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マッキンゼー ネクスト・ノーマル―アフターコロナの勝者の条件
小松原正浩,住川武人,山科拓也
東洋経済新報社
本書の要約
新型コロナは消費者の購買行動に大きな変化を与え、彼らの行動を変えてしまいました。経営者は今までと同じ戦い方をするのをやめ、ネクストノーマルを意識した新たな戦い方を身につける必要があります。企業は獲得した膨大な消費者データを活用しなければ、消費者からの関心を失い、グローバル市場での競争力が低下してしまいます。
ネクストノーマルの処方箋とは?
2021年2月時点で、消費者のうち38%は、新しい店舗、新しい商品、あるいは新しい買い方を試しており、特に若いZ世代は実に半分以上の人が新しい買い方を試している。17%の消費者は、新たな店舗やウェブサイトで初めて買う体験をし、16%は宅配や事前注文の店舗受け取りなど新しい購入形態を試し、9%はこれまで買ったことがない新たな商品ブランドを試した。(小松原正浩,住川武人,山科拓也)
コロナ後の新しい世界を見据えた動きが始まっています。今後10年間でネクスト・ノーマル(コロナ後の新常態)がスタンダードになり、この動きに乗り遅れると負け組になる可能性が高まります。マッキンゼーは今回のコロナ禍の中で、世界主要国でユーザー調査を重ね、ネクストノーマルの処方箋を提言しています。
今回のコロナ禍で生活者の消費行動が激変しています。特にZ世代は新たな消費にチャレンジし、小売のあり方を変えています。新たな店舗・商品・買い方を試した人の約9割は、その体験に満足し、新型コロナ終息後も利用を継続したいと答えています。
新型コロナは、商品・ブランドにとって、新規ユーザー開拓のチャンスとなり、また、これまで当たり前のように店舗に通い、商品を買ってくれていた忠誠心の高い顧客が離反する契機になったのです。新たな店舗/サイトで購入した消費者のうち、複数回答で45%が「利便性」、59%が「金額に見合う価値(バリュー・フォー・マネー)」を目的としてました。
■利便性
自宅からの距離が近いこと、良い配送オプションを提示していること、混雑を避けられる状況である(例:列が短い)こと
■より良い「金額に見合う価値(バリュー・フォー・マネー)」
より「安価な配送コスト」やより「お得な価格設定」をしていることや「キャンペーンを実施している」こと。
これまで買ったことがない新たな商品ブランドを試した消費者の主な理由では、「価格に対する価値」が最も多く57%となっており、より「お得な価格やキャンペーンを実施していること」、より「安価な配送コストプランを提供していること」が含まれています。
また、新しい商品を試した消費者のうち、より清潔なパッケージなどの処理がされているかどうか理由として挙げる消費者は17%、また環境負荷が低いかどうかを挙げた消費者も9%いました。
消費者は新型コロナを契機に新たな店舗・ブランド・商品・買い方を試した。「利便性」「金額に見合う価値(バリュー・フォー・マネー)」「衛生や環境に対する意識」が動機となったが、驚くべきことに店舗・ブランドを変更した消費者のうち9割以上が、移動先の新たな店舗・ブランド・商品・買い方に満足しており、今後も利用する意向を述べている。
消費財や小売各社にとって新型コロナ禍は新しい顧客を獲得するチャンスでもあり、同時にこれまでの固定客を失うリスクも含んでいます。CXを高めると同時に、SDGsを意識した企業姿勢を高める必要があります。
いち早くコロナが終息した中国の小売で起こったこと
マッキンゼーでは、いち早くコロナを封じ込めた中国の消費者の行動を以下のように整理しています。 中国ではデジタル・オムニ・チャネルでの購入が元々活発であったため、新たに利用する層の増加は約10%にとどまっています。しかし、それまで利用していた層においては、「全て」または「ほぼ全て」の購入経路がデジタル・オムニ・チャネルになったと回答した割合が約50%増加するなど、デジタル・オムニ・チャネルでの購入が主流になっています。
中国の顧客ロイヤリティの低下は日本を上回っており、86%もの消費者が新しい購買方法を試すなど、常に自分にとって最適な選択を模索していました。新たな店舗/サイトで購入した理由として、34%の消費者は、主に「利便性」と「金額に見合う価値」を追求した結果であることもわかりました。
成功事例の1つとして挙げられるのが、中国でスポーツウェアのデザイン・開発・製造・販売を行うアンタスポーツ社です。同社は、中国で広く普及しているメッセンジャーアプリ「ウィーチャット(WeChat/微信)」を消費者との接点として活用することで、わずか2日間のうちにウィーチャット・ミニプログラムと呼ばれるウィーチャット上の電子商取引を開設しました。
これにより13,000もの店舗がウィーチャット上で消費者とつながることができ、同社はピーク時に1日当たり1000万中国元(約1.7億円)もの売上を記録したと言います。
ナイキ社は自社アプリに登録している利用者を対象に、自宅でできるフィットネス・セッションを実施し、結果としてアプリ利用率は約80%増加し、オンライン売上は30%も増加しました。
オンライン住宅取引プラットフォームを展開する貝殻找房(KE Holdings)は、WeChatのミニプログラムを利用するだけでなく、仮想現実(VR)技術によって不動産の内見を可能にしました。結果、不動産仲介会社による内見回数が2019年2月に35倍になったと言います。同社は貝殻2020年3月、NY証券取引市場にIPOしています。
中国で新型コロナを契機として爆発的に売上を伸ばした企業は、消費者の行動変化をいち早く理解し、極めて短期間でオンラインチャネルを構築することで、巣ごもり需要と売上を上手に結びつけるなどの工夫がみられます。
新型コロナをきっかけとして日本でも多くの消費者はデジタル・オムニ・チャネルを試す機会を得て、これによって企業は消費者との多様な接点(アプリ、リモートアドバイスおよび対面式の面談)を確保し、莫大な量の消費者データを手に入れることができたのです。
デジタル化したタッチポイントが増える中で、消費者側も企業との関係を深めようとしています。より良いレコメンデーションを受けるためには、ある程度の個人情報を提供しようとしています。当然、情報を提供する見返りとして素早い企業からの反応、パーソナライズされたオファーに対する期待値も上がっています。
企業が複数のオンライン上での消費者接点を有し、そこから多くの消費者データを蓄積し、その集めたデータを解析し情報を統合して個別の消費者に対しSingle View of Consumer(一人の統一した顧客像)を持つことにより、その消費者の真のニーズやオケージョンをとらえ、ロイヤリティを向上させることで「お財布シェア(消費者の可処分所得のうち、自社への消費の割合)」を獲得できる、という好循環を作り出すことができる。
今回のコロナ禍で加速したデジタル化の動きは止められません。消費者とのオンライン上での直接の接点を持たない企業は既存顧客とのつながりが希薄化するだけでなく、新しい顧客の流入が限定されてしまいます。店舗だけでなく、デジタルの入り口をつくり、顧客とのコミュニケーションを行わなければ、消費者からスルーされてしまいます。
日本企業もオンラインを通じて消費者接点を直接解析できる立ち位置を確保し、不足するデータ接点についてはパートナーシップ等を通してエコシステムを構築する必要があります。企業は獲得した膨大な消費者データを活用しなければ、今後、消費者からの関心を失い、グローバル市場での競争力が低下してしまうのです。
新型コロナは消費者の購買行動に大きな変化を与え、彼らの行動を変えてしまいました。今までと同じ戦い方をするのをやめ、ネクストノーマルを意識した新たな戦い方を身につける必要があります。
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