イノベーションの起こし方 「カルチャー」を経営のど真ん中に据える――「現場からの風土改革」で組織を再生させる処方箋の書評

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「カルチャー」を経営のど真ん中に据える――「現場からの風土改革」で組織を再生させる処方箋
遠藤功
東洋経済新報社

本書の要約

イノベーションを起こすにはいくつかの方法があります。①セレンディピティを活用する。②「不満」「不便」「不快」「3つの不」に着目する。③新結合 ④既存のビジネスモデルを破壊する。顧客の行動変容を起こすために、思考を続けましょう。その際、諦めないことがとても大切なことになります。

イノベーションを起こすセレンディピティとは何か?

「これはすごい」と称賛されるような画期的イノベーションの多くは、「偶然の産物」として生まれている。これを「セレンディピティ」と呼ぶ。(遠藤功)

セレンディピティ(Serendipity)とは、「偶然の産物」「幸運な偶然を手に入れる力」を意味しますが、この言葉がイノベーションを起こすためのキーワードになっています。

元々は、イギリスの小説家・政治家であるホレース・ウォルポールが生みだした造語で、『セレンディップと3人の王子(The Three Princes of Serendip)』というおとぎ話が語源になっています。 3人の王子たちは旅先で有益なものを偶然発見していきます。彼らはこの偶然の力によって、 幸せになっていきます。

3Mが開発した「ポスト・イット」も偶然の力を活用したイノベーションです。同強力な接着剤を開発していたにもかかわらず、出来上がったのは粘着性の非常に弱い接着剤で、使い道がないと放置されていました。ところが、ある研究員が楽譜から落ちるしおりを見て、この接着剤の弱さを使って本のしおりがつくれないかとひらめき、そこから「ポスト・イット」が誕生したのです。

理詰めだけでなく、たまたま出会った気づきやひらめきが新たな価値創造の源泉であるところが、イノベーションの面白さ、奥深さを示している。とはいえ、ただ漫然と無目的に毎日を過ごしていたのでは、「セレンディピティ」と出会うことはあり得ない。目的を持って何かにのめり込んだり、何かを必死になって追い求めるときに、予想外の出来事や想定していない現象と偶然出会い、それが新たな発想のヒントやひらめきにつながる。

まずは、目の前のことに意識を集中させることが重要です。次に様々な情報をインプットし、脳の中で情報を組み合わせます。色々なことに好奇心を持って、意識的かつ積極的に行動することで、偶然力を活用できるようになります。広い視野を持って物事を見たり、視点を変えてみたり、いつもとは異なるアクションをするうちに、セレンディピティが起こるようになります。

新たな人や書籍からもセレンディピティは生まれます。私は仕事柄、多くの経営者やプロフェッショナルとミーティングをする機会が多いのですが、彼らとの会話の中からビジネスのヒントや解決策をもらっています。ビジネス書を読んでいるときにも、欲しかった解決策が目に飛び込んでくることがあります。

3つの「不」に注目しよう!

「不満」「不便」「不快」「3つの不」に着目する。

イノベーションのヒントは顧客にあることも多いです。イノベーションを顧客の「新たな満足」を生み出すと定義するならば、顧客の「不」に着目することも選択肢になります

顧客が日頃感じている「不満」「不便」「不快」を見つけ出し、新たなアイデアで解消することができれば、イノベーションを生み出せるのです。「新しい価値を生み出すヒントはないか」と常に観察を怠らず、ちょっとした「違和感」に気づくことが必要不可欠になります。

多くの「不」は顕在化していないため、仮説を作りながら、潜在的な「不」を掘り起こしていきます。顧客の行動を観察しながら、ちょっとした困り事や悩みに気づく高い感受性が現場には求められますし、その「不」を社内で共有することも必要になります。風通しの組織がイノベーションには欠かせません。

イノベーションの概念を世に広めたヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションを次のように定義しました。

経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で新結合することである。(ヨーゼフ・シュンペーター

有名なiPhoneも新結合での説明が可能です。要素(カメラ)と要素(音楽プレーヤ・PC)などの機能を組みわせたこと、アプリで多様なサービスを使えるようにしたことで、スティーブ・ジョブズはイノベーションを起こしたのです。

既存のビジネスモデルや業界を「破壊」することでも顧客の行動を変容できます。デジタルテクノロジーを活用し、既存のビジネスの仕組みや業界構造そのものを崩壊させ、新たな仕組みをつくり上げることができるようになりました。

配車アプリでタクシー代わりに空いている個人の車などを手配するウーバーや個人宅宿泊(民泊)を仲介するエアビーアンドビー、映画の「定額見放題、オンデマンド、低価格」を打ち出すネットプリックスは、「デジタル・ディスラプター」と呼ばれ、顧客からの支持を得ています。

日本に破壊的イノベーションが起きづらいのにはいくつかの理由があります。
・既存業界における既得権益の強さ
・参入障壁の高さ
・既存業界に果敢にチャレンジし、ぶち壊そうとする志に燃える新規参入者の少なさ

「ディスラプター」が登場しなければ、非効率で高コストな旧態依然としたビジネスモデルはそのまま温存され、日本経済の沈下を止めることはできません。「破壊者」の登場こそが、日本という国の競争力を高めるための必須条件だという著者の主張に共感を覚えました。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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