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緊急提言 パンデミック: 寄稿とインタビュー
著者:ユヴァル・ノア・ハラリ
出版社:河出書房新社
本書の要約
ウイルスとの戦いでは、人間の世界とウイルスの領域との境界を守ることが重要になります。感染症を打ち負かすためには、科学の専門家を信頼し、国民は公的機関を信頼し、各国は互いを信頼する必要があります。信頼とグローバルな団結抜きでは、新型コロナウイルスの大流行は止められませんし、今後も新たなウイルスに攻撃され続けます。
コロナに負けないために重要なこと
感染症は農業革命以来、人間の歴史で中心的な役割を演じてきた。そして、しばしば経済危機や政治危機につながった。これまでの感染症と同じで、COVID19に関しても、けっして忘れてはならないことがある。それは、ウイルスが歴史の行方を決めることはない、それを決めるのは人間である、ということだ。人間はウイルスより圧倒的に強力であり、この危機にどう対応するかを決めるのは、私たちなのだ。ポストコロナの世界のあり方は、今私たちが下すさまざまな決定にかかっている。(ユヴァル・ノア・ハラリ)
多くの人が新型コロナウイルスの大流行をグローバル化のせいにし、この種の感染爆発が再び起こるのを防ぐためには、脱グローバル化するしか方法はないという乱暴な議論がまかり通っています。しかし、グローバル化を制限しても、ウイルスの蔓延は防げないとサピエンス全史で有名になった知の巨人ユヴァル・ノア・ハラリは言います。
確かに、感染症を封じ込めるために、短期の隔離は不可欠です。しかし、長期の孤立主義政策は経済の崩壊につながり、真の感染症対策にはなりません。著者は感染症の大流行への本当の対抗手段は、分離ではなく協力だと指摘します。
歴史を遡ると国境の恒久的な閉鎖によって自国を守るのは不可能であることがわかります。グローバル化が始まるはるか以前の中世においてさえ、黒死病などの感染症は急速に広まりました。隔離によって本当に自分を守りたければ、石器時代まで戻らなければなりません。
真の安全確保は、信頼のおける科学的情報の共有と、グローバルな団結によって達成されます。感染症の大流行に見舞われた国は、経済の破滅的崩壊を恐れることなく、感染爆発についての情報を包み隠さず進んで開示すべきです。
他国を排斥するのではなく、経済崩壊を食い止めるためには、自発的に救いの手を差し伸べる必要があります。効果的な検疫を行なうためにも、国際協力は欠かせません。
自国の都市を封鎖すれば、経済の崩壊を招きかねない。そのときには他国が援助してくれるだろうと思っていれば、ロックダウンのような大胆な措置も取りやすくなる。だが、他国に見捨てられると考えていれば、おそらく躊躇し、手遅れになるだろう。
ウイルスの闘いにおいては、人間の世界とウイルスの領域との境界を守る必要があります。私たちが住む地球には、無数のウイルスがひしめいており、遺伝子変異のせいで、新しいウイルスがひっきりなしに誕生しています。危険なウイルスが地球上のどこであれ、この境界をどうにかして通り抜けたら、ヒトという種全体が危険にさらされます。
差別をやめ、世界中のどの民族でも助けることが、ウイルスの蔓延を防ぎます。アジアやアフリカにより良い医療を提供すれば、先進国の国民も感染症から守られると考えるべきです。しかし、トランプはアメリカ・ファーストという自国第一主義を貫き、他国をサポートする気がありません。
今回の危機の現段階では、決定的な闘いは人類そのものの中で起こる。もしこの感染症の大流行が人間の間の不和と不信を募らせるなら、それはこのウイルスにとって最大の勝利となるだろう。人間どうしが争えば、ウイルスは倍増する。対照的に、もしこの大流行からより緊密な国際協力が生じれば、それは新型コロナウイルスに対する勝利だけではなく、将来現れるあらゆる病原体に対しての勝利ともなることだろう。
ウイルスに負けないためには、グローバルな連帯を深める必要がありますが、強力なリーダー不在の中、私たちにできることは限られています。フェイクニュースに騙されずに、科学的に正しい情報を信じ、正しく行動すべきです。今回のコロナウイルスによって、ナショナリズムが進む可能性がより高まる中で、正しい情報を信じ、正しく行動しなければ、為政者とウイルス双方の暴走を止めることはできません。
コロナ後の世界はどうなる?
この危機に臨んで、私たちは2つのとりわけ重要な選択を迫られている。第1の選択は、全体主義的監視か、それとも国民の権利拡大か、というものだ。第2の選択は、ナショナリズムに基づく孤立か、それともグローバルな団結か、というものだ。
コロナとの戦いに勝利するために以下の2つの選択肢があると著者は言います
1、新しい監視社会を作る
一つは、政府が国民を監視し、規則に違反する者を罰するという方法です。私たちは人類の歴史上初めて、テクノロジーを使ってあらゆる人を常時監視することが可能になりました。中国は新しい監視ツール活用することで、新型コロナウイルス感染症との闘いに勝利しました。中国当局は、国民のスマートフォンを厳重にモニタリングしたり、何億台もの顔認識力メラを使ったり、国民に体温や健康状態の確認と報告を義務づけたりすることで、新型コロナウイルスの感染が疑われる人を素早く突き止め、感染者の動きを継続的に把握し、接触した人を全員特定することで、一気に患者を減らすことに成功します。国民は感染者に接近すると、多種多様なモバイルアプリに警告してもらえるようになりました。
監視が国民の健康のために正しく使われていれば問題ありませんが、思想信条をコントロールされるために利用されるのはリスクが高いと著者は言います。政府がスマホの監視を強化すれば、読んだ記事や宗教、支持政党、財産、個人情報などがダダ漏れになることで、彼らは国民をコントロールし、内心の自由を奪えるようになります。
そして、いったん導入に合意した監視システムは、今回のコロナ危機が終焉しても、使い続けられる可能性が高いのです。私たちは国家の指導者たちが手に入れた権限に、細心の注意を払う必要があります。特定の政治家にあまりに大きな権力を与えて、独裁者を生み出すことを避けなければなりません。
2、ナショナリズムに基づく孤立と、グローバルな団結
感染症の大流行自体も、そこから生じる経済危機も、ともにグローバルな問題です。そしてそれは、グローバルな協力によってしか、効果的に解決できません。
このウイルスを打ち負かすために、私たちは何をおいても、グローバルな形で情報を共有する必要がある。情報の共有こそ、ウイルスに対する人間の大きな強みだからだ。
情報の共有が実現するためには、グローバルな協力と信頼の精神が必要とされます。各国は隠し立てせず、進んで情報を提供し、謙虚に助言を求めるべきです。感染情報を隠蔽せず、リアルタイムに共有することで、各国は対策を取れるようになります。
新型コロナウイルスによる感染例が少ない豊かな国は、感染者が多発している貧しい国に、貴重な機器や物資を送るべきです。発展途上国でウイルスが蔓延すれば、やがて自国に脅威をもたらします。自分には関係ないという態度をやめ、困っている国にはスピーディに援助をすることが、強国の正しい態度です。
民主主義国家は平時には崩壊しません。非常時に崩壊するのです。ところが、非常時にこそ民主主義が最も必要とされます。先程述べたように、各国政府は今、何十億、何兆もの巨額のドルや円を投入しているので、民主的な監視が必要です。さもなければ、たった一人の権力者が、友人や支持者の会社を救済することにして、それ以外の会社は倒産するに任せるでしょう。
今回のコロナ禍で、日本政府の税金の使い方が問われています。著者が指摘している悪行が、日本の政治家によって次々と行われています。評判の悪かったやアベノマスクも現在行われているGo toキャンペーンも一部の大企業に税金が流れるような仕組みで運営されています。
今こそ、国民が政府を監視して、政府があらゆる人の利益にかなう形で行動するようにさせなければなりません。権力とつながっている一部の「政商」だけが得をするような政策をやめさせることが重要です。弱者に税金がしっかりと行き渡る政策が行われなければ、格差がますます大きくなり、社会が不安定になります。
しかし、官僚や第4の権力であるメディアは、政治家に忖度し、政府の行動にブレーキをかけずにいます。ウイルスだけでなく、政治家がコロナウイルスに便乗して、私たちの国を壊し始めているように思えてなりません。
非常時に国民は強い権力を求め、独裁が起こりやすくなりますが、歴史を振り返ると彼らはすごいスピードで世の中を変えてしまいます。メディアや官僚が支配下に置かれ始めた今、国民が政治家を監視しないとやがて大変なことが起こります。
私たちの一人ひとりが、根も葉もない陰謀論や利己的な政治家ではなく、科学的データや医療の専門家を信じるという選択をするべきだ。
様々なフェイクニュースがあふれる中、私たちは正しい情報を信じるべきです。著者は、科学を信頼すれば、この危機を容易に乗り越えることができると指摘します。反対に、あらゆる種類の陰謀論に屈してしまえば、私たちの恐れが煽られ、人々は不合理な行動に走り、政治や経済が壊されてしまうのです。
この数年間、無責任な政治家たちが、科学や公的機関や国際協力に対する信頼を、故意に損なってきた。
今、日本では一部の政治家が学問の自由を否定する言動を繰り返し、学術会議が標的になっています。学問研究の自由が奪われれば、やがてそれは国民の自由を奪うことにつながります。政権に都合のよい学者やジャーナリストを重用し、批判を封じ込めることを続ける現政権を国民が監視しなければ、独裁が進むことになります。
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