パーパスを戦略に実装する方法の書評


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パーパスを戦略に実装する方法 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文
著者: トーマス W・マルナイト, アイビー・ブッシュ, チャールズ・ダナラジ
出版社:ダイヤモンド社

本書の要約

企業はパーパスを戦略の中心に置くことで、「組織の統合強化」「ステークホルダーの意欲増大」「社会的な影響拡大」のメリットを得られます。パーパス経営を取り入れることで、企業は顧客やパートナーとの良好な関係を築ける自走型の組織に変化し、成長を続けられるようになるのです。

パーパス経営の2つのルール

過去5年間にわたり年30%以上の成長を続ける、米国、欧州、インドの28社を調査したところ、市場創造やニーズ対応、競争ルールの変更といった3つの主要な戦略のほかに、思いもよらない第4のドライバーがあった。それが「パーパス」である。(トーマス W・マルナイト, アイビー・ブッシュ, チャールズ・ダナラジ)

スイスのローザンヌのIMDの教授のトーマス W・マルナイトらは、高成長企業に関する世界的な調査を始めました。著者たちは成長を牽引するとされる3つの戦略(新しい市場の創造、幅広いニーズへの対応、 ゲームのルールの変更)を調査した結果、この3つ以外のドライバーを見つけました。それが「パーパス」だったのです。

このブログでもMTP壮大な野望の重要性について、何度も紹介してきましたが、パーパス経営が正しいことを著者たちは明らかにしてくれました。パーパス経営を取り入れている企業の成長率は、他社を圧倒していたのです。 

パーパスは2つの重要な戦略的役割を担っています。
RULE1 活動領域の再定義を助けること。
RULE2 提供価値の再形成を可能にすること。

RULE1 活動領域の再定義
低成長企業→ある一つの分野で市場シェアを伸ばすための戦いにほとんどの時間を費す結果、成長ポテンシャルは限られます。激しい戦いが繰り広げられるのは低成長なマーケットのため、市場シェアの獲得に伴う犠牲は大きくなり、社員は疲弊します。製品・サービスがコモディティ化すると、利益や競争優位性が損なわれてしまいます。

高成長企業→現在の領域だけが活動範囲だとは考えず、エコシステム全体を考えます。業界が広がることで、さまざまなステークホルダーが関わり合いながら利害関係で結び付き、より多くのビジネスチャンスが生まれます。彼らはその際「パーパス」を道しるべにしています。

北米最大のネスレ・ピュリナ・ペットケアとグローバルリーダーのマース・ペットケアのパーパスを比較します。
●ピュリナのパーパス=「ペットとのよりよい暮らし」・・・ペットフード分野に焦点を合わせています。
●マースのパーパス=「ペットのためのよりよい世界」・・・ペットの健康に関わるもっと幅広い分野へ事業を拡大するために、パーパスを利用。

マース・ペットケアは、2007年にベンフィールド・ペット病院を買収して、ペットの健康分野に足場を築きました。2015年にブルーパール、2017年にVCAと、動物病院をさらに2つ買収、2018年には、欧州7力国で営業するスウェーデン企業のアニキュラ、英国のリンナエウスを買収し、欧州の動物病院市場にも進出しました。

このように大きなエコシステムの中で活動の幅を広げる際、マース・ペットケアは業界の急成長に乗っただけでなく、製品に留まらないサービスへと進路を変えました。成功を収めるには、まったく違うコアコンピタンスを築き、新しい組織構造を考え出さなければならないのです。

RULE2 提供価値の再形成
コモディティ化が急速に進む分野で利益率が落ちると、企業は製品やサービス、ビジネスモデルを革新して提供価値を強化します。これは一定の即効性があるものの、現分野での勝ち残りを目指した業務遂行型アプローチに過ぎません。

パーパス主導のアプローチは、新しいエコシステムにおける成長を促進するので、企業はミッションを拡大し、総合的な提供価値を生み出し、長きにわたるベネフィットを顧客に提供することができる。こうした方針転換は主に「トレンドに対応する」「信頼をベースにする」「悩みに焦点を当てる」という3つの方法で可能になる。

①トレンドに対応する
②信頼をベースにする
③悩みに焦点を当てる

マース・ペットケアは、さまざまな接点でペットオーナーとのつながりを強化し、彼らのペインを取り除いています。マースは2016年、ペットの活動をモニターし、居場所を追跡するコネクテッド首輪のメーカーの「ホイッスル」を買収しました。

このデバイスを使って傘下のバンフィールド動物病院と連携し、「ペット・インサイト・プロジェクト」をスタートさせたのです。機械学習、データサイエンス、獣医学の専門知識を組み合わせて、ペットの健康状態の変化がいつ、どんな行動からわかるのかを明らかにしています。

マースはペット市場の課題を発見し、トレンドをつかむこと、最新のテクノロジーを活用し、サービスを充実することで、飼い主やドクターとの信頼関係を築いています。マースはペット市場全体のことを考え、ペットとオーナーの幸せを実現するためのパーパスを設定することで、イノベーションを起こし続けています。

パーパスを設定し、実践する方法

■パーパスを設定する際の2つのアプローチ(遡及的アプローチ将来的アプローチ)
①遡及的アプローチ
企業の現在の存在理由に立脚した方法。過去を振り返り、組織的・文化的なDNAを体系化し、会社の歴史をよく理解する必要があります。

②将来的アプローチ
将来に目を向け、関心のあるもっと広いエコシステムを検討し、そこで影響力を発揮する可能性を評価していきます。将来について理解したうえで、そこに組織を適合させていきます。焦点を当てる先は社外であり、リーダーは、遡及型とは違う問いかけをしなければなりません。

パーパスを設定するために、以下の質問を繰り返し、未来から逆算し、パーパスを定義します。
・我々はどこへ行くことができるか?
・どのトレンドがビジネスに影響するか?
・どんなニーズや機会、課題がこの先に待っているか?
・我々が信じる将来的なチャンスを切り開くため、我が社はどんな役割を果たすことができるか?
この将来的アプローチは、特に新しいCEOにとって有用です。

説得力のあるパーパスは、会社が大切にするものを明確にし、行動への推進力をもたらし、かつ極めて意欲的なものである。

パーパスを戦略の中心に据えるにはどうすればよいのでしょうか?著者たちは以下の2つの方法が有効だといいます。
●リーダーの重要課題を変える
●組織全体にパーパスを行き渡らせる

2015年マース・ペットケアの2社長のボウル・バイラウフは、経営陣の構成や重点を大幅に変更しました。経営陣全体の新しい課題は、個々の事業の業績に留まらず、 事業間(たとえば、ペットフードとペットの健康)の「乗数効果」を生み出し、ペットのためのよりよい世界づくりへの貢献度を高めることにある、と宣言したのです。

その一環として2018年、マース・ペットケアは、ペットケア分野の革新的スタートアップ企業をサポートする2つのプログラムを新しく立ち上げました。マイケルソン・ファウンド・アニマルズとR/GAとの連携によるビジネスアクセラレーター、「リープ・ベンチャー・スタジオ」、およびデジタリス・ベンチャーズとの連携による1億ドルのベンチャーキャピタル基金、「コンパニオン・ファンド」をつくりました。

マースは「ペットケア分野のゲームのルールを変えようとする、すべての人に選ばれるパートナーになる」ことが願いであると公言しました。

パーパスを主軸に以下の3つの質問を繰り返すことで、結果を変えられます。
・我々はなぜこのビジネスをしているのか?
・どんな価値を生み出せるか?
・ポートフォリオ全体の中で、自部門はどんな役割を果たしているか?

企業はパーパスを戦略の中心に置くことで、「組織の統合強化」「ステークホルダーの意欲増大」「社会的な影響拡大」のメリットを得られます。パーパス経営を取り入れることで、企業は顧客やパートナーとの良好な関係を築ける自走型の組織に変化し、成長を続けられるようになるのです。

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