THE WEALTH LADDER 富の階段 ── 資産レベルが上がり続けるシンプルな戦略
ニック・マジューリ
ダイヤモンド社

THE WEALTH LADDER 富の階段: ── 資産レベルが上がり続けるシンプルな戦略(ニック・マジューリ)の要約
ニック・マジューリの『THE WEALTH LADDER 富の階段』は、資産形成を6段階に分け、収入・投資・起業など状況に応じた最適な戦略を示す実践的ガイドです。収入や資産の使い方、幸福との関係まで多角的に解説し、経済的・社会的・精神的・身体的・時間的な「4つの富」のバランスの重要性を説いています。
6つの富の階段
「ジャスト・キープ・バイイング」は、あなたの資産形成の大半において正しいアプローチかもしれない(現在の私にとってもそうだ)。だが、状況や目標が変われば、アプローチを変える必要がある。(ニック・マジューリ)
THE WEALTH LADDER 富の階段 ── 資産レベルが上がり続けるシンプルな戦略は、資産形成を段階的に捉え、読者が自分の状況に合った戦略を選択できるよう導いてくれる一冊です。著者は、前作JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則が大ベストセラーになったニック・マジューリです。(ニック・マジューリの関連記事)
マジューリはRitholtz Wealth Management社のCOO兼データサイエンティストという立場から、50年以上に及ぶ数万世帯のファイナンスデータを解析。その結果に基づいて構築されたのが、本書の中心概念である「富の階段(Wealth Ladder)」です。
本書は、資産形成を6つのレベルに分け、それぞれの段階で取るべき最適な戦略を明示しています。従来のような一律のアドバイスではなく、読者の資産水準に応じてカスタマイズされた実践的なガイドとなっています。
レベル1 生存戦略(資産1万ドル未満・余裕なし、時給労働)
生活の安定と緊急基金の確保が最優先です。支出の見直しと月収3〜6ヶ月分の貯蓄を目指します。借金には特に注意が必要で、借金をコントロールすることが求められます。また、できるだけ費用を抑えて、教育に投資し、給与をアップさせるのです。
レベル2 教育&スキル戦略(資産1万〜10万ドル・食料品の自由、技能労働)
得意なこと、興味があること、人がお金を出してくれることを仕事に選ぶと良いと著者は指摘します。スキルアップや自己投資を通じて、収入源の多様化と拡大を図ります。今日学べば永遠に稼げるのです。楽な仕事に安住せず、成長の投資に資源を集中させることが求められます。
レベル3 投資戦略(資産10万〜100万ドル レストランの自由、キャリアアップ・副業・少額投資)
本格的な副業をスタート。複利の力を活用した収益資産に投資します。短期的な市場変動に振り回されず、長期視点で資産形成(JUST KEEP BUYING)を行います。浪費せず、収入を増やすこと(投資や副業)に注力すれば、あなたは思っているよりも早くレベル4に到達できると著者は言います。
レベル4 起業戦略(資産100万〜1000万ドル 旅行の自由、キャリア転換・起業・中規模投資)
副業的な小規模ビジネスから着手し、株式への投資を増やしたり、起業を行います。自分がいなくても回る仕組みを作ることが重要です。
レベル5 事業拡大戦略(資産1000万〜1億ドル 住居の自由、事業拡大・大規模投資)
この段階では、分散投資を基本としつつ、次のステップをどうするかを慎重に見極める必要があります。事業を拡大するか、既存のビジネスを売却するのか、新たなビジネスに挑戦するのか、それとも富の階段をこれ以上登らず、現状の豊かさを維持するのか──いずれにしても、重要な意思決定が求められます。
もしその先に進むことでストレスが増したり、人間関係が犠牲になったりするようであれば、無理にレベル6を目指す必要はありません。資産形成のゴールは、あくまで「自分にとっての豊かさ」を実現することにあります。
レベル6 資産防衛戦略(資産1億ドル以上 影響力の自由、エンタープライズの構築・大規模投資)
最終段階のレベル6では、資産を増やすことよりも、今ある資産をいかに守るかに焦点を当てるべきです。そして同時に、人間関係や友情、健康といった、お金では手に入らない人生の本質的な価値に目を向けることが大切です。これらは長期的な幸福を支える土台であり、富の最上位に立ったときにこそ、その重要性がより鮮明になります。
また、自分の影響力や、次の世代に何を残したいのかという“レガシー”について考える好機でもあります。築いた富をどのように社会や家族へ還元していくのか、その視点が求められるようになるのです。
一方で、資産が増えるほど目に見えにくいリスクも増していきます。離婚や訴訟といった法的トラブル、動機や価値観の変化による迷い、周囲との比較から生まれる不満や虚無感など、注意すべき点は少なくありません。
人生をより豊かにするための「4つの富」
重要なのは、富の階段という概念と、この階段を登るにつれてお金の使い方が変わっていく点を理解することだ。
すべては収入に帰結します。今日の収入は、明日の資産の基盤となり、経済的な自由を築くための出発点となります。その基盤を強化するためには、スキルアップ、投資、そして起業といった収益戦略に主体的に取り組むことが求められます。
とはいえ、収入を増やすための絶対的な「正解」は存在しません。自分自身の状況や特性に応じて、最適な手段を選び、組み合わせながら実行していく柔軟性が重要になります。 また、資産構成にも段階的な変化が見られます。資産が少ない段階では、現金や車、住宅など、生活の安定を支える実物資産が中心ですが、資産が増えるにつれて、株式や投資信託、債券、事業利益といった収益を生む資産へと移行していきます。
つまり、保有資産の性質が「消費・生活のため」から「成長と利益のため」へと変化していくのです。 富の階段を上るにつれて気づくのは、「お金のために働く時間」が次第に減り、「お金が自分のために働く時間」が確実に増えていくということです。そうした段階的な変化に合わせて、資産戦略をどのように調整すべきかを丁寧に示している点こそが、本書の大きな魅力といえるでしょう。
著者は、「資産レベルによって有効な戦略は根本的に異なる」という点を強調しています。たとえば、借金のある人に適した戦略は、すでに数百万ドルの資産を持つ人には効果がない可能性があります。一般的なアドバイスの多くが受け手の状況を考慮していないことへの警鐘ともいえるでしょう。
特に重要なポイントとして、マジューリは「純資産100万ドルが最も危険な水準になり得る」と指摘しています。この段階で安心してしまい、戦略を変えずに現状維持に陥ると、次のレベルへ進むことが難しくなるからです。
本書では、支出に対する新しい視点として「0.01%ルール」が紹介されています。これは、自分の純資産の0.01%までの支出であれば、長期的な資産形成に大きな影響を与えないという考え方です。
たとえば、資産が1万ドルであれば1ドル、10万ドルであれば10ドルの支出増加は、気にするほどの問題ではないということです。このルールは、節約に過度なストレスを感じる人にとって、心理的な余裕を生むフレームでもあります。
マシュー・キリングスワースは、「貧しい人は、お金が増えると幸せになりやすい。幸せな人は、お金が増えるとさらに幸せになりやすい。だが、貧しくもなく幸せでもない人は、お金が増えても大した効果はない」という調査結果を発表しています。ここで言う「お金が増える」とは、資産ではなく収入のことを指していますが、収入と資産の間には明確な相関関係があることがわかっています。
したがって、幸福とお金の関係を考えるときには、収入と資産を切り離して考えるべきではありません。 お金が増えることで、自分自身のためだけでなく、他者のためにもお金を使える余裕が生まれます。研究でも、他人のためにお金を使う人の方が幸福度が高くなる傾向があることが示されています。
資産の初期段階では、少しの増加でも幸福度は大きく上昇します。しかし資産が増えるにつれて、同じような幸福の上昇を得るためには、より大きな金額の増加が必要になります。たとえば、レベル1の人が1万ドルの資産を得ることは、レベル6の人が同額の資産を得ることよりも、はるかに大きなインパクトがあります。
資産が増えるほど、幸福度を高める「ハードル」も上がっていく──これは、富の階段における核心的な知見であり、長年の研究によって裏付けられている事実です。
結局のところ、幸福を最大化するための理想的なアプローチとは、まずは不安や心配を軽減できる程度の資産を確保し、そこからお金以外の価値にも目を向けることにあるのではないでしょうか。
本書では、人生をより豊かにするための「4つの富」についても言及しています。経済的な富だけでは満たされない、人生の多面的な充実を考えるうえで欠かせない視点です。
・社会的な富
人とのつながりが人生の質を大きく左右します。パートナーや家族、友人、同僚との良好な関係があるほど、社会的な富は大きくなります。これは幸福や健康にも良い影響を与えることが、複数の研究から明らかになっています。また、経済的な余裕がある人の方が、人間関係を築きやすいという傾向も見られます。
・精神的な富
お金では自尊心や人生の意味を直接買うことはできません。何かを達成したときの満足感や、自分自身の価値を実感する感覚が、精神的な豊かさにつながります。富裕層でも抑うつ状態にある人が多いという事実は、精神的な富の重要性を物語っています。
・身体的な富
健康は、すべての富の基盤です。睡眠、栄養、筋力、心肺機能といった基本的な身体のケアは、他のどの富を築くにも欠かせません。健康を維持・改善することが、長期的に見て最大のリターンを生み出す投資といえるでしょう。
・時間的な富
「自分の時間を自由に使えること」は、多くの人にとって究極の理想です。ただし、自由な時間の量だけでなく、その時間をどれだけ価値ある活動に使っているかが重要です。友人や家族との時間、健康のための時間、何かを達成するための集中した時間──そうした時間の質こそが、真の時間的な豊かさを生み出します。 私たちは往々にして、経済的な富だけに目を向けがちです。
しかし、充実した人生を送るためには、これら4つの富のバランスを取ることが欠かせません。残念ながら、すべてを同時に最大化することはできないかもしれません。
それでも、経済的な富が他の富を支える一方で、他の富がなければお金には価値が生まれません。どんなに大きな数字も、ゼロをかけてしまえばゼロになるように──です。 だからこそ、富の階段を上る旅の中で、お金以外の富にもきちんと目を向けることが、自分にとって本当に価値ある人生を築くための鍵なのです。
本書は、資産形成を戦略的に進めるためのフレームワークを提供してくれる一冊です。自分がいまどの段階にいるのかを冷静に見極め、そのレベルに合った行動を取ることが、次のステージへの確実な一歩になります。
努力を積み重ねることも大切ですが、成果を最大化するには「適切な戦略」が不可欠です。本書は、行き当たりばったりの節約や投資ではなく、構造化されたアプローチによって、誰もが資産の階段を一歩ずつ上がっていけることを教えてくれます。
















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