ポピュリズムの仕掛人:SNSで選挙はどのように操られているか(ジュリアーノ・ダ・エンポリ)の書評

White House, Washington DC

ポピュリズムの仕掛人:SNSで選挙はどのように操られているか
ジュリアーノ・ダ・エンポリ
白水社

ポピュリズムの仕掛人:SNSで選挙はどのように操られているか(ジュリアーノ・ダ・エンポリ)の要約

SNSのアルゴリズムは感情を操り、人々の怒りや不安を増幅させ、民主主義を揺るがす存在となっています。ジュリアーノ・ダ・エンポリの『ポピュリズムの仕掛人』は、こうした構造を戦略的に利用する仕掛人たちの実像を描き、感情とテクノロジーが交差する現代政治の本質に迫る一冊です。

カオスの仕掛け人たちが、政治を動かせる理由

カオスの仕掛人たちは、自撮りとSNSの時代に見合ったプロパガンダを再構築しながら民主主義というゲームの本質を変えようと試みる。彼らの活動はフェイスブックとグーグルの政治版だ。彼らの活動には、SNS同様、いかなる仲介役も存在しない。全員がフラットに扱われ、判断基準は「いいね!」だけだ。彼らが内容に無関心なのは、SNSと同様に目的が一つしかないからだ。すなわち、目的は「いいね!」やシェア、つまりシリコンバレーの経営者たちが「エンゲージメント」と呼ぶものであり、政治においては即時の賛同である。(ジュリアーノ・ダ・エンポリ)

いま、私たちが日々接しているSNSは、情報を届けるプラットフォームであると同時に、感情を揺さぶり、人々のさまざまな選択にも影響を及ぼしています。コンテンツは単なる記事や写真ではなく、私たちの興味や関心、さらには怒りや恐怖といった強い感情に合わせて最適化されているのです。

SNSのアルゴリズムは、ユーザーがより長く、より頻繁に画面を見つめるように、緻密に設計されています。しかもそれは静的なものではなく、私たち一人ひとりの行動に応じて動的に変化し、フィードを個別に最適化していくきます。そうして生まれるのは、誰にとっても「自分のためだけに設計された現実」です。

この情報環境が、現代の政治をどう変えたのかを鋭く描いた一冊が、ジュリアーノ・ダ・エンポリによるポピュリズムの仕掛人:SNSで選挙はどのように操られているかです。著者はイタリアとスイスにルーツを持ち、政治家としての実務経験と、パリ政治学院での研究活動を通じて、情報技術と政治の結びつきを深く洞察してきました。

本書が描くのは、SNSを利用して怒りを増幅し、民主主義をポピュリズムへと誘導する「カオスの仕掛人たち」の戦略と実像です。彼らは政治家の背後にいて、感情をデータとして読み取り、それをエンジンにしながら、人々の投票行動を動かします。

ドナルド・トランプやボリス・ジョンソン、ジャイル・ボルソナロといったポピュリズムのリーダーたちの成功の裏には、情報戦のプロフェッショナルたちの貢献があったのです。

ジャンロベルト・カサレッジオ、ドミニク・カミングス、スティーブ・バノン──彼らは皆、SNSとアルゴリズムの力を武器に、人々の感情を巧みに操作してきましら。 中でもスティーブ・バノンは、現代ポピュリズムの象徴ともいえる存在です。

バノンの経歴はアメリカ海軍に始まり、バージニア工科大学、ジョージタウン大学、ハーバード・ビジネス・スクールと、名だたる教育機関で学び、ゴールドマン・サックスでは金融の世界に足を踏み入れ、さらにハリウッドで映画制作にも関わりました。

その後はワシントンの政治の中枢にも関与し、まさにアメリカ社会の頂点を知り尽くした存在だといえるでしょう。 しかし、彼はエリートとしての立場に甘んじることはありませんでした。むしろ、自分が通ってきたそのエリートの世界を、大衆を軽視する敵と見なし続けたのです。

バノンは、社会に渦巻く「怒り」の感情がどれほど大きなエネルギーを持つかに気づきました。そしてそのエネルギーをどう活かせば政治を動かせるのかを考え抜き、それを実行に移していきます。

この戦略が、ドナルド・トランプを大統領に導く道筋となったのです。 バノンの手法は、ただSNSでメッセージを拡散するという単純なものではありませんでした。一人ひとりの感情を細かく観察し、その不安や不満に寄り添うように装いながら、実際には怒りを組織的に増幅させていくのです。

アルゴリズムを駆使して人々の「反応」を最大化し、「あなたは無力ではない」「あなたこそが歴史を変える存在なのだ」という強烈な感覚を与える。こうしてバノンは、感情を燃料に変え、政治を動かすという、まったく新しい戦略モデルを創り出しました。

この手法が最も強力に機能するのは、現実の世界ではなく、バーチャルな空間です。SNSの中では、誰もが主役になれます。投稿が拡散されれば「自分の言葉が世界を動かしている」と感じられるし、「いいね!」やコメントの数が、自分の存在が社会に認められているという錯覚を与えてくれます。

その体験が繰り返されることで、人々はより深くこの空間にのめり込み、やがては政治的な熱狂へと変わっていくのです。バノンはその構造を見抜き、いち早く活用した戦略家でした。

カオスの仕掛人たちは、群衆の自己効力感を巧みに利用し、個人の怒りを集団のエネルギーへと変換していくのです。 彼らの強みは、単なるデータ解析の巧妙さではありません。政治とは、数字や損得の問題ではなく、感情が支配する領域であるという本質を理解している点にこそあります。

いかに理路整然と政策を語っても、人々の不安や怒り、喪失感に火をつけることができなければ、票にはつながりません。時代がどれほど進化しても、「人の心を動かすこと」が政治の原点であるという事実は変わらないのです。

カオスの仕掛人たちに私たちは対抗できるのか?

ナショナリズム型ポピュリスト運動への支持が物理的な次元を超え、最も完全に実現されるのは、バーチャルな領域においてだ。この領域では、カオスの仕掛人たちが開発するアルゴリズムにより、誰もが「自分は歴史の変革の中心にいる。蚊帳の外に追いやられていたが、ついに歴史を動かす主体になった」という感覚を抱く。

そして本書が提案する、もうひとつの本質的な視点が「量子政治学」という考え方です。これは、物理学の世界でかつて起きた大きなパラダイム転換をヒントにしています。 20世紀初頭、科学者たちはそれまで当たり前とされていたニュートン力学──つまり「原因があれば、結果は必ず決まる」という世界観──を手放さざるを得ませんでした。

望遠鏡や観測機器の精度が高まり、目に見えないミクロの世界に触れるうちに、「予測どおりに動くはずの物質が、なぜか思い通りにならない」という現象に直面したのです。 これと同じことが、いま私たちの政治の世界でも起きています。

かつては、社会が抱える問題を丁寧に分析し、合意を重ねて解決に向かうという、ある種“予測可能な政治”が存在していました。ところが、SNSが登場したことで、その前提が大きく揺らぎはじめています。

SNS上で届けられる情報は、全員に同じものが届くわけではありません。一人ひとりの関心や過去の行動データに合わせて最適化されており、同じ出来事がまったく異なる意味を持って伝わるのです。

現実は一つのはずなのに、人によって見えている“真実”が異なっている。ここに、現代政治のやっかいさがあります。 かつての物理学が、安定した原子モデルから不確実な量子の世界へと進化したように、私たちもまた、従来の政治論理が通用しない時代に突入しているのです。

いまや人々は、それぞれの「情報の宇宙」に生きていて、共通の土台のもとで話し合いをすることが難しくなっています。相手と意見を交わす以前に、「そもそも見ている世界が違う」という現実が立ちはだかっているのです。

この「量子政治学」という視点は、まさに現代の混沌を読み解くための鍵となる考え方です。私たちはいま、事実の上で合意するのではなく、“感情に沿ってカスタマイズされた現実”を生きるようになってしまいました。だからこそ、新しい対話のかたち、新しい政治のあり方を模索する必要があるのです。

他者の立場に立って考える──かつては民主主義の基本とされたこの行為すら、アルゴリズムによって妨げられています。SNSの中では、自分と似た意見、自分が信じたい事実しか流れてきません。人はそれぞれの「情報の殻」の中に閉じこもり、異なる視点に触れることがなくなっていく。そして、自己の殻を他者と交換することなど、想像すらしなくなるのです。

量子政治学の世界では、皮肉と逆説が現実になります。富裕層が貧困層の怒りの代弁者となり、知識を持つべき政策決定者が自らの無知を誇り、官僚が自らの省の統計に疑問を呈します。

真実よりも「信じたい物語」が優先され、事実は後回しにされます。このような空間で、政治的な混乱が拡大していくのは、ある意味で必然なのかもしれません。 しかし忘れてはならないのは、こうした怒りの感情は虚構から生まれたものではなく、現実に根差したものだということです。

人々の怒りの感情の背景には、たとえば「生活が苦しくなっている」「自分や家族が社会の中で置き去りにされているように感じる」「この先、安心して暮らせる未来が見えない」といった、誰もが抱えうる切実な問題があります。

つまり、それは単なる感情の暴走ではなく、経済的なゆとりのなさ、社会とのつながりの喪失、将来への不透明感といった現実的な不安から生まれているのです。

それらの感情をアルゴリズムで煽り、民主主義をカオスにおとしいれる人びと。その起源から戦略までが、恐いほどわかる──ジュリアーノ・ダ・エンポリの本書は、SNS時代の政治を見極めるための強力なレンズを私たちに提供してくれます。

量子政治学という新たな視点から現実を捉えることで、見えてくるのは、感情とテクノロジーが交差する時代の本質です。

では、私たちはこの混沌の中で、どうすればいいのでしょうか。ただ批判し、規制を強化するだけでは、感情の深層に入り込んだカオスの仕掛人たちの影響力を本質的に断つことはできません。

彼らが煽っているのは、虚構ではなく、現実に根ざした怒りであり、不安であり、喪失感です。

そこから抜け出すための唯一の方法は、明るい未来を描き出し、前向きな物語を語ることだ──本書はそう私たちに語りかけているように感じます。

分断を超えて共感を取り戻し、怒りの連鎖ではなく、希望の連鎖を生み出す力が、これからの社会には必要なのです。煽動と混乱に支配された言葉ではなく、信頼と創造性に満ちた言葉を届けること。それこそが、民主主義を守り、未来を取り戻すための本質的な対抗策ではないでしょうか。

難しい課題ではありますが、私たちが思考と行動を変えなければ、カオスの仕掛人に対抗しなければ、未来を豊かにできないのです。どんな時代であっても、希望を語る者たちが新たな物語を生み出し、社会の空気を変えてきました。いま求められているのは、そうした「語る力」なのだと思います。

本記事は書評ブロガー・ビジネスプロデューサーの徳本昌大が執筆しました。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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