自分を変える方法――いやでも体が動いてしまうとてつもなく強力な行動科学
ケイティ・ミルクマン
ダイヤモンド社
本書の要約
目先の楽しみを求める欲求に抗うのではなく、欲求を味方につけることで、私たちは自分の行動を変えられます。意志力で誘惑から逃れようとするのではなく、よい行動をいますぐ楽しめるように変える方法を考えるのです。誘惑バンドルやゲーミフィケーションを取り入れることで、私たちは目標を達成できるようになります。
現在バイアスを乗り越える方法
いますぐ満足感が得られる誘惑を、遠い先に得られるもっと大きな見返りよりも優先してしまうこの傾向を、経済学者は「現在バイアス」と呼ぶ。(ケイティ・ミルクマン)
ケイティ・ミルクマンの自分を変える方法――いやでも体が動いてしまうとてつもなく強力な行動科学の書評ブログを続けます。ダニエル・カールマンは 未来にある喜びよりも、目の前にある喜びを優先してしまう現象を現在バイアスと名付けました。この現在バイアスによって、私たちはやるべきことを先延ばしし、自分の未来を暗くしています。この現在バイアスを乗り越えるために、私たちは何をすればよいのでしょうか?
行動変容への取り組み方に関する調査で、回答者の3分の2以上が、短期的な苦痛のことは考えずに、長期的に得られそうな利益だけを考えることが多いと答えました。目標追求そのものを楽しくしようとすると答えた人は、わずか26%でした。
多くの研究が示すように、私たちは自分の衝動や欲求を抑えるのは簡単だと過信しています。1回ごとの利用料金を払うほうが結局は安くつくのに、高いジムの会員になってしまったり、修了できそうにないオンライン講座に登録しても多くの人が結果を出せずにいます。人は何度失敗しても「次はできる」と考えてしまう生き物なのです。
新年や誕生日などの節目の日を変わり目の日に設定し、新たなアクションをすることで自分の習慣を変えることができます。このフレッシュスタート効果によって、私たちは今までとは異なる「別人」になれると著者は指摘します。成功するためには、フレッシュスタートだけではダメで、同時に現在バイスを意識することが求められます。
フレッシュスタートは、困難な目標に取り組み始めるきっかけとしてはとても役に立つ。だが「現在バイアス」やその他の障害を計算に入れなければ、目標を賢く追求できないかもしれないのだ。
心理学者のアイエレット・フィッシュバックとケイトリン・ウーリーは、「意志力を過信するのをやめれば、困難な目標にもっとうまく取り組める」という仮説を立てました。薬にひとさじの砂糖を足すように、長期目標をめざす取り組みを、短期的にもっと楽しくすることに目を向ければ、成功率はずっと高まるはずだと考えたのです。
アイエレットとケイトリンの2人は、ある実験で参加者にもっと健康的な食品を食べるよう促し、別の実験ではもっと運動するよう勧めました。ただしこれらの実験では、(ランダムに選ばれた)一部の参加者に、いちばん楽しめそうな食品や運動を選ぶよう勧め、残りの参加者にはいちばんためになりそうなものを選んでもらいました。結果、健康的な活動に楽しさを求めるよう促すことが、ずっとよい結果に結びつくことがわかりました。楽しさを求めた人たちは運動がより長続きし、より多くの健康食品を食べたのです。
「誘惑バンドル」戦略が現在バイアスに効果的な理由
私たちは自分の自制心や、困難なことをやり抜く力を過信してしまう。 大人は子どもに比べれば、楽しみを後回しにできる神経回路が発達しているが、本的な性質は子どもと変わらない。ただそのことに気づいていないのだ。
大好きなネットフリックスの番組をイッキ見していいのは、洗濯物畳みや、料理、皿洗いなどの家事をするときだけにするなど、目先の苦痛な作業と楽しいことを組み合わせることで、結果を出せるようになることを著者は発見します。この苦痛と楽しみを組み合わせる戦略を著者は「誘惑抱き合わせ(バンドル)」と名づけ、いつでもどこでも活用しています。
著者たちはオーディブルと24アワー・フィットネスの協力を得て、運動量を増やしたいと思っている数千人のジム会員に、新しい1か月間のプログラムを提供しました。プログラム参加者の一部はただ運動を増やすようにと促され(対照群)、残りの参加者はオーディオブックの無料ダウンロードを提供され、誘惑バンドルについての説明を受け、オーディオブックの楽しみを運動のときだけに取っておく方法を試すよう勧められました。
結果、オーディオブックを無料でダウンロードでき、誘惑バンドルの説明を受けた参加者は、1か月にわたるプログラムの間、毎週1度以上ジムに通う確率が対照群に比べて7ポイントも高かったのです。また介入終了後、少なくとも17週間は、毎週運動をする確率が高い状態が持続しました。誘惑バンドルが行動変容をもたらすことが明らかになったのです。
フロリダの高校で行われた最近の研究では、有益だが気が進まない活動に誘惑をバンドルすれば、やるべきだとわかっているその活動を長期的に持続できるだけでなく、 短期的にもやる気を高められることがわかりました。生徒は難しい数学のドリルを解いている間だけスナックや音楽、カラーペンを楽しむことを許されると、注意散漫を心配する教師をよそに、より多くの課題をやり遂げました。誘惑バンドルが効果を発揮すると、困難な目標を手強いと感じなくなり、おまけにこれまで無駄にしていた時間まで減らすことができるようになったのです。
私も毎朝この書評ブログを書いていますが、当初はそれを苦痛だと感じていました。試しに朝のカフェラテとブログを組み合わせてみるとブログが苦ではなくなったのです。
行動変容への最も厄介な障害は、やるべきだとわかっていることをやるときの、目先の苦痛と面倒だ。だから野心的な目標をめざすときはたいてい、誘惑に抗いながら 行動することになる。
目先の楽しみを求める欲求に抗うのではなく、欲求を味方につけることで、私たちは自分の行動を変えられます。意志力で誘惑から逃れようとするのではなく、よい行動をいますぐ楽しめるように変える方法を考えるのです。誘惑バンドルやゲーミフィケーションを取り入れることで、私たちは目標を達成できるようになります。
コメント