なぜ、資源価格が高騰するのか?


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株高・資源高に向かう世界経済入門 株がバブルというウソ
朝倉慶
ビジネス社

本書の要約

コロナ禍が落ち着き、経済活動が再開する中、脱炭素によって、資源開発が停止されたことが、現在の資源高を巻き起こしています。冷静に現状分析し、正しいエネルギー政策を取らないと現在の資源高は抑えられません。太陽光や風力発電へのシフトを叫ぶだけでは、今回の資源価格の暴騰は解決できないのです。

なぜ、資源高が起こっているのか?

近年よく「ESG投資」という言葉を聞くと思います。これは、E:エンバイロメント(環境を重視する) S:ソーシャル(社会に貢献する) G:ガバナンス(企業統治、不祥事を防ぐ)という3つの観点から投資対象を選び、投資を行うということです。このESG投資は現在、世界の機関投資家や年金基金、投資信託など、資産運用手法の基本となってきています。(朝倉慶)

SX(サステナビリティ)経営が当たり前になる中、投資家も環境を基準に投資先を決めるようになってきました。ESG投資が基本になると石油企業や石炭企業などへの投資は減少します。ダイベストメント(投資撤退)の流れが加速する中、10年前には最強な会社だったエクソンモービルが、NYダウの採用銘柄から除外されてしまいます。

エクソンモービルやシェルなどの石油メジャーの経営は、この数年で厳しさを増しています。石油メジャーは将来的な石油枯渇や再生エネルギー時代の到来を見据えて、石油および再生エネルギー分野に巨額の投資を行ってきました。

2019年の段階でBP、シェル、エクソンなど、世界の石油大手5社が握る石油の権益は過去最大に達していました。そこにコロナの波が襲って、一気に崩壊状態となってしまったのです。IEA(国際エネルギー機関)は2020年5月、「今年の石油・ガス会社の上流部門への総投資額が前年比32%減の約35兆円になる」と発表しました。この投資の減少が実は、今回の資源高のきっかけになっています。

原油開発や天然ガスは開発を決めてから調査や掘削の機械の運搬、掘削した資源を運ぶ道路などインフラ整備もあり、実際に工事を始めるまでには何年もかかります。資源開発は一般的に開発を決めてから生産開始まで4~5年、長ければ10年ほどかかるといわれています。

いったん原油やガス、銅やアルミなど鉱山などへの投資をやめてしまうと、今回のように需要が高まってきても、すぐに供給できるわけがありません。結果、資源価格は短期間に急騰してしまうのです。現在のように原油掘削をはじめとする資源開発をほぼ100%停止してしまえば、将来、アフターコロナの時代となり、世界景気が回復した際に価格が高騰することが予測され、その流れで原油の価格が上がっているのです。

中国やインドは今後、何があろうが確実に発展し続けるのですから、いずれエネルギー情勢がひっ迫するのは明らかです。ところが、現在の世界は、「環境、環境」と叫び、資源開発を許しません。そこで登場するのが「クリーンエネルギー」と言われる天然ガスなのです。

天然ガスは化石燃料ではありますが、二酸化炭素の排出量が石炭に比べて40%も少ないのです。ESGがいくら叫ばれてもいきなり石油や石炭から、風力や太陽光にシフトすることはできません。そこには「移行期間」が必要です。そこで注目されているのが、天然ガスなのです。

資源高が続く理由は、極端なエネルギー政策にあり?

エネルギーの80%を化石燃料に依存している世界経済が他のエネルギーに切り替えることが並大抵でないことは確かだ。(ダニエル・ヤーギン)

現在の化石エネルギーの状況をみると、環境問題があって石炭は著しく減少、石油も漸減、天然ガスだけが伸びている状態です。結果、天然ガスが逼迫することが予測できます。

実は、日本の商社は天然ガス取扱高が高く、シェル、エクソンBPの資源メジャーと三菱商事、三井物産が取扱量を争っています。バフェットはこの状況を見通し、日本の商社やドミニオン・エナジーの天然ガス権益を購入したのです。

天然ガスの需要の高まりは、2021年初頭から現れ始めました。現在、脱炭素という国際的な流れの中で、化石燃料の開発は難しくなっています。太陽光発電や風力発電は自然が相手のため、需要に応じた供給が難しくなり、寒波などで予想以上の電力が必要となる時、火力発電で賄うため、天然ガスや石炭の需要が高まります。

しかし、環境が叫ばれる中、供給体制が整っていないのです。いくらバイデン政権が風力や太陽光発電への投資を続けても、すぐに結果を出せるわけではありません。

また、米国のシェール企業が以前のように積極的な投資を行わなくなった結果、OPECやロシアが再び原油市場に対して大きな影響力を示しています。

世界の現実は化石燃料なしでは立ち行かないわけで、その現実を無視して再生エネルギーの開発のみ行うと選択をすれば、そう遠くない時期にエネルギー不足が看過できなくなります。現在の原油価格の大暴騰は、それを見越したものなのです。

コロナ禍が落ち着き、経済活動が再開する中、脱炭素によって、資源開発が停止されたことが、現在の資源高を巻き起こしています。冷静に現状分析し、正しいエネルギー政策を取らないと現在の資源高は抑えられません。太陽光や風力発電へのシフトを叫ぶだけでは、今回の資源価格の暴騰は解決できないのです。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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