまで資産の一部であり、全体の中での役割を明確にすることが大切です。相続を機に、資産を現金だけでなく、多様な形で保有・活用する戦略を立てることが、次世代への賢い資産引き継ぎにつながります。
相続を考えるうえで見落とされがちですが、極めて重要なのが「資産の組み替え」という視点です。ただ手元にある資産をそのまま引き継ぐのではなく、どの資産を残し、どれを手放し、どのように活用していくかを見極めることが、家族の未来の安心と、次世代の負担軽減につながります。
資産の組み替えを考えるとき、まず注目すべきは「何を残すか」です。ここでは、感情ではなく合理的な判断が求められます。思い入れがあるからと残しても、収益性が低く、管理が難しく、税負担ばかりがかかる資産であれば、それは家族にとって「遺産」ではなく「負債」となってしまいます。
たとえば、空き家のまま放置されている実家が修繕もままならず、維持費や固定資産税だけがかさむ場合、それを次世代に引き継ぐことが本当に望ましいのか、冷静な視点で考える必要があります。
資産として残すべき条件は、収益や価値が安定していること、管理や運用の手間が少ないこと、そして相続税評価など税務面でも有利であることです。 次に、「何を活用するか」という判断も欠かせません。ここでいう活用とは、収益性が乏しい土地や老朽化した建物、使う予定のない別荘などを早めに売却し、現金化することを意味します。
これらの資産を保有し続けても、収入を生むことは少なく、むしろ維持コストばかりがかかるケースがほとんどです。とくに高齢期に入ってからの暮らしでは、必要なときにすぐ使える現金の比率が高い方が安心につながります。そういった観点からも、流動性のある資産に組み替えておくことは、ライフプラン全体を支える土台となります。
さらに重要なのは、「どう資産を活かしていくか」です。単に換金するだけではなく、その資金をどこに再投資し、どんな形で家族の将来に役立てていくのか。たとえば、都市部の賃貸マンションに投資し安定的な家賃収入を確保する、運用の手間を軽減しながら分散投資ができる不動産小口化商品を活用する、あるいは子ども世代の事業支援資金として役立てるといった方法があります。
組み替えによって得た資金が「生きた資産」として機能し続けてこそ、その意味があります。 このような資産の再編には、税制面での効果も期待できます。不動産を売却して新たな資産を取得する場合、一定条件を満たせば譲渡益課税の特例を利用できることがあります。また、資産内容によっては相続評価額が下がることで、将来的な相続税負担の軽減にもつながります。
ただし、こうした制度は複雑で、適用の条件や時期によって大きな差が生じるため、必ず専門家に相談しながら計画を立てることが大切です。 もちろん、資産の組み替えには一定のリスクもあります。新たに取得した資産が期待どおりの収益を上げない場合や、経済状況の変化によって価格が下落することも考えられます。さらに、売却には仲介手数料や譲渡所得税などのコストがかかります。
だからこそ、資産の価値、収益性、管理負担などを客観的に見直し、複数の選択肢を比較検討する姿勢が求められます。数字と現実に基づいた戦略を立てることが、結果として家族全体の安心と持続可能な資産運用に直結します。
資産は単に「守る」だけでは、インフレや市場環境の変化によって目減りしていく可能性があります。一方で、「攻め」の視点で活用しようとしても、過度なリスクを取れば家族に負担を残す結果になりかねません。資産の組み替えは、この「守り」と「攻め」のバランスを取ることが大切です。何を残し、何を使い、どう活かすか──この三つの視点を軸に、家族にとって最適な資産構成をデザインすることが、将来の安心と繁栄につながります。
また、どのような資産を選ぶかという点でも分散の視点が重要です。不動産はインフレに強く、賃料収入も期待できる資産ですし、株式やREITは経済成長の果実を受け取る手段になりえます。
債券は安定した利息収入をもたらし、現金は流動性と即応性という面で欠かせない存在です。これらをバランスよく保有することで、相続時の課題や経済環境の変化にも柔軟に対応できる土台を築くことができます。
さらに、資産をどう動かすか、どこまでを残すかといった判断を、家族の中だけで完結させることは難しくなっています。
むしろ、行政書士、税理士、不動産の専門家などが連携する士業ネットワークとともに進めることで、法務・税務・資産評価を含めた総合的な視点から助言を受けることが可能です。相続には、空き家問題や非上場株式の評価、事業承継の可否など、専門的な判断を要するテーマが多くあります。だからこそ、信頼できる第三者の存在が家族の不安を和らげ、円滑な承継を支えてくれるのです。
また、忘れてはならないのが、相続において「節税」だけに偏ると思わぬ落とし穴があるという点です。実際、節税ばかりを重視した結果、かえって家族の信頼関係が壊れてしまったという事例も少なくないと著者は述べています。税負担の軽減は一時的な成果にすぎませんが、家族のつながりや安心感は長く続くものです。
争わないために、今すぐ始めたい10の相続準備アクション
相続を円満かつ有利に進めるためには、
1 流れと期限を理解し、役割分担を明確にする段取り力
2 相続人の範囲や遺留分といったルールの知識
3 控除・特例などの制度を適切に活用するための事前準備 この三つが柱となります。
相続を「手続きの終わり」として捉えるか、「家族の未来戦略の始まり」と捉えるか。その発想の違いが、結果に決定的な差を生み出します。
いま、多くの家庭で相続は“死後に起こる事務処理”と考えられています。しかし現実には、親が元気なうちに何を話し、何を決めておくかが、家族の信頼関係と資産の健全な継承に直結しています。
本質的な課題は、いかに資産を「残すか」ではなく、誰に何を「託すか」。 所有権の移転だけでなく、役割・価値観・ビジョンを共有する視点こそが、人生100年時代の相続にふさわしい“本当のスタート地点”なのです。
そのうえで、相続を円滑かつ有利に進めるためには、3つの基礎スキルが必要です。 第1に、段取り力。手続きの流れと期限を理解し、誰が何を担うかを可視化する調整力。
第2に、制度理解。相続人の範囲、遺留分、分割協議の原則など、基礎ルールを押さえる知識。
第3に、準備力。相続税の控除・特例・評価対策を事前に設計し、活用する実行力。 これらを整えることで、感情的な衝突や手続きの混乱がなくなり、「争族」を回避できます。
著者はこの戦略的アプローチを、「相続前アクション十か条」という形で体系化しています。
1.財産と負債を正確に把握する
2.家族の価値観と将来像を共有する
3.遺言書や家族信託などの制度を知る
4.不動産の活用・整理方針を決める
5.税金対策を早期に着手する
6.資産承継の計画を立てる
7.資産の管理方法を整える
8.制度改正や市況変化の情報収集を怠らない
9.第三者を交えた話し合いの場を持つ
10.一度決めた計画も定期的に見直す
これらは、特別な家庭や富裕層だけの話ではありません。むしろ「うちには財産がない」と思い込んでいる方こそ、資産を可視化することで初めて“備えるべきもの”の存在に気づけます。
また、現金に偏った資産構成には注意が必要です。現金は流動性の高さが魅力ですが、インフレによる実質価値の低下、成長機会の喪失、税務上の非効率性といった弱点も内包しています。これからの資産戦略に求められるのは、分散によるリスク耐性と機能的なバランス。資産をどう組み替え、何に再投資するかという視点は、相続を設計する上で欠かせません。
最適解は、家族の構成、資産の質、地域性、将来のライフスタイルなど、多くの変数を踏まえて決まるものです。だからこそ、専門家との伴走体制を構築することが、相続の“クオリティ”を決めるカギになります。
相続とは、受け継ぐ人の問題ではありません。むしろ、渡す人の意思と設計がすべてを決定づけます。 “まだ早い”ではなく、“今こそ最適なタイミング”だとと捉えましょう。 情報を整理し、対話を設計し、資産の役割を見直す。 その適切な対応が、家族の未来に確かな安心を残す最善策となるのです。
本記事は書評ブロガー・ビジネスプロデューサーの徳本昌大が執筆しました。
















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