ジョーナ・バーガーのTHE CATALYST 一瞬で人の心が変わる伝え方の技術の書評


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THE CATALYST 一瞬で人の心が変わる伝え方の技術
著者:ジョーナ・バーガー
出版社:かんき出版

本書の要約

行動を阻止している障害を特定し、それを除去する方法を考えることで、相手の思考と行動を変えられます。慣性の5騎士の「心理的リアクタンス(Reactance)」「保有効果(Endowment)」「心理的距離(Distance)」「不確実性(Uncertainty)」「補強証拠(Corroborating Evidence)」を除去することで、よりよい結果を得られます。

相手を変えたければ、カタリストになろう!

人は誰でも、何かを変えたいと思っている。セールスパーソンは顧客の気持ちを変えたいと思い、マーケターは人々の購買行動を変えたいと思っている。部下は上司の評価を変えたいと思い、リーダーは組織を変えたいと思っている。親は子供の態度を変えたいと思い、スタートアップ起業は業界を変えたいと思い、そしてNPOは社会を変えたいと思っている。しかし、何かを変えるのはとても難しい。(ジョーナ・バーガー)

ペンシルベニア大学ウォートン校の人気教授のジョーナ・バーガーは、何かを変えるのはとても大変なことだと指摘します。人の行動を変えたければ、障害物を取り除き、ハードルを下げることを意識すべきだと言うのです。

変化を起こすために必要なのは、力ずくで相手を押すことではありません。相手を無理に説得しようとすると、逆にガードを固められてしまいます。

本書の冒頭で、優秀な人質交渉人が紹介されていますが、彼らは心理学や行動科学などをもとに、まず相手の話を聞き、信頼関係を築くことから始めます。容疑者の恐怖や動機に真摯に耳を傾け、家で彼らの帰りを待っている人たちのことを思い出させます。時にはペットの話をして、相手との信頼関係を構築します。

人質交渉人は、加えるエネルギーを少なくすることで、変化を起こすのを容易にしています。彼らは状況を冷静に観察し、変化を妨げているもの正体を突き止め、それを巧みに取り除いています。著者は触媒(カタリスト)になることで、人を変化させられるようになると述べています。

人の心に変化を起こす 「サイドブレーキを見つける方法」を理解できれば、簡単に人の行動を変えられます。 サイドブレーキとは、 変化を妨げている隠された原因のことです。変化を起こしたければ、 行動を阻止している障害を特定し、そのサイドブレーキを下す方法を考えるようにすればよいのです。

著者は心の変化を妨げる5つの障害(「慣性の5騎士」)を明らかにしています。
①心理的リアクタンス(人間は押されたら、本能的に押し返します。)
②保有効果 (既に持っているものは、手放したくないと言う態度。)
③心理的距離(情報を提供しただけでも、拒否反応が起こります。)
④不確実性 (変化は往々にして、「不確実性」につながります。)
⑤補強証拠の不足 (一つの証拠だけでは、人は納得しません。)

慣性の5騎士の「心理的リアクタンス(Reactance)」「保有効果(Endowment)」「心理的距離(Distance)」「不確実性(Uncertainty)」「補強証拠(Corroborating Evidence)」の頭文字をつなげると、「減らす」という意味の「REDUCE」になります。  

変化を起こす達人であるカタリストは、まさにこの「減らす」というテクニックを使っています。相手をむりやり変えようとするのではなく、障害を減らすことで、変化を容易にする環境を整えているのです。

今日はこの中から、心理的リアクタンスを除去する方法を学びます。

心理的リアクタンスを除去する方法

健康や安全に関する問題では、昔から警告を与えるという方法が一般的だった。たとえば、「脂肪を摂りすぎてはいけない」「飲んだら運転してはいけない」「シートベルトを締めなさい」といったことだ。健康や安全のためなら「しなさい」とすすめられ、健康や安全を脅かすことには「してはいけない」と警告される。これが過去50年にわたる公衆衛生政策の基本といっていいだろう。

アメリカでは10代の子供の喫煙が問題になっています。彼らに喫煙をやめさせるのは簡単な仕事ではありません。さまざまな組織が何十年も前から以下のような取り組みを行ってきましたが、喫煙問題は解決できませんでした。
■タバコの広告を禁止する。
■タバコのパッケージに警告文を載せる。
■何十億ドルも費やし、喫煙をやめるように未成年に訴える。

逆に、未成年の喫煙率は上昇してしまったと言います。禁止は得てして逆効果になってしまうのです。

お酒を飲んではいけないと言われた大学生は、かえってお酒が飲みたくなる。そしてタバコは体に悪いと言われ続けると、かえって興味がわき、将来喫煙者になる確率が高くなるのだ。こういった状況では、警告はむしろ推薦の言葉になる。10代の子供に「あの人とデートしてはいけません」と言えば、その人にますます夢中になるだろう。人は何かを禁止されると、かえってそれがやりたくなることがある。

私たち人間は、自分の人生や行動をコントロールできるという感覚を求めています。人は自主的に行動する権利を手放すのを極端に嫌います。自分の行動は、あくまで自分の意志から生まれていなければならないのです。そのため、人は自分の自由を奪う存在に反発します。自分の行動を自分で決める能力が奪われると、あるいは奪われそうになるだけでも、人間は大きな警戒心を持ちます。そして、自分のコントロールを取り戻す方法のーつが、禁止された行動をあえて行うことなのです。

何かを禁止すると、心理学の世界で「心理的リアクタンス」と呼ばれる現象を引き起こす。心理的リアクタンスとは、自由が奪われた、あるいは奪われそうになっていると感じるときに生まれる不快な状態だ。 さらに心理的リアクタンスは、何かを禁止されたときだけでなく、何かをするように言われたときにも生まれることがある。

誰からも説得されていない状況では、自分がやりたいことをやっていると信じることがでます。この場合、自分の行動は、自分の意志と選択から生まれたと感じます。このような人間の心理を考えると、人を説得するのは難しいということがよくわかります。

フロリダ州知事から未成年の喫煙対策を命じられたチャック・ウルフは、子供たちに禁煙の指示を出すのをやめました。彼らのチームは、「私たちは答えを知っている」という態度を捨て、子供たちにも話し合いに参加してもらうことにしたのです。

1998年3月、中高生がタバコについて自由に話し合う「ティーン・タバコ・サミット」を開催しました。大人の役割は、ただ事実を伝えることだけにしぼり、タバコを禁止させるようなことは一切やめたのです。
■タバコ業界による巧妙なマーケティング戦略
■タバコ会社と政治の癒着
■喫煙を魅力的に見せるためにスポーツやテレビ、映画を利用していること
などを伝え、彼らに質問をしました。

ここからたくさんの活動やアイデアが生まれました。子供たちが独自にタバコの害を啓蒙する「タバコに反対する生徒の会」(Student Working Against Tabaccoや、学校でタバコ業界について学ぶためのワークブックなどが作られました。

メディアへの新しいアプローチも始まりました。「真実」 CMのシリーズ第1作では、2人のティーンが、ありふれた部屋から、雑誌の出版社の重役に電話で質問をします。 「10代の子供が読者なのに、なぜタバコの広告を載せているのですか?」 重役は「雑誌はタバコに反対する広告もサポートしている」と答えます。しかし、公共サービスとしてそのような広告を実際に掲載しているのかとティーンの1人に尋ねられると、重役はこう答えます。「ビジネスだから儲けなければならないんだよ」そこでもう1人のティーンが、「大切なのは人間ですか?それともお金ですか?」と尋ねます。重役は不機嫌な声で「出版は商売だ」と言うと、すぐに電話を切ってしまいました。  

CMはそこで終わりますが、ここにはメッセージはありません。映像の最後に「タバコを吸ってはいけません」というテロップもなければ、何がかっこよくて、何がかっこ悪いかというメッセージもありません。

このCMキャンペーンはすぐに広まり、フロリダ州ではわずか数カ月のうちに3万人のティーンがタバコをやめました。さらに2年後には、10代の喫煙率は半分になっていました。

このキャンペーンは、全国に広がり、10代の喫煙率はなんと75パーセント減少しました。そもそもタバコに手を出す子供が減り、すでに吸っていた子供も吸うのをやめたのです。プログラム開始からわずか4年で、45万人以上のティーンを喫煙から遠ざけることに成功し、数百億ドルの医療費削減につながりました。

以下の4つのアクションを起こすことで、心理的リアクタンスを除去できます。
1、メニュー提供する
何でも自由に選ばせるのではなく、こちらが選択肢を用意します。

2、命令ではなく質問をする
自分の意見を述べるのではなく、質問をします。

3、ギャップを明確にする
ある人物の思考と行動の間に矛盾があることや、自分が他人にすすめることと、自分が実際にやっていることが違うと指摘する、という方法をとります。

4、理解から始める
自分は理解されている、 大切にされていると感じることができると、信頼関係が生まれます。

著者のアドバイスを取り入れることで、私たちは変化を妨げる手段を取り除く人=「カタリスト(触媒)」になれます。相手の思考と行動を変えることで、よりよい結果を出せるようになります。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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