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両利きの組織をつくる――大企業病を打破する「攻めと守りの経営」
著者:加藤雅則、 チャールズ・A・オライリー、ウリケ・シェーデ
出版社:英治出版
本書の要約
既存事業と新規事業の両立を実現することが、多くの企業の課題になっていますが、既存事業の深掘りと新規事業の探索を同時に行うことで、それを解決できます。経営者はWhy(存在目的)を意識し、企業の存在目的に従って、戦略(WHAT)と組織(HOW)の目指す姿を描き、組織能力を高めていくべきです。
両利きの経営とは何か?
両利きの経営とは、企業が長期的な生き残りを賭けて、これら相矛盾する能力を呵峙に追求することのできる組織能力の獲得を目指すものだ。しかし、「深掘り」と「探索」という相矛盾する能力を同時に追求することは容易ではない。例えば、「深掘り」と「探索」を同時に追求すると、組織内では必ずトレード・オフ(一方を追求すれば他方を犠牲にせざるをえない状態)が発生する。新規事業は既存事業との重複による無駄やカニバライゼーション(共喰い)、さらに不本意な失敗を伴うからだ。(加藤雅則)
チャールズ・A・オライリーの両利きの経営は名著で、このブログでも何度か取り上げてきました。社外取締役をしている会社や顧問先との経営者のミーティングでも、新規事業を立ち上げる際には、オライリーのメッセージを思い出し、アドバイスするようにしています。(両利きの経営の参考記事)
新規事業を成長させるためには。、組織内での感情的なテンション(緊張関係)やコンフリクト(対立)を発生させないようにすべきです。既存事業側は新規事業側に対して、稼いでいないことに対して、冷たい視線を送ります。
既存事業と新規事業で両方を手にしたければ、「両利きの経営」を実践すべきです。その際、カギとなるのが、組織力ルチャーのマネジメントになります。
「組織カルチャー」とは、企業理念や価値観・社風といった概念のことではありません。「その組織で観察される特有の「行動パターン」(Pattern of Behaviors)と、行動を規定している「組織規範」(nord)を反映しているものにしなければなりません。新たな組織能力を形成し、発揮できるようにするために、どのように組織カルチャー(仕事のやり方)をマネジメントするのかを考え、同じ組織の中で異なるカルチャーを併存させ、バランス感覚を保つことが重要になります。
大企業には、「成功の罠」(サクセス・トラップ、サクセス・シンドローム)があります。成功してきた組織には、「慣性の力」(Inertia)が働くという運命があります。成功した組織は、過去の経営環境に過剰適応してしまった結果、環境が激変する局面では適応できず、衰退してしまうのです。
本当に組織を変えたければ、
1、新しく何を始めるのか?
2、そのために何をやめるのか?
3、何は引き続き継続(強化)するのか?
を決め、ゴールイメージを設定し、そこから逆算し、戦略と組織を考えるべきです。
理想の働き方だけを語っていても、組織を変えることはできません。その組織を成長させる新しい仕事のやり方を作り出し、社員の理想の働き方を実現すべきです。
リーダーはWHYから事業を再構築する。
経営者は組織経営のビッグピクチャーを描く必要があります。
■企業の存在目的(何のために=WHY)
■戦略(何をするのか=WHAT)
■実行のための組織(どうやってするのか=HOW)
このトライアングルが組織進化のビッグ・ピクチャーとなります。
リーダーは、存在目的(WHY)を自らの言葉で語る必要があります。トップが示した企業の存在目的に従って、戦略(WHAT)と組織(HOW)の目指す姿を描き、そこで求められる組織能力を生み出せるように組織の基本四要素である「KSF(Key Success Factor・重要成功要因)」「人材」「公式の組織」「組織カルチャー」のアラインメント(結合)を再構築します。この再構築のプロセスをトップと現場(ミドルや若手)で行うことで、企業は成長できるようになります。
戦略に合わせて組織が進化していくことがある一方で、組織独自の取り組みから新たな戦略が形成されるということもある。この循環作用の中で、「組織能力」(オーガニゼーショナル・ケイパビリティ)が形成される。
組織能力とは、組織の実行力のことで、組織内の人のつながり方と機能の組み合わせによって高めることができます。戦略と組織を両輪とする組織経営論の視点に立って、これから必要となる組織能力を培っていくことで、「組織開発(Organization Development)」が実現します。
組織と戦略の循環作用の中で、
①必要とされる組織能力を培っていくこと
②組織能力の発揮を可能にする組織カルチャーを形成すること
それが組織開発の核心になり、両利きの経営を実践することなのです。
著者は、「変革は経営者によるトップダウンとミドル・若手からのボトムアップがミートするところで起こる(”Change happens when top down meets bottom up”)」という立場をとります。
(1)経営者が新しい経営の文脈(コンテキスト)を提示する
(2)トップからのメッセージに応える形で一部のミドル・若手が反応し、具体的な行動が生まれる
(3)経営者は自らのメッセージを体現している人を探し出し、そこにスポットライトをあてる(認知する)(4)組織内で新しい行動事例が共有され、周りに波及し、新しい行動パターンが定着する
この4つのステップを通じて、トップとミドル・若手が相互に呼応した動きをすることを通じて、組織カルチャーが変わっていきます。つまり、経営トップのリーダーシップとミドル・若手のフォロワーシップの組み合わせによって、新しい組織カルチャーを形成していくことで、企業の成長がはかられるのです。
企業が減収減益の下方スパイラルに陥ると、経営幹部は焦点を絞ってスパイラルを食い止める方法を模索することが多い。その結果、売上と利益が落ち込んだ原因を特定しようと内向きになり、効率を高め、コスト削減に注力しがちだ。
本書ではAGCが実践した量利きの経営を紹介していますが、低価格な競合にディスラプトされた同社が、企業カルチャーを変革していきます。組織のマインドセットと構造、プロセスとカルチャーを同時に変え、事業ポートフォリオを見直しながら、次々とイノベーションをおこしていったのです。
幹部らのマインドセットを戦略とイノーベンションに関する包括的なビジョンへ切り替え、各事業の位置付けを再定義し、事業ポートフォリオのリバランスをはかりながら、社員のモチベーションを高めていったのです。未来のAGCのあるべき姿から、既存のコア事業を整理し、新たな戦略事業を生み出すことで、同社は復活を果たしたのです。既存事業の深掘りと新しい事業機会の探索をリーダー主導で行うことで、企業は再び成長できるようになります。
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