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ビジネスデザインのための行動経済学ノート バイアスとナッジでユーザーの心理と行動をデザインする
著者:中島亮太郎
出版社:翔泳社
本書の要約
バイアスとナッジを効果的に活用できると、ビジネスで得られる売り上げや商品やサービスに対する話題などの結果も変わってきます。商品やサービスのスペックからアプローチするのではなく、ユーザーの立場に立って、バイアスとナッジからコミュニケーションをデザインすることで、顧客の行動を変えられます。
バイアスとナッジをビジネスに活用しよう!
バイアスとナッジを効果的に活用できると、ビジネスで得られる売り上げや商品やサービスに対する話題などの結果も変わってきます。ここが、ユーザーを対象としたビジネスの難しい点でもあり面白い点でもあります。商品やサービスのスペックから考えるのではなく、ユーザーの立場に立って「この商品の情報を受け取るとユーザーはどんな印象を持つか」「ユーザーが商品を手に取ってくれるためのキッカケは何があるか」といったことから考えてみましょう。(中島亮太郎)
行動経済学はビジネスに役立つ学問であることは間違いありませんが、わかりやすい書籍が少ない領域です。このブログでも今までにダニエル・カーネマンやダン・アリエリーの書籍を取り上げてきましたが、行動経済学を理解するためには、そこそこの時間が必要になります。この読者のペインを取り除いてくれたのが、本書ビジネスデザインのための行動経済学ノートです。
著者の中島亮太郎氏は、行動経済学をビジネスの視点でイラスト付きでわかりやすく解説してくれました。本書を読むことで、短時間で行動経済学について学べます。私も今回、本書によって、今まで身につけた知識を棚卸しできました。商品やサービスのケーススタディも紹介されているので、行動経済学をビジネスに取り入れるためのヒントをもらえます。
行動経済学は思考のクセや不合理性など、人々の特性が経済(ビジネス)とどう関係するかに焦点を当てた学問です。私たち人間には、認知のバイアスがあります。行動は置かれている状況やその時の感情によって、左右されることがわかっています。時に私たちは不合理な行動をしがちですが、行動経済学ではそのパターンを明らかにしています。
情報と判断の間には「バイアス」が存在します。人は機械とは違っていろいろな情報に影響を受けるし、その人の考え方のクセもあります。ここには多くの行動経済学の理論が関係しています。
判断と行動の間では、ユーザーに意図的なはたらきかけを行うことができます。「ナッジ」という手法を活用し、条件や選択肢などを提供することによって、ユーザーの行動を変えるための後押しができるようになります。
バイアスの仕組みを知ることで、ユーザーに望ましい情報の提供方法を考えられるようになり、ナッジの方法を用いることで、ユーザーに好ましい行動をうながすデザインができるようになるのです。
バイアスには以下の8つに分類できます。1-4は環境要因で、社会や暮らしの中での影響に関係しています。目の前に相手がいたり、周囲に人がいたり、時間や空間の距離によっても、認知の仕方や判断は変わります。5-8は心理要因で、情報のインプットにフィルターがかかることがあります。過去の思い込みやそのときの気分によって、私たちは正しい判断ができなくなるのです。
1、人は相手を気にする
2、人は周囲に左右される
3、人は時問で認識が変わる
4、人は距離を意識する
5、人は条件で選択を変える
6、人は枠組みで理解する
7、人は気分で反応する
8、人は決断にとらわれる
ナッジは強制ではなく、ユーザーも気づかないように無理なく行動ができる方法であることが特徴です。ただし強制ではないとしても、ナッジは、ユーザーが行動に移すときに後押しをうながすための、実践的なテクニックです。商品やサービスに何かしらの意図を加えるので、 ナッジはデザインそのものだともいえます。
オランダの空港にある男性用トイレのハエのシールは、ハエを狙おうとすることで、結果としてトイレがキレイに使われる効果をもたらしました。強制もせず、ほとんど意識もさせずに、ユーザー側とビジネス側の両者に好ましい行動をはたらきかけています。
インプットする際には、8つのバイアスが情報を受け取る認知に影響して、アウトプットする際には、4つのナッジが行動を後押ししてくれます。
ピークエンドの法則とMAYAの法則
今日は行動経済学の有名な法則である「ピークエンドの法則」と「MAYAの法則」 を紹介します。
■ピークエンドの法則→「終わりよければ、すべてよし」
IKEAはピークエンドの法則で、顧客体験を変えることに成功します。
①最後にご褒美を与える(終わりを楽しい体験にする)
IKEAは、面倒と思われがちな店舗での家具購入の体験を、時間の使い方でポジティブに変えました。ユーザーがIKEAで体験する全体の時間の8-9割はショールームの回遊に使われますが、最後にまとめてカートに商品を乗せて気分を高めて、会計後にレジの近くで売られているアイスを食べることで、それまで長く歩いて疲れていたことも忘れてしまいます。
②ムードを突然変える
IKEAのレストランには、子ども向けのお誕生日会を行うサービスがあります。ユニフォームを着た店員さんが突然祝ってくれるため、サプライズがあり印象に残ります。
③長く滞在させる
IKEAの店舗は歩き回るように設計されているため、滞在時間が長くなります。長時間の滞在時間の元を取るために、多くの顧客が買い物をして帰ると言います。途中でご飯を食べたり、最後にお土産を買うなど、ユーザーになるべくお金を使ってもらうように行動をうながせます。
■MAYA理論→最先端だけど、まあ受け入れられる状態を作り出す。
MAYAとはMost Advanced Yet Acceptableの略語で「最先端だけど、まあ受け入れられる」という意味です。
人は保守的な心と強い好奇心が共存しますが、対立する両者を1つの商品やサービスに体現できると、人々の高い注目を集める効果があります。この2つについて、それぞれ整理します。
■Advanced(先進さ)
ちょっとした驚きや、予想できない状況で何かがわかった瞬間、人は高い満足感が得られます。Advancedには、人はちょっと先のことに高い関心を持つ心理を突いて、ユーザーを飽きさせない効果があります。
■Acceptable(馴染み)
同じ名前をたくさん聞いたり、何回も同じ人に会うほど、その人やものに馴染んで好感度が高くなります。この現象をザイアンス効果といいます。
MAYA理論はこの「先進さ」と「馴染み」を組み合わせて、「人は驚きを与えられたい一方で、心地よさを望む」というユーザーの心理を刺激します。先進的すぎると不安を抱くけど馴染みすぎると飽きてしまう、という絶妙なバランスで成り立っています。
このMAYA理論をプレゼンテーションで実践したのが、アップルのスティーブ・ジョブズでした。iPhoneの発表の際にジョブズはこのMAYA理論を取り入れ、顧客を魅了し、iPhoneを大ヒットさせたのです。
①簡単な言葉を使う
2007年、iPhoneの発表でのプレゼンテーションでは「iPod+Phone+Internet」と伝えています。当時、スマートフォンによるモバイル社会はまだ誰も想像できなかったので、iPhoneの存在はMost AdvancedであってもNot Acceptableでした。それをYet Acceptableにしたのは「3つの既存の機能が一緒になった」という、馴染みがあるものを新しいものとして位置付けるシンプルなメッセージでした。
②新旧を組み合わせる(ヒットしているものの多くは、このような馴染みのあるモチーフを使う。)
iPhoneの発表では、デバイスが革新的であるのに対して、デモで操作をするときに紹介した曲はビートルズやボブ・ディランなど多くの人に馴染みのあるアーティストのものでした。アイコンも当時は、紙のノートなどのモチーフを用いたものが多く、最新の画面上で新旧の世界を表現しました。
③体感してもらう
新しいものは、ロ頭の説明だけでは十分に伝わりません。デモを見せて実際に体感してもらう方が、新しい商品の世界観が伝わります。実際の使用風景を見せたり、店頭で使ってもらうことで、iPhoneの新しい体験を実感させました。
行動経済学もデザインも、つまるところは「人とは何か?」を探求することです。行動経済学はそれを研究や学問として追求し、デザインは商品やサービスを通して実践します。両者が組み合わされば、より人に目を向けて、楽しさや優しさのある社会が実現できるのではないか、このように考えます。
バイアスとナッジを効果的に活用できると、ビジネスで得られる売り上げや商品やサービスに対する話題などの結果も変わってきます。商品やサービスのスペックからアプローチするのではなく、ユーザーの立場に立って、バイアスとナッジからコミュニケーションをデザインすることで、顧客の行動を変えられます。
行動経済学の知識を用いて、商品やサービスをデザインすることで、世の中を少しでもよい方向に変えていけるという著者の考え方に共感を覚えました!
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