勇気論 (内田樹)の書評

man walking beside graffiti wall

勇気論
内田樹
光文社

勇気論 (内田樹)の要約

勇気の本質は孤立を恐れず、自分の信念を貫くことです。周囲の反対に屈せず、正しいと思うことを堂々と主張する強さが必要です。社会変革は、私たち一人一人の小さな行動から始まります。自分の意見を表明し、建設的な対話を通じて社会をより良くする。こうした小さな勇気ある行動の積み重ねが、大きな変革をもたらします。

現代日本時に足りていない勇気とは何か?

勇気というのは孤立を恐れないということだと思います。自分が「正しい」と思ったことは、周りが「違う」と言っても譲らない。自分が「やるべき」だと思ったことは、周りが「やめろ」と言っても止めない。(内田樹)

本書は、現代日本社会において見過ごされがちな「勇気」というテーマに正面から向き合った意欲作です。内田樹氏は「いまの日本人に一番足りないものは勇気じゃないだろうか?」とX(旧Twitter)で問いかけます。この問いに触発された編集者の古谷俊勝氏が内田氏と対話を重ねていきます。その往復書簡形式でのやり取りによって本書は、構成されています

内田氏は思想家として知られていますが、本書では難解な理論に終始することなく、孔子やスティーブ・ジョブズなどの先人の言葉や日常生活に根ざした具体例を交えながら「勇気」について考察を深めていきます。

現代社会における勇気の必要性や、それが欠如している原因、そして勇気を持つことの意義などが、読者にも分かりやすい形で展開されています。 特に印象的なのは、内田氏が勇気を単なる個人的な資質としてではなく、社会全体の問題として捉えている点です。

現代社会において勇気の価値が後退している理由について、著者は興味深い考察を展開しています。 まず、『少年ジャンプ』に代表される物語の基本概念「友情・努力・勝利」を例に挙げ、友情と勇気の関係性に焦点を当てています。友情は理解と共感に基づくものであり、周囲からの支援を得やすい環境を作り出します。

一方で勇気は、そうした理解や支援がない状況下で何かを始める際に必要とされる資質です。このため、友情を重視する世界観では、孤立を恐れない勇気ある個人の存在が軽視されがちだと著者は指摘します。

内田氏はさらに、スティーブ・ジョブズの有名なスタンフォードでのスピーチを引用し、「心と直感に従う勇気」の重要性を強調しています。

最も重要なのはあなたの心と直感に従う勇気です。
And most important, have the courage to follow your heart and intuition.

心と直感はあなたがほんとうは何になりたいかをなぜか知っているからです。
They somehow already know what you truly want to become. (スティーブ・ジョブズ)

ジョブズが単に「従うこと」ではなく「従う勇気」と表現したのは、学生たちが自身の心と直感に従おうとする際に、周囲の大人たちからの反対に直面するからだと解釈しています。

著者は、新しいことを始める際に周囲の理解や共感を求めすぎないことの重要性を説いています。これは、イノベーティブなアイデアや行動が往々にして既存の枠組みや常識と衝突するためです。

また、論理的思考と勇気の関係性についても言及しています。ある前提から導き出される結論が、たとえ常識や直感に反するものであっても、それを最後まで追究し受け入れる姿勢こそが論理的思考の本質だと主張しています。つまり、論理的に思考するためには、予想外の結論や社会通念と対立する可能性のある考えに向き合う勇気が必要不可欠だと論じています。

日本社会における「合理的」な資源配分システムの導入が、皮肉にも国全体の生産性低下とイノベーション停滞を招いているという指摘は、現代の日本が直面する深刻な課題を浮き彫りにしています。

「客観的な格付けに基づく資源の傾斜配分」という仕組みは、一見すると効率的で公平な方法に思えます。しかし、この仕組みの導入以降、日本の全セクターで生産性が低下し続けている現状は、この方法の限界と弊害を示唆しています。 特に懸念されるのは、イノベーションの停滞です。

マスメディアや大学など、創造性や新しいアイデアが重要視される分野においても、「いずれ大化けするかもしれない」という可能性を秘めた研究や計画には予算が配分されづらくなっています。代わりに、「投資分を迅速かつ確実に回収できる」というエビデンスを示せるプロジェクトのみが支援を受けるようになっています。

しかし、こうした「確実性」を重視する姿勢は、革新的なアイデアや破壊的イノベーションの芽を摘んでしまう危険性があります。なぜなら、真にイノベーティブなアイデアは、しばしば既存の枠組みや評価基準では測れない価値を持っているからです。 「投資分を迅速かつ確実に回収できる」というエビデンスを示せるということは、言い換えれば「絶対に大化けしない」ことを保証しているようなものです。

これは、リスクを避けつつ短期的な成果を求める風潮を助長し、長期的視点に立った挑戦的な取り組みを阻害しています。 結果として、日本社会は過去の成功例を縮小再生産する「せこい」自己模倣の循環に陥っています。新しい価値を生み出すことよりも、既存の価値を維持することに注力するあまり、社会全体の活力が失われつつあるのです。

この状況を打破するためには、リスクを恐れず新しいアイデアに投資する勇気、そして失敗を許容し、そこから学ぶ姿勢が必要不可欠です。また、短期的な成果だけでなく、長期的な視点で価値を評価する新たな基準の確立も求められるでしょう。 日本社会が再び活力を取り戻し、グローバル競争の中で存在感を発揮するためには、この「合理的」とされてきた仕組みを根本から見直し、真のイノベーションを促進する環境づくりが急務となっています。

イノベーションや個人の成長、そして社会の進歩のためには、この「勇気」という要素が極めて重要であることを強調しているのです。

日本人の勇気を取り戻し、日本を元気にする方法

統治コストの安い国というのは、新しいことが始まらない国です。だって、「みんな多数派」なんですから。「新しいこと」がそこから生まれるはずがない。定義上「新しいこと」というのは未知で、異形のものです。

若い世代の勇気のなさを責める風潮がありますが、その前に社会の力ある大人たちの態度を見直す必要があると著者は言います。 多くの場合、若者に向けられる「非力なのだから屈辱感を味わって当然だ」という意地悪な態度こそが問題の根源です。政治家が若い記者を知識が足りないと虐めたり、上司が若い部下にネガティブな態度を示すなど枚挙にいとまがありません。

このような態度は、社会の上層部にいる人々のマナーの欠如を示しています。 意地悪をする人々には、ある特徴があります。それは大声で、はっきりと、決まり文句を口にすることです。彼らは既成のスローガンを叫んだり、耳障りな定型句を繰り返したりして、相手を精神的に追い詰めようとします。

対照的に、自分の内面を深く見つめ、繊細な思考や感情の動きに注意を払う人が、同時に意地悪であることは考えにくいです。静かな声で、適切な言葉を慎重に選びながら自分の思いを伝える人が、相手を脅かしたり、弱みを突いたり、屈辱感を与えたりすることは、極めて困難です。

意地悪な人々の特徴は、相手に反論の機会を与えないように一方的に話し続けることです。彼らは「かさにかかって」くるのです。つまり、相手を圧倒し、思考停止に追い込もうとします。 このような行動の背後には、恐怖を与えて支配しようとする意図があります。彼らの言葉は、「ライオンに狙われているシマウマの気持ち」を想起させ、声の大きな人間に従わせるために政治的に選択されています。

社会の中で真の対話を促進し、若い世代の声に耳を傾けるためには、このような意地悪な態度を改め、互いの考えを尊重し合う環境を作ることが重要です。そうすることで、若者たちも自信を持って自分の意見を表明できたり、イノベーションを起こせるようになります。

バブル崩壊後の日本社会の現状を鋭く分析しながら、私たち一人ひとりが勇気を持つことの重要性を説いています。 本書は、現代日本人が直面している様々な課題に対して、「勇気」という視点から新たな光を当てています。それは単に個人の生き方だけでなく、社会の在り方そのものを問い直す契機にもなるのです。

現代日本社会における同調圧力の問題は、確かに深刻な課題として捉えられています。法的には市民の自由が保障されているにもかかわらず、1930年代の日本と変わらないような同調圧力が機能しているという著者の指摘は、非常に興味深い視点です。 この状況は、ある意味で1930年代よりも強い同調圧力が存在していることを示唆しています。

なぜなら、法的根拠や政府機関による直接的な処罰がないにもかかわらず、人々は処罰されることへの恐怖を感じているからです。これは、社会の中に深く根付いた暗黙の圧力が、法律以上に人々の行動を縛っていることを示しています。

現代の日本では、政権政党の失政や非論理的な行動に対して、国民からの批判や反発が少ないという現状があります。これは、多くの人々が「目立つことを嫌う」傾向や、「おかしい」と感じても声を上げないという態度に起因しています。かつては、自分の信念のために孤立を覚悟して発言する人々が多くいましたが、そのような勇気ある個人の数が激減し、政治家や企業の暴走を止められずにいます。

「みんなが『これ、おかしい』と言い出したら、その時は唱和するけれど、少数派である間は黙っている」のが「賢い生き方」だと国民の過半は信じている。そんな国からはもう何1つ「新しいこと」は生まれません。この四半世紀、日本がひたすら国力が衰微しているのは、そのせいです。

このような状況が続けば、日本は徐々に衰退し、東アジアにおいて「後進国」として扱われるようになる可能性があります。もしこれが国民の総意であるならば、それは尊重されるべきかもしれません。しかし、このような状況を放っておくことは大人の義務を放棄することになります。

日本が再び活力を取り戻し、若い世代が希望と興奮を感じられる社会を作り上げることは可能です。そのためには、個人が自分の意見を表明する勇気を持ち、建設的な批判や新しいアイデアを恐れずに提案する文化を育てていく必要があると著者は言います。

同調圧力に屈することなく、自分の信念を貫く勇気を持つことは、決して容易なことではありません。しかし、そのような勇気ある行動こそが、社会を変革し、日本に新たな活力をもたらす原動力となるのです。

若い世代に、かつての日本が持っていたわくわくした気分を再び経験させるためには、私たち一人一人が変化の担い手となる必要があります。自分の意見を表明し、建設的な対話を通じて社会を良い方向に導いていく。そのような小さな勇気の積み重ねが、やがて大きな変革につながるのです。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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