ダグ・スティーブンスの小売の未来――新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」の書評


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小売の未来――新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」
著者:ダグ・スティーブンス
出版社:プレジデント社

本書の要約

自らのブランドをストーリー化し、店舗をメディアに変え、そこから情報発信を行うことで、顧客体験を高められます。広告に頼るのをやめ、コンテンツやSNSからダイレクトに購入させることで、アマゾンやアリババとの戦いに勝利できます。顧客との新たな出会いをデザインし、顧客とのつながりを強化しましょう。

コロナパンデミックが変える小売の未来とは?

新たに姿を現し始めた消費者行動に対応する際、答えをすべて自分の業界や分野という狭い範囲で探そうとする発想はいただけない。小売業者は小売り、ホテルはホスピタリティ、銀行は金融のみに専念しがちだ。それに輪をかけて悪いことに、同じカテゴリー内でも、靴屋は他の靴屋を見ていて、電器店は他の電器店を見ている。いつのまにか、経営幹部は針穴から世界を見るようになっているのだ。むろん、自宅の玄関先にある危険に目がいくのは当然の反応だが、身内のカテゴリーや業界のなかだけを眺めていては、顧客や社会、さらには小売市場で起こっている、はるかに重要な変化は見えてこない。(ダグ・スティーブンス)

新型コロナウイルスは小売業のデジタルシフトを一気に進め、勝ち組と負け組を明らかにしました。アマゾンやアリババなどのメガ小売は、今回のパンデミックをチャンスに変え、顧客体験を高めることで、売上をアップしています。一方、2020年9月までに変化に乗り遅れた北米の小売の3分の1のチェーンが破産宣告か債権者保護申請を余儀なくされています。

実際、今回のコロナ禍で買い物体験は一気に変わり、オンライン販売で商品やサービスを買うことが当たり前になりました。学校の授業もオンラインシフトが進み、この動きは後戻りすることはなさそうです。デジタル技術が未来を変えることは間違いなく、経営者はこの流れを予測しながら、自社の戦略を決めなければなりません。

現状の延長線上で物事を考えるのはとても楽ですが、この安易な道を歩と未来を暗くしそうです。

経営者というものは、統計に基づいていて、検証可能で、立証できるものに惹かれる傾向がある。未来には、こうした経験に基づくガードレールが存在しない。それどころか、自分で用意しなければならない。つまり、未来は、われわれが快適でいられるかどうかなど、知ったことではないのである。ビジネスリーダーとしては、現在のその先を見据え、社会や行動のおぼろげな変化を見つけ出していかなければならない。

現在の顧客の変化を見逃さず、未来の顧客から逆算し、顧客体験をよくできた企業が生き残るはずです。今回のコロナは私たちに未来が安泰では無いことを教えてくれました。変化を予測し、それに対応できた企業が、顧客からの支持を受けられるのです。

インテルは2003年のSARSのパンデミックの頃から準備を重ね、今回の惨事にも慌てず迅速に対応することができたと言います。はるか遠くの水平線上に、会社の行く手に影響を及ぼしそうなものがないか、目を光らせている人間が組織には求められています。

何らかの脅威になる恐れありと判断すれば、それを監視し、対処する対応計画を作っておくことで、企業は危機を乗り越えることができるのです。危機対応計画を組織の責任でつくることで、企業は存続できるようになるのです。

小売りがまるで違う時代にワープする入り口であり、ワープした先にあるのは、新しい社会規範、消費行動、厳しい競争圧力の時代である。そして、これは小売業者に限らず、あらゆる企業が直面する現実なのだ。将来振り返ってみれば、このパンデミックは進化のターニングポイントだったということがわかるだろう。一部の小売業者にとっては、新たな、ときとして不相応に不穏な規模に拡大するチャンスにもなった。一方、残念ながら適者生存の波に呑まれる企業も出てくる。

■消費者に訴求する価値
■ビジネスの目的
■パーパス・存在意義
などを、刷新しようという気概を持ち、変化を取り入れることができる経営者が、今求められています。

ニューヨークタイムズのマシュー・ハーグ記者の次の言葉を読めば、小売店が置かれている状況が厳しいことがわかります。

地下鉄、バス、電車のラッシュアワーにしても、ビルの新築工事にしても、どうにか生き残っている街角の商店にしても、経済全体がオフィスへの膨大な人の出入りを前提に形成された。レストラン、バー、スーパー、商店は、労働者がオフィスに来なければ経営が成り立たない)。(マシュー・ハーグ)

ニューヨークのマンハッタンには、毎日150万人以上が通勤していますが、彼らの25%が在宅勤務になっただけで、マンハッタンのありとあらゆる商売人が影響を受けます。商店や食品雑貨店、レストラン、カフェ、ネイルサロンなどが彼らを顧客にしてきましたが、在宅勤務が主流になる未来には、多くの店が生き残れなくなります。

アメリカのベイエリアの技術系労働者4400人を対象に先ごろ実施された調査によれば、66%がこの街からの脱出の意向を示しました。これは地元で働く技術系労働者83万人のうち、55万人に相当します。 技術労働者が移動することで、この人々を当て込んでサービス業で仕事をしていた100万人以上の雇用が失われてしまいます。

オフィスレス化社会あるいはオフィス大幅削減社会によって、ニューヨーク、パリやロンドン、シドニー、東京といった都市でもベイエリアと同じようなことが起こります。

新型コロナウイルスは、100年に一度あるかないかのワームホールのようなもので、私たちの未来をがらりと変えてしまう力を秘めている。ブランドや小売店がここまで小売りの道を切り開いてきたことは確かだ。だが、私たちが一気にスピードを上げて新しい時代への境界を突破する際に、多くのブランドや小売店は古びた遺産として取り残されることになる。

生き残るブランドは、従来のマーケティング手法や販売戦術を抜本的に見直し、これまでとは違う新たな消費行動パターンに適応していきます。アフターコロナの時代には、変貌を遂げた産業や消費者が登場し、小売のあり方も変えてしまいます。

アフターコロナ時代の10のリテールタイプ

社会が工業化時代からルビコン川を渡ってしまった以上、小売業界もまったく新しい時代のビジネスに突入したのである。それは、一握りの怪物企業が支配する時代である。つまりは国境なき巨大ECサイトが消費者の日々の暮らしや活動のかなりの部分を支配するのである。こういった怪物企業は、膨大な数の商品を提供するだけにとどまらず、従来では考えられなかった製品・サービスの領域にも次第に手を広げていく。

アマゾンやアリババ、京東なその怪物企業は、消費者がペインを感じている領域に攻め入ります。銀行や保険、ヘルスケア、教育、輸送などがターゲットになり、顧客体験を変えていくはずです。あらゆる小売は顧客視点からビジネスを捉え直し、ポジショニングやマーケティングを再考すべきです。

著者はアマゾンやアリババとも戦える10のリテールタイプをあげています。

■アフターコロナ時代に生き残る10のリテールタイプ
①「ストーリーテラー」型→自分を奮い立たせてくれるブランドはどれ?
ナイキは「ストーリーテラー」型の企業になることで、一貫して深みのある感動的な筋立てを創り出し、顧客の心をがっちりつかんでいます。実店舗は、魅力あふれるストーリーを語るための舞台やスタジオとなり、ここをメディアにして自社ブランドのストーリーを語るべきです。店舗は、オンラインかオフラインかを問わず、顧客をストーリーに引き込み、長期にわたって色褪せない関係を盛り上げていくことで、あらゆるチャネルや業態に展開できるようにする役割を果たします。

②「活動家」型→自分の価値観と一致するブランドはどれ?
パタゴニアは明確な信念を掲げ、自然を愛する冒険家をファンにしています。「活動家」や「行動派」としてのパタゴニアのポジションを確立することで、売上を伸ばしています。

③「流行仕掛け人」型→新しくてクールなものは、どこに行けば手に入る?
ネイバーフッドグッズ
のような、「流行仕掛人」型の店舗は、膨大な選択肢を徹底的に厳選し、顧客が信頼を寄せる視点を提示します。顧客が何かを見つけ出す体験をリアル店舗やオンライン店舗で行います。

④「アーティスト」型→一番充実した体験が味わえるのはどこ?
キャンプ
などの「アーティスト」型の小売業者は、デザインや演出で卓越した独創性と手腕を発揮して、同じ商品であっても、多彩な体験の機会を生み出します。この体験が独自性や魅力、楽しさにあふれているため、消費者のなかで個性的な存在として認知されます。

⑤「透視能力者」型→自分のことを一番理解してくれているのは誰?
スティッチ・フィックス
などの「透視能力者」型の小売業者は、テクノロジーや人間の直感を駆使して顧客のニーズや嗜好、欲求を予測します。「透視能力者」型は、データ共有を前提に顧客との開かれた関係を築くため、顧客ニーズを正確に予知できます。AIとスタイリストが購買履歴からレコメンドするため、顧客体験が高まり、結果、ブランドの売上とロイヤリティの両方がアップします。

⑥「コンシェルジュ」型→最高水準のサービスはどこで受けられるの?
ノードストローム百貨店も、コストコも顧客体験を高めるという意味で「コンシェルジュ型」の小売業者と位置づけられます。両者のやり方はまるで違いますが、卓越したサービスを提供するという共通点があります。

⑦「賢者」型→一番いい助言がもらえるのはどこ?
B&Hフォトビデオでは、従業員1人ひとりの顔写真と略歴を公開していますが、メンバー全員が正真正銘のカメラのエキスパートであるという特徴があります。プロとしての長年の経験で培ったノウハウ、情熱、思い入れがあるため、顧客が彼らから購入したいと考えます。そこでしか手に入らないノウハやアドバイスがB&Hを強くしています。

⑧「エンジニア」型→最高に作り込まれた商品はどこで手に入るの?
ダイソンのような「エンジニア」型ブランドは、卓越した技術思考とデザイン思考を駆使し、顧客の問題を解決します。「エンジニア」型の小売業者は、その独自の発想を商品だけでなく、売り方にも応用していて、多くの場合、デザイン主導の革新的な手法でチャネルを超えて顧客に独特の体験を用意します。また、自社製品の技術力やデザイン性が持つ独特のメリットの啓蒙・誇示・普及に全社を挙げて重点的に行うことで、競合との差別化をはかっています。

⑨「門番」型→必要な商品はどこで手に入るの?
シェアの高い「門番」型は、ブランドの競争力を守り抜くため、様々な努力を厭いません。政府へのロビー活動は言うに及ぼず、手当たり次第の合併・買収やライセンスの買い占めなど、ありとあらゆる手段で競合を打ち負かします。

⑩「背教者」型→この商品が欲しいけれど、もっと買いやすくしてくれるのは誰?
「背教者」型のブランドは、常識を覆すようなイノベーションを見つけ出し、市場に昔からいる既存企業に挑戦状を叩きつけます。イノベーションによって、業界の価格と価値のバランスや顧客の体験をがらりと変えてしまうのです。「背教者」型ブランドは、エネルギー、リソース、ITを余すところなく投入し、現状打破の戦いに挑み、顧客のペインを取り除きます。新たな価値を顧客に提供し、競合をあっという間に古い存在に変えてしまうのです。

これからの小売は、優れた体験に共通する「S・U・P・E・R」を経営に取り入れるべきです。
■サプライズ(Surprising)
■独自性(Unique)
■個別対応(Personalized)
■親密度(Engaging)
■再現性(Repeatable)の
S・U・P・E・Rのある体験には突破力があります。

自らのブランドをストーリー化し、店舗をメディアに変え、そこから情報発信を行うことで、顧客体験を高められます。広告に頼るのをやめ、コンテンツやSNSからダイレクトに購入させることで、アマゾンやアリババとの戦いに勝利できます。顧客との新たな出会いをデザインし、顧客とのつながりを強化しましょう。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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