ルポ 過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのか(若月澪子)の書評

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ルポ 過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのか
若月澪子
朝日新聞出版

ルポ 過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのか(若月澪子)の要約

『ルポ 過労シニア』は、生活のために働き続ける高齢者たちの実態を、21人への取材を通じて描いたノンフィクションです。年金だけでは暮らせず、低賃金・過重労働に従事するシニアの現実から、老後の生きがいや労働の意味を問いかけます。今後、就職氷河期世代や団塊ジュニア世代も同様の課題に直面する中、「選べる老後」実現のために、個人・企業・社会がどう向き合うかが問われています。

高齢者の現実。彼らが働くのはなぜか?

シニアには仕事の選択肢が少なく、賃金は低く、そして健康不安を抱えながら働く人も多い。(若月澪子)

先日、毎日新聞の書評を読んでいた際に、ルポ 過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのかに出会いました。本書は、働く高齢者の増加というトピックを、さまざまなシニアへの密着取材を通じて、「貧困」「孤立」「生きがい」「終わらない子育て」といった具体的な人生の物語として浮かび上がらせるノンフィクションです。

著者は、「働く高齢者の増加」というテーマを、21人のシニア労働者への赤裸々なインタビューと潜入取材を通じて、彼らの人生後半の物語として描き出しています。読み進めるうちに、働かざるを得ない高齢者たちが抱える切実な課題や痛みが、リアルに浮かび上がってきます。

非正規雇用のシニア労働者がどのような現場で働き、どのように仕事を捉えているのか、そしてその背後にある社会的課題を多角的に掘り下げています。

取材対象となる職種は、障がい者施設の支援員、フリーランス、ホテルバイト、配送センターの仕分け、マンションの管理人、病院の清掃員など多岐にわたり、現役時代の経歴や働く理由も人それぞれです。

各仕事の内容はもちろんのこと、非正規雇用、時間の搾取、低賃金、健康不安を抱えながらの肉体労働といった、構造的な問題についても具体的に描かれています。

また、シニア人材派遣会社の担当者や、企業のシニア雇用担当者への取材も「採用側の本音」というコラムとして収録されており、雇用する側の視点からの現実も伝えています。

今の日本の労働現場において、シニア労働者の地位は決して高くありません。選べる仕事は限られ、賃金は低く、体力的にも厳しい業務が多い中で、健康への不安を抱えながら働く人が増えています。背景には、老後資金の不足や低年金、いわゆる「老後2000万円問題」があり、定年後も働き続けなければならない実態があります。

加えて、子どもの自立が遅れ、親が高齢になっても「終わらない子育て」を続けざるを得ないケースも多く、いわゆる「8050問題」も深刻です。

「年金だけで暮らせる」時代はすでに過去のものとなり、少ない年金では家賃や光熱費すらまかなえない中、物価高も生活を圧迫しています。年金からは税金や社会保険料も差し引かれるため、多くのシニアが生活のために働き続けざるを得ない状況にあります。

企業側も人手不足を補う手段として、「低賃金で文句を言わず働く高齢者」を求めている現実があります。若年層が敬遠するきつい仕事を、シニアが最低賃金に近い待遇で担うという、いわば「エッセンシャルワーカーの高齢化」が進んでいるのです。

政府や企業は、高齢者就労を「働く喜びがある」「孤独にならずにすむ」といった前向きなイメージで推奨していますが、実際の現場では、痛みや疲労に耐えながら長時間働いている実態があり、著者はそれを「体のいい搾取」と指摘しています。

一見、普通の身なりで働いているため、彼らの困窮は見えづらいものです。しかし、本書の取材では、貯蓄ゼロ、ボーナス数万円、病気になれば即生活保護といった、不安定で過酷な高齢者の現実が明らかになります。かつてホワイトカラーだった人が、年下の上司に指示されながらも家族のために働き続ける姿も生々しく描かれています。

老後を、どう働き、どう生きるのか?

自分は老人ではない、年寄り扱いされたくない。今のシニアが抱えがちな悩みだ。しかし、シニアが若い人の輪に突然入ることは難しい。友達という「資産」も現役時代からコツコツと積み上げていかなければ、手元には何も残らない。

本書の重要な論点は、「社会とのつながり」や「生きがい」を求めて働くという前向きな感情がある一方で、老後の備えを十分にしてこなかったシルバー世代の存在が明らかになる点です。

そうした状況が、結果として低賃金や過重労働を受け入れざるを得ない現実を生み出し、搾取の構造を見えにくくしてしまう危うさが浮かび上がってきます。

たとえば、10年間働いてもボーナスが3万円しか支給されないというシニアの声からは、高齢者の働く意欲が、そのまま構造的な搾取の中に取り込まれている現実がひしひしと伝わってきます。

このまま人口減少が続く中で、高齢者の「生きがい」と「収入」のバランスをいかに保つかは、今後の社会にとって極めて重要なテーマです。政治家や官僚、企業は、シニア世代の就労を単なる「労働力の補填」として扱うのではなく、持続可能な形で活かしていくための制度設計を、真剣に考える必要があります。

やがては、若年層に敬遠され、外国人労働者からも選ばれなくなるような業種・業態が今後増えていく可能性もあります。

著者は高齢者の努力不足だけでは説明できない、非正規雇用と低年金の現実を本書は丁寧にすくい上げています。

地域コミュニティや家族、制度といったセーフティネットが脆弱になる中で、個人や家族のリスクや負担は確実に増加しています。日本社会の劣化に、本書は鋭く目を向けています。

「過労シニア」は高度成長期からバブル時代の光の中で青春時代を迎え、日本経済の停滞とともにシニア時代にたどり着いた人たちだ。その中で、借金、転職や離職、リストラ、会社の倒産、離婚、親の介護、病気、子どものひきこもりなど、さまざまな困難を経験して今に至っている。次は就職氷河期世代がシニア時代に突入する。不安定な雇用に翻弄され、低年金の未来に怯える私たちは、生成AIや外国人労働者との競争激化で、現在のシニアよりさらに厳しいシニア時代が待ち受けているかもしれない。

今後、団塊ジュニア世代が定年を迎える時代がやってきます。かつて人口のボリュームゾーンとして社会を支えてきたこの世代もまた、老後の働き方に直面することになります。

AIやヒューマノイドといった技術革新の波は、単純労働だけでなく知的労働の分野にも及び、私たちの「働く」という行為そのものの意味が大きく変わろうとしています。 その結果として、定年前の早期退職勧告や再雇用の抑制が強まる可能性も否定できません。

このまま社会の仕組みや意識が変わらなければ、現代のシニア以上に厳しい老後が、次の世代を待ち受けているかもしれないのです。 これは遠い未来の話ではなく、まさに今、静かに進行している現実です。

では、どうすればよいのでしょうか。 まずは、自分自身の将来にしっかりと目を向けること。そして、過去のキャリアや肩書にとらわれるのではなく、変化する時代に応じた働き方や生き方を柔軟に選択していく姿勢が必要です。

自分が社会にどのような価値を提供できるのかを明確にし、異なる業種や世代の人々とつながり、学び合うこと。その積み重ねが、自分らしい働き方をつくる土台になると感じています。

そして、企業や社会全体としても、「働かされる老後」ではなく、「選べる老後」「安心して働ける老後」を実現する仕組みが求められています。これは単なる制度や政策の課題にとどまらず、私たち一人ひとりが向き合うべき人生のテーマでもあるのです。

さまざまな職場で後期高齢者を見かける機会が増えましたが、本書を通して彼らの置かれた現実がよく理解できました。

老後も働き続けるということが「選択」ではなく「必然」になりつつある今、私たちは何を基準に、どんな未来を描くべきなのでしょうか。

若年人口が減少し、日本人の働き方が大きく変化する中で、 著者は「老後を、どう働き、どう生きるのか?」を私たちに問いかけてきます。

 

 

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
株式会社INFRECT取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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