リーダーシップ・マスター――世界最高峰のコーチ陣による31の教え
マーシャル・ゴールドスミス, P・アレックス・リンリー, ニッキー・ガルシア
英治出版
本書の要約
ハイポテンシャルが受け継ぐこの世界は危険と落とし穴に満ちていますが、可能性と将来性にも満ちています。優秀なコーチの役割は、ハイポテンシャルがこの世界を最善の状態で進むのを助けることです。リーダーが組織のハイポテンシャルにきちんとバトンタッチできれば、世の中をよりよくできるのです。
ハイポテンシャルの可能性を引き出す4Mモデル
ハイポテンシャル(高い潜在能力の持ち主たち)が将来、企業の幹部レベルとしてどのように、そしてどこまで成功できるかを決定すこのような中で自分がどういうタイプのハイポテンシャルなのかを知ることは、れから進む道において甑また自己開発においても役に立つだろう。(P・アレックス・リンリー, ニッキー・ガルシア)
リーダーシップ・マスター――世界最高峰のコーチ陣による31の教えの書評を続けます。今日は、応用ポジティブ心理学センター(CAPP)の創立者でコンサルタントのP・アレックス・リンリーとCAPPの公認心理学者のニッキー・ガルシアのハイポテンシャルへのコーチングについて考えてみたいと思います。
リンリーとガルシアの2人はハイポテンシャルを3つに分類します。
①ハードワイヤード・ハイポテンシャル
②ハードワーキング・ハイポテンシャル
③ハンブル・ハイポテンシャル
まずは、3つの特徴を理解しましょう。
①ハードワイヤード・ハイポテンシャル
エリート中のエリートの彼らは自分に貼られたラベルを名誉の印としています。組織から期待される彼らは絶えず重圧に晒されています。また、彼らは「フィクスト・マインドセット」によって成長を妨げられています。フィクスト・マインドセットは、知能の高さや学校の成績、早い時期での成功によって知らず知らずに形成されます。その結果、彼らは「自分はこの会社で最も頭のいい人間のひとりだ。だからあらゆることが自分には簡単にできるはずだ」という考え方をします。
フィクスト・マインドセットの持ち主にとって、自分はあらゆることを簡単にできるはずだから努力の必要はないと考えがちです。自分は失敗するはずはなく、ミスをするのは頭の悪い連中だけだという捉え方が、組織に悪影響を及ぼします。フィクスト・マインドセットを持つハードワイヤード・ハイポテンシャルは批判されたくないがために、失敗を恐れ、チャレンジをやめてしまうのです。こうした考えはハードワイヤード・ハイポテンシャルを次第に衰弱させていきます。
②ハードワーキング・ハイポテンシャル
ハードワーキング・ハイポテンシャルは、学習、変革、成長の経験が豊富にあります。これらには、挑戦、失望、トラウマ(心的外傷)が伴っていたはずです。過去の失敗体験や挑戦のすべては、彼らの成長へのマインドセットや成功へ向けての回復力を鍛える試練として利用されます。
ハードワーキング・ハイポテンシャルはこれまでずっと、学ぶこと、適応すること、 変革すること、そして向上することへの欲求のもとにいちずに努力をします。ハードワーキング・ハイポテンシャルはあらゆる挑戦をチャンスと捉え、未知のものを取り組むべき可能性として歓迎し、逆境を自分のさらなる変化、学習、成長のための踏み台として利用します。ハードワーキング・ハイポテンシャルは、自分の運命は生まれたときにすでに決まっていたわけではなく、人生は努力と学習によって形作られ、影響を受けるという信念を持っています。
③ハンブル・ハイポテンシャル
自分が特別であること、あるいは自分がこの立場にいることを心から訝しんでいるハイポテンシャル層が、ハンブル・ハイポテンシャルになります。彼らは、ある程度の自信はあるかもしれませんが、他と比べて自分がどのくらい特別なのかがわからないでいます。
彼らは自分の成功や業績を、環境や幸運、他人の努力、そして自分がたまたまいい時にいい場所にいたことによるものだと考えます。謙虚さも行き過ぎると自身の貢献度や重要性を見失う危険につながいます。自分のために主張すべき時はいつでも、謙虚さよりも意見をいうことを優先すべきです。
ただ、謙虚さが重要であることは間違いありません。著者の2人は高いパフォーマンスを実践するリーダーシップ・チームの「リアライズ2 チームプロフィール」の中で、チームの強さの特徴として謙虚さがあることをたびたび見てきたと言います。興味深いことに、高いパフォーマンスが見られないリーダーシップ・チームでは、謙虚さに出会うことはあまりないと言います。ジム・コリンズが指摘するように強いチームには、謙虚さが欠かせないのです。
ハードワイヤード・ハイポテンシャル、ハードワーキング・ハイポテンシャル、ハンブル・ハイポテンシャルにはそれぞれ異なる開発の必要性があります。 ただ、「強みアプローチ」は3つのカテゴリーに共通なもので、これを伸ばすことを考えるようにしましょう。
著者たちは「強み」をパフォーマンス、エネルギー、利用で構成されるものと定義しています。この3つはそれぞれの高低によって4種類の結合のタイプを示します。それを「リアライズ2 4Mモデル」の4分円で著者たちは説明します。
[1]高エネルギー、高パフォーマンス、高利用のケースは「実現された強み」
[2]高エネルギー、高パフォーマンス、低利用のケースは「実現されていない強み」
[3]低エネルギー、高パフォーマンス、利用状態が変動するケースは「学習行動」
[4]低エネルギー、低パフォーマンス、利用状態が変動するケースは「弱み」
これら4つー実現された強み、実現されていない強み、学習行動、弱みは「リアライズ2 4Mモデル」の4象限を構成します。
4つのMは以下の通りで、状況によって、4Mを使いこなすことで、結果を出せるようになります。
[1]実現された強みを整理する(Marshal)
あなたの置かれている状況に従ってそれらを適切に使う。
[2]学習行動を控えめにする(Moderate)
必要なときだけ控えめに使う。
[3]弱みを最小化する(Minimize)
できるだけ使わず、使うのは必要なときに限る。
[4]実現されていない強みを最大化する(Maximize)
使う機会を増やす。
パフォーマンスをアップさせる3S-Pモデル
①ハードワイヤード・ハイポテンシャル
強みの背景や強みと状況の間の動的な相互関係を理解すると、自分の内面はこれまで考えていたほど固定したものではないことがわかってきます。しなやかなマインドセットを考え方や態度も変わってきます。結果的に、そのパフォーマンス自体も変えることができます。
②ハードワーキング・ハイポテンシャル
「強み」と「学習行動」の違いを直感的に理解します。このグループは強みと学習行動を混同しています。彼らが、高いパフォーマンスとは、楽しんでやることによって得られる成果だと考え始めれば──やりたくないがやるとか、単にやらなければならないからやるというだけでなく──、彼らの物の見方やパフォーマンスはたちまち向上する可能性があります。
③ハンブル・ハイポテンシャル
自分が持っている「強み」をしっかりと認識し、受け入れ、強化することで自身の価値を理解し、「自分の成功は偽りではないか」という感情から解放されるようになります。自分の強みを言葉に表し、それらを統合する力を成長させるにつれ、真の自分を見出し、結果として自己認識や自信、パフォーマンスを高めていくことができるのです。
「リアライズ2 4Mモデル」の4象限が理解できたら、コーチは次のステップに進みます。
[1]「実現している強み」を整理し、それらを目標へ向けて整列させます
ハイポテンシャルは、自分の「強み」を使って、目標を達成できる可能性が強くなっています。
[2]「学習行動」は適切な使い方をし、使いすぎないよう注意します
「学習行動」は必要なときはすぐ呼び出せるようにしますが、濫用は慎むようにします。
[3]「弱み」がパフォーマンスにマイナスの影響を与えないよう、その最小化の方法を学びます。たとえば、強みを使うことで弱みを相殺する方法を見つける、協力あるいはチームという形で他の人々とともに仕事をする、あるいは弱みを克服する努力を「もう十分」と思えるまでやる、などの方法で弱みをカバーします。
[4]「実現していない強み」を最大化する
チャンスを見つけ、望みの達成に使えるようにします。「実現していない強み」は未開発の潜在能力の宝庫であると捉えることで、よりパフォーマンスをアップできます。
[5]上記のことを実行する。
1ヶ月後、3ヶ月後、あるいは6ヶ月後に見直しをはかります。強みは動的なので、状況は絶えず変化します。何が変化し、それに対してしなければならないことは何かを点検しましょう。
「強み」を実現し、「学習行動」をほどほどに抑え、「弱み」を最小限にすれば、常にベストな状態で仕事ができるようになる。ハイポテンシャルのコーチングでは、「強み」は、個人・組織・環境トライアングルの3つの斧のひとつに過ぎないということを認識しなければならない。
ハイポテンシャルの3つの斧
■強み(strength)
■戦略(strategy:組織の方向性)
■状況(situation:周囲の事情)
著者たちとローレンス・ライアンズとアンナ・ベイトソンは、ハイポテンシャルのために、「3S-Pモデル」を開発します。
●3S-Pモデル──強み、戦略、状況の交差点でのパフォーマンス
前後関係(状況)と方向性(戦略)を伴わない強みは道楽に過ぎません。周囲への意識(状況)と、戦略を実行する能力(強み)を伴わない戦略はただの空想です。旅の方向性(戦略)とそこへ向かう手段(強み)を伴わない状況知識は単なる壁紙──周囲で進行していくドラマの背景──でしかないのです。
この3つの要素が交わるとき、その交差点ではパフォーマンスを行うのに必要な土台と十分な能力を見出すことができます。3S-Pモデルを定義すると以下のようになります。
ハイポテンシャルコーチングは、この3つの領域を考慮して組み立てられていると言います。
1、強みに対する質問
・あなたは目標達成のためにどんな「強み」を使うことができますか?
・あなたの「強み」は組織の中でどのように受け止められていますか?
・設定の上げ下げに必要な「強み」はありますか?
2、戦略に対する質問
・あなたは何を達成しようとしていますか? またそれはなぜですか?
・あなたが目標に到達するのを助ける(あるいは妨げる)主な要因は何ですか?
・あなたが達成しようとしていることが組織にとっていいことである理由は何ですか? そのことによってあなたは組織の使命や目的の達成にどのように貢献しますか?
3、状況
・あなたが現在置かれている状況はどのようなもので、それはあなたにどのような影響を及ぼしていますか?
・世界的に変化しつつあることの中で、あなたが行おうとしていることに影響するものは何ですか?
・あなたの強みと戦略と状況は調和していますか?もししていないとしたら、 あなたには何ができますか?
コーチングのセッションが「強み」「戦略」「状況」のより深い理解と動的な統合のプロセスを進むのに伴って、より複雑でより統合された観点が浮かび上がり、ハイポテンシャルのパフォーマンスに必要なことが明らかになってきます。
土台のひとつめは、人は自分の「強み」をもとに仕事しているときは常に良い仕事をするということだ。ふたつめは、レバンの原理にあるように、個人および組織における学習の進度は常に周囲の変化の進度を上まわるか、あるいは少なくとも同じでなければならないということである。3つめは、強み、戦略、状況の絶えず変化する交差点を最大化することによって、変化してやまないこの世界で彼らが成功するのに必要なパフォーマンスを私たちは手助けできるということだ。
ハイポテンシャルが受け継ぐこの世界は危険と落とし穴に満ちていますが、可能性と将来性にも満ちています。優秀なコーチの役割は、ハイポテンシャルがこの世界を最善の状態で進むのを助けることです。組織の次世代ヘハイポテンシャルにきちんとバトンタッチできれば、世の中をよりよくできるのです。
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