ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか (冨山和彦)の書評

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ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか
冨山和彦
NHK出版新書

ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか (冨山和彦)の要約

日本の付加価値労働生産性は先進国の中でも極めて低い水準にありますが、それは大きな成長機会を意味します。この状況を改善するには、国と企業が一体となって制度、規制、慣行を見直し、生産性向上を阻害する要因を取り除く必要があります。この改革は、賃金上昇とGDP成長につながる重要な成長戦略となります。

ホワイトカラーが消滅する未来とは?

今まで社会の中心を占めていた「ホワイトカラーサラリーマン階級」が崩壊しようとしていることと、明治以来、一貫して増加してきた人口(若年層先行型)がいよいよ減少フェーズに入ったことである。 (冨山和彦)

日本は現在、戦後の経済成長を支えてきた「ホワイトカラーサラリーマン階級」の崩壊と、明治以来続いてきた人口増加トレンドの終焉という、二つの重大な構造変化に直面しています。 この状況は、明治維新期における士族の失業と産業化による社会変革に匹敵する歴史的な転換点です。

特徴的なのは、少子高齢化によるローカル産業での人手不足と、デジタル化によるグローバル産業でのホワイトカラー人材の余剰が、同時に進行している点です。 この課題を放置すれば、ローカル産業の衰退による生活サービスの質の低下と、グローバル産業の競争力喪失による経済的従属という、深刻な事態を招く可能性があります。これは避けては通れない現実であり、日本社会全体での早急な対応が求められています。

生成AIの急速な発展とDXの進展により、日本の雇用構造は大きな岐路に立たされています。特に、従来型のホワイトカラー労働に大きな変化が訪れており、その影響は企業の競争力と従業員の生活に深刻な影響を及ぼしつつあります。 グローバル企業においては、DXによる生産性向上が進む中、ホワイトカラー人材の余剰が顕在化しています。

企業が従来型の雇用維持を優先し、過剰な人員を抱え続けることは、2つの深刻な問題を引き起こします。一つは人件費負担の増大による収益性の悪化、もう一つはDX投資の遅れによる競争力の低下です。 この状況は、グローバル市場における日本企業の地位を脅かしています。過剰な人件費負担とDXの遅れは、企業の収益力を低下させ、結果として日本全体の経済力の衰退につながりかねません。

実際に、景気後退期でもないにもかかわらず、大手企業を中心に40代以上の中高年層を対象とした人員削減が常態化しつつあります。 一方、ローカル経済では対照的な問題が発生しています。深刻な人手不足に直面しているにもかかわらず、賃金上昇は極めて緩やかなものにとどまっています。この状況下で物価上昇が加速すれば、労働者の実質所得は低下し、生活水準の維持が困難になる可能性があります。

特に懸念されるのは、グローバル経済とローカル経済の格差拡大です。グローバル企業でのリストラ対象となった中高年層が、ローカル経済の人手不足を補完できれば理想的ですが、スキルのミスマッチや賃金水準の違いにより、円滑な労働移動は進んでいません。

日本の産業構造と働き方が大きな転換点を迎えている中、冨山和彦氏は従来型のホワイトカラー労働に依存した経済モデルからの脱却を提言しています。 現状分析として、日本は「停滞なる安定」を選択し、デフレ経済に安住してきましたが、人口動態の変化により、このモデルはもはや持続不可能な状況に直面しています。長期的なスタグフレーションを回避するために、産業構造の抜本的な改革が必要とされています。

物価上昇が続く中でローカル経済の賃金が停滞すれば、必要不可欠なサービスを提供する事業者の持続可能性も危うくなります。これは地域社会の基盤を揺るがす深刻な問題となる可能性があります。

日本経済の課題として長年指摘されている付加価値労働生産性の低さは、実は大きな可能性を秘めているち著者は指摘します。先進国の中でも特に低い水準にあるからこそ、ここに着目した改革は、賃金水準の向上やGDPの成長に直結する大きな潜在力を持っています。

付加価値労働生産性の向上は、経済政策における最重要課題として位置づけられるべきです。現状では、様々な制度的な制約や古い慣行が、生産性向上の足かせとなっています。これらを特定し、改革していくことが、日本経済の成長戦略において不可欠となります。

企業経営においても、付加価値労働生産性を重視した経営革新が求められています。従来の売上高や市場シェアといった指標に過度に依存するのではなく、一人当たりの付加価値創出額を重要な経営指標として位置づける必要があります。これは単なる効率化ではなく、より高い価値を生み出す事業モデルへの転換を意味します。

この改革を実現するためには、国と民間企業が一体となった取り組みが必要です。政府は規制改革や制度の見直しを通じて、生産性向上を阻害する要因を取り除く必要があります。特に、デジタル化の推進や柔軟な働き方の導入を妨げる規制の撤廃は急務となっています。

一方、企業側も従来の慣行や業務プロセスを抜本的に見直す必要があります。不必要な会議や形式的な報告書作成といった、付加価値を生まない業務の削減、デジタル技術の積極的な活用、そして何より、従業員一人ひとりが高い付加価値を生み出せる環境づくりが重要です。

さらに、産業構造の転換も視野に入れる必要があります。低生産性部門から高生産性部門への労働移動を促進し、より高い付加価値を生み出せる産業への投資を増やすことで、経済全体の生産性向上を図ることができます。

アドバンスト・エッセンシャルワーカーが日本に必要な理由

グローバル企業のホワイトカラーからローカル企業のエッセンシャルワーカー、ノンデスクワーカーへのシフトを進めなければ、グローバル企業の人余りとローカル企業の人手不足を整合的に解決することはできない。ところが、労働移動が達成されても、移った先のローカル産業の付加価値労働生産性が低いままでは、いつまで経っても問題は解決しない。移りやすくするためにも、ローカル経済の付加価値労働生産性を上げておかないと、辻褄が合わなくなる。

日本の労働市場が大きな転換期を迎える中、新たな中間層の形成に向けた具体的な方向性が見えてきています。その鍵を握るのが「アドバンスト・エッセンシャルワーカー」という新しい職業概念です。

この概念は、従来のエッセンシャルワーカーを「高度化」「進化」させた存在を指します。医師やパイロットのように、高度な専門性と技能を持ちながら、現場で実践的な価値を生み出す職種がその代表例となります。 このアプローチは、2つの社会課題を同時に解決する可能性を秘めています。

一つは、デジタル化によって余剰となるホワイトカラー人材の受け皿作ること、もう一つはローカル産業における人手不足の解消です。 特に重要なのは、ローカル産業における付加価値労働生産性の向上です。現場の技能職や専門職は、適切な教育投資とデジタル技術の活用により、現在の2倍から3倍の生産性向上が可能とされています。これにより、賃金水準の引き上げも実現可能となります。

この変革を支えるのが、充実した技能教育とリスキリングの仕組みです。ただし、真のリスキリングとは、単なる技術の習得ではありません。それは、リベラルアーツの基礎の上に、新たな職業技能を積み重ねていく過程を指します。時には古いスキルを「アンラーン」し、新しいスキルを「ラーン」する謙虚さも求められます。

また、地域の特性を活かした発展モデルの構築も重要です。観光業、農業、漁業、食文化など、各地域の強みをテクノロジーと融合させることで、国際競争力のある産業へと発展させることが可能です。

日本の産業競争力の真髄は、複雑な仕事を集団で確実に遂行する能力にあります。この特徴は、古くからの農業や伝統工芸から、明治期の工業化、そして現代の製造業まで一貫して見られる強みです。

しかし、注目すべきは、この強みは単なる製造業や大量生産の能力ではありません。それは「複雑性」を扱う現場力であり、この本質を見誤ってはなりません。人口減少時代においては、大規模工場による大量雇用型の製造業モデルは徐々に重要性を失っていきます。

これからの日本に求められるのは、規模の大小にかかわらず、複雑性が高く持続的な付加価値を生み出せる産業です。その中で特に注目されるのが観光ツーリズム産業です。観光産業は、交通、農林水産業、社会インフラなど、広範な産業との連携が必要となる複合的な分野です。

さらに、自然、文化、食事など多様な要素の複雑な組み合わせが求められ、デジタルとリアルの融合という新たな課題への対応も必要となります。 日本は世界クラスの観光資源を持ち、複雑なオペレーションを確実に実行できる能力があります。

この強みを活かし、高付加価値のビジネスモデルを確立できれば、観光ツーリズム産業は日本の新たな基幹産業となる可能性を秘めています。500万人を超える雇用規模を持つ基幹産業として成長できる潜在力を有しているのです。

この変革には、個人の意識改革も不可欠です。自身の能力を正しく認識し、何が実践的な価値を生み出せるのかを見極める必要があります。現場を見下ろすのではなく、謙虚に学ぶ姿勢があってこそ、新たな職場での活躍が可能となります。

日本は今、人手不足という逆説的な優位性を活かし、新たな分厚い中間層を形成できる位置にいます。その実現には、教育システムの改革、デジタルトランスフォーメーションの推進、そして何より、現場の技能や専門性を高度化させる明確なビジョンが必要です。

そのためには、従来の学術研究中心のアカデミックスクールから、実践的な職業教育を重視するプロフェッショナルスクールへの移行が求められており、この変革は学部から大学院まで及ぶ包括的なものとなっています。

特に注目すべきは、従来のグローバル(G)型大学偏重からローカル(L)型大学重視への転換です。一見すると、この動きは国際競争力の低下につながるように思えるかもしれません。しかし、世界最高峰とされるハーバードやスタンフォードのビジネススクールも、実質的にはプロフェッショナルスクールであり、この定義に従えば最高峰のL型大学と位置づけられると著者は指摘します。

この新しい教育モデルの実践例として、私が特任教授をしている情報経営イノベーション専門職大学(iU)の取り組みが本書で紹介されています。iUでは、起業家養成に特化したプログラムを展開し、グローバルとローカルの両面で活躍できる事業創造人材の育成に力を入れています。

職業大学モデルの重要性は、その実践的な教育アプローチにあります。理論と実践を融合させた教育により、即戦力となる専門人材を育成することが可能となります。これは、観光業や農業といったローカル産業にも新たなイノベーションをもたらす原動力となります。

また、このような教育モデルは、地域経済の活性化にも直接的な効果をもたらします。専門的な知識と実践力を備えたプロフェッショナル人材が増えることで、各地域の特性を活かした産業イノベーションが促進されます。これは、ローカル経済の競争力強化につながり、結果として日本全体の経済力向上に貢献します。

この変革は、単なる労働市場の調整ではなく、日本社会全体の持続可能性を高める重要な取り組みとなります。アドバンスト・エッセンシャルワーカーの育成と活躍の場の創出は、まさに次世代の日本経済を支える基盤となるのです。

・シン「学問のす、め」教育システムを ローカル才能、グローバル才能それぞれに可能性をフル追求できる
・国も企業も付加価値労働生産性向上の一本勝負!
・アドバンスト現場人材の時代、シン「分厚い中間層」づくりを急げ など、著者は本書で日本を変革するための20の提言を行っています。詳細は本書で確認してもらいたいですが、今の日本を課題を解決するためには、そのどれもが欠かせません。

最強Appleフレームワーク


 

 

 

 

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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