コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略の書評

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コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略
フィリップ・コトラー,ヘルマワン・カルタジャヤ,イワン・セティアワン
朝日新聞出版

本書の要約

マーケターは最新のテクノロジーを組み合わせることで、今までは実現できなかった最適な提案を顧客にできるようになります。マーケットが複雑化し、スピーディに変化する中で、テクノロジーを活用し、顧客体験をアップさせることがマーケターの重要な仕事になっています。

マーケティング5.0とは何か?

マーケティング5.0とは、人間を模倣した技術を使って、カスタマー・ジャーニーの全行程で価値を生み出し、伝え、提供し、高めることだ。(フィリップ・コトラー)

アメリカで話題になっていた”Marketing 5.0: Technology for Humanity”の翻訳本がリリースされました。この10年のデジタルの進展で、マーケティングの景色も以前とは全く変わっています。

コトラーは今回、世代間ギャップ、富の二極化、デジタル・ディバイドという3つの大きな課題を背景に、「マーケティング5.0」というコンセプトを提示しました。このマーケティング5.0とは、ビッグデータやAIといったテクノロジーを積極的に活用し、顧客体験価値(UX)を高める多様なマーケティング活動です。

健康寿命の伸長により、顧客の世代が多様化しています。態度や選好や行動が大きく異なる5つの世代が存在していますが、マーケターはそれぞれの世代を意識し、マーケティングをきめ細かく考えなければなりません。

また、マーケターは市場の二極化への対応も求められます。高収入の仕事を持つ上流層は増加しており、贅沢品やブランド品のマケットが拡大する一方、中間層が消滅する中、比較的収入の少ないマス市場も巨大化しています。企業は生き残るために、顧客の定義を上流層か下流層のどちらかに置かざるを得なくなっています。  

マーケティング5.0とは、人間を模倣した技術を使って、カスタマー・ジャーニーの全行程で価値を生み出し、伝え、提供し、高めることだ。マーケティング5.0の重要なテーマの一つが、マーケターの能力を模倣することをめざす一群のテクノロジー、いわゆるネクスト・テクノロジーである。

AI、NLP、センサー、ロボティクス、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、IoT、ブロックチェーンなどのネクスト・テクノロジーを組み合わせることが、マーケティング5.0のイネーブラー〈実現を可能にする要因〉になるのです。

デジタル化が進展する中で、デジタルが得意な分野と人間が得意な分野が明確に分かれています。カスタマー・ジャーニーの中で、マシンと人間はそれぞれどこに適していて、どこで最大の価値を提供できるかを明らかにすべきです。マーケティング5.0では、テクノロジーと人間のそれぞれの良さを活かすことが重要になるのです。

マーケティング5.0では「人間性」だけでなく、「SDGs」も意識されるべきです。環境対策や再生エネルギーを活用する企業が顧客から支持を受けるはずですから、エコであるという企業姿勢を明らかにする必要があります。特にZ世代に対しては、ブランド価値を低下させないために、エコであることが必須になります。顧客から愛される企業になるために、人だけでなく、環境にも思いやりを持つようにすべきです。

顧客体験をアップさせる5つのマーケティング

最新のテクノロジーを活用することで、以下の施策が実現できるようになります。
①データドリブンマーケティング(Data Driven Marketing)
ユーザーの属性や行動履歴などのデータに基づいてマーケティングを実施することで、施策の精度を高められます。

②プレディクティブマーケティング(Predictive Marketing)
生活者の行動と企業活動の相関性から効果的な施策を予測できます。

③コンテクスチュアルマーケティング(Contextual Marketing)
WEB上のコンテクストを読み取ることで、より効果のある広告が配信可能、

④オーグメンティッドマーケティングAugmented Marketing
人間能力を拡張させるテクノロジーによって、顧客に対応するマーケターの生産性を向上できます。

⑤アジャイルマーケティング(Agile Marketing)
ユーザーの反応やデータに応じて、小規模な施策をスピーディに実施する方法。

規律1 データドリブン・マーケティング  

マーケティング5.0の1つ目の規律は、「あらゆる決定が十分なデータに基づいて行われなければならない」である。

データドリブン・マーケティングとは、企業内外のさまざまな情報源からビッグデータを集めて分析するとともに、マーケティング決定を促進し、最適化するためにデータエコシステム〈企業内部のさまざまなデータを外部のデータと掛け合わせ、新たなビジネスモデル、収益モデルを創出すべく形成されるステークホルダーの集合体〉を構築する活動になります。

規律2 アジャイル・マーケティング

絶えず変化している市場に対処する組織の俊敏性が、マーケティング5.0の実行を確実に成功させるために習得しなければならない2つ目の規律になる。

アジャイル・マーケティングとは、分散型、部署横断型のチームを使って、製品やマーケティング・キャンペーンのコンセプトづくり、設計、開発、検証を迅速に行うことを言います。

アプリケーション1 予測マーケティング
予測マーケティングは、機械学習機能を備えた予測分析ツールを構築、使用するなどして、マーケティング活動の結果を開始前に予測するプロセスになります。企業は市場がどのように反応するかを予測し、先手を打って市場に働きかけることができるようになります。

アプリケーション2 コンテクスチュアル・マーケティング
コンテクスチュアル・マーケティングは、顧客を識別し、プロファイリングした上で、物理的空間でセンサーやデジタル・インターフエースを活用して、顧客にパーソナライズされたインタラクションを提供する活動になります。マーケターは顧客の状況に応じて、リアルタイムでワン・トゥ・ワン・マーケティングを行えるようになります。

アプリケーション3 拡張マーケティング
拡張マーケティングは、顧客に対応するマーケターの生産性を向上させるために、チャットボットやバーチャル店員など、人間を模倣した技術を利用することを言います。マーケターはデジタル・インターフェースのスピードと利便性を人間中心のタッチポイントの温かみや共感と合体させることができます。

マーケティング5.0を応用する企業は、最初からデータドリブンでなければならない。データエコシステムを構築することは、マーケティング5.0を実行するための必要条件だ。これによってマーケターは、予測マーケティングを行って、あらゆるマーケティング投資の予想利益を推定することができる。また、売場で一人ひとりの顧客にパーソナライズされたコンテクスチュアル・マーケティングを提供することもできる。最後に、現場のマーケターは拡張マーケティングの利用によって、顧客とのシームレスなインターフェースを設計することができる。これらすべての実行要素は、市場の変化にリアルタイムで対応するために企業としての俊敏性が求められる。

マーケターはこれらの最新のテクノロジーを組み合わせることで、今までは実現できなかった最適な提案を顧客にできるようになります。マーケットが複雑化し、スピーディに変化する中で、テクノロジーを活用し、顧客体験をアップさせることがマーケターの重要な仕事になっています。


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