日本が飢える! 世界食料危機の真実 (山下一仁) の書評

brown wheat in close up photography

日本が飢える! 世界食料危機の真実
山下一仁
幻冬舎新書

日本が飢える! 世界食料危機の真実 (山下一仁) の要約

令和のコメ不足は一過性の問題ではなく、長年の減反政策や農政の歪みが生んだ「静かな危機」の兆候です。輸入に依存する日本は、シーレーンが断たれれば食料・エネルギーともに供給が止まり、国民の命が脅かされます。今こそ減反を廃止し、食料政策を国民の手に取り戻すときだと元農林水産省官僚の山下一仁氏は指摘します。

日本の農政が失敗した理由

ほとんどの国民が餓死するかもしれないという、もっと恐ろしい危機が起こる可能性がある。(山下一仁)

令和のコメ不足が今年はニュースで話題になり、食糧安保に危機感を持った人も多いのでないでしょうか?12月になってもコメの値段が下がらず、相変わらず高値の状態が続いています。私たち日本人の主食であるコメ。その不足が現実のものとなっている今、私たちは何を見落としてきたのでしょうか。

「食べ物がなくなるなんて、ありえない」と思いたくなる気持ちはわかります。これまで日本は、どんな災害や経済危機があっても、食べ物に困ることはありませんでした。スーパーに行けばパンも牛乳もお肉も手に入り、外食チェーンは深夜まで営業しています。

しかし、この「当たり前」が、実は非常に危ういバランスの上に成り立っていることを、私たちはあまりに知らなすぎたのかもしれません。

元農林水産省官僚の山下一仁氏が、日本が飢える! 世界食料危機の真実で指摘しているのは、日本が直面している「静かな危機」です。有事の際、私たちの暮らしは武力によってではなく、まず食料不足によって崩壊する可能性が高いと、同氏は警鐘を鳴らしています。

防衛力の強化ばかりが議論される今、見落とされがちなのが「兵站」、すなわち食料やエネルギーの安定供給です。ロシアのウクライナ侵攻でも、物資の不足が軍の動きを鈍らせました。日本も同じ轍を踏む危険があるのです。

驚くべきことに、日本の農地面積は過去60年間で38%も減少しています。世界では人口増加や気候変動の影響を受けて、農地の価値が再評価される動きが強まっています。中国やブラジルでは農地面積が1.5倍にまで拡大しており、各国が「食料を自国で確保する」ために戦略的な農地の活用を進めているのです。

それにもかかわらず、日本では長年にわたって減反政策が続けられ、米の生産は縮小を続けてきました。その背景には、農林水産省、JA、そして農政に強い影響力を持つ政治家たちによる「農政トライアングル」の存在があります。彼らは米価の維持を目的として、生産を意図的に抑え続けてきたのです。

その一方で、日本人が日々摂取しているカロリーの多くは海外からの輸入に依存しています。もしも何らかの有事や災害によって海上輸送が止まれば、日本に残されるのは、わずかな国内生産と備蓄に限られるのが現実です。 本来であれば、政府は「国民が生命を維持するために必要な総カロリー」と、「エネルギーや食料の輸入が止まった際に、国内生産でどれだけのカロリーを供給できるか」という数値を明確に示すべきです。

そこから逆算すれば、どれほどの米を生産し続けなければならないのか、どれだけの農地を守らなければならないのか、その必要性が誰の目にも明らかになります。

しかし、農林水産省もJA農協も、おそらくそのようなデータを公表することはないと著者は指摘します。なぜなら、それを提示した瞬間、彼らが長年進めてきた減反政策や、農地の転用を容易に認めてきた農地政策の過ちが、白日の下にさらされるからです。

隠された真実がある限り、国民は判断することも、備えることもできません。だからこそ今こそ、数字で語るべきなのです。危機を煽るのではなく、現実に立脚した正確な情報をもとに、私たちは「この国でどう生きていくのか」を自ら考えなければならないのです。

食料危機が日本を襲う?防ぐべき対策は?

食料とともに石油などのエネルギーの輸入も途絶して、加工・流通・外食といった産業が十分に機能しなくなれば、小麦から作られるパンやうどん、大豆から作られる味噌、醬油や豆腐などを食べられなくなる。

シーレーンが封鎖された場合、日本は食料だけでなく、エネルギーも枯渇します。もし、石油や天然ガスといったエネルギー資源の供給が途絶えたらどうなるでしょうか。農作物を加工する工場は止まり、トラックが動かなくなり、スーパーの棚は空になる。外食産業も営業継続が困難となり、私たちの暮らしに直結するサービスが次々に機能不全に陥る可能性があります。

パンやうどん、味噌や豆腐といった、私たちの食卓を支えてきた加工食品も例外ではありません。それらの多くは、海外からの原材料とエネルギー供給に支えられた加工・流通インフラの上に成り立っています。これらが同時に断たれたとき、食べ慣れたものが手に入らなくなる現実が、私たちの前に突きつけられるのです。

そして、食料危機が現実のものとなったとき、問われるのは「どれだけの人に、生命を維持するためのカロリーを安定的に届けられるか」です。これは、好き嫌いや嗜好の問題ではありません。贅沢を諦めるというレベルの話でもありません。

輸入が止まり、シーレーンが封鎖されれば、私たちが手にできるのは、今ある国内の農業生産量とわずかな備蓄だけになります。 たとえ国際市場に穀物が出回っていたとしても、それが日本に届かないのであれば意味がありません。価格がいくら安く、日本人の購買力があっても、「物理的にアクセスできない」状態になるのです。

「遺伝子組み換えだから食べたくない」といった選択肢は、もはや許されなくなるかもしれません。命をつなぐためには、手に入るものを食べるしかなくなる――そんな時代が、すぐそこまで迫ってきているのです。

だからこそ、生命を維持するために最低限必要なエネルギーと食料を、国内でどう確保していくのか。それが、いま私たちが直面している極めて深刻な課題です。海外から小麦も牛肉も輸入できないような事態が起これば、これまで当たり前だった豊かな食生活は、一気に崩れ去るでしょう。毎日の食卓で目にしていた当たり前の風景が、大きく変わってしまうのです。

それでもなお、私たちは「今が平和なら問題ない」と思い込もうとしています。しかし、平和と安定は自然に続くものではありません。準備と構造がなければ、ある日突然崩れます。

実際に、日本の農業政策、特に長年にわたって続けられてきた米の減反政策は、消費者や納税者に大きな負担を強いたばかりでなく、国家の根幹である「食の安全」に大きな穴を開けてしまいました。 本来、食料安全保障とは、国民が必要なカロリーや栄養を安定的に得られる仕組みを守ることです。それは単なる「農業支援」ではなく、「命をつなぐための国家戦略」です。

今こそ、私たちは本気で考え直す必要があります。国防に予算を割く一方で、私たちの命を直接支える食の現場が衰退しているという事実。その矛盾に気づかないふりをしてはいけません。

食料危機は、突如としてやってくるのではなく、気づかないうちにじわじわと進行していくのです。 「日本人の半数が飢える可能性がある」。そう言われても、にわかには信じられないかもしれません。しかし、これは感情的な主張ではありません。冷静な統計とシミュレーションに基づいた、きわめて現実的な未来予測です。

そして、私たちは今、その未来の入り口に立っています。 最近のコメ不足は、単なる一時的なトラブルではありません。これは、長年積み重ねてきた農政のツケが、いよいよ表面化してきたという、重大なサインなのです。 農林水産省やJA農協に農政を委ねてきた結果、日本の食料安全保障は危機的な状況に追い込まれました。

もし台湾有事が現実となれば、日本は武力によってではなく、「食料」から崩壊する可能性があります。攻撃する側にとって、日本を無力化する手段は、シーレーンを断ち切るだけで十分なのです。輸入が止まれば、戦う前に国民が飢える――そんな弱さを抱えているのが、いまの日本です。

だからこそ、私たちは今こそ気づかなければなりません。 「食」は経済の話でも農業の話でもなく、私たち一人ひとりの命と、国の未来を守るための安全保障なのです。 国民はもう、食料政策を「他人任せ」にしてはいけません。

これまで減反政策によって、多くの水田が潰されてきました。その代償が、今まさに私たちの前に立ちはだかっているのです。 だからこそ、今すぐにでもやるべきことがあります。 それは、米の減反をただちに廃止すること。そして、再び「米を作れる国」へと戻る覚悟を、国民全体で持つことです。

3年前に出版された山下一仁氏の著書が、いまになって現実味を帯びてきています。 それは未来を見抜いていたからではなく、私たちが現実を直視してこなかったからです。

この現実を前に、私たちはどう生きるべきでしょうか。 「政府がなんとかしてくれる」では、何も変わりません。これから必要なのは、一人ひとりが食の安全について知り、考え、行動することです。自分と、家族と、未来の世代を守るために――。 それが、これからの日本を救う第一歩になるのです。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
株式会社INFRECT取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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