わかりあえない他者と生きる 差異と分断を乗り越える哲学
マルクス・ガブリエル (著), 大野 和基 (編集)
PHP研究所
本書の要約
わかりあえない他者とは対話の機会を持つべきです。異なる立場にいる相手にこそ、友好的に接する必要があります。社会の分断が進む中、お互いの違いを攻撃するのではなく、違いを受け入れ、オープンマインドになることが求められています。相手の尊厳を軽視するのをやめ、他者の内に人間性を見出しましょう。
尊厳を軽視しない社会を取り戻そう!
新実存主義で他者との関係を考えるとき、「尊厳(人間が自身の正体について考えることができる精神の自由が担保されていること)」の視点は欠かせません。しかし、今の社会は尊厳が軽視される社会へとなりつつあります。 尊厳とはまさに、他者の内に人間性を認めることです。(マルクス・ガブリエル)
多様性の尊重が叫ばれる中、個々の人たちが自己主張をすることが当たり前になり、社会の分断が進んでいます。自分とは異なる存在である他者と適切なコミュニケーションを取ることが社会課題になりつつあります。こうした問題を解決し、他者と分かり合える方法を哲学者のマルクス・ガブリエルが本書で明らかにしています。
人々が「他者と自己」にまつわる思い込みを取り除き、「話し合い」を通じてより良い社会を目指すべきだとガブリエルは指摘します。
自分自身および他者の内にある人間性を尊重することで、相手との関係性を変えられます。まずは、相手の尊厳を尊重することから始めましょう。
今回のコロナ禍で人間の尊厳は軽視され、尊厳への攻撃が起こっています。他者の尊厳を軽視するときには、相手を利用する動機があると著者は述べています。パンデミック下の各国の国境政策は、尊厳への攻撃となり、人々の自由や人権を奪っています。
尊厳への攻撃が行われるときには必ず、利己的な利害が関わっています。各国の利害が関わることで、合理的な判断がなされず、行動の自由が奪われてしまいます。正しい選択をするためには、インフラストラクチャーと道徳の両方を変えなければならないのです。
入国の条件を厳格に運用することは正しい選択なのですが、その際、国境は開放しておくべきです。感染症を正しく理解し、そのための正しいルールを各国で明確にすることで、コロナ禍の断絶を避けられたのです。医師にはウイルスのことを尋ねるべきで、国境封鎖についての見解を求めてはいけないのです。なぜなら、医師には当たり前ですが、国境政策に関する知見がないからです。
自分と異なる視点に気づくたった一つの方法
常に自分と違う視点を持つためにはオープンマインドであること、そして叡智を実践する必要があります。
どんな国にも叡智の歴史があります。アフリカにも欧米にも何百年も続いてきた叡智の要素が数多くあります。私たちはこの叡智を大切にし、日々の生活の中で実践すべきです。
「今、ここ」にある幸せは常に、他者とともにいる幸せです。他者は私の幸せを邪魔しもすれば、幸せをもたらしもします。他者との関係がなければ、私たちは孤独の時間を過ごすしかありません。今回のコロナ禍の際、私はこれを実感しました。家族がいなければ、2020年、2021年はもっと悲惨な時間になっていたはずです。
他者について考えるときは、他者を自分とまったく同じように考えなければなりません。自分があの人だったらと考え、コミュニケーションを改善します。相手の立場になって、相手との接し方を変えることで、人間関係が変わります。お互いの違いを受け入れ、オープンマインドになることが欠かせなくなっています。
わかりあえない他者とは対話の機会を持つべきです。異なる立場にいる相手にこそ、友好的であるべきです。著者は民主主義を「意見の相違による暴力沙汰を回避する」ためにあると定義します。民主主義の役割は二つの利害当事者の妥協点を見出すことですが、プーチンがウクライナとの戦争を始める前に、妥協点を探そうとしなかったことが、今回の危機の原因の一つになっています。
自分の思い通りに行かない世界を受け入れない限り、結局は自分に問題が帰って来るという歴史の法則を忘れないようにしたいものです。
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