お金と銭
中野善壽
ディスカヴァー・トゥエンティワン
お金と銭(中野善壽)要約
中野善壽氏の著書『お金と銭』は、お金の扱い方に人生哲学を重ね、「たくさん稼ぎ、善く使う」ことの大切さを説く一冊です。お金は単なる手段ではなく、自分の価値観や人間性を映す鏡であり、使い方次第で徳にも不徳にもなります。感情と密接に結びついたお金の流れを整え、未来のため、人との縁のために使うこと。それが運を呼び込み、豊かな人生をつくる道だと著者は語ります。
徳を積むお金の使い方が人生を豊かにしてくれる!
特に大きなお金を突然失ったりすると、たいていの人は動揺します。 私はほとんど動じません。 生きている限り、なんらかの策はありますし、 お金の先に存在する相手に対して、しっかり向き合えば、 必ずなんらかの解決策は見つけられるものです。(中野善壽)
私たちの暮らしにおいて「お金」は不可欠な存在であると同時に、その扱い方には人間性や価値観が色濃く表れます。中野善壽氏による著書お金と銭は、単なるマネー本ではありません。本書は、長年にわたって第一線の経営に携わってきた著者の実体験に基づき、「お金に好かれる人間になるための考え方と習慣」を論理的かつ哲学的に紐解いています。
中野氏は伊勢丹を経て、1972年に婦人服専門店・鈴屋へ転社、代表取締役専務に就任。その後も寺田倉庫の代表取締役社長兼CEO、さらにはACAO SPA & RESORTのCEOなどを歴任し、国内外で40年以上にわたる経営キャリアを築いてきました。
そうした豊富な経験を背景に、経済的成功と精神的充実の両立を目指すための知見が、本書には余すことなく詰め込まれています。
本書が強調するのは、お金の扱いにおいてもっとも大切なのは「稼ぎ方」や「貯め方」ではなく、「使い方」と「心の持ち方」である、という視点です。そして、それは「運を意識して生きる」こととも密接に関係しています。
物事がうまく進んだときには「運が良かった」と感謝し、反対にうまくいかなかったときにも「運が悪かった」と冷静に受け止める。このように運の存在を前向きに受け入れる人は、自然と運を呼び込む行動に意識が向くようになるのです。
①銭と欲がつながっていることを意識する
②善く使えばお金になり、徳を積み、そして運を呼ぶ
③貸したお金はすべて忘れる
④財布はお金がやすらぐ家
⑤買って感謝を伝える
⑥期待と未来にお金を使う
⑦簿記と感性の両輪を磨く
過去の栄光や他人の成功例にとらわれず、SNSに溢れる比較の渦から距離を取り、透明な心で目の前の現実に向き合う。そうした感受性が、やがて新たな発想や良縁を引き寄せ、人生を豊かにしていく土壌になります。
著者は、どれほど大きなお金を失っても、動じることがないと語ります。生きている限り、必ず策はある。お金の先にいる「人」と誠実に向き合えば、解決策は見えてくる。すべてを失えば、またゼロから始めればよい。そして、「明るい想像をする力」さえあれば、人生はまた動き出す。著者はこの信念のもと、数々の困難を乗り越え、経営の現場を生き抜いてきました。その姿勢は、読む者の心を静かに奮い立たせます。
稼いだ銭をいかに使うか。 それによって、徳を積むのか、不徳を積むのか。 人生が幸福へと上向くのか、不幸へと転落するのかは、 お金の使い方によって決まるものだと私は信じています。
著者は繰り返し、「お金の使い方」に人生の質が表れると説きます。どれほど稼いだかよりも、その稼いだお金をいかに使うかによって、人は徳を積むこともあれば、不徳を積むこともある。幸福へと人生を導くか、それとも不幸へと傾けてしまうか――その分岐点は、常に“お金の扱い方”にあると著者は信じて疑いません。
つまり、お金は単なる道具ではなく、自分の内面や価値観を反映する“行動の鏡”なのです。自分が「正しく生きる」とはどういうことか。それを表現する最も具体的な手段のひとつが、「お金の使い方」であると、著者は語ります。
お金とは、本来、人と人とのあいだにある価値を橋渡しする存在です。だからこそ、お金には大きな力があります。その力は、使い方によって人を豊かにもすれば、逆に破滅に導くこともあります。重要なのは、そのお金に「自分なりの正しさ」を込められるかどうかです。
日々の中で、「これは誰のために、何のために使っているのか」と問いを持ち続けること。それが、ぶれない軸をつくり、人間関係や仕事、運や縁のあり方までも整えていくことにつながります。お金は単なる数字ではなく、生き方を映すひとつの鏡なのです。
そして忘れてはならないのが、感情とお金の密接な関係です。怒り、不安、焦りといった不安定な感情に突き動かされて使うお金は、多くの場合、後悔や浪費につながります。一方で、感謝や信頼、喜びといった穏やかな心で使うお金は、自然と周囲に良い循環をもたらします。
つまり、お金の流れは、その人の心の状態を映し出すものでもあるのです。 人間は感情によって判断を誤ることがあります。だからこそ、自分の感情に気づき、整える習慣が、お金の使い方を見直す第一歩になります。「これは本当に必要な支出なのか」「この行動は、誰かのためになっているのか」と、立ち止まって自問するだけで、選択の質が変わってきます。 お金をどう使うかという行為には、自分の内面が反映されます。
執着や虚栄が表れることもあれば、愛情や誠意が形になることもある。だからこそ、お金の使い方は経済行為であると同時に、自己表現であり、人間性の表れでもあるのです。 心が整っていれば、お金の流れも整います。感情が静かで透明なときこそ、本当に意味のあるお金の使い方ができる。その積み重ねが、自分自身にとっても、関わるすべての人にとっても、豊かさと安定を育んでいくのだと思います。
著者は「お金は未来のために使うべきだ」とも語ります。目の前の欲求を満たすために浪費するのではなく、よりよい未来を築くための投資としてお金を使う――そのような意識が、人生を豊かに育てていくのです。 とくに、著者は「未来志向で共に学ぶ仲間づくり」にお金とエネルギーを注ぐべきだと提案しています。
人と学び合い、価値観を磨き合える関係は、一時的な金銭の蓄積よりもはるかに強固で、かつ永続的な「本質的な貯金」になる。お金を通して、未来の自分にとって必要な人とつながっていく。その発想には、非常に現代的かつ人間的な知恵が感じられます。
私自身も、お金は読書や体験、そして人との出会いのために使うようにしています。書籍は新しい視点を与えてくれますし、未知の体験は自分の思考を揺さぶってくれる。そして何より、人との出会いは、人生を変える最も強い力を持っていると信じています。こうした使い方を続けていくうちに、自然と他者に貢献できるようになっていました。つまり、お金を自分の成長に使い、それが巡り巡って人の役に立つ流れに変わっていったのです。
このように、中野善壽氏のお金の哲学は、私自身の生き方や実践とも深く共鳴します。お金とは、未来への橋をかけるためのツールであり、お金をそのために使えば使うほど、人生は広がっていくものだと、今、強く実感しています。
運のいい人とはどういう人か?
運がいい人、悪い人。その違いはなんでしょうか。まず知っておくべきことは、「運を意識して生きる」ことの重要性です。ものごとがうまく進んだときは「運がよかった」。ものごとがよからぬ方向へいったときには「運が悪かった」。運の力を信じる人は、運を呼び込む行動にも自然と意識が向くのではないでしょうか。
著者は「お金に好かれる人は、運と縁にも恵まれる」と述べています。お金とは単なる道具や手段ではなく、運や人とのつながりを媒介する“目に見えないエネルギー”のような存在であり、それを正しく循環させるには、自らのあり方を整える必要があるという考え方です。
そのために著者が重視しているのが、「心の軸を整える」ための朝の習慣です。毎朝の静かな時間に、自分の内面と丁寧に向き合うことで、その日一日の心の動きが安定し、運を呼び込む受け皿が整えられていくといいます。そしてもうひとつ重要なのが、「運の良い人」との付き合いを大切にすることです。
どんなに才能や努力があっても、人との縁がなければ活かされません。だからこそ著者は、運気の低い人との関係は静かに距離を取り、逆に運のいい人とのつながりは何よりも尊重すると語ります。
健康的な生活習慣も、運を呼ぶ土台として欠かせません。運は乱れた心身には宿らず、規則正しく整った日常に自然と流れ込んでくるもの。食事、睡眠、リズムのある生活の中に、運気を整える知恵が隠されているのです。こうした一つひとつの行動の積み重ねが、目には見えない運の流れを形づくり、やがて良縁や好機を引き寄せることへとつながっていきます。
著者が語る「運と縁を感じる10人のために惜しみなくお金を使うことが大切だ」というメッセージは、自分自身の生き方にも深く取り入れていきたい考え方だと強く感じました。
お金は、単に増やしたり守ったりすることが目的ではありません。それ以上に、「誰のために、どんな想いで使うのか」という視点が、お金そのものの意味や価値を大きく変えるのだと思います。信頼できる人、応援したい人に惜しまず使うことで、自分の人生にも新しい循環が生まれる――そんなお金との付き合い方を、これから意識していきたいと思います。
自分にとって本当に大切な人、日々の暮らしの中で支えてくれている人、これからも応援していきたいと心から思える人たち。そのような“縁”を感じる人々に対して、お金を使うという行為は、まさに「善」であり「幸せ」なのだと実感しています。
感謝を言葉で伝えるのはもちろんのこと、行動で示すという意味で、お金を使うというのは非常に誠実なコミュニケーションでもあります。ただの贈与や施しではなく、「あなたの存在が自分にとってどれほど大きな意味を持っているか」を伝えるための手段としてのお金。
その使い方には、自分の在り方や人生観が自然と映し出されていきます。 著者が説くように、「運と縁に恵まれる人」は、決して偶然にそうなっているわけではありません。自らの意思と行動によって、つながるべき人と深く関わり、その関係に心を込めてきた結果として、運も縁も引き寄せられているのです。
だからこそ、自分にとって大切な10人に向けて、ためらわずに、惜しまずにお金を使っていく。その姿勢は、自分の運を育て、人生に豊かな循環をもたらしてくれると信じています。
仕事の縁は切れたとしても、人間関係の縁は切れない。 特に「運がいい人」とのつきあいは大切にしています。
とりわけ印象的なのは、中野氏が語る「仕事の縁が切れたとしても、人間関係の縁は切れない」という言葉です。ビジネスにおける関係性は、プロジェクトや立場の変化とともに移ろいやすいものですが、人としてのつながりは、契約や役職を超えて残り続けます。
そうした本質的な「人の縁」の価値を理解しているからこそ、中野氏は、あらゆる出会いに敬意を払い、人と人とのつながりを何よりも大切にしてきました。その中にこそ、運が宿り、人生を支える大きな力があると信じているのです。
私たちは、つい「お金さえあれば人生は安泰だ」と思いがちです。確かにお金は生活の土台を支える大切な資源です。しかし、長い人生を見つめたとき、本当に最後まで残る支えは、金銭的な蓄えではありません。真に価値ある資産とは、「縁ある人とのつながり」であり、それが何よりも守り育てるべき財産なのです。 お金は時代の流れや環境の変化に左右され、増えたり減ったりするものです。
けれども、人との関係や信頼は、時間をかけて築き、心を込めて育てていくことで、確かな絆として深まり、簡単には崩れることがありません。むしろ年齢を重ねるほどに、そのつながりの重みと温かさは増していきます。そして人生の後半において、その積み重ねこそが、自分を支える何よりも確かな存在になるのです。
だからこそ、日々の中で誰と出会い、どのような関係を築いていくかが、人生の質そのものを左右します。お金はそのための手段であり、決して目的ではありません。むしろ人との関係にこそお金を使うという意識が、自分自身の内面を耕し、人生に奥行きと彩りを与えてくれます。 信頼と絆――この目に見えない資産こそが、私たちの人生を通して揺るがぬ「備え」となり、時間を超えて残っていく最も価値あるものなのです。
経営において、現場が重要な理由
ビジネスの世界においても、著者の思想は一貫しています。チームで成果を上げるには、まず「無力で無知な自分を知る」こと。違和感を察知する感性を磨き、すぐに学び、動く姿勢が結果を生む。
そして著者は、経営の本質的な進化は常に「非連続的」であると語ります。過去の延長線上にはない判断が求められる局面においては、「簿記(数字)」と「感性(直感)」の両輪が欠かせない――それが中野氏の一貫した経営観です。
「入るを量り、出るを制す」。この言葉に象徴されるように、数字に基づいた分析や計画は、経営における判断の基本であり、確かな土台です。売上やコスト、利益率といった数値は、経営者にとっての羅針盤となり、事業の方向性を見定める指標として不可欠なものです。
しかし、数字だけに頼る経営には限界があります。経済環境や顧客ニーズ、社会の空気は常に変化しており、数字が示す過去の傾向だけでは、いまこの瞬間の“揺らぎ”や“兆し”を捉えることはできません。だからこそ、そこに必要となるのが、経営者としての「感性」であり「直感」です。
そしてその感性を磨く場所こそが、「現場」です。中野氏は、現場で起きている小さな変化にこそ本質が潜んでいると考えます。現場に足を運び、自らの目で確かめ、耳で声を拾い、肌で空気を感じ取る。そうした身体的な経験の積み重ねが、資料や会議では見えてこない“気配”を捉える直感を育てるのです。 現場には、数字では測れない真実があります。
顧客のちょっとした表情の変化、従業員の沈黙、空間の温度感。そうした一見ささいな出来事にこそ、経営の未来を読み解く鍵が隠されています。著者が何度も強調するように、「違和感を察知する力」は、変化の先を読む上での重要な感性であり、実は誰よりも現場に寄り添っている経営者だからこそ得られる洞察なのです。 現場の細やかな出来事に気づくことは、単なる観察ではなく、未来への入り口でもあります。
小さな兆しを見逃さず、それを意味ある変化として受け取ることで、経営は柔軟に方向を修正し、新たな着眼点を獲得していきます。そしてその積み重ねこそが、変化に適応し、時代の先を行く経営へとつながっていくのです。
中野氏のこの姿勢は、データドリブンな意思決定が主流となりつつある現代において、人間の感性や経験知の重要性を改めて浮き彫りにしています。数字と感性、論理と直感。その両方を携えているからこそ、経営は単なるマネジメントではなく、未来を切り拓く創造的行為へと昇華していくのです。
本書の最後で、著者は静かにこう語ります。「過去にとらわれず、未来に不安を持たず、今この瞬間を全神経で楽しみ、常にベストを尽くしていきたい。そして、役目を終えたら、笑ってさといなくなる。それが私の美学です」 この言葉には、すべてを受け入れ、執着を手放しながらも、ひとつひとつの瞬間に全力を尽くして生き抜こうとする、著者の潔くも凛とした人生哲学が凝縮されています。
「お金を通じて、少しずつ徳を積んでいく」――中野氏のこのメッセージは、決して特別なことを求めているわけではありません。日々の暮らしの中で、丁寧に、心を込めてお金を使う。その小さな選択の積み重ねが、自分の人生を整え、周囲にも静かに影響を与えていくのだと思います。
善いお金の使い方とは、大きな金額を寄付することや、目立つ支援をすることだけではありません。誰かへのちょっとした贈り物、気持ちを込めたお礼、日常の支出に込める「ありがとう」の気持ち。それらすべてが、徳となり、自分の内面を育てていくのです。 私もまた、著者のメッセージを自分自身の生き方に取り入れていきたいと感じています。
感情に振り回されず、お金を“つながり”や“感謝”のために使っていく。今日一日をどう過ごし、誰のためにどう使うかという問いを持ち続けながら、心静かに日々と向き合っていきたいと思います。
感じ取り、気づき、味わいながら生きるということ。何気ない日常の中にある小さな幸せや美しさを見逃さず、お金の流れのなかにも“意味”を見出していくこと。そのささやかな積み重ねが、きっと人生をやわらかく、深く、そして豊かにしてくれるはずです。
本書は、単なるお金のノウハウ本ではありません。それは、お金、運、人との関係を丁寧に見つめ直し、「どう在るべきか」を問い直すための書です。あなたもこの一冊を手に取り、「たくさん稼ぎ、善く使う」という生き方の本質に、静かに、しかし確かに触れてみてはいかがでしょうか。
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