成長を支援するということ――深いつながりを築き、「ありたい姿」から変化を生むコーチングの原則(リチャード・ボヤツィス , メルヴィン・L・スミス , エレン・ヴァン・オーステン)の書評

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成長を支援するということ――深いつながりを築き、「ありたい姿」から変化を生むコーチングの原則
リチャード・ボヤツィス , メルヴィン・L・スミス , エレン・ヴァン・オーステン
英治出版

成長を支援するということの要約

思いやりのコーチングは、個人のビジョンを基に始まり、総合的なアプローチを取りながら持続的な変化を促すプロセスです。お互いに共鳴するコーチングによって、真の人間関係を築かれ、支援者はビジョンを実現できるようになり、より充実した人生を送れるようになります。

思いやりのコーチングとはなにか?

誰かをコーチする場合には、その人のパーソナルビジョンを掘り起こし、明確にすることが不可欠である。いま目のまえにある問題を解決したり、規定の目標を達成する──または一定の基準を満たす──手助けをしたりするよりも、その人の望みやビジョンを明らかにするほうが、プラスの感情や本来あるはずのモチベーションを解き放ち、本物の持続的な変化をもたらすのに重要な鍵となる。リチャード・ボヤツィス , メルヴィン・L・スミス , エレン・ヴァン・オーステン)

ケース・ウェスタン・リザーブ大学ウェザーヘッド経営大学院組織行動学の教授であリチャード・ボヤツィスらは、コーチングが効果的に行われると、支援を求めている人々に以下の3つの変化がもたらされると述べています。

1. パーソナルビジョンの発見と明確化
コーチングを受けることで、人々は自分自身や自分の人生について深く考える機会を得ます。その結果、自分の望む方向性や目標を見つけることができ、未来像、情熱の対象、目的(パーパス)、価値観などを明確にすることができます。

2. 行動、思考、感情の変化
コーチングを通じて自己認識が深まり、自己効力感が高まります。これにより、自ら行動を起こす意欲や自信が生まれます。その結果、目標に向かって主体的に取り組むことができ、成果を出すための行動が促進されます。理想の実現に近づいていることを実感することができるのです。

3. 共鳴する関係の構築
コーチや支援者との信頼関係や理解を深めることで、自己開示や自己成長が促進されます。また、支援者とのつながりが強化され、共に成長し合い、互いをサポートする関係が築かれることで、長期的な支援や成長が可能となります。 

その上で著者らは、コーチングにおいて「誘導型のコーチング」から「思いやりのコーチング」へシフトすべきだと提言しています。では、この2つのコーチングの違いについて詳しく見てみましょう。

誘導型のコーチングとは、昇進や年度目標の達成など、外部から定められた目的に到達するよう導くことを指します。実はこの問題を正そうとするアプローチは、実は間違った方法だと言うのです。支援を求めている人に手を貸そうとするとき、私たちの多くは自然と問題中心のコーチングを行いがちです。つまり、人々の現状とあるべき姿やなれるはずの姿との間のギャップに注目し、そのギャップを埋めようとするのです。

しかし、これでは持続的な学びや変化、適応をうまく促すことはできません。時にはその場しのぎの矯正につながってしまいます。 人々が修正に応じる理由の多くは、義務感からです。自分が本当に望む変化を明示する準備ができていないため、または何か行動を起こす必要があると感じているため、思考や行動の修正に応じるのです。たとえそれが持続的な解決につながらなくても、行動を起こすこと自体が重要だと思っているからです。

気をつけなければならないのは、ここで大切なのは、その努力が持続可能かどうか、本当に続くのか、ということです。相手は変化や学びへの努力を続けられるくらい本気でやっているのかが問われます。 もちろん、支援を必要とする人々がどうしても解決しなければならない深刻な問題を抱えている場合もあります。

研究によれば、欠点を修正したり、ギャップを埋めたりすることだけが目的であるとき、人は持続的な変化に必要な努力をあまりしません。問題を正そうとするアプローチは問題中心であり、持続的な変化を促すためには、人々の本当の欲求や動機に焦点を当てることが重要です。

一方、思いやりのコーチングは、相手の内面にある理想やビジョンを引き出し、それを実現するための支援を行います。結果、相手は自己のペースで成長し、持続的な変化を実感することができます。

ポジティブな助言や体験などによってPEAが呼び起こされたときには、共感ネットワークが活性化している。反対に、ネガティブなフィードバックややる気をそぐような体験をしてNEAの引き金が引かれたとき、そこで活性化するのは問題解決ネットワークである。

▪️NEA(ネガティブな感情)
・構成要素・・・問題解決ネットワーク(AN) + 交感神経 + ネガティブな感情
・特徴・・・不安や怒り、罪悪感といったネガティブな感情を引き起こし、目の前のタスクの実行や課題の解決を促します。

▪️PEA(ポジティブな感情)
・構成要素・・・共感ネットワーク(EN) + 副交感神経 + ポジティブな感情
・特徴・・・希望や喜び、高揚感といったポジティブな感情を呼び起こし、パーソナルビジョンに向けた自律的な成長を促します。

コーチングにおいて、NEAとPEAのバランスを保つことが重要である理由は、両者が相互補完的な関係にあるからです。NEAとPEAのバランスを保つためには、コーチングのプロセスにおいて、状況や目的に応じて適切な要素を取り入れることが重要です。緊急性が高い課題に取り組む際にはNEAの視点を強調し、即時の対応を促すことで効果的な成果を得ることができます。

一方、長期的な目標や創造性を重視する場面ではPEAの要素を取り入れることで、より持続可能な成長を促すことができます。

もし人生が常にNEA(ネガティブな感情)を引き起こす課題の連続だったとしたら、根気や強靭さは強化されるかもしれませんが、長期にわたって変化や学びへの努力を続けることは難しいでしょう。人生がただの面倒な仕事のように感じられてしまうからです。私たちが面倒な仕事をこなすのは、どうしてもやらなければならないときだけです。

だからこそ、ポジティブな感情(PEA)、共感ネットワークや副交感神経系をできる限り活用することが重要です。 ポジティブな感情は、希望や喜び、高揚感をもたらし、創造性を高め、新しいアイデアにオープンになれる状態を作ります。

これにより、変化に対する前向きな姿勢が生まれ、長期的な成長や学びへのモチベーションが維持されます。優れたコーチングは、このPEAを意識し、相手の感情や状況に寄り添いながら、ポジティブな変化を促すことが求められます。これが相手の成長を支援する上で欠かせない要素となるのです。

思いやりのコーチングを行う際には、まず相手に「理想の自分」やビジョンを明確にするよう促します。これにより、相手はPEAに支えられ、創造性に富んだオープンな状態でいられるよう励まされ、変化とともに訪れる高揚感を経験します。このプロセスが、相手の成長と成功を後押しするのです。

長期的な夢やビジョンがあるとき、人はそのビジョンからエネルギーを引きだし、困難があっても変化のための努力を続けることができる。 そういう状況をつくりだせる支援を、私たちは思いやりのコーチングと呼ぶ。心からの気遣いや関心を示し、相手を中心に考え、サポートや励ましを差しだし、相手が自分のビジョンや情熱の対象を自覚、追求できるようにするコーチングである。

思いやりのコーチングは、人々が自己実現を果たし、より充実した人生を送るための重要な要素です。心からの関心と気遣いを持って相手に接することで、相手の内なるビジョンを引き出し、持続的な成長を促進します。学生やプロフェッショナルに対するインスピレーションやサポートを通じて、コーチや指導者は人々の人生に意義深い変化をもたらします。

思いやりのコーチングは、単なる問題解決の手段ではなく、相手の成長と自己実現を支援するための強力なツールです。これを実践することで、私たちは周囲の人々の成長を促し、共に豊かな人生を築くことができるでしょう。

行動変容のための5つの発見

夢を持つことは人生において重要な要素であり、その夢を実現するために必要なのが支援者やコーチになります。支援者やコーチがその夢を共有し、助けることで、夢を持つ人は自らの目標に向かって進む力を得ることができます。

このような支援者との関係は、お互いがポジティブな気持ちで接することから始まり、互いを尊重し合い、共感し合うことで深まっていきます。コーチや支援者は、ただ指導やサポートをするだけでなく、相手の夢や目標を理解し、共に成長していくことが重要です。このような真のつながりがある関係こそが、持続可能で豊かなものとなるのです。

夢を持つ人にとって、そばにいてくれる支援者やコーチは、心強い存在であり、共に歩む喜びを分かち合うことができます。夢を追い求める旅路において、支え合いながら成長し、共に夢を実現する喜びを味わうことができるのは、真に貴重な体験になります。このような関係を築くことで、人々はお互いを励まし合い、成長し続けることができるようになります。

コーチングの際、コーチとクライアントが同じ感情の波長で動くことによって、共鳴する関係が築かれます。この関係が形成されると、双方にマインドフルネス、希望、思いやりが生まれ、ストレスの軽減や生活の充実がスムーズに進みます。共鳴する関係には主に3つの特徴があります。

(1) マインドフルであること 自己認識が高く、自身の感情を適切にコントロールできる状態
(2) 希望を喚起すること
(3) 思いやりを示すことです。
これらの要素は、コーチングの過程で重要な役割を果たし、より良い結果をもたらすために不可欠です。

変化を持続させるためには、それが外から押しつけられたものではなく、自分の意思によるものであること、自分の内側にモチベーションがあることが重要になる。だからこそ、思いやりのコーチングは相手の理想の自分を明確にするところから始まるのだ。

優れたコーチは、コーチングを受ける人々に人生の意義や希望を見出す手助けをします。彼らは、コーチング対象者が何に意味を見出し、どのような目的に向かっているのかを深く理解し、その実現を信じることが重要です。コーチは内省を促し、重要な物事を明確にする問いを投げかけますが、意義や目的を理解しても、希望がなければ前進は難しいため、希望を感じられるよう支援も行います。

また、優れたコーチは、単なる共感を超えて真の思いやりを示し、具体的なサポートと助言を提供します。これにより、コーチングを受ける人々は新たなエネルギーを得て、自分の目標に向かって積極的に行動を起こすようになります。このプロセスは、コーチにも刺激を与え、「感情の伝染」という形で両方にポジティブな影響をもたらします。

リチャード・ボヤツィスの意図的変革理論(ICT)によれば、行動変容は突然の発見として起こります。この理論は、望ましい持続的な行動変容を達成するために、5つの重要な「発見」を必要とします。

・ディスカバリー1 理想の自分
コーチや支援者は、コーチング対象者がどのような人間になりたいか、どのような人生を送りたいかを明確にする手助けをします。この探索はキャリアだけに留まらず、人生の全ての側面にわたります。

・ディスカバリー2 現実の自分
コーチは対象者の現実の姿を理解することを支援し、その人の強みや弱みを明らかにし、理想の自分と比較します。

・ディスカバリー3 学習アジェンダ
コーチや支援者は対象者の強みを活かし、理想と現実のギャップを埋めるための学習アジェンダを作成するよう促します。

・ディスカバリー4 新しい行動の実験と実践
新しい行動を試みることを奨励し、失敗しても再度挑戦するか別のアプローチを試すようにサポートします。

・ディスカバリー5 共鳴する関係と社会的アイデンティティ・グループ
対象者が信頼できる人々のネットワークから引き続きサポートを受けることが重要です。 これらの発見を通じて、コーチや支援者は対象者が自己効力感を高め、希望や楽観を持つように励まし、核となる価値観や人生の目的について深く考えるよう促します。

思いやりのコーチングのプロセスは、パーソナルビジョンから始まり、総合的なアプローチを通じて持続的な変化を促します。コーチ自身がインスピレーションを受け、自身の感情を理解していることが、真の人間関係を築く基礎となります。これにより、コーチングは支援を求める人々にとって、より充実した人生を送るための貴重な経験となるのです。

本書の事例やアイデアを読み、行動をかえることで、自分だけでなく、周りの人の人生にポジティブな変化を起こせるはずです。ポジティブな感情が伝染することを意識し、著者らのアドバイスを実践しましょう。

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