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パンデミック以後 米中激突と日本の最終選択
著者:エマニュエル・トッド
出版社:朝日新聞出版
本書の要約
日本人とは異なる視点で、世界を見ているのエマニュエル・トッドの思考から、私たちは多くのことを学べます。グローバル化の進展が自国産業の維持を不要にするという類いの話は幻想でしたし、人間の生活を支える意味でも、そして経済的にもリスクが高いことがはっきりしました。
トランプは重要な大統領だった?
私は、トランプ氏の政治スタイルには不快感を持ちます。けれども彼は米国史の中で重要な大統領だったと思います。 トランプ氏が米国政治にもたらした保護主義と反中国という方向は、歴史的な転換点になるはずです。(エマニュエル・トッド)
パンデミック以後の世界がどう動くかをフランスの知の巨人であるエマニュエル・トッドが、本書で解き明かしています。日本人とは異なる視点で世界を見ている著者の思考から、私たちは多くのことを学べます。
例えばアメリカ・トランプ前大統領の政治スタイルを彼は全否定せず、よいことはよいと明確に述べています。トランプの政策をその良し悪しで判断する著者の姿勢を私たちは取り入れるべきです。
著者は、今回のコロナ禍がなければ、トランプは再選していたと述べています。アメリカの経済はトランプの政策で好調を維持し、株価も史上最高値を更新していました。もし、彼が最高裁の判事に原理主義的なカトリック教徒ではなく、ヒスパニック系の人材を任命していたら、勝利していた可能性が高く、トランプが犯した戦略的なミスの一つでした。ヒスパニック系の人たちの支持を民主党から奪えば、トランプ有利に働いていたはずです。
また、コロナウイルスの対応を間違えたこと、それをあまりに軽視したことが、バイデンに有利に働きました。
考え方、イデオロギーの転換が必要になると、そういう少々例外的な指導者を求める動きが起きるのです。だから米国大統領にも、ときどきそれらしくない人物が選ばれているのです。それまでの時代からのほんとうの断絶、転換をもたらしたのは、まったく大統領らしくない人物だったのです。
保護主義を推進し、中国をあえて批判するトランプの姿勢は、常識を逸脱していましたが、思想的な行き詰まりを突破するためには、トランプのような偏った人物が必要で、アメリカ人は前回の選挙で彼を選んだのです。
常識を逸脱できる人は、危ない冒険主義者もいれば、妄想にとりつかれる者もいます。過去のドイツではヒトラーを選び、経済を優先する政策を支持しました。前回のアメリカ大統領選挙では、暴言を吐く危なさはありましたが、経済をよくしようとした面が評価され、トランプが選出されたのです。
トランプ氏の支持層について学歴が高くないと指摘されますが、その傾向はそれほど強くないと著者は言います。大卒レベルの高等教育を受けた人も半分くらいは彼に投票していました。一方、とても質の高い大学を出た人、博士号を持っているようなが民主党を支持したのです。民主党の支持層はそういった意味で、黒人、ヒスパニック、高学歴者と多様化しているため、バイデンの支持者の利害は異なります。
新型コロナウイルスが明らかにしたこと
新型コロナウイルスについてあんまり大げさに考えるのはよくないかもしれません。いくつかの点では感染症は幻想でもあるからです。必ずしも社会をほんとうに弱体化するわけではありません。というのもこの病気が命を脅かすのは基本的に75歳以上の高齢者だからです。
先進国が抱える問題の一つは、人々の高齢化が進んでいることです。高齢者人口の増加は、先進社会のブレーキになってきました。新型コロナウイルスが高齢者の命を奪ったとしても、社会にとって深刻な打撃にはならないと著者は言います。「老人を敬う」姿勢を忘れてはいけませんが、政治家は若者の生活を犠牲にしてはいけかったのです。
HIVの感染が広がったとき、20年間でフランスでは約4万人が亡くなったと言います。その時は若い人の死者の割合が大きく、人口動態に影響を与えました。しかし、今回のコロナの犠牲者は高齢者に集中しています。高齢者の感染対策を十分に練ることを意識すれば、経済をここまで痛めつけずにすんだのです。
新型コロナは、高齢者や持病のある人でなければ、リスクは小さいにも関わらず、マクロンは「集中治療室の入院患者の平均年齢が下がってきている」とフェイクニュースを流し、若者や現役世代のリスクを誇張し、彼らの行動を制限したのです。
また、今回のコロナ禍で、フランスの問題点が明らかになりました。中国への物質的な依存度が大きく、マスクすら生産できなくなっていたのです。製造業への投資を行い、国内の医療産業を保護する措置をとらなければ、今後またウイルスが蔓延した際に、国民を守れない状態が続きます。
中国への依存をやめ、自国の生産性を高めるという立場に立てば、トランプは評価できるのです。トランプが初めて中国が問題だと大きな声で言ったのです。中国は医薬品をはじめさまざまな物資の供給という点で、フランスの脅威になっています。
それだけでなく、中国は新しいテクノロジーを使って、監視社会の体制を作りつつあります。国際社会の中では中国はそろそろ抑え込まなければ、やがて彼らに支配され、民主主義は成り立たなくなります。
コロナ禍は、社会を壊したというより、今の社会がすでに壊れていたことを暴いたにすぎません。フランスなど先進諸国では生産力が落ち、必要な医薬品さえ作れなくなっていることがわかったし、各国の政府がほとんど何もできないことも明らかになった。 多くの国が直面している医療崩壊は、こうした警告を無視し、「切り詰め」を優先させた結果です。時間をかけて医療システムが損なわれたことを今回のウイルスが露呈させたと考えるべきでしょう。
フランスだけでなく、日本でも医療システムに問題があることが明らかになりました。PCR検査を怠り、感染者を減らせずに、中途半端な状態を続けています。感染が治らない中、GoToキャンペー行うなど、政治家が一部の企業と自分の利益を優先し、感染を拡大させました
ベッド数が多いにもかかわらず、重症患者が入院できないという問題を抱え、1月から緊急事態宣言に踏み切るなど、政策の失敗が経済を弱めるという皮肉な結果を日本にもたらしたのです。
コロナ以前から先進国は自国の医療制度や社会制度を破壊していました。それが、今回のコロナ禍で明らかになっただけなのです。個人はバラバラになり、経済は困難に陥り、生活水準は下がり、製造業は崩壊し続けている中で、国家の力が次第に強くなっています。
フランスは感じのいい国で、おいしいチーズやワインがあって、人々はあんまり規律正しくもなく、個人主義的でバラバラになった社会です。でも全体主義システムが登場する潜在的な可能性も考えておかなければなりません。だってもう政党も事実上ないのですから。今、フランスを統治しているのは国家であり行政府です。
著者の言葉のフランスの部分を日本に、チーズやワインを寿司や日本酒に言い換えても、意味は全く変わりません。フランスも日本も民主主義の土台が崩れ、国家の統治が進んでいるのです。忖度が当たり前に行われたり、答弁拒否が当たり前の国会を見ていると、もはや日本では民主主義が機能していないことがわかります。
これまで効率的で正しいとされてきた新自由主義的な経済政策が、人間の生命は守れませんし、いざとなれば結局その経済自体をストップすることでしか対応できないことが明らかになりました。グローバル化の進展が自国産業の維持を不要にするという類いの話は幻想でしたし、人間の生活を支える意味でも、そして経済的にもリスクが高いことがはっきりしたという著者の意見に共感を覚えました。そろそろ、日本人も目覚めた方がよさそうです。
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