世界の賢人12人が見た ウクライナの未来 プーチンの運命
ユヴァル・ノア・ハラリ、フランスシス・フクヤマほか
講談社
本書の要約
今回のプーチンのウクライナ侵攻が成功すれば、独裁者の暴走を許すことになります。他国への侵略が当たり前になり、軍備拡大競争が激化し、国民の生活水準は低下します。一方、プーチンが敗北すれば、世界中の国が、暴力に勝ち目はなく、プーチンを真似れば罰せられるという教訓を学べます。
プーチンの妄想から始まったウクライナ危機
ロシアの侵略を許せば世界中の独裁者がプーチンを真似るだろう。(ユヴァル・ノア・ハラリ)
悲劇的NAウクライナ危機が勃発してから、3ヶ月が経過しようとしています。当初はロシアが圧勝すると言われていましたが、ウクライナ国民が一丸となり、ロシアへの抵抗が続いています。徐々に欧米の支援が機能するようになり、一部の地域ではウクライナが領土を奪還しています。
歴史学者・哲学者のユヴァル・ノア・ハラリは、人類の歴史の行方がウクライナにかかっていると述べています。今回のプーチンの暴走を西欧諸国が許せば、次のプーチン(独裁者)が現れると言うのです。
本書の中で様々な識者が、プーチンは大北方戦争で勝利したロシアの英雄であるピョートル・ヴェリーキイに自分を重ねていると指摘します。彼は大国ロシアの復権を夢見ています。2005年にプーチンは「ソ連の崩壊は20世紀最大の地政学的大惨事だ」と発言し、他国への侵攻、併合、独立国家の創設などを通じて、ロシアの領土の拡大を行なってきました。
プーチンは18世紀に時間軸を戻し、ロシアを再び大国にするという妄想のもと、ウクライナへの侵略を開始しました。プーチンは正気を失い、現実を否定し、彼の中の妄想を現実にしようとしています。プーチンは「ウクライナは現実には存在しない、ウクライナ人はロシアに吸収されたがっている、それを阻んでいるのはナチ一派だけだ」と考えています。
プーチンはすぐにゼレンスキー大統領は逃亡し、ウクライナ軍は降伏し、国民はロシア軍を歓迎すると考えていました。しかし、実際に起こったことは、彼の妄想とは異なるものでした。ウクライナ軍と国民は勇敢に戦い、欧米諸国はロシアの暴走を止め、民主主義を守るために結束を強めています。
フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟を申請するなど、プーチンとの思惑とは異なる方向に現実は進んでいます。プーチンの誤った決断がロシアの勢力を削ぐことにつながっているのです。
プーチンの暴走を止めることが重要な理由
プーチンはこの国の大部分を征服するかもしれません。でも、手元に留め、吸収することはできないでしょう。それこそが彼の目標ですが、達成することはできないでしょう。彼はすでに戦争に負けたのです。たった一人の残酷な野心が、いかに数百万人に悲惨をもたらすことが可能であるかを示しています。でも私は、プーチンがヨーロッパを混乱させられるとは思いません。事実、彼はヨーロッパを一つにしています。(ユヴァル・ノア・ハラリ)
この数年、ヨーロッパと西側諸国は、左派と右派、リベラル派と保守主義者の断絶が進んでいました。今回のウクライナがこの対立のブレーキになり、両者を結びつけています。
今回のウクライナ危機は、リベラリズムとナショナリズムが本当は連動していることを明らかにしています。ウクライナ人は、自由な社会のために戦うのと同じぐらい、国家の自由のために戦っています。彼らはナショナリズムとは、外国人を憎むことでもマイノリティを憎むことでもないのだと伝えています。
本来のナショナリズムとは自国民を愛し、人が自分の未来を自由に選択するのを認めることだとユヴァル・ノア・ハラリは指摘します。ナショナリズムとリベラリズムのあいだの深い繫がりをヨーロッパが思い出せるなら、地域内の文化戦争を終結させることができ、プーチンを怖れる理由は何もなくなります。
プーチンの攻撃が成功すれば、世界中に戦争と苦しみの暗黒時代が再び訪れます。実は21世紀最初の20年間で、人間の力により殺害された人の数は、自殺や自動車事故、肥満に起因する病の犠牲者数を下回っていました。
この平和だった時代に、プーチンは予算の10%以上をロシア軍に費やし、社会サービスを疎かにすることで軍事力を築いていたのです。もしも 、ウクライナ侵攻が成功すれば、独裁者がプーチンの行動を真似し、他国への侵略を開始し、世界を再び戦争の時代に逆戻りさせてしまいます。
結果、民主主義国家も自衛のために軍事予算を2倍、3倍に高めることになります。本来、国民に使われる予算が軍備費に置き換わり、私たちの生活は今よりはるかに苦しくなるはずです。
また、プーチンが成功すれば、戦争に勝つために軍備拡大競争が激化します。対立が主要テーマになり、気候変動予防などに向けた国際的努力は滞り、温暖化が進展する可能性が高まります。食糧問題も深刻になり、ここそこで紛争が起こるはずです。
一方、プーチンが敗北すれば、世界中の国が、暴力に勝ち目はなく、プーチンを真似れば罰せられるという教訓を学べます。
ウクライナは人口4000万人超の国であり、すでにプーチンは途方もない規模の軍隊を派遣しています。このような包囲攻撃を続けるのは、ロシアにとって非常に大きな負担です。毎日、膨大な数の装甲車と兵士、補給品が失われています。ロシア軍の士気もかなり低いようです。(フランスシス・フクヤマ)
フランスシス・フクヤマは、「ロシアが向かう先はウクライナでの完敗」だという論文を発表しています。プーチンはウクライナ国民のロシアへの抵抗を甘く見ていたうえに、自国の軍事力を過信していたのです。
今回、ロシアが敗北する可能性が高く、その結果、民主主義が活力を取り戻すとフクヤマは指摘します。中国や他の独裁者の暴走を許さないよう民主主義国家は今こそ結束すべきです。
プーチンが敗北する際に核兵器が使われる可能性がある中で、リーダーに今問われているのは、どう戦争を終わらせるか?です。
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