QUEST「質問」の哲学――「究極の知性」と「勇敢な思考」をもたらす(エルケ・ヴィス)の書評

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QUEST「質問」の哲学――「究極の知性」と「勇敢な思考」をもたらす
エルケ・ヴィス
ダイヤモンド社

QUEST「質問」の哲学(エルケ・ヴィス)の要約

エルケ・ヴィスの『QUEST「質問」の哲学』は、良い質問を「他者とつながり、問い続けるための招待状」として捉える実践哲学書です。問いは答えを得る手段ではなく、共に考えるための道具であり、ソクラテスの姿勢に学びながら、私たちに深い対話と柔軟な思考の在り方を教えてくれます。

人間関係を豊かにする良い質問とはなにか?

哲学的思索とは、質問し、答えを探ることで、自分の知らないことを知ろうとする試みのことである。それは、私たちを豊かで賢い人間にしてくれる。 (エルケ・ヴィス)

「問い」は、日常を変えるトリガーです。 たったひとつの質問が、会話を変え、人間関係を変え、そして思考の質までも変えていきます。 エルケ・ヴィス著QUEST「質問」の哲学――「究極の知性」と「勇敢な思考」をもたらすは、そんな“問いの可能性”にスポットを当てた、極めて実践的で学びの多い一冊です。

ヴィスは、質問に対するほんの少しの思考のシフトによって、日常の見え方や人との関係性は劇的に変わると言います。彼女は、哲学を暮らしの中で役立つ「思考のツール」として届ける、国際的に評価された「実践哲学」のベストセラー作家です。

本書は、オランダで発売されてからわずか10週間で3万部を突破し、いまや世界16ヵ国で翻訳され、26万部を超えるベストセラーとなっています。この事実自体が、「質問」という行為がいま世界中で求められているスキルであることを証明しています。

情報があふれ、誰もが「答え」を持っているように振る舞う時代において、あえて「問い直す」ことの価値が見直されています。著者のヴィスが伝えたいのは、あらゆる答えを知ることではなく、「知らない」という状態を受け入れ、それでもなお知ろうとする態度こそが、本物の知性につながることというソクラテスの姿勢を身につけることです。

現代社会では、誰かと話していても、つい「聞く」よりも「語る」ことが優先されがちです。だからこそ、問いかける技術、そしてそれを支える哲学的な姿勢が、いま求められているのだと本書は教えてくれます。 著者のヴィスは、私たちが質問を避けてしまう背景にある心理的なメカニズムと社会的な文脈を丁寧に読み解いていきます。

無知をさらけ出すことへの恐れ、自分の間違いを他人に知られたくないという防衛反応、「間違った質問」をしてしまうことへの不安、さらには質問の仕方自体を学ぶ機会がなかったという教育の空白——こうした複雑な要因が、私たちの「問いかける力」を奪ってきたのだと語ります。

本書の最大の魅力は、そうした障壁を一つひとつ丁寧に取り除きながら、「良い質問とは何か」を読者とともに探っていくその構成にあります。

著者は、良い質問とは、「他者とつながり、問い続けるための招待状」であると定義します。

私たちは、自分の意見を押しつけようとするのではなく、相手に注意を向け、話に耳を傾け、理解するための方法を見つけなければならない。そのために必要になるのは、深い理解につながる適切な質問だ。それがないと、創造性や想像力、批判的に考える能力が失われてしまう。質問の焦点を絞ることで、私たちはこれらのスキルを身につけ、効果的かつ繊細な方法で、豊かで、自由で、複雑な会話ができるようになる。

それは、相手に思考の余白を与え、言葉を紡がせ、価値観を明らかにする機会になります。重要なのは、「質問」は答えを得るためだけの道具ではなく、共に思考するための「関係性の設計」であるという点です。

一方で、ヴィスは「避けるべき質問」の類型についても非常に鋭く指摘しています。相手を試すような「ルーザークエスチョン(敗者の質問)」、反論を含んだ「でもクエスチョン」、複数の意図を混ぜた「カクテルクエスチョン」、曖昧な問い、根拠のない二者択一など、私たちが無意識に使ってしまいがちな意味のない質問を明示し、それらを回避する思考法と技術を教えてくれます。

ソクラテス的な姿勢で質問を重ねよう!

アジャイル・パースペクティブとは、自分の意見にとらわれることなく、他人の視点を探り、調査すること。自分の感情はいったん手放し、できるだけ心を白紙の状態にして、明確かつ冷静に問題を探っていく。自分の意見が浮かんだら批判的に問い、自分の考えには思っている以上に幅があることを見つけ出すのだ。

著者は「アジャイル・パースペクティブ」というコンセプトを紹介しています。これは、自分の意見に固執するのではなく、一度思考を白紙に戻し、相手の視点や思考の流れに柔軟に乗っていく力を指します。この視点の切り替えこそが、現代に求められる“知的しなやかさ”であり、ヴィスはそれを「問い」によって鍛える方法を提案しています。

本書の素晴らしさは、その思想が徹底して現場主義であるところにも現れています。ビジネスの会議、家族とのすれ違い、友人との何気ない会話、あるいは初対面の相手との一瞬のやりとりに至るまで——どんな場面でも「良い質問」は空気を変え、人間関係の質をぐっと高めてくれるのです。

私たちは時として、波長の合わないまま会話を続けてしまうことがあります。たとえば、あなたが丁寧に投げかけた質問を相手がきちんと聞かず、思いついた話を勝手に始めてしまう——そんな経験、きっと誰しもあるのではないでしょうか?

そして気づけば、自分自身もその話に引き込まれて、最初に投げた質問の存在さえ忘れてしまっているのです。その結果、会話は関連性のあるやりとりではなく、それぞれの思いつきや断片的なエピソードをつなぎ合わせた「かたちだけの対話」へと変わってしまいます。

こうしたときこそ、会話の構造を意識することが大切です。ここで有効なのが、「上向きと下向きの質問」というテクニックです。まずは具体的な事実や出来事を明らかにする「下向きの質問」から入り、そこから背景にある概念や価値観、信念体系を探る抽象度の高い「上向きの質問」へと展開し、さらに「下向きの質問」を繰り返します。このピロセスを意識することで、相手の思考をより深く引き出し、対話の質を格段に高めることができます。

また、相手の返答が的を外していると感じた場合でも、上から目線で指摘するのではなく、同じ質問を静かにもう一度繰り返すだけで、自然に会話の軌道修正が可能です。

さらに、会話を明確に掘り下げたい場合には、まず「はい」か「いいえ」で答えられるクローズド・クエスチョンを投げかけ、その後に理由や背景を尋ねることで、より深い理解が得られます。

もうひとつ重要なポイントとして、「なぜ」という問い方には注意が必要です。「なぜ」と尋ねることで、相手を追い詰めたり、防御的な態度を引き出してしまうことがあります。そのため、「なぜ~なのか?」という問いを、「何が~につながったのか?」「どのような理由で~と感じたのか?」といった「何」を使った質問に言い換えることが推奨されます。こうすることで、より自然で安心感のある対話が可能になります。

加えて、「エコー・クエスチョン」という技法も非常に効果的です。これは、相手の言葉をそのまま繰り返す質問で、新たな意味を加えたり言い換えたりせず、相手の思考を尊重する姿勢を示すものです。相手に「話をきちんと聞いてもらえている」という感覚を与え、対話の流れを自然に保つことができます。 

本書が私たちに教えてくれるのは、知性とは「答えを持つこと」ではなく、「問い続けること」に宿るという点です。 答えに飛びつくのではなく、問いを深めること。確信よりも好奇心を、判断よりも探究を優先する姿勢を、私たちは学ぶことができます。 そこにこそ、未来の会話が生まれていくのです。

ソクラテス的な態度とは、「確実に知っている」 と思っていることを、「まったく確信がもてな い」という状態になるまで疑うことだ。

ソクラテス式対話は、現代でも注目されている思考法です。問いを投げかけ、相手の意見を深掘りすることで、単なる知識ではない「深い理解」にたどり着くことができます。 とくにビジネスや教育の場では、対話力の重要性が高まっており、「問い続ける力」は今後ますます求められるスキルとなるでしょう。

そして、忘れてはならないのは、対話の相手が「話しやすい誰か」とは限らないということです。 自分にあまり関心を示さない人、考え方がかけ離れているように感じる人、あるいは好きになれそうにない相手と対話を始めるのは、勇気のいることかもしれません。 しかし、そうした相手とソクラテス的な姿勢で問いを交わすことで、思いがけない発見や、視点の再構築が起こることがあります。

うまくいかなくても、失うものはほとんどありません。それでも、得られるものは予想以上に多いかもしれません。相手に真摯な関心を持つということは、相手にとっても、そして自分にとっても、価値ある贈り物になります。今日の社会が必要としているのは、「自分が正しく、相手が間違っている」と説得するための会話ではありません。むしろ「ともにより賢くなるための会話」です。

相手に理解される前に、理解しようとすること。そのために、問いという道具をもっと大切に使っていきたいと感じさせられます。 良い会話は、良い質問から始まります。良い質問は、好奇心と不思議の感覚、そして「もっと知りたい」という純粋な気持ちから生まれます。それは、私たちの古くからの知的な友人――ソクラテスが体現していた姿勢そのものです。

問いの力を信じ、耳を澄まし、丁寧に向き合うことで、私たちは今より少しだけ自由に、少しだけ賢くなれるのです。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
株式会社INFRECT取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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