8がけ社会 消える労働者 朽ちるインフラ
朝日新聞取材班
朝日新聞出版
8がけ社会 消える労働者 朽ちるインフラ (朝日新聞取材班)の要約
現役世代の2割減少と高齢者急増で労働力不足が深刻な「8がけ社会」。しかし、これを衰退ではなく新社会デザインの出発点と捉えれば可能性が広がります。この機会を活かし、ワクワクする未来ビジョンを描き行動することで、新たな価値を創造し、明るい未来を切り拓くことができるのです。
8がけ社会の実態に迫る!
長年傾向が変わらない少子高齢化の結果として生じる最大の問題は、働き手の減少によるサービス不足にある。そして、あらゆる業界で悲鳴が上がる人手不足は、今後、年を経るごとに深刻化していく。(朝日新聞取材班)
2040年の日本は、かつてないほど厳しい社会構造の変化に直面しています。「8がけ社会」という言葉は、その深刻さを端的に表しています。現役世代が2割も減少する一方で、高齢者人口が急増し、労働力不足と社会保障制度の負担が社会全体に圧し掛かる未来が目前に迫っています。
これは単なる人口減少ではなく、経済、福祉、社会インフラの維持に関わる根本的な問題であり、私たちに深刻な課題を投げかけています。 特に懸念されるのは、高齢者人口の急激な増加です。
2040年には85歳以上の人口が1000万人に達し、日本の人口の3分の1が高齢者になるという予測が示されています。このような人口構造の変化は、医療や介護といった社会保障制度に莫大な負担をかけ、財政面での圧迫は避けられません。
現在でも介護業界は「人手不足」に悲鳴を上げており、今後さらにその状況が悪化することは容易に想像できます。 また、建設業や製造業といった産業でも労働力不足が深刻です。能登半島地震の復旧作業においても、すでに労働者不足が足かせとなっている実例があります。
運送業を例に取ると、規制緩和によって便利で安価なサービスが実現しました。しかし、この利便性の裏側には、労働者の賃金低下や長時間労働という深刻な問題が隠れています。立教大学の首藤教授が指摘するように、こうした業種では人口減少以上の人手不足に陥っており、その原因の一つに労働環境の悪化があります。
過剰なサービスや低価格競争は、一見消費者にとって有益に思えますが、実際には働き手へのしわ寄せを生み出し、職場を疲弊させています。この状況は、単に人手を増やせば解決する問題ではありません。むしろ、私たちの社会が求めるサービスの在り方や、労働の価値について根本的な再考を促しています。
「人手不足はこれまでの常識を見つめ直す機会になる」という首藤教授の言葉は、この問題の本質を鋭く突いています。8がけ社会に向かう中で、私たちは単に労働力の確保に奔走するのではなく、社会全体のバランスを見直す必要があります。適正な賃金、健全な労働時間、そして持続可能なサービス提供の在り方を模索することが求められています。
8がけ社会という現象は、ただの局所的な問題にとどまらず、社会全体に波及し、インフラの維持や経済成長に直接的な影響を与えるものです。さらに、2040年には約1100万人もの労働力が不足すると推計されており、現状のままでは持続可能な社会の構築が難しくなるでしょう。
出生率が上がらない本当の理由とは?
若い女性に生きづらさを感じさせるジェンダーバイアスは日本社会に根強く残っている。大学進学や就職ではアンコンシャスバイアスや慣行による不平等な状況が続き、家庭内でも性別役割分業意識によって家事育児の負担が女性に大きく偏る状況が続く。女性の社会進出は不可逆的に進んでいる。社会の側も現役世代の減少によって女性の能力を必要としている。にもかかわらず、有形無形のジェンダー不平等によって女性たちにさらに重荷を背負わせるような社会で、出生率が上がるはずがない。
日本社会が直面する深刻な少子化問題は、単に個人の選択や自然な人口動態の変化だけでなく、社会に根深く存在するジェンダー不平等と密接に結びついています。若い女性たちが抱える生きづらさの根底には、依然として根強く残るジェンダーバイアスが大きな影響を与えており、この状況が出生率の低下につながっているのです。
大学進学や就職の場面では、無意識のうちに根付いたアンコンシャスバイアスや長年の慣行が、女性に対して不平等な状況を作り出しています。この社会的な仕組みの中で、女性は男性と同等の機会を得ることが依然として難しい現実に直面しているのです。
さらに、職場だけでなく家庭内においても、性別役割分業の意識が強く残っています。家事や育児といった家庭内の労働は、今なお女性が担うべきだという社会的な期待が根強く存在しており、その負担が圧倒的に女性に偏っています。
一方で、女性の社会進出は不可逆的に進んでおり、現代の日本社会は女性の労働力なしには成り立たなくなっています。少子高齢化による現役世代の減少が進む中で、女性の力は経済や社会のあらゆる側面において必要不可欠なものとなっています。
政府も企業も、女性の活躍を促進し、労働市場により多くの女性が参加することを求めています。 しかし、社会のこの要求とは裏腹に、女性たちは有形無形のジェンダー不平等によってさらなる重荷を背負わされています。職場における昇進の機会や賃金格差、さらには育児や介護の両立に苦しむ女性たちの姿は、まさにその象徴です。
これらの不平等な状況が、女性たちに結婚や出産のモチベーションを低下させています。このような状況で、出生率が上昇することは極めて困難です。女性が働くことと家庭を両立できる環境が整わない限り、結婚や出産を選ぶ女性は減り続けるでしょう。
女性たちは、自らのキャリアや自由を犠牲にすることなく、社会で活躍しながらも家庭を築ける環境を強く求めていますが、現状ではその声が十分に反映されているとは言い難い状況です。 ジェンダーバイアスが社会全体に浸透し続ける限り、女性たちは過剰な負担を背負い、出産や育児に対して消極的な姿勢を持たざるを得ません。
日本の少子化問題の背景には、単なる人口の自然な減少だけでなく、こうした社会的な構造的問題が深く関わっているのです。 女性が本当に自由に生き、働き、家庭を持つことができる社会を実現するためには、私たちは今こそジェンダー不平等の根本を見直し、改革していく必要があるでしょう。
仮に今、子どもを増やすことができても、2040年には間に合いません。「8割社会」を乗り越える方策を探ると同時に、少子化対策をする必要があります。この困難な二正面作戦を、この国は求められているのです。
その際に決して忘れてはならないのは、すべての人が生きやすい社会をつくることです。女性やロスジェネ世代など、一部の人の犠牲の上に成り立つ社会は持続可能性を失います。これは、この半世紀の日本が体得したことです。
過去の人間は現状に責任があり、そして今を生きる私たちは、将来世代に責任を負うことになります。 出生率の低下は、ただの個々人の選択の問題ではなく、社会全体が女性たちに課している不平等の結果でもあります。女性の可能性を引き出し、彼女たちが輝ける環境を作り出すことが、日本が直面する人口減少社会を克服するための重要な鍵となるのです。
「8がけ社会」の可能性とは?
将来を担う若者世代も含めて社会全体で考えていかなければ、8がけ社会は乗り越えられない。(笹山大志)
朝日新聞の記者、笹山大志氏の指摘にもあるように、8がけ社会を乗り越えるためには、若者世代を含む社会全体で協力して考える必要があります。これは、世代を超えた共通の意識と行動が不可欠であることを示しています。
つまり、単に高齢者や現役世代に責任を押し付けるのではなく、社会全体で協力し、新たな社会の形を模索する必要があるということです。 こ
最近では、社会問題の一つとして長年取り上げられてきた空き家問題にも、新たな解決策が見えてきています。空き家は日本国内で多くの自治体にとって「問題」として捉えられてきましたが、最近では、外国人がこの問題に対して全く異なる視点を持ち込んでいます。
日本の伝統的な建築や田舎の生活に魅了された外国人たちが、これらの空き家を活用し、新たな需要を生み出し始めているのです。彼らにとって、これまで放置されてきた空き家は「可能性に満ちた宝物」として映り、日本の文化や伝統に新たな価値を見出しています。この視点の違いが、問題解決の新しいアプローチを示しています。
Akiya&Inakaという、日本の空き家や田舎物件を紹介する不動産サービスには、毎月数百件もの問い合わせが海外から寄せられているといいます。この現象は、日本の空き家問題に対する新たなアプローチの可能性を示しています。
このトレンドは、日本の過疎化が進む地域にとって、新たな活性化の機会をもたらす可能性があります。外国人居住者の増加は、地域に新しい文化や視点をもたらし、国際交流の機会を創出します。また、彼らが古い建物を改修し、新たな用途で活用することで、地域の景観保存にも貢献する可能性があります。
外国人による空き家の活用は、単なる不動産取引にとどまらず、地域の国際化や文化の多様性促進、さらには地域経済の活性化にもつながる可能性を秘めています。
人工知能やロボティクスの進展は、労働力不足を補うための一つの解決策として期待されています。例えば、製造業やサービス業での自動化が進むことで、生産性を維持しつつ少ない労働力での運営が可能になるかもしれません。また、外国人労働者の受け入れや、柔軟な働き方の導入といった社会的な改革も必要不可欠です。さらに、高齢者自身も労働力として再評価され、シニア層の働き方を見直す動きが進む可能性もあります。
「8がけ社会」は、一見すると後退や衰退を想起させるかもしれません。しかし、これを別の角度から見ると、私たちの社会が新たな現実に適応するチャンスとも捉えられるのです。 確かに、この変化がもたらす課題の規模は小さくありません。しかし同時に、それは私たちの思考や行動様式を根本から見直し、革新的なアプローチを生み出す契機にもなり得るのです。
リクルートワークス研究所の古屋星斗氏は、この変革の時代に対して前向きな見方を示しています。
人間にとって、楽しいとか、わくわくするって、すごく大事です。僕はこれからの日本は、面白いことが多発する世の中になっていくと思っています。日本は確かに、ちょっとまずい局面に入りつつあるかもしれませんが、その分、前例がどうだとか、ルールがどうだとか、変な足の引っ張り合いもなくなってきつつあるんです。(古屋星斗)
古屋氏は、これからの日本社会が「面白いことが多発する世の中」になっていく可能性を指摘しています。この転換期にこそ、私たちは従来の価値観や社会システムを根本から見直し、より持続可能で魅力的な社会を創造するチャンスがあるのです。
若い世代は、このパラダイムシフトの最前線に立つ存在です。彼らの柔軟な発想力と、テクノロジーを活用する能力は、人口減少社会が抱える様々な課題に対して、革新的な解決策を生み出す原動力となります。例えば、AIやIoTを駆使したスマートシティの構築、バーチャル技術を活用した新しい働き方や教育システムの開発など、テクノロジーを軸とした社会変革の可能性は無限大です。
一方、60歳以上の世代には、これまでの経験や知恵を若い世代に伝承しつつも、新しい時代の舵取りを彼らに委ねる勇気が求められます。長年培ってきた価値観や方法論にとらわれすぎず、若い世代の斬新なアイデアや挑戦を温かく見守り、必要に応じてサポートする役割が重要となってくるでしょう。
この社会の大転換期において、各世代や各分野が互いの強みを活かし、連携することが不可欠です。技術革新を推進する企業、新しい社会システムを設計する行政、そして多様な価値観を持つ市民社会が一体となって、未来のビジョンを描き、その実現に向けて協働することが求められています。
確かに、私たちは今、人口減少という未知の領域に足を踏み入れつつあります。しかし、この「8がけ社会」は、決して後退や衰退を意味するものではありません。むしろ、これを新たな社会デザインの出発点として捉え、創造性と革新性を発揮する絶好の機会と考えるべきです。
例えば、人口減少に伴う都市のコンパクト化は、より効率的でエコロジカルな生活空間の創出につながる可能性があります。また、労働力不足は、ロボティクスやAIの導入を加速させ、生産性の飛躍的向上をもたらすかもしれません。さらに、地方の過疎化は、逆説的にデジタルノマドやワーケーションの普及を促し、新しい働き方や暮らし方の模索につながります。
こうした変化を前向きに捉え、積極的に新しいアイデアを実践していくことで、日本は世界に先駆けて「ポスト成長社会」のモデルを提示することができるはずです。量的拡大よりも質的向上を重視し、個々人のウェルビイーングや環境との調和を追求する社会は、グローバルな課題解決のヒントとなる可能性を秘めています。
私たちは今、まさに歴史の転換点に立っています。この機会を活かし、若い世代の創造力とテクノロジーの力を最大限に引き出しながら、全ての世代が協力して新しい社会ビジョンを描き、その実現に向けて行動を起こすことが重要です。そうすることで、人口減少社会は単なる「課題」ではなく、より良い未来を創造する「チャンス」へと変わっていくのです。
この変革の過程は、決して平坦ではないかもしれません。しかし、私たち一人一人が主体的に考え、行動し、互いに協力し合うことで、必ずやこの「8がけ社会」を乗り越え、新たな繁栄の時代を築くことができるはずです。未来は私たちの手の中にあります。今こそ、マインドセットをネガティブからポジティブに変え、勇気を持って一歩を踏み出すべきなのです。
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