マシュー・O・ジャクソンのヒューマン・ネットワーク 人づきあいの経済学の書評


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ヒューマン・ネットワーク 人づきあいの経済学
著者:マシュー・O・ジャクソン
出版社:早川書房

本書の要約

ネットワークが大きくなるにつれ、人の「友だちの人数によるパワー」を高めるだけでなく、「間接的な友だちによるパワー」や「噂を拡散するパワー」などほかの種類の中心性も高めます。ネットワークの中心性、外部性、同類性という特性を理解することで、様々な課題を解決するヒントが見えてきます。

メディチ家が一世を風靡できた理由

多彩な取引を安全におこなうには、家門のつながりを築いておくか、取引した実績のある相手と取引するか、つながりのある仲介者を介することに意味があった。メディチは自らを、他の多くの家門同士をペアにして結び、多くのネットワーク経路でメディチを通らせ、その他の家門ともつながりをつくる、不可欠のコネクターとした。(マシュー・O・ジャクソン)

「まわりの人々が作り出すネットワークが、あなたの収入、健康、幸福度を決定している!」とスタンフォード大学経済学部の教授のマシュー・O・ジャクソンは指摘します。世の中のあらゆる事象は「つながり=ネットワーク」に支配されていると言うのです。

中世イタリアのメディチ家はネットワークの力を活用することで、巨万の富を築きました。メディチ家のネットワークには、商取引と婚姻というふたつの重要な要素があったのです。商取引は銀行を中心に展開され、銀行の支店や子会社の経営陣はメディチ家の親戚で固められていました。

メディチ銀行はフィレンツェの上流階級にとってだけでなく、おおぜいの庶民にとっても重要な金庫であり、教皇や地域の多くの宗教指導者にも資金を融通していたのです。基本的な銀行業と貸付以外にも、メディチ銀行はさまざまな共同経営会社や、不動産取引、通商にかかわっていました。

このような経済的関係は他の有力家門との婚姻関係によって補完され増強されていきました。当時、有力家門間の婚姻は恋愛要素が乏しく、政略的な結婚になっていました。嫁いだ娘は縁続きを担保する存在として、嫁ぎ先と実家とを結び、娘婿は妻の実家との商取引を仲介したり、政治的なサポートを行いました。

当時は、敵対勢力との競争が厳しく、政治同盟や経済同盟を簡単には結べない環境にあるなか、こうした婚姻や商取引をつうじ、血縁による強固な同盟や分家を形成して協調体制を敷くことができたのです。

メディチ家のネットワークを分析した結果、他のどの一族よりもつながりが強いことが明らかになりました。敵対していた家門よりも、婚姻やビジネスのつながりが2倍近かったのです。ネットワークの主要ポジションにいたことがメディチ家の家業と富の著しい増大に寄与しました。

ネットワークの3つのパワー

ネットワークでの人のポジションを測る尺度には3つのアプローチがあります。
1、友だちの人数によるパワー(次数中心性)
→直接的な影響を明らかにする。
2、間接的な友だちによるパワー(固有ベクトル中心性)
→友だちのパワーを捕捉する。友達の友達の平均人数が情報の電波を変える。
3、噂を拡散するパワー(拡散中心性)
→限られた時間と関心度のもとで情報を広める(あるいは受けとる)ときの人のリーチを追跡するのに有効。

ブライアン・ロジャーズと著者は、新しい関係づくりに果たすネットワークそのものの役割が大きくなるにつれ、結合の効果とノード間の接続の不均衡も大きくなるということを明らかにしました。既存の関係を通して知りあうときには巨大な乗数効果が起こりうるのです。ネットワークがうまくつながることで、情報は伝わりやすく、周りに影響を与えられるようになるのです。

ネットワークの力が強くなるにつれ、人の「友だちの人数によるパワー」を高めるだけでなく、「間接的な友だちによるパワー」や「噂を拡散するパワー」などほかの種類の中心性も高めます。ネットワークの中で、有利なポジションにいることで、多くの人々から認知・理解・応援されることで、ビジネスがますますうまくいくようになるのです。

影響力を持つ人々が集まるネットワークに参加することがとても重要になります。誰と付き合うかが、ビジネスの結果を左右してしまうのです。友だちの人数によるパワー、間接的な友だちによるパワー、噂を拡散するパワーのあるネットワークとの接点を増やすようにすべきです。ネットワークの中で、誰の影響力が強いのかを知ることができれば、ビジネスを成功させる術が見えてきます。

ただ、ネットワークは間違いを引き起こすことも多々あります。多くの人とつながる影響力のある中心的な人がいるネットワークでは、効率よく情報が伝播しますが、影響力のある人間の情報が間違っていると事実が歪められてしまいます。

テクノロジーは、人のネットワークを進化させ、今後も形を変えながら世の中に影響を及ぼします。インターネット、ソーシャルメディアなどの出現によって、私たちのつながり方は変わり、情報が拡散するスピードが一気に高まっています。今後もテクノロジーの進化によって、ネットワークは様々な影響を私たちに及ぼすはずです。

人のネットワークは簡単に認識でき、ある程度の規則性もある。社会が変わるにつれ、ネットワークは密になり、同類性は強まり、分極化は進み、情報の移動や伝播の速度がいっそう速くなるなど、私たちは多くのことを経験している。

ネットワークのかたちはそのままでも、つながり方が少し変わるだけで、伝播や非移動性や分極化に大きな影響が及びます。

交流とコミュニケーションのネットワークには内部の分断があり、遠い場所にいても簡単に接続できる技術が進歩したにもかかわらず、一部の亀裂はさらに広がっています。非移動性と不平等が増大するにつれて、社会が不安定になるかもしれません。その際、ネットワークの中心性、外部性、同類性という特性を理解することで、様々な課題を解決するヒントが見えてきます。教育格差や貧困問題もネットワークを見ることで、解決できると著者は言います。

低劣な情報やフェイクニュースをふるいにかけながら、正確で奥深い情報を集めて広めていくための動機づけを高めることも求められます。ネットワークの仕組みを知り、それを上手に活用することで、私たちはビジネスを成功させるだけでなく、社会をよりよくできるのです。

 

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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