インビジブル・インフルエンス 決断させる力(ジョーナ・バーガー)の書評

hands formed together with red heart paint
インビジブル・インフルエンス 決断させる力
ジョーナ・バーガー
東洋館出版社

本書の要約

他者からの良い影響(インビジブル・インフルエンス)を活用し、自分の目標や価値観に合った人々と交流することで、自分自身の成長や発展を促すことができます。また、ポジティブな影響を与える人々と関わることで、モチベーションや自己信頼感を高めることができるようになり、豊かな人生を送れるようになります。

人の行動を左右する社会的ファシリテーションとは何か?

私たちの決断は、99.9%までが他人によって方向づけられており、 むしろ他人の影響を受 けない意思決定や行動を見つけるほうがむずかしい。(ジョーナ・バーガー)

ペンシルベニア大学ウォートン校の人気教授のジョーナ・バーガーは、私たちのほとんどの選択が他人によって形成されていると指摘しています。

私たちは、自分が主体的に選択をしていると感じることが多いですが、実際は他人の行動や意見が大きく影響を与えています。バーガー教授によれば、その影響はなんと99.9%にも及ぶというのです。

私たちが他人から影響を受ける背景には、効率と時間節約があります。例えば、友人が特定の商品を購入して満足していると知れば、私たちはその商品を安心して購入する傾向があります。 

この他人からの微妙な影響力を「インビジブル・インフルエンス」と呼びます。私たちは意識しない内に、他人の行動や選択に影響を受け、自分自身の行動や選択をしているのです。  これは「まねが生み出す同調の力」とも言えます。私たちは、無意識のうちに他人に影響を受け、同じような行動を取ろうとする傾向があるのです。これが集団内で拡大すると、社会的な規範や流行が形成されます。 

また、他人が近くにいるだけで、パフォーマンスに変化が起きることがわかっています。近くに誰かがいることで、人はうまく物事を運べたり、失敗を犯します。

ある実験では、大学生たちに、ひとつの単語を見せてから、それに関連した単語を思いつくかぎりたくさん書き出させました。また別の実験では、学生たちにある文章の一節を読ませ、それにできるだけたくさん反論を書いてもらうという作業をおこないました。

どちらのケースでも、グループで(まわりに人のいる環境で、作業は個別に)行った時のほうがパフォーマンスがよく、よりたくさんの単語を書きだし、より多くの反論を書くことができました。

この現象は、〝社会的ファシリテーション〟と呼ばれるもので、他人の存在が、ひとりのときよりも速く、よいパフォーマンスにつながったり、失敗につがります。

学校や職場などの集団環境にいることで、他人の存在が個人のモチベーションや能力向上に寄与することがあります。例えば、クラスメートや同僚が一緒に勉強や仕事をすることで、刺激を受けたり、アイデアを共有したりすることができます。これにより、個人の成長やパフォーマンス向上につながるのです。

一方、縦列駐車など注意を払うことを人前でやると多くの人が失敗を犯します。私たちは他人からよく見られたいという気持ちがあることで、ついつい頑張ってしまいます。他人の存在によって心理的な興奮が高まり、失敗してしまうのです。

社会的ファシリテーションとは、他人の存在によって行動やパフォーマンスが促進または抑制される現象のことを指します。この現象は、さまざまな理由から起こることがあります。

これらの要因は、私たちが既に習慣化していることや自然と行えることにおいて、より良い結果を生み出す手助けをしてくれます。例えば、ランニングマシンの上を走るような簡単な運動や、何度も繰り返し行ったエクササイズなどは、自信を持って取り組むことができるため、より良いパフォーマンスを発揮することができます。

しかし、より難しい課題や注意を要することに取り組む場合には、先ほど述べた要因がパフォーマンスを抑制することもあります。自己評価や他人の評価によるプレッシャーがかかる場合、緊張や不安が生じ、思うように行動できないこともあります。

社会的ファシリテーションを上手に活用することで、私たちは理想の自分に近づけます。社会的ファシリテーションは、個人が最高のパフォーマンスを発揮するために役立つだけでなく、成功の確率を高める手助けにもなるのです。

例えば、ハーフマラソンのトレーニングや数キロのダイエットでも、仲間がいれば成功度が上がります。仲間がいることは、物事にしっかり取り組むための有用なツールとなるのです。 多くの人々が週に2、3回運動したいと思っていますが、仕事や家族、生活の忙しさが邪魔をすることがあります。しかし、誰かが待っているとなると、練習を休むことは難しくなります。

友達とジムで午後6時半に会う約束をしていれば、それだけで継続する確率が高まります。仲間は、努力を続けるための動機づけにもなります。一人だけだと、気が緩みがちになってしまいます。何かを続けようと決めても、最初の数回で諦めてしまうことがありますが、誰かが一緒にいれば簡単にはやめられなくなります。

私たちは周りに誰かがいることで、力を発揮できるのです。 また、競争心がある場合は、仲間がいることでより一層努力を引き出すことができます。仲間との競争は、自分自身を高めるための刺激になります。

社会的ファシリテーションは節電にも効果あり!

社会的ファシリテーションは世の中を変える力も持っています。アメリカで家庭で節電させるための最良の方法を調査したところ、環境保護、節約、省エネを訴えるメッセージをどれも効果がありませんでした。 しかし、4つ目のメッセージによって、多くの人が節電を行えました。

このメッセージは単純に社会的規範を強調したものでした。つまり、その地域に住む他の人々が何をしているのかを伝えたのです。調査によると、お住まいの地域では77%の住民が夏の間、エアコンをやめて扇風機を使用していることがわかったというメッセージを届けたのです。驚くべきことに「お宅でもエアコンを切って、扇風機を使いましょう」と呼びかけることで、人々はアクションを起こしたのです。このメッセージを受け取った家庭の電力使用量はかなり減少しました。さらに、このメッセージが最後に届けられてから数週間経っても節電は続いていました。

単純に近所の人々がみんな節電をしていると伝えただけで、それを受け取った人々も節電を始めたのです。 この結果からわかるように、社会的な影響や他の人々の行動を知ることは、節電の促進に非常に効果的です。私たちは一人ひとりが環境に配慮し、節約や省エネの活動に取り組むことが大切ですが、他の人々と協力して行動することも同じくらい重要です。

電力情報を発信するオーパワー(Opower)は、社会的に比較に基づき、自分に似た人のデータを各家庭に送ることで、電力消費を減らすことに成功します。オーパワーでは節電情報に、電化製品の買い替えや、電源のオン・オフ、テレビの設定の調整といった、消費者ごとにカスタマイズした省エネ対策のアドバイスを組み合わせて提供しました。

このオーパワーのプログラムによって、人々の電力消費は約2%減少しました。消費者ひとりだけなら、たいした減少ではないが、国全体で考えるとそのインパクトは絶大です。オーパワーのプログラムは、サービスの開始以来6テラワット時以上の節電につながっていると言います。それは、アラスカとハワイの全世帯、人口にすれば210万人の人々が一年間電気の使用を完全にやめた場合に相当します。

しかし、オーパワーは、単にエネルギーの消費を減らしただけではありませんでした。同社はまた二酸化炭素の排出量の削減にも貢献したのです。そうして削減した二酸化炭素の量を累積して考えると、その影響力の大きさは、フットボール場2万4000個分のアメリカの森林を救うこと、もしくはシカゴの街から一年間車を全部取り除くことに相当します。

オーパワーのプログラムは、エネルギーの効率的な利用を促進するだけでなく、環境問題にも大きな貢献をしています。その成果は数値で示すことができ、国や地域の持続可能な発展に向けた一歩となっています。今後もオーパワーのようなプログラムが普及し、より多くの人々が省エネ対策に取り組むことで、地球環境の保護に貢献していくことが期待されます。

良い人からのインフルエンスを徹底的に活用しよう!

住む場所は、私たちの人生がどんなふうに展開していくかに大きな影響を及ぼすのである。

アメリカの貧困層の引越しをサポートする「ムーヴィング・トゥ・オポチュニティ」プログラムによって、貧困層を抜け出せる人が増えました。貧困層の少ない地域へ移住したことにより、大人だけでなく、子どもも健康と生活状態の両面が大きく改善していたのだ。

このプログラムは、貧困層の家族に低所得地域から高所得地域への移住を支援するものであり、その効果は非常に顕著でした。 このプログラムによる移住の結果、子どもの犯罪の被害に遭う確率は35%も減少し、けがや喘息の発作も減少しました。さらに、女子のマリファナ使用や窃盗による逮捕も減少しました。これにより、子供たちはより安全で健康な環境で成長することができたのです。

また、大人の健康も改善しました。肥満率が減少し、心理的な苦痛やうつ病の発症率も低下したのです。さらに、糖尿病の発症率も薬を投与した場合と同じくらい減少しました。これらの改善は、貧困の少ない地域での生活が健康に与える影響の一部を示しています。

このプログラムの最も著しい効果は、経済面に大きく現れました。貧困の少ない地域に移住した子供たちは、大学進学率が高く、将来の収入も高い仕事にけるようになったのです。彼らは成人後も良い地域で生活し、ひとり親になる割合も低かったと言います。

追跡調査によれば、このプログラムに参加した子供たちは、同じ地域に留まった子供たちと比べて年間収入が33%も多くなったのです。 このように、「ムーヴィング・トゥ・オポチュニティ」プログラムは、貧困からの脱出と健康な生活環境の提供に大いに貢献しています。

近隣効果とは、住んでいる地域の環境や人々によって影響を受けることを指します。例えば、生活環境が整っている地域では、生鮮食品が豊富に手に入り、健康的な食事が摂れることができます。また、教育環境が充実している地域では、生徒ひとりに対する教師の数が多く、教育の質が向上します。コミュニティセンターが充実している地域では、子どもたちは安全に遊ぶことができ、健康的な成長を促す環境が整っています。

しかし、近隣効果の中でも重要な要素は、まわりにいる人々です。私たちは日々、他人に囲まれて暮らしています。となりに住む子供たちや職場の同僚、プールでとなりのレーンを泳ぐ人など、私たちの周りにはさまざまな人々がいます。 これらの人々がどのような生活を送っているかは、私たち自身の生活にも影響を与えます。

例えば、スポーツをしている人々に囲まれていると、自分もスポーツに興味を持ち、健康的な生活を送ることができるでしょう。一方、ドラッグをやっている人々に囲まれていると、自分もその影響を受けてしまう可能性があります。

私たちには、自分がどんな影響を与えるかを選択することもできる。社会的影響力には行動に与える大きな力がある。しかし、それがどのようにはたらくかを理解することができれば、その力を味方につけることができるのだ。社会的影響力の負の側面を避けて、その利点を利用すればよい。

自分をポジティブにさせる対人的な交流を充実させることで、私たちは成功し、他人の力を借りてより賢明な判断をすることができます。社会的影響力は、どのような場面で有益に働くのかを理解していれば、その力に逆らうべき時や受け入れるべき時を判断することができます。

また、社会的影響力の働き方に対する洞察を得ることで、自分自身の人生と他の人々の人生を向上させることができます。影響力は道具であり、そのように扱うべきです。 対人的な交流は、私たちが他者と関わり合い、コミュニケーションを取ることです。

その中で、私たちは他者からの影響を受けるだけでなく、自分自身も影響を与える存在です。このような対人的な関係を充実させることは、私たちの人生において非常に重要です。

この社会的インフルエンスの力を理解すれば、受身ではなく積極的に利用することができます。社会的影響力を味方につけて、環境をデザインし、他者の行動を真似することで、自分の世界をよりよくすることができるのです。

例えば、自分の目標や価値観に合った人々と交流することで、自分自身の成長や発展を促すことができます。また、ポジティブな影響を与える人々と関わることで、モチベーションや自己信頼感を高めることもできるでしょう。さらに、社会的影響力を利用して、自分の意見やアイデアを広めることで、周囲の人々に影響を与えることも可能です。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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