神田昌典氏のマーケティング・ジャーニー 変容する世界で稼ぎ続ける羅針盤の書評


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マーケティング・ジャーニー 変容する世界で稼ぎ続ける羅針盤
著者:神田昌典
出版社:日本経済新聞出版社

本書の要約

マーケティング・ジャーニーとは、「マーケッターの成長の道筋=新成長事業を作り上げるプロセスを図式化」したものです。経営者や社員がマーケティングスキルを高めることで、企業は成長できるようになります。顧客の痛みにフォーカスし、自社の強みを再定義しましょう。

マーケティングの3つのステージと8つのステップ

顧客は集まっても、利益が出ない。満足しない。リピートしない。つまり、事業モデルに、そもそも欠陥があったことが明らかになる。次に、利益が出始めると、さらに重要な問題が浮かび上がる。利益が出ても、苦情が入る。社員が辞める。トラブルが続く。つまり、リーダーシップが、そもそも足りなかったことに、否応なく気づかされるのだ。このように、経営者は、マーケティングを実践しながら、事業を成長させながら、同時に社会的な存在へとなっていくのである。(神田昌典)

神田昌典氏の新刊はマーケティング・ジャーニーをテーマにしたものです。マーケティング・ジャーニーとは、「マーケッターの成長の道筋=新成長事業を作り上げるプロセスを図式化」したものです。著者は、経営者には登るべきマーケティング・ピラミッド(3つの道筋)があると言います。このピラミッドは戦略・戦術・マネジメントの3つの階層からなり、経営者にはステージごとに解決しなければならない課題があると言うのです。このピラミッドを登ることで、経営者だけでなく、社員も成長できるようになります。

[第1ステージ(戦略)]収益をもたらすビジネスモデルを作る道筋
[第2ステージ(戦術)]顧客を創造するメッセージを作る道筋
[第3ステージ(マネジメント)]社会を形成するリーダーシップを作る道筋

「戦略」「戦術」、そして「マネジメント」の3ステージの中で、収益をもたらすビジネスモデルの探求が本書のテーマになっています。

ビジネスモデルを構築するまでの8つのステップ。
著者は成熟した事業のリニューアルにも、スタートアップにも有効な8つのステップを紹介します。
【市場】今まで不自由がなかった市場(環境)に変化が生じ、思ったように売れなくなった
【隙間】そこで、あなたは新しい隙間(もしくは新しい売り方)を探しに行かなければならなくなった
【顧客】顧客の心に深く触れることで、今まで自分が理解していなかった「痛み」や「喜び」が、世界にはあることを思い知らされる
【着想】今までの偏狭な思い込みを手放した途端、ひらめきが訪れる
【調整】さまざまな立場の人々に意見を求めながら、自らの提案を具体化していく
【経済】提案(プロジェクト)を推進するための、資金源を確保・設計する
【協力】応援してくれるメンバーを、プロジェクトに巻き込んでいく
【突破】各メンバーは、プロジェクトの推進を通して、自らの新しい才能・能力を発揮することで、望んでいた状況を実現していく

未来のあるべき姿から逆算することで、パラダイムシフトが可能になります。例えば、将来が不安な50代以上の経営者は若者やテックベンチャーなど、自分の未来を変えてくれるパートナーとビジネスを行うべきです。私の周りの成功者たちは、世代や業界の壁を気にせず、さっさと行動を起こします。未来から逆算し、自分たちに足りないものがあれば、デジタルネイティブ世代と組むことも嫌がりません。顧客の痛みを自分ごと化し、着想を変え、新たなチームを作ることで、売れる商品や仕組みを創造できるようになるのです。

特に、顧客の痛み(ペイン)を減らすことで、企業は成長できるようになります。アマゾンはAmazon Goによって、レジでの待ち時間をなくすことで、顧客の支持を得ています。テスラはWebで車を購入することを当たり前にすることで、ディーラーに行くという顧客の無駄な動きを無くしました。

若者と共に遊びながら考えることで、今まで見えてこなかった顧客の課題や解決策が見つかります。他者の視点を取り入れたり、デジタルシフトすることによって、顧客との関係が変わり、売れる商品が生み出せるようになるのです。

創業20年から企業は成長する?

著者は、企業の本格的成長は創業20年後から始まると言います。この説を信じれば、多くの中小企業経営者は、あきらめずにすみます。なぜ、創業20年目以降の会社が成長できるのでしょうか?
■創業20年を経てから本格的成長を果たした企業
①100円ショップ「ダイソー」を展開する大創産業
1972年に創業。創業20年の頃は直営店を出し始めたばかりで売上も小さかったのですが、そこから成長し、今や海外26力国で5000店を展開してます。売上高は4500億円に成長しました。
②ソフトバンク
実は創業20年の時点では、売上高4000億円程度しかありませんでした。当時は240億円の赤字で、その後、携帯キャリアへのシフトによって、ビジネスモデルの大転換を果たし、今は売上高9兆円超、営業利益は1兆円超のグローバル企業へ成長しました。
③アップル
創業20年後の1996年当時のアップルは、ウインドウズ95の勢いに押されに押され、IBMやキヤノンなどさまざまな企業に身売り交渉をしては決裂していました。

20年を細々とでも生きながらえた会社は、強みを生かせるビジネスモデルが明確になっている。社員も安定稼働しているし、その分野において一定の評価も得ていて、固定客も獲得している。小さくても事業の核と基盤が整っているのである。

スタートアップやベンチャーが、新規事業を立ち上げて、一から新規顧客を獲得することは、マーケティングコストがかかります。ある程度の顧客ベースを持っていることは、新規事業を立ち上げるときに、大きなアドバンテージとなります。 協力企業を募る上でも、見込み客がいるかいないかでは、協力度合いが違ってきます。大手企業やテックカンパニーの協力が得られれば、ビジネスモデルを転換できます。そこに未来を見据えたマーケティングとマネジメントシステムが加われば、継続的な成長が始まるのです。

成長したい中小企業経営者は、「これから本格的に成長する」という前向きな言葉である 「インパクトカンパニー」を使うべきです。自らをインパクトカンパニーと呼ぶことで、成長する会社であることを世の中に示せます。ネーミングを変え、ビジョンを発信することで、様々な若者やパートナーとのコラボを行えるだけでなく、顧客をファンにできるようになります。

顧客の痛みから、自社の事業を再定義する!

事業を続けてきたからこその「強い遺伝子」が、どの企業にもある。だが、空気のように当たり前になってしまっているから、その価値が自社では見えなくなっているのだ。「自社の中にある、他社が喉から手が出るほど欲しいものとは?」。その価値を改めて言語化し、マーケティング・ジャーニーに沿って、成長に向けた未来図を描けば、再び成長の可能性が見えてくるはずだ。

自社の強みを見つけ、その強みを徹底的に活用しましょう。社員やパートナーと共に自社の強みを再定義し、言語化しましょう。マーケティング・ジャーニーに沿って、成長に向けた自社の未来図を描くのです。

日本の製造業の現場は、ポテンシャルが高く、アジア各地の大学でAIを学んだ技術者の卵は、日本の製造業への就業を希望しているそうです。あらゆるモノがネットにつながるIoT時代には、製造現場でのデータが価値を生むと彼らは考えているのです。可能性のある未来から逆算すれば、成熟事業を手がけていた企業の多くは、想像以上の大きな価値を持っています。

自社のポジショニングを変え、顧客の痛みをなくすコマーシャルインサイトを見出すことで、中小企業はインパクトカンパニーに生まれ変われます。顧客の痛みに目を向ければ、自社の強みを発見でき、コマーシャルインサイトとして言語化できます。

日々寄せられる痛切なクレームだ。非常につらい思いをしているお客様の声に誠実に向き合うことで、自分たちがとらわれてきた過去のパラダイムを壊すことができる。今は時代の変わり目であり、すべての会社が顧客の痛みの声に耳を傾ける必要がある。もし聞こえていないのであれば、それは聞こえないのではなく、聞いていないのである。

人材紹介業のヒューレックスの松橋隆広氏は、顧客の痛みを知ったとき、専門外の結婚紹介業「マリッジパートナーズ」を立ち上げます。その結果、数年後には、全国の地方銀行100行以上と提携するほどに成長したのです。

松橋氏は、「結婚紹介業を始める」といったところ、地銀の頭取たちに笑われたそうです。しかし、取り組み始めた理由を聞くと、最初は笑っていた人も、真剣に耳を傾けるようになりました。松橋氏が結婚紹介業の必要性に気づいたのは、中小企業の経営者の懐に入って、彼らの痛みを真剣に聞いていたからです。

中小企業のオーナー経営者は会社の成長とは異なる、別の悩みを抱えていることが多かったのです。後継者がいない会社の将来は明るくありません。社員や銀行の融資担当も会社の将来性に対して疑問を持ちます。実は、オーナー系の会社が事業承継をするためには、後継者の配偶者探しがきわめて重要であることが明らかになったのです。

経産省の調査によれば、2025年の時点でリタイア期を迎える中小企業のうち、127万社が後継者未定だと言います。実に3社に1社が廃業のリスクにさらされているのです。松橋氏は後継者を見つけることで、日本全国の中小企業の再生、事業承継の課題を解決しようとしています。

本書には、顧客の痛みを減らす非常識の会社のアイデアがいくつも紹介されています。本書のマーケティングジャニーのフレームワークとケーススタディを読むことで、名も無い中小企業からインパクトカンパニーへのシフトが可能になります。

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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