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ビジョナリー・カンパニー4 自分の意志で偉大になる
著者:ジェームズ・C・コリンズ(ジム・コリンズ)、モートン・ハンセン
出版社:日経BP
本書の要約
同業よりも最低10倍以上のパフォーマンスを上げている企業の10X型企業(ビジョナリー・カンパニー)
に共通するのは、スピードよりも規律を重視した経営でした。彼らは追い風でも逆風下でも、毎年同じ程度の成長を目指し、着実に前進しながら、偉大な会社になっていったのです。
10X型企業とは何か?
未来は予知できない。人生に紆余曲折は付き物だ。誰ひとりとしてこれから何が起きるか確実に予測できない。人生は不確実であり、未来は未知である。これは良いとか悪いとかいう問題ではない。重力と同じで、そんなものなのだ。だからといって何もしないでいいわけではない。どうやって自分の運命と向き合うのか、自分で決めなければならないのである。(ジェームズ・C・コリンズ、モートン・ハンセン )
以前より不確実性が高まり、未来が見通せない中、経営者はどう行動すればよいのでしょうか?こんな時代にもスーパー・エクセレント・カンパニーは登場し、他社とは異なる成長を続けています。ビジョナリー・カンパニー4 自分の意志で偉大になるの著者たちは、同業よりも最低10倍以上のパフォーマンスを上げている企業を10X型企業と命名し、彼らの強みを本書で紹介しています。
未来は正確に予測できませんが、少しずついろいろなものを試しながら、未来を創造することは可能です。10X型企業は最初から偉大であったわけではありません。彼らは地道に行動しながら、未来を創造していったのです。
一部の企業や経営者は並外れたやり方で大混乱の時代を切り抜けています。彼らは時代の変化に受動的に反応しているのではなく、自ら何かを創造していたのです。彼らは勝ち進み、持続可能で偉大な企業をつくり上げていました。
不確実性が高い環境で発展する企業の経営者(10X型リーダー)に共通する要素が、本書ではいくつも紹介されています。
■20マイル行進(好不調に関わらず、毎年一定のペースで規律を守って成長する)
■建設的なパラノイア(リスク感度を高め、不確実性に備える)
■銃撃に続いて大砲発射(新技術や事業をたくさん試し、確信が生まれたら大胆に投資)
■死線を避けるリーダーシップ(逆風下でも死なない経営)
■SMacレシピ(うまくいく方法を愚直に繰り返す)
■運の利益率(成功企業は運に対する接し方が異なる)
あらゆる状況を想定して準備しておけば勝利が訪れる。これを人々は幸運と呼ぶ。事前に必要な予防策を講じるのを怠れば失敗は確実だ。これを人々は不運と呼ぶ。(ロアルド・アムンゼン)
調査を進めるうちに、ビジョナリーカンパニーの現実は、著者たちが思い描いていた神話とは異なるストーリーで成長していました。そこには意外な現実があったのです。
崩れ去った神話①
大混乱する世界で成功するリーダーは大胆であり、進んでリスクを取るビジョナリー。
意外な現実
10X型リーダーは、未来を予測できるビジョナリーではありませんでした。「何が有効なのか」「なぜ有効なのか」を確認し、実証的なデータに基づいて前進していたのです。比較対象リーダーよりリスク志向ではなく、大胆でもなく、ビジョナリーでもなく、創造的でもなかったのです。彼らには規律があり、より実証主義的であり、よりパラノイア(妄想的)という特徴がありました。
崩れ去った神話②
刻々と変化し、不確実で混沌とした世界で10X型リーダーが際立つのはイノベーションのおかげ。
意外な現実
驚いたことに、イノベーションは成功のカギではなかったのです。確かに10X型企業も多くのイノベーションを起こしています。しかし「10X型企業が比較対象企業よりもイノベーション志向である」という前提を裏づけるデータは出てきませんでした。10X型企業が比較対象企業よりもイノベーションで劣るケースさえあったのです。より重要なのは、イノベーションをスケールアップさせる能力、すなわち創造力と規律を融合させる能力でした。
崩れ去った神話③
脅威が押し寄せる世界ではスピードが大事。「速攻、そうでなければ即死」ということ。
意外な現実
環境が急変する世界では素早い判断と素早い行動が求められるから、「どんなときでも即時・即決・即行動」という哲学を取り入れる−これは破滅を招く効果的な方法でした。10X 型リーダーはいつアクセルを踏み、いつ踏んではならないのか理解していたのです。
崩れ去った神話④
外部環境が根本的に変化したら自分自身も根本的に変化すべき。
意外な現実
外部環境が急変しても、10X型企業は比較対象企業ほど変化しません。劇的変化に見舞われて世界が揺れ動いたからといって、自分自身が劇的変化を遂げる必要はなかったのです。
崩れ去った神話⑤
10X型成功を達成した偉大な企業は多くの運に恵まれている。
意外な現実
全体として見ると、10X型企業が比較対象企業よりも強運であるとは限りませんでした。幸運だろうが不運だろうが、10X型企業も比較対象企業も共に同じ程度に多くの運に遭遇しています。成功のカギを握っているのは、運に恵まれているかどうかではなく、遭遇した運とどのように向き合うかだったのです。
「最高の運は誰か」-良き助言者、良きパートナー、良きチームメイト、良きリーダー、良き友人を見つける運のことだ。あらゆる種類の運のうち最重要な運の一つである。幸運の流れに乗る最良の方法は、偉大な人たちと一緒に泳ぐことだ。あなたが命を懸けてもいいと思える人たちがいる。あなたのために命を懸けてもいいと思ってくれる人たちがいる。
運がよい人は、素晴らしい味方を見つけ、実際に行動を起こした人なのです。運が落ちたときにも、味方がいれば、諦めずに様々なアクションをとることが可能です。
10X型リーダーが持つ3つの要素
10X型リーダーは、常に不確実な状況に置かれていることを認識している。外部環境は彼ら自身に大きな影響を与えるとはいっても、自ら外部環境を制御できないし、それが将来的にどう変わるのか予測もできない、と認識しているのである。これが「制御不能」。一方で10X型リーダーは、不可抗力や偶発事象によってすべての結果が決まってしまうとも考えていない。自分の運命がどうなろうと、それについては全面的に責任を負うつもりなのだ。つまり、自分の運命を制御するのは自分であるということだ。これが「制御」。
本書では南極征服の歴史を紐解きながら、10X型リーダーの資質を明らかにしています。
1、第一探検隊隊長=勝者 ロアルド・アムンゼン(39歳)
北アメリカ大陸の北側から大西洋側と太平洋側を結ぶ航路「北西航路」を初めて横断に成功。南極探検隊に参加し、初めて南極で越冬することにも成功。
2、第二探検隊隊長=敗者)ロバート・ファルコン・スコット(43歳)
スコットは以前に南極点到達を目指して探検隊を組み、南緯82度にまで達しながら断念。
南極征服に向けてアムンゼンとスコットはほぼ同じタイミングで探検を開始しました。南極は気温が夏であっても氷点下摂氏29度まで簡単に下がる過酷な状況でした。冒険が行われた1911年当時は近代的な通信手段がなく、ラジオや携帯電話、衛星中継は当然なかったのです。いったん出発すればベースキャンプ(前進基地)への連絡もままならなくなります。南極点に到着して何か問題が起きても、救助隊はまず来ない状況で、彼らは冒険を行いました。
結果、アムンゼンは先に南極点に到着し、無事帰還しました。片やスコットは敗北し、帰らぬ人となったのです。両者を比較することで、10X型リーダーに求められる行動が明らかになりました。
アムンゼンの哲学を要約すると次のようになる。(1)予期せぬ嵐に見舞われて初めて「もっと体を鍛え、持久力を身に付けておくべきだった」と気づいても遅過ぎる、(2)船が遭難して初めて「イルカの肉を生で食べられるのか」と考えても遅過ぎる、(3)南極探検隊に加わってから「スキーと犬を使いこなせるようになりたい」と思っても遅過ぎるである。つまり、常日ごろからあらゆる事態を想定して準備を怠らないのがアムンゼン流だ。
アムンゼンは不可抗力や偶発事故に対処できるように計画し、探検隊を組成しました。何か不都合が起きても探検を続行できるように、有事の際の対策さえ用意していたのです。一方のスコットはきめ細かい事前準備をすることなく、様々な危機に見舞われ、最終的に命を落としてしまいました。
10X型リーダーは厳しい規律を自分に課しているだけでなく、狂信的に動きます。アムンゼンが自転車でノルウェーからスペインへ旅し、イルカの肉を生で食べたのは、南極征服というビジョンがあり、それを狂信的に目指していたからです。現代の10X型リーダーもこの「狂信的規律」を大事にしています。
10X型企業が軌道に乗るためには狂信的規律、活気に満ちた経営を続けるためには実証的創造力、競争を生き残るためには建設的パラノイアが不可欠なのだ。
10X型リーダーは、自らの探求に集中し、決して妥協をしません。自らの探求と無関係であれば、好機到来となってもそこには飛び付きません。彼は並外れた粘り強さを持ち合わせ、自ら設けた基準から決して外れません。過度に背伸びをして、規律を失うこともないのです。彼らは不確実な時代の中で、実証データを大事にし、自分の頭で考え、行動します。実証主義者は付和雷同せずに、大胆で創造的な行動に出るのです。
ビル・ゲイツはマイクロソフトが成功した後も、いつも恐怖におののき、最善の策を考えていたと言います。
10X型リーダーは、良い時でも悪い時でも警戒を怠らないという点で比較対象リーダーと異なる。穏やかで、先行き明るく、楽観的な状況下にあっても、「いつなんどき逆風に見舞われてもおかしくない」と考え続ける。実を言うと、100%の確率で状況は何の前触れもなく突然悪化すると信じている。しかも非常に都合の悪いタイミングで、である。だから常に最悪の事態に備えておこうとするのである。
10X型リーダーは、建設的パラノイアとして行動します。彼らはさまざまな危機を直視し、優位なポジションを築き、危機を克服することを絶えず考えています。10X型リーダーは建設的パラノイアをバネにして、偉大な目標を達成しようとしているのです。10X型リーダーは自分の利益を超越した何か、真に偉大な何かを創造することを目指しています。彼らは人を虜にする野心(レベル5の野心)をもち、周りの人を魅了し、彼らを巻き込んでいったのです。
10X型リーダーは「狂信的規律」「実証的創造力」「建設的パラノイア」の3つの要素とレベル5の野心を持っています。
規律ある20マイル行進が偉大なゴールを見せてくれる!
1977年にストライカーの最高経営責任者(CEO)になると、ジョン・ブラウンは着実な前進を目指して全社的な評価基準を設けた。毎年20%の利益成長である。これは単なる目標ではない。願望、期待、夢、ビジョンでもない。ブラウンの言葉を借りれば、「法律」である。彼は「法律」を自社の企業文化に染み込ませ、会社の”生き方”としたのである。
南極点に一番乗りをしたアムンゼンは「20マイル行進」を日々心がけていました。スコットとの競争に勝ったアムンゼンは十分な食料や装備を整えた上で、毎日確実に20マイル進みました。 企業もアムンゼンと同様の規律が必要で、ストライカーのジョン・ブランは毎年20%の利益成長を社員に求めました。
景気が良くとも悪くとも、利益をきちんと出し、成長を続けることを維持したのです。景気が良くても急成長させませんし、買収や組織の成長スピードを超える売上拡大などを行ないません。
一貫した成長のためには、20マイル行進の下限と上限の両方が欠かせないとジョン・ブラウンは理解している。つまり、(1)越えなければならない最低限のハードル、(2)それ以上越えてはならない最高限度である。前者が目標達成のための野心だとすれば、後者は行き過ぎ防止のための自制心である。
20マイル行進は混乱極まる状況下で秩序を確立し、矛盾に満ちた状況下で一貫性を発揮します。来る年も来る年も実際に20マイル行進を達成してこそ意味があります。20マイル行進を続けることで、10X型企業になれるのです。
20マイル行進は不利な状況を好転させます。
1、逆境でも成果を出せるという自信を身に付けられる。
2、大混乱を前にしても大惨事に陥る確率を低くできる。
3、不可抗力に直面しても自制心を保って対応できる。
状況の良し悪しにかかわらず20マイル行進を続けることで、自信が生まれます。逆境下で目に見える成果を出すことで10X型思考を身に付けられます。リーダーは業績向上に全面的に責任を負っており、決して自分たちの置かれた状況や環境のせいにしないようになります。
アムンゼン隊と同様に、10X型企業は自制を働かせるために20マイル行進を実践する。恐怖におののいているときでも、「いまがチャンス」という誘惑にかられているときでも、一貫したペースで行進する。20マイル行進を実践していれば、目標達成に向けて集中できる。
スコットは天候のよい日には20マイル以上の行進を行い、悪天候のときにはテントで休んだと言います。天候や新型コロナウイルスのように自分の力ではどうにも制御できないことはいくらでもあります。しかし、20マイル行進を実践すると、どこに集中したらいいのかはっきりと分かります。アムンゼンのように規律正しく20マイルの行進を続けることで、とてつもないゴールにたどり着けます。
今日は規律のある20マイルの話を紹介しましたが、何度かに分け、本書のエッセンスを伝えたいと思います。なお、本書では2002年時での10X型企業(アムジェン、インテル、マイクロソフト、プログレッシブ保険、サウスウェスト航空、ストライカー)がピックアップされています。
ブロガー・ビジネスプロデューサーの徳本昌大の5冊目のiPhoneアプリ習慣術がKindle Unlimitedで読み放題です!ぜひ、ご一読ください。
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