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ビジネスの未来――エコノミーにヒューマニティを取り戻す
著者:山口周
出版社:プレジデント社
本書の要約
資本主義が終焉し、新たな社会システムが求められていますが、イノベーションやマーケティングに頼ったシステムではこの問題を解決できません。新たな思考・行動様式を身につけた「資本主義社会のハッカー」が、社会変革を主導することで、経済性から人間性への転換が実現します。
定常状態を前提とする高原社会へシフトする理由とは?
私たちがこれから迎える高原社会を、柔和で、友愛と労りに満ちた、瑞々しい、感性豊かなものにしていくためには、この「経済性から人間性」への転換がどうしても必要になります。(山口周)
コンサルタントの山口周氏は、資本主義が終焉を迎える中、時代は定常状態を前提とする「高原社会」へと軟着陸しつつあると指摘します。現代の先進国では、安全で快適に生きるための物質的生活基盤の整備という課題の多くは、あらかた解決しています。今後は人口増大も期待できない「高原への軟着陸」へのフェーズに入りつつあり、必然的に「需要の飽和」が発生しています。「明日は今日よりよくなる」という資本主義の常識が通用しない時代を私たちは生き始めているのです。
ビジネスが「問題の発見」と「問題の解決」で成り立っている以上、問題の多くが解決してしまった「需要飽和社会」では、経済の停滞、利益率の低下が起き、それが先進国に共通して見られるGDPの低成長率、極端な低金利に表れています。
これを避けるために「不必要な消費」を無理に喚起すると、多くに人が「奢侈」に向かい、「自然・環境・資源」の問題を引き起こします。自然・環境・資源に対して大きな負荷をかける奢修的な消費は、物理的にも倫理的にもサステナブルではありません。
しかし、日常的な実用ニーズがすでに満たされてしまった現在の社会において、奢侈的な消費を厳しく戒めれば、それは著しい経済の縮小という「ハードランディング問題」を生み出すことになります。経済的には緩やかな定常状態~微成長状態へと移行する軟着陸の状態を維持しつつ、サステナブルな価値ある高原社会を築くべきです。
「便利で快適な世界」ではなく、「生きるに値する世界」へと世の中を変えていくことが、私たちに求められています。そのために以下の3つの強迫から脱却すべきだと著者は言います。
●「文明のために自然を犠牲にしても仕方がない」という文明主義
●「未来のためにいまを犠牲にしても仕方がない」という未来主義
●「成長のために人間性を犠牲にしても仕方がない」という成長主義
定常状態が続く高原社会では、手段的・功利的ではないヒューマニズムに基づいた消費が求められます。
「人間性に根ざした衝動」に基づく消費には、そのような「手段的・功利的」な側面がありません。これらの消費活動は、活動それ自体が主体にもたらす愉悦や官能が効用となってその時点で回収される点で「必要」や「奢修」とは大きく異なります。
人間性に根ざした衝動、損得勘定を抜きにした行動がこれからは重要になります。
多くの問題が解決されてしまった以上、今も残されている課題には資本家は見向きもしません。貧困や難病などの取り残された人たちを救うためには、寄付や支援などの「贈与のシステム」を導入する必要があると著者は言います。
コンサマトリーな生き方を追い求めよう!
一見すれば対照的に見える「必要」や「奢侈」が、実は「未来の利得・効用のために消費行動を手段化する」点で共通しているのであれば、それは日本語で「手段的」「功利的」となり、これを英語で表現すれば「インストルメンタル」ということになります。 一方でその逆、つまり「いま、この瞬間に感じられる愉悦・官能という利得によって行為のコストが回収される活動」という考え方を、アメリカの社会学者、タルコット・パーソンズが唱えた「コンサマトリー」という概念で表したいと思います。
手段的・功利的なインストルメンタルとの概念対比である「コンサマトリー」という考え方が今後は重要になってきます。
■インストルメンタル
中長期的
手段はコスト
手段と目的が別
利得が外在的
合理的
■コンサマトリー
瞬間的
手段自体が利得
手段と目的が融合
利得が内在的
直感的
すでに十分な文明化を果たした私たちの「高原社会」において、人々が、本質的な意味でより豊かに、瑞々しく、それぞれの個性を発揮して生きていくためには、各人の個性に根ざした衝動を解放しなくてはなりません。しかし、現在の社会では、このような「人間を人間ならしめる」衝動的欲求の多くが未達になっています。その上、私たちの多くは「未達になっていること自体」にも無自覚です。
市場が「未達の欲求」があるところに生まれるのであれば、これまでの経済とは異なる位相の広大な市場が、潜在的には生まれることになります。まさにいま「高原」へと至りつつある社会において、このような「人間的衝動」に根ざした欲求の充足こそが、経済と人間性、エコノミーとヒューマニティの両立を可能にする、唯一の道筋だと著者は指摘します。
私たちは経済活動を再考し、「未来のためにいまを手段化する」というインストルメンタルなものから、「いま、この瞬間の愉悦と充実を追求して生きる」コンサマトリーなものへと経済を転換しなければなりません。当然、 消費もコンサマトリーなもへのシフトする必要があります。他者への優越心を得るための奢侈的な消費をやめ、真に自分と他者の愉悦や官能に直結する、人間的な衝動に基づく活動を行うようにすべきです。
その上で、著者は具体的な3つのアクションプランを読者に示しています。
■イニシアチブ1:真にやりたいコトを見つけ、取り組む
■イニシアチブ2:真に応援したいモノ・コトにお金を払う
■イニシアチブ3:(1と2を実現するための)ユニバーサル・ベーシック・インカムの導入
私たちの世界はすでに経済合理性限界曲線の内側にある物質的問題をほぼ解決し終えた「高原の社会」に達しています。このような「高原の社会」において、これまでに私たちが連綿とやってきた「市場の需要を探査し、それが経済合理性に見合うものかどうか吟味し、コストの範囲内でやれることをやって利益を出す」という営みはすでにゲームとして終了しています。
文化という意味的価値には有限性がないのですから、文明から文化にシフトすることで、私たちは無限の価値を生み出せるようになるのです。文化的な価値は資源や環境といった有限性の問題から切り離されているため、現代の課題である環境破壊も止められます。 これからの価値創出は「文明的な豊かさ」から「文化的な豊かさ」であると思考をシフトし、経済活動を変えていきましょう。
政治や経済の「システムをどのように変えるのか」という議論をいくらしても、20世紀に何も変化は起こりませんでした。自分が直接的な被害を受けていない問題に関して、解決するのは政府や企業など「自分以外の誰か」であり、解決できていないのは他者のせいだと考えがちですが、その考えは捨てるべきだと著者は指摘します。状況を変えようとしない、私達一人一人に責任があるのです。
システムという呪縛を逃れ、「私たち自身の思考・行動の様式をどのように変えるのか」という問いを一人一人が持つことが重要です。バタフライ効果を信じ、小さな変化を世の中に広げていくことが、よりよい高原社会を生み出す原動力になるのです。
これからは、アーティストが、自らの衝動に基づいて作品を生み出すのと同じように、各人が、自らの衝動に基づいてビジネスに携わり、社会という作品の彫刻に集合的に関わるアーティストとして生きることが、求められています。
世の中を変えたいと考える一人一人の個人が、「資本主義社会のハッカー」になり、新たな思考と行動様式を身につけ、社会システムの内部からハックすることで、世の中をよくしていくべきです。私たちは以下の2つのアクションを起こすことで、世の中をより豊かにできます。
1、社会的課題の解決(ソーシャルイノベーションの実現)
“経済合理性限界曲線の外側にある未解決の問題を解決する。
2、文化的価値の創出(カルチュラルクリエーションの実践)
“高原社会を「生きるに値する社会」にするモノ・コトを生み出す。
生活者1人1人がアーティストになり、よりよい社会を築くことができれば、私たちが生きる高原社会を素晴らしいものにできるのです。
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