ドーパミン中毒
アンナ・レンブケ
新潮社
本書の要約
SNSやアルコール依存症から抜け出すためには、現実の世界から逃げ出すのをやめ、今ここに没入することが重要になります。本当にやりたいことに時間を使い、集中することでドーパミン中毒から抜け出せます。徹底的な正直さは自覚をもたらし、親密な関係性を作ることで、私たちは癒やしを得られます。
脳内麻薬のドーパミンが依存症を引き起こす?
「依存症」は広義には、ある物質や行動(ギャンブル、ゲーム、セックス)を自分自身や他者を害するのにもかかわらず、継続的かつ衝動的に摂取したり行ってしまうことと定義される。(アンナ・レンブケ)
現代はSNSやスマートフォンなどの誘惑が多く、これにより「脳内麻薬」が分泌され、やがては中毒症状に陥ることがあります。なぜ人はSNSやスマホ、ゲームなどから離れられなくなるのでしょうか?
その鍵を握るのが「脳内麻薬」とも呼ばれる脳内化学物質の「ドーパミン」です。スタンフォード大学の医学部 教授で依存症医学の第一人者のアンナ・レンブケが、この依存のメカニズムを本書でわかりやすく解き明かします。
消費することこそが私たちの生きる動機の全てとなってしまったこの世界で、衝動的に何かを過剰摂取してしまうことをどうやったらやめられるのかが本書のテーマになります。著者は多くの現代人が悩む依存症を克服する方法を教えてくれます。
依存症に苦しむ人は世界中で増加しています。アルコールと違法薬物の依存症による疾病負荷は世界では1.5%、アメリカではおおよそ5%以上あります。驚くべきことに、これらのデータに喫煙は含まれていません。アメリカでは違法薬物依存が主で、ロシアと東欧ではアルコール依存が多いと言います。
依存症で亡くなる人の数は1990年から2017年までで、世界中の全ての年齢集団で増加しています。しかも50歳以下の若い人たちの死が半分以上を占めています。
長期的かつ大量にドラッグを使用していると、快楽と苦痛のシーソーは最終的に苦痛の側に偏るようになる。快楽を感じる能力が下がり、苦痛の感じやすさが上がるよううに支点の位置が変化してしまうのだ。
依存症を克服するためには、過剰摂取してきた快楽を「断つ」ことが重要です。脳内シーソーの快楽の側を軽くするのです。実際、アメリカでは禁酒法の時代にアルコール依存症が減少しています。現代ではドラッグが手に入りやすくなったことで、麻薬中毒者が激増しています。依存症の患者が「快楽を断つ」ための自己抑制としては、物理的に接近しないようにすべきです。
依存症患者が真実を話すことの重要性
充分に長く待てば、脳は(通常は)ドラッグがもう来ないことに再適応し、元のホメオスタシスを取り戻すことができる。シーソーが水平に戻るのである。水平になれば再び、日常のシンプルな報酬に喜びを感じられるようになる。散歩に出る喜び。日の出を見る喜び。友達との食事の楽しみ。それらに気付けるようになる。
脳に対するアルコールの作用について世界に知られる専門家であるエディ・サリバンは、依存症からの回復のプロセスを研究しています。サリバンによると依存症により引き起こされた脳の変化は取り戻せないものもありますが、新しい神経ネットワークを形成することによってダメージを迂回することができると指摘します。
脳は永久的に変化してしまっても、新しいニューロンのつながりを作ることで、健康的に振る舞えるようになれるのです。私は15年前に断酒をスタートし、それ以来一滴もお酒を飲んでいませんが、お酒や飲み仲間から距離を置くことで、アルコール依存から脱却できました。
自分と自分がハマっているものの間に具体的な壁を作ることによって、欲望と行動との間で私たちは一時停止ボタンを押せるようになります。 私は飲酒との壁をつくること、アルコールを家からすべて捨て、飲み仲間と会うことをやめたのです。このセルフ・バインディングによって、断酒に成功し、自分の人生を変えることができました。
「断つ」ことがホメオスタシスを回復させるためには欠かせない。「断つ」ことによって、小さな報酬から喜びを得る能力やドラッグ使用と感じ方の間の真の因果関係を見る能力が回復する。
セルフ・バインディングの戦略は大きく3つに分けられます。
①物理的戦略(空間)
自分自身とハマっているものとの間に物理的に障壁を作り、近づけなくします。
②時系列戦略(時間)
摂取するのを一日、一週間、一月、一年のうち、決まった時間だけに制限します。未来の自分をイメージし、自分を変えることを決めることで、自分をコントロールできます。私も断酒する際、10年後の自分が断酒に成功し、生まれ変わっている姿をイメージしました。
③ジャンル戦略(意味)
ドーパミンを種類ごとに分けることによって摂取量を制限します。こういうタイプのものは使っていい、こういうタイプのものはダメ、というように区別し。ハマっているものそのものを避けるようにします。
この3つのセルバインディング戦略によって、依存症への衝動を抑えられ、再び自由に生きられるようになります。
冷水浴などの苦痛も依存症の克服に効果があることがわかっています。小さな苦痛が大きな痛みである依存症を抑えてくれるのです。
正直であることは自覚を促し、満足のいく人間関係を作らせ、確かな自分史を語る責任を持たせ、報酬を遅らせる能力を高める。私は患者たちからそのことを教わった。そしてそれは、依存症を将来発症することを防ぐことさえもできるのかもしれない。
依存症の人は自分の実態を隠すために、ウソをつきがちですが、治療中に真実を語れるようになります。ウソをやめ、真実を語ることが脳を変化させ、快楽と苦痛のシーソーのバランスや衝動的な過剰摂取を促す精神過程をより自分に意識させることになります。結果、私たちは正しい行動を選択し、アルコールや薬物をやめられるようになります。
徹底的な正直さは自覚をもたらし、親密な関係性を作り、「充分状態のマインドセット」を私たちの心に育んでくれます。現実の世界から逃げ出すのをやめ、今ここに没入することが重要です。本当にやりたいことに時間を使い、集中することで、癒やしを得られ、ドーパミン中毒から抜け出せます。
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