無敵化する若者たち(金間大介)の書評

high-angle photography of group of people sitting at chairs

無敵化する若者たち
金間大介
東洋経済新報社

無敵化する若者たち(金間大介)の要約

『無敵化する若者たち』は、挑戦や競争を避け「傷つかないこと」を最優先に生きる若者たちの姿を描いた一冊です。自信はないが自己評価は高く、現状を肯定しながらも無理はしない。著者は、上司世代に対し「価値観の違いを受け入れる」「行動に注目する」「必ずフィードバックする」の3つの関わり方を提案。若者理解の手引きとして、多くの大人に読んでほしい一冊です。

無敵化する若者のリアルとは?

人は誰でも、かつては若者だった。現在、若者と呼ばれる人たちも含めて、誰もが若者の経験者であり、専門家だ。いつの時代も「今どきの若者は」と言って興味を持つのは、誰もが自分を通して比較分析が可能だからだ。にもかかわらず、上司や先輩、親と呼ばれる立場になると、その立場でものごとを考えるようになる。(金間大介)

数年前から、大学で教える中で、私は日々若者たちの行動に触れながら、彼らの価値観や考え方の変化を肌で感じています。もちろん、明確なビジョンを持った一部の学生たちは、非常に前向きで、主体的に学び、積極的に行動しています。

しかし、その一方で、多くの学生たちは、人前ではなかなか本音を語ろうとしません。 (もちろん、私自身の働きかけが足りていない可能性もありますが)

やりたいことやパッションを内に秘めていても、それを表に出すことには慎重で、常に周囲の空気や他人の反応を気にしている印象を受けます。

そうした中で出会ったのが、金沢大学融合研究域教授の金間大介氏の無敵化する若者たちでした。 読み進めるうちに、「まさに、こういうことなのかもしれない」と何度もうなずきたくなる内容が続きます。今の若者たちの行動の裏にある不安や葛藤、そしてそれに対する独自の向き合い方が、著者の本音も含め、的確に言語化されています。

私たち大人は、どうしても自分の今の立場から若者を評価しがちです。かつて自分たちも若者だったことを、いつの間にか忘れてしまっているのかもしれません。 そんな大人の視点を一度手放すために、著者は「無敵化」という言葉を用いて、現代の若者たちのリアルを、自らの体験に根ざして丁寧に描き出しています。

金間氏が提唱する「無敵化」とは、自分を守るために若者たちが身につけた、巧妙な“生存戦略”と言えます。ここで語られる「無敵」は、社会から見捨てられ、自暴自棄になった結果としての“無敵の人”とはまったく意味が異なります。

本書に登場する若者たちは、むしろ、若さゆえに社会から期待され、一定の安心できる環境で育ってきた存在です。彼らは自己評価が高く、自分の権利もしっかりと主張します。そして、無理をせず、できるだけ傷つかずに生きていくことを優先し、「確実で安全な道」を選び取ろうとしています。

彼らは、変化の激しい社会の中で、無理なく、自分を守りながら生き抜くための術を身につけているのです。だからこそ、挑戦を避けているように見えても、その裏には自分を守る知恵が隠されているのです。

著者は、この無敵の若者たちに共通して見られる特徴を、具体的に挙げています。彼らには次のような傾向があるといいます。
◆安定志向が強く、仕事に対する熱意や欲求がない
◆上の世代がためらうような権利主張を平気でする
◆自己評価が高い
◆アウトではないけど微妙に失礼
◆いつでも親が味方に
◆他世代に比べ恵まれた労働環境
◆ストレスやハラスメントのない無菌化された職場が用意されている
◆先輩世代から守られ、大切にされる
◆仕事がうまくいかなくても上司や先輩の責任
◆飲み会でも気づかってもらえる
◆平均値より下にこぼれ落ちない術を知っている
◆平均値より上に目立たない術を知っている
◆いい子を演じることで上世代と一定の距離を保つ
◆自分や近しい人がよければそれでいい
◆将来展望がない日本でも十分幸せ
◆日本の衰退を気にしない
◆嫌われることを気にしない

自信はないが、自己評価と幸福度の高い現代の若者たち

実際にこうした特徴を持つ「意識高い系」の若者はごく一部だ。僕の研究では、だいたい全体の1割程度。多く見積もっても2割に満たない。これほど少数派であるにもかかわらず、彼らのパフォーマンスは圧倒的に目立つため、世代を代表するような存在として語られる。  

デジタルネイティブであり、起業やSDGsにも積極的だというイメージを持たれがちなZ世代ですが、実際には、そのイメージとは異なる若者が多いと感じます。 多くのZ世代は、いわゆる意識高い系とは対極に位置する、おとなしく、目立ちたくないと考えるタイプの若者たちです。

そして、そうしたサイレント・マジョリティとも言える若者こそが、著者の言う「いい子症候群」に該当します。 「いい子症候群」とは、素直でまじめな“いい子”が持つ、いくつかの共通した行動パターンを指します。たとえば、目立つことを避け、理想は均等な分配、自分で決断することが苦手で、常に周囲から浮かないように振る舞おうとします。

また、自分のペースで、無理のない範囲で「自分らしく」生きることを大切にし、あらかじめ用意された安心できる枠組みの中で力を発揮しようとします。その根底には、自分への自信のなさや、他者の視線への強い恐怖心があると著者は指摘しています。

日本の将来にも、自分自身の将来にも不安を感じているものの、それを打破するだけの自信が持てず、ただただ拒絶されることを恐れて一歩を踏み出せない――そんな若者たちの実態が本書から浮かび上がってきます。

将来は不安しかなく、自分に自信があるわけでもない。それでもなお彼らは幸福なのだ。

将来には不安しかなく、自分に強い自信があるわけでもない。 それでもなお、今の若者たちは、現在の生活にある程度の幸福を感じていると著者は指摘します。

彼らが口にする「無理」という言葉には、単に「がんばっても自分の能力では達成できない」という意味だけでなく、「そこまでがんばる意思や意欲が自分にはない」「無理は禁物ですから」といった、自己防衛的で冷静なニュアンスも含まれています。やみくもに挑戦するよりも、自分を守りながら生きるという、現代的な慎重さが感じられます。

一方で、今の20代は「自信がない」と口にしながらも、自己評価は比較的高い傾向にあります。それは、「自分にはできない」と思い込んでいるわけではなく、「がんばればできるかもしれないけれど、そこまでしてがんばる必要は感じない」といった、意思や意欲の面からくる距離感のようなものです。「自分のペースで、自分らしく生きたい」という考え方が根底にあるのです。

実際、モチベーションや成長意欲、努力に関するアンケートでは、高いスコアが出ることも少なくありません。ただし、それがすぐに行動へとつながるとは限らず、どこか慎重な姿勢が見え隠れします。彼らは「成長したい」という思いを持ちながらも、それをどのように実現すべきかを模索している段階にあるのかもしれません。

著者は、こうした若者たちの特徴として、「自信はないが、自己評価は高く、そして幸福度も高い」と指摘しています。無理に他人と競い合うことなく、自分の価値観を大切にしながら、穏やかに暮らしている。そんな姿が、今の若者たちの根底に流れているのです。

優秀な学生の中には、経済的に恵まれた家庭に育った人が多いという現実があります。もちろん全員がそうとは限りませんが、努力の裏側には、環境という見えにくいアドバンテージが存在しているのも事実です。

多くの若者たちは、自分の人生には、あらかじめ決められた「範囲」のようなものがあると感じています。その範囲の中で選択を重ねていく方が、自分にとって効率的で、無理なく生きられる――そんな実感を抱いているのです。 その一方で、自分の枠の外には、すでに多くを持っている人たちがいます。彼らに追いつこうとすれば、それ相応の努力や時間が必要になりますが、それでも到達できるかはわかりません。

報われる保証のない挑戦に飛び込むことには、強い覚悟とリスクが伴います。 だからといって、若者たちはそれを悲観的に捉えているわけではありません。むしろ、「無理をしなくてもいい」と割り切ることで、自分の心を守りながら、できるだけ軽やかに生きていこうとしています。

社会の構造を冷静に見つめ、その中で無理のないバランスを保とうとする姿勢が、彼らの生き方に表れていると著者は述べています。

さらに彼らは、明確な将来展望を持っていなくても、今の生活に満足しているケースが少なくありません。努力は「コスパが悪い」と冷静に分析し、人間関係や働き方も「タイパ」を基準に取捨選択しています。

「普通であること」を保つために、あえて情熱を隠し、目立たないように振る舞う。そして、非効率だと感じるものはためらいなく手放す。そうして、誰の言葉も届かない“無敵”の状態へとたどり着いた若者たちの姿が、本書では描かれています。

無敵化する若者たちにとっての上司のや役割とは?

別に誰が悪いとか言うつもりはないけど、作業が滞ったのは決して自分の能力不足や理解不足ではなく、ちゃんと指示しなかったあなた側の責任であって、フォローに来たのでお答えします、というニュアンスだ。何とも言えない我というか、主張の強さがそこにはある。

「理想の上司像」に関する調査では、「仕事について丁寧に指導してくれる」「部下の意見・要望に対し動いてくれる」上司が圧倒的に支持されています。

一方で、「場合によっては、叱ってくれる」「仕事の結果に対する情熱を持っている」といった、かつて理想とされたタイプの上司像は、今の若者たちからは距離を置かれるようになっています。

彼らが求めているのは、強いリーダーシップやカリスマ性ではなく、わかりやすく、安心感をもって仕事を教えてくれる存在です。その姿は、まるで“理想の塾講師”のようなイメージに近いのかもしれません。

また、現代の若者たちは、職場においても上下関係を絶対視することなく、「自分もひとりの対等な人間」として立っているという感覚を持っています。年齢や役職にかかわらず、対話はフラットであるべきだという価値観が根付いており、決して相手を軽んじているわけではありません。

むしろ、それが自然な人間関係のあり方だと捉えているのです。 彼らの仕事観にも特徴があります。たとえば、「仕事はボールを受け取ったほうが負け」といった感覚を持ち、自分から仕事を取りに行くよりも、巻き込まれないようにうまく距離を取ろうとする傾向も見られます。

また、自分の権利はしっかりと主張しながらも、組織の中ではあまり目立たず、波風を立てずに過ごそうとします。 こうした価値観からも、彼らは活気にあふれた職場よりも、お互いを尊重し合える、落ち着いたマイルドな職場を好む傾向があります。

情熱的な上司やエネルギッシュなチームに対しては、「自分も同じ熱量でがんばらなければならない」というプレッシャーを感じてしまい、かえって一歩引いてしまうこともあるのです。 このような背景を理解せずに、従来型のマネジメントを続けても、若者の心には響きません。「背中を見て学べ」という時代はすでに終わりつつあります。

今、上司に求められているのは、引っ張る存在ではなく、隣に寄り添う存在です。若者の価値観に歩み寄り、共に考え、わかりやすく伝えていく姿勢が、これからのマネジメントには必要なのではないでしょうか。

著者は本書の中で、「無敵の世代は“してもらい上手”である」と繰り返し述べています。これは、仕事の場面だけでなく、飲み会などのオフシーンでも顕著に表れていると言います。自ら積極的に動くというよりも、周囲の対応や空気にうまく乗りながら、必要なことは“してもらう”。それが彼らなりの処世術であり、生き抜く知恵なのです。

本書では、上司と若者の間にある価値観のズレについても丁寧に取り上げられています。従来のマネジメントはもはや通用せず、いま求められているのは、大人世代が若者の価値観に歩み寄る姿勢です。 著者はそのために、私たち大人に向けて3つのアドバイスを送っています。

1つ目は、「価値観の違いを理解し、受け入れること」。 世代が違えば考え方も違って当然。まずはその違いを否定せず、認めることから始めようと呼びかけています。

2つ目は、「若者の“心”ではなく、“行動”に注目すること」。 内面を深く探るより、目の前の行動に着目し、その意味を一緒に考えることが信頼につながると述べています。

3つ目は、「行動に対して必ずフィードバックを返すこと」。 小さな行動にも反応し、言葉で返すことが、若者の自信と成長を支える鍵になるのです。

『無敵化する若者たち』は、単なる若者批判や世代論ではありません。今を生きる若者のリアルな姿を、過剰な評価や否定をすることなく描き出し、私たちに「どう向き合うか」を問いかけてくれる一冊です。若者と関わるすべてのビジネスパーソン、教育者、そして経営者にこそ手に取ってほしいと感じました。

私自身もこの本を読みながら、教室での若者たちとの関わり方を何度も振り返りました。そして改めて、「伝える」のではなく「届く」コミュニケーションの大切さに気づかされました。若者に行動してもらうためには、大人側の姿勢の変化こそが必要なのかもしれません。

最強Appleフレームワーク

 

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
株式会社INFRECT取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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