セレンディピティ: 思いがけない発見・発明のドラマ (ロイストン・M・ロバーツ)の書評

person holding glass globe beside water falls

セレンディピティ: 思いがけない発見・発明のドラマ
ロイストン・M・ロバーツ
化学同人

30秒でわかる本書のポイント

 結論: イノベーションや科学的発見の多くは、単なる「運」ではなく、偶然の出来事を価値ある発見へと変える「準備された心(洞察力と好奇心)」によってもたらされる。
原因: 多くの人は予期せぬ事態を「失敗」や「ノイズ」として排除してしまうが、優れた発見者はそこに「意味のある差異」を見出し、探究を止めなかったため。
対策: 効率や正解だけを求めず、AIや日常のログから生まれる「外れ値」や「違和感」を観察し、問いを立て直す習慣を組織や個人に組み込む必要がある。

本書の3行要約

世界を変えた100以上の発明を「偶然」という切り口で解き明かし、予期せぬ事態を価値に変える思考法を提示します。 求めていたものを見つける「疑似セレンディピティ」と、未知の領域を拓く「真のセレンディピティ」の違いを明確にします。 AI時代の発見はデータの例外を拾うことから始まるため、現代のビジネスパーソンにこそ必要な「観察の作法」を教えてくれます。

おすすめの人

・新規事業や商品開発に携わり、イノベーションのヒントを探している方
・AI検索やデータ分析の結果を、単なる効率化以上の「発見」に繋げたい方
・「計画された偶発性」を理解し、キャリアや組織運営に活かしたいリーダー層

読者が得られるメリット

・「失敗」や「想定外」をポジティブに再定義し、新しい価値を生み出すためのマインドセットが身につく。
・AIが生成するノイズや異常値の中から、次なるブレイクスルーの種を見分ける「選別眼」が養われる。
・科学史のドラマを通じて、論理的推論と直感的洞察を組み合わせる「洞察力」の重要性が理解できる。

セレンディピティ:偶然を「価値」に変える力

面ファスナー、ペニシリン、X線、テフロン、ダイナマイト、死海文書の発見や発明に共通しているものは何だろう。それはセレンディピティである。これらは、私たちの毎日の生活を便利に、快適に、健康的で楽しくしてくれる他の多くのものと同様に、まったく偶然に発見されたものであり、すべてセレンディピティの結果として私たちにもたらされたのである。(ロイストン・M・ロバーツ)

どうすればイノベーションは起きるのでしょうか?長年、その方法論を探しているうちに、私はむしろ「セレンディピティ(偶然の力)」こそが、決定的な一手になりうるのではないかと思うようになりました。

ロイストン・M・ロバーツセレンディピティ: 思いがけない発見・発明のドラマ(原題 Serendipity: Accidental Discoveries in Science)は、ペニシリンからDNAに至るまで、偶然と好奇心、そして「準備された心」が、いかに科学的ブレイクスルーを生み出してきたかを描いた一冊です。

ロバーツは、化学、物理学、医学、工学、考古学、天文学など幅広い分野にまたがって、偶発的な出来事が重要な発見へと転じたケースを本書で100件以上紹介します。

扱う範囲が広いだけでなく、本書の眼目は「偶然が起こった」ことそのものではなく、「予期せぬ観察を前にして、彼らが追究することを選び取った」その瞬間に光を当てている点にあります。

たとえばジェンナーの場合、「牛痘にかかった者は天然痘にかからない」という言い伝えを、徒労に終わりがちな治療の現場でふと思い出し、乳しぼりたちの経験則を調べ直したうえで、牛痘を接種するという発想へと踏み込みました。牛痘が天然痘に免疫を与えるという事実自体は、彼の努力だけで生まれたものではありません。それでも、その価値を認め、医療として利用するという判断力が、偶然を発見へと変えたのです。

さらにアルキメデスやニュートンのストーリーを追うことで、子どもの頃に読んだ伝記を、今度は科学的な視点から読み替えるような感覚も味わえます。

面ファスナー、ペニシリン、X線、テフロン、ダイナマイト、死海文書──これらの発見・発明を一本の糸でつなぐものがあるとすれば、それこそがセレンディピティです。

そもそもこの言葉は、18世紀の作家ホレス・ウォルポールが造語したもので、彼が引き合いに出したのが『セレンディップの三人の王子』という寓話でした。王子たちは旅の途中、探してもいない手がかりを偶然拾い上げ、しかもそれを手がかりとして筋の通った推論へつなげていきます。

ウォルポールが面白がったのは、「幸運な出来事」そのものというより、偶然を偶然のまま通過させず、意味へと変える洞察力の働きでした。

狙って探していたわけではないのに、偶然の出来事が入口となり、予想もしなかった価値が手元に転がり込んでくる。辞書的には「偶然に、幸運な予想外の発見をする才能」といった意味合いで説明されます。

ただ、本書が面白いのは、セレンディピティを単なる「運の良さ」に回収しないところにあります。偶然は誰にでも訪れますが、たいていは気づかれないまま通り過ぎ、「ただの出来事」で終わってしまいます。終わらせなかったのは、当人の洞察力であり、そこからもう一歩踏み込んで問い直すしつこさでした。  

ロバーツは「セレンディピティ」と、「疑似セレンディピティ(pseudoserendipity)」を切り分けて説明します。 著者にとって真のセレンディピティとは、「求めていなかったものを偶然発見すること」です。予期しない現象が、まったく新しい方向性を開いてしまうタイプの発見を指します。つまり、地図の外側に道が伸びていく感覚です。

一方、疑似セレンディピティとは、「求めていた目的を達成するための、予想外の手段やルートを偶然見つけること」です。解決したい問題は最初からあり、ただし解法が思いがけない形で現れる。目的地は同じだが、近道が突然見つかる——そんなイメージに近いでしょう。

この違いを説明する例として、本書は好対照な二人を使って説明します。チャールズ・グッドイヤーは、ゴムの実用化に長年取りつかれていた人物で、硫黄と混ぜたゴムの一かけらをたまたま熱いストーブの上に落としたという偶然の出来事をきっかけにゴムの加硫へと至ります。目的は先にあり、ルートだけが偶然ひらけた。これは疑似セレンディピティに近い発見です。

一方、ジョルジュ・ド・メストラルが衣服に付着したオナモミ(いが)から着想した面ファスナーは、最初からその発明を探していたわけではありません。偶然の観察が、新しい方向性そのものを生んだという意味で、こちらは真のセレンディピティと言えます。

AI時代に必要な問いの力 観察と洞察力が重要な理由

偶然がただの偶然でなく発見となるのは、その偶然がちょうどよい人物に起こるときである。

ロバーツはさらに、「偶然だけでは不十分だ」という点も繰り返し強調します。パスツールの有名な言葉「観察の場では、幸運は待ち受ける心構え次第である」や、ウォルポールがいう「洞察力」を軸に、偶然を発見へと変えるのは、観察力と好奇心、そして柔軟な思考だと論じます。

偶然は誰にでも起きますが、たいていは出来事のまま通過して終わります。そこで踏みとどまり、違和感を抱き、目を凝らし、もう一段問いを立て直せるか。ロバーツが言うのは、発見を生むのは「偶然」そのものではなく、観察力と好奇心、そして認知の柔軟性だ、ということです。

この構図は、キャリア論で言えばクランボルツの「計画的偶発性理論」にも通じます。偶然を待つのではなく、偶然が起こりやすい行動や環境を自分で用意し、起きてしまった出来事を学習と選択に変える。要するに、偶発性を「運」から「戦略」へと引き上げる発想です。(クランボルツの関連記事

共通しているのは一点で、偶然は“外側から降ってくるギフト”ではなく、“内側の姿勢――準備と習慣――によって手に入るもの”だということです。

そのことを最もわかりやすく示すのが、フレミングのペニシリンの逸話でしょう。イノベーションの歴史を象徴するフレミングのペニシリン発見は、現代のAI活用においても重要な示唆を与えてくれます。本書は1990年代に書かれた書籍ですが、著者の観察力と洞察力のアドバイスはAI時代にこそ、フィットします。

フレミングがカビの生えた培養皿を前にしたとき、それは単なる「失敗」ではなく「問いの始まり」でした。もし彼が「ただの汚染だ」と片付けていれば、医学の歴史は変わっていたはずです。

この「異変を意味のある差異として捉える力」こそが、AI検索が日常化した今、私たちが最も磨くべきスキルと言えます。 AIは、私たちが想定していなかった連想や見落としていた前提を、驚くほど簡単に可視化してくれます。しかし同時に、もっともらしい誤り(ハルシネーション)を提示する危うさも抱えています。

AIの力を引き出すためには、以下の問いを繰り返すことが重要です。
・出力のブレを観察する
条件を微調整しながら何度も問い直し、回答の「揺らぎ」から本質を探る。

・反対仮説をぶつける
あえて逆の立場から回答させ、論点の死角をあぶり出す。

このようにAIを「結論をすぐに得る装置」ではなく「観察の機会を増やす装置」として扱うことで、単なる効率化を超えた「探索」が始まります。 「ノイズ」と「意味のある逸脱」を見極める AIが返す想定外の提案や異常な出力は、多くの場合、単なるノイズかもしれません。

しかし、ロバーツが説く「準備された心」を持つイノベーターは、それを即座に排除も採用もせず、立ち止まって考えます。 フレミングが「汚れた皿」を「検討すべき差異」へと置き換えたように、AIの回答を鵜呑みにせず、その手前にある「違和感」を問いへと昇華させる姿勢が求められます。

AIが「それらしい正解」を大量に供給できる時代だからこそ、人間が担うべき役割は、その先にある「発見の芽」を掴み取ることです。 「準備された心」とは、知識の量ではなく、違和感を放置せずにAIと共に検証へ持ち込む習慣のことです。

偶然は外から降ってきますが、それが「発見」として手元に残るかどうかは、受け取る側の洞察力、すなわち私たちの内側の姿勢によって決まるのです。

まとめ:私たちは偶然力からイノベーションを起こせる!

セレンディピティがもたらすものは、たんなる面白い逸話ではありません。医療を変えたペニシリンやX線、素材としてのナイロン・ポリエステル・テフロン、そして多様な高分子材料の応用など、私たちの生活を便利に、快適に、健康的にしてきた成果の背後には、しばしば「予期せぬ出来事」と「それを見逃さない目」があります。

さらに科学の側でも、有機化学の体系化や、分子構造と生理活性の関係理解、古代文明の文化・言語への洞察といった形で、イノベーションのヒストリーが理解できます。

そして重要なのは、本書がそれらを「運が良かった話」として終わらせない点です。ロイストン・M・ロバーツは、テキサス大学オースチン校の有機化学の教授として、紹介するエピソードを原典に当たり、必要に応じて関係者にも問い合わせながら、出来事の輪郭をできるだけ厳密に再現しようとします。

さらに著者自身の経験も交えつつ、偶然が見過ごされず、貴重な発見・発明へと転じるために何が要るのかを、繰り返し考察していきます。

そこで繰り返し呼び出されるのが、パストゥールのいう「待ち受ける心構え」であり、ウォルポールのいう「洞察力」です。偶然は起こる。しかし、偶然が意味になるかどうかは別問題です。セレンディピティとは、出来事そのものではなく、出来事に意味を与える側の技術であり態度なのだ——私は本書を、そういう本として受け取りました。

最強Appleフレームワーク


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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