「学力」の経済学(中室牧子著)の書評

学生たちは試験の前に祖母を亡くすことが多い。マイク・アダムズ教授は数年にわたってデータを収集し、祖母が亡くなる確率が、中間試験の前は10倍、期末試験の前には19倍にも跳ね上がることを示した。おまけに、成績が芳しくない学生の祖母は、そうでない学生に比べて50倍も死亡率が高かった。(ダン・アリエリー)

スクリーンショット 2015-10-21 20.42.17
ずる―嘘とごまかしの行動経済学
(ダン・アリエリー著)
で有名なこの話を
中室牧子氏も、実際の授業で経験したとのことです。
面白いことにデータが示した通りに、試験前には、学生の祖母がたくさん亡くなるというのです。
このエピソードで始まる中室氏の「学力」の経済学がとても面白かったので
今日はこちらの書評を書きます。

「データ」に基づき教育を経済学的な手法で分析する教育経済学は
「成功する教育・子育て」についてさまざまな貴重な知見を積み上げてきました。
こと教育に関しては、個人的な体験や主観に基づく逸話が
メディアで流布されていますが
これが正しくないことが、本書を読むとわかります。
データに基づいた科学的根拠をしっかりと示して
教育を語るべきだというのが、中室牧子氏の主張なのですが
本書を読むことで、感覚的な教育論とは距離を置きたくなりました。

例えば、「今ちゃんと勉強しておくのが、あなたの将来のためなのよ」という
親の子供への決まり文句が、経済学的には正しいというのです。
(多くの評論家は教育のご褒美を否定しています)
教育の収益率で考えれば、教育への投資が
株や債券のリターンよりも効果的であるのですが
多くの子供達は近い将来の満足を優先してしまいます。
遠い将来のことを考えられず、勉強に時間を費やさないのです。
明日から勉強すればいいやと子供達は、勉強を先送りしてしまうのです。

本書には、勉強にご褒美を与えることが効果があると書かれています。
ハーバード大学のフライヤー教授によると
読書や宿題などのインプットに、ご褒美を与えたほうが
テストの点数などの結果(アウトプット)に、ご褒美を与えるより効果があるというのです。
なぜなら、読書などのインプットは、今自分が何をすべきかが明確ですから
子供達は行動に移しやすいのです。
また、子供達にご褒美を与えても
一生懸命勉強するのが楽しいという気持ちを子供達は失わなかったので
ご褒美に価値があることもわかりました。

また、「あなたはやればできるのよ」というアドバイスが
よくないこともわかりました。
むやみに子供達を褒めると、実力の伴わないナルシストを育てることになるのです。
子供の成績が良くない時には、余計にこの手法を用いてはいけないというのが
フリリダ州立大学のバウマイスター教授の研究で分かったのです。

「頭がいいのね」と「よく頑張ったわね」では、どちらが効果的なのでしょうか?
コロンビア大学のミューラー教授は、実験を通じて
能力を褒めることは、子どものやる気を蝕むことを見つけました。
子供を褒めるときには、具体的に子供が達成したことを褒めるべきなのです。
「今日は一時間勉強して偉かったね」と伝えたほうが
「あなたは頭がいいね」より、価値があるのです。

驚くべきことに、テレビやゲームをやめても
勉強時間がほとんど増えないこともわかってきました。
一日1時間までなら、テレビやゲームも息抜きとして
認めても良いとのことです。
しかし、2時間以上になると悪影響を及ぼします。

ただ、勉強しろと命令するだけでなく
子供と一緒に勉強する親の努力が効果があるという話に納得しました。
実際、私たち親子は、カフェで一緒に勉強することで
長時間の勉強を楽しめるようになりました。
今ではこのカフェ勉が、土曜日の我が家の習慣として定着したのです。
(子供がカフェ勉しよう!と誘ってきます。)

今回、本書を読んで、データの重要性を再認識しました。
■頭のいい子とばかりつき合うと自信を失くす
■問題児の存在が学級全体にマイナスの影響を与える
■就学前の質の高い幼児教育に投資効果がある
(特に、誠実さ、忍耐強さ、社交性、好奇心の強さなどの非認知能力において) 
などのデータはとても参考になりました。
子供の教育について、考えるきっかけになる良書です。

今日もお読みいただき、ありがとうございました!

    

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
徳本昌大 Amazonページ >
 

徳本昌大をフォローする
習慣化書評生産性向上クリエイティビティライフハック
スポンサーリンク
徳本昌大をフォローする
Loading Facebook Comments ...

コメント

タイトルとURLをコピーしました