メタバースとは何か~ネット上の「もう一つの世界」~(岡嶋裕史)の書評

メタバースとは何か~ネット上の「もう一つの世界」~
岡嶋裕史
光文社

本書の要約

人々の生活を変えるメタバースは、かつてのSNSのように成長する可能性が高まっています。メタバースを成長のチャンスと考えるか、自社に関係のない領域でありと捉えるかで、企業の成長は変わります。テクノロジーの変化に適応した企業が生き残ると考えれば、メタバースでのビジネスを検討した方がよさそうです。

メタバースが生み出すリアルより居心地のよい世界

メタバースは仮想現実なので、現実ばなれ(リアルばなれ)した「都合のいい世界」を作ることができる。私はこれがメタバースの本質だろうと考える。メタバースの定義を議論するときに、VRか否か、アバターのあるなしなどがよく俎上に載るが、これらは「都合のいい世界」を作るための要素技術だ。(岡嶋裕史)

Facebookが社名をメタに変えてから、「Metaverse=メタバース」への注目が一気に高まっています。メタバースがバズワードになり、メタバースのニュースを見ない日がなくなっています。

インターネットがビジネスを大きく変えたように、私たちの体験を拡張してくれるメタバースは今後、私たちの仕事や生活に大きな影響を与えそうです。著者はSNSからメタバースへのシフトが進むと言い、もう一つの居心地のよい世界を築くと指摘します。

厳しい現実の中で、フォートナイトのような仮想現実の中でしか生きられない若者が、仮想空間での生活を謳歌しはじめています。アップルとの訴訟を行い、一部改善命令で勝利したフォートナイト(エピックゲームズ)は、 2020年には登録利用者数が3.55億人に達する巨大な市場を創造しました。一部の企業は、アイテムやスキンに自社のロゴを入れたり、自社製品そのものをフォートナイト内で作って、自社ブランドを確立し、メタバースでのビジネスをスタートしています。

フォートナイトは、平等に運営され、社会に関わるチャンスがあり、努力が実を結び、多くの人から賞賛を得られる世界を実現しています。フォートナイトのようなメタバースの世界はリアルに似ていますが、リアルより少し美しく、少しやれることの多い、都合のよい世界を創り出しています。

メタバースは現実の模倣ではない。つらくてつまらない現実から、いいところだけを抜き出した、もう一つの世界である。

VRの世界は確実に進化し、一部の人にはリアルよりも素晴らしい世界になり、そこで消費されるお金も莫大なものになっています。現実には乗ることが不可能なスペックやサーキットを楽しめますし、多くの企業がメタバースの中でビジネスをスタートしています。

リアルの格差をリセットするメタバース

メタバースがインフラ化すると、人々がそこで過ごす時間は増える。今だって、私たちはSNSに多くの時間を投じているが、もっと長い時間を過ごすようになる。完成されたメタバースは、「もう一つの世界」なのであるから、そこで授業も受けられ、業務もこなせ、遊びも(ゲームはもとからある)、読書も音楽・映画の鑑賞も、仮想のペットに癒やされることも、友だちと話すことも、その中で完結する。  

メタバースでの一つ一つの体験が、リアルよりも少し快適で、居心地がよいと著者は指摘します。

巨大なマーケットになりつつあるメタバースを構築できるプレイヤーは限られています。インタラクティブな教材、プレゼンのギミックやECサイトもこれからどんどん進化しています。資金力・開発力のあるGAFAMなどのテックジャイアントが優位性を発揮することは間違いありませんが、オタク文化で強みを持つ日本企業にもチャンスがあります。私たちの生活がメタバースへと軸足を移していく中で、ビジネスチャンスも拡大していくはずです。

利用者はリアルではできないような体験を仮想世界に求めています。 ゲームやアニメの世界観をベースにする、リアルとは違うもう一つの都合のいい世界”メタバース”こそ、日本が無限大の集積を持つ勝負分野になるはずです。リアルに近い世界であるデジタルツインやミラーワールドで戦うよりも、メタバースの方が日本企業との相性がよさそうです。メタバースの利用者の滞在時間が増加すれば、企業のビジネスチャンスは広がります。

メータバースでは、現実社会で生まれた格差をリセットできる可能性があります。

リアルで固定化された格差は、いったんリセットされる。これは多くの人にとって福音である。ルッキズムもそうだ。ルッキズムとは外見至上主義のことである。外見も、一度生まれてしまったら取り替えがきかない要素である。自分の努力で初期値がどうにかなるものでもない。美容整形の技術も洗練されているが、限度がある。望む人全員がアクセスできる費用で提供されるものでもない。であれば、仮想現実で理想の外見を手に入れる。これも固定化された格差のリセットである。

リアルではどんなに努力してもままならない格差をリセットする可能性がメタバースにはあります。高齢者や障害者もメタバースの中であれば、自分の新たな力を引き出せます。

人々の生活を変えるメタバースは、かつてのSNSのように成長する可能性が高まっています。メタバースを成長のチャンスと考えるか、自社に関係のない領域でありと捉えるかで、企業の成長は変わります。テクノロジーの変化に適応した企業が生き残ると考えれば、メタバースでのビジネスを検討した方がよさそうです。

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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