考えてはいけないことリスト (堀田秀吾)の書評

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考えてはいけないことリスト
堀田秀吾
フォレスト出版

考えてはいけないことリスト (堀田秀吾)の要約

明治大学教授の堀田秀吾氏による『考えてはいけないことリスト』は、考えすぎて動けなくなる原因を性格や意志の弱さではなく、脳と思考の使い方の問題として捉えた一冊です。人はネガティブな出来事を強く記憶し、他人と比較することで不安を増幅させがちですが、本書は世界中の学術研究をもとに、「考えないこと」をスキルとして整理しています。

考えない時間を持つことが重要な理由

「生きていく」が最重要課題で、そのためにいろいろと考えなければいけなかった大昔とは異なり、この現代においては、考えることと同様に大切なのが「考えない」という選択肢です。「考えない」と言うと、「怠け」や「逃げ」のように聞こえるかもしれません。しかし多くの研究で、むしろそれが自分を守るための積極的な方法であり、より賢く生きるための術であることを示しています。(堀田秀吾)

今から20年ほど前、人生をこのままでは終わらせたくないと思った40代の頃、私は「やらないことリスト」というものを書いていました。そこに並んでいたのは、お酒、二次会、朝寝といった、当時の自分にとっては当たり前で、むしろ息抜きだと思い込んでいた習慣でした。ただ、今になってはっきり言えるのは、それらは息抜きではなく、人生のエネルギーを静かに奪い続ける悪い習慣だったということです。

ただし、当時の私が本当に変えたのは、「やるか、やらないか」という行動の話だけではありませんでした。その後、「考えないこと」を決め、それもリスト化したのです。人は行動する前に必ず考えます。そして、考える時間の大半は、実は何も生み出していません。

やるべきかどうかを延々と悩み、やらない理由を探し、周囲の評価を想像し、失敗した未来を先取りして不安になる。その思考の渋滞こそが、時間の使い方を根本から歪めていたのです。 だから私は、やるやらないを決める前に、考えなくていいことを先に切り捨てました。

迷わないと決める。悩まないと決める。意味のない自問自答をしないと決める。そうすると不思議なもので、行動は驚くほどシンプルになります。考えなくていいことに時間を使わなくなるだけで、日々の選択が軽くなり、習慣は静かに入れ替わっていきました。

その結果、悪い習慣は良い習慣に置き換わり、アルコールに振り回されていたダメダメなサラリーマンだった私は、気がつけば著者となり、ベンチャー企業の社外取締役や大学教授という立場にまで辿り着いていました。人生は、何を足すかよりも、何を考えないかで決まる。今ではそう断言できます。

明治大学教授の堀田秀吾氏による考えてはいけないことリストは、その感覚を個人の経験談ではなく、学術的な裏付けをもって示してくれる一冊です。

考えすぎて動けなくなる、ネガティブな思考が止まらない。そうした状態は性格の問題でも、意志の弱さでもありません。脳の使い方の問題であり、言語の扱い方の問題だと、本書は冷静に指摘します。世界中の学術論文から信頼性の高い研究だけを引きながら、「考えない」という行為は根性論ではなく、再現性のある技術なのだと語られています。

人は一日に数万回もの選択をしていると言われています。食事や服装のような意識的な選択だけでも、二千回以上に及ぶそうです。脳は体と同じで、使えば使うほど疲れます。決断が多すぎれば、脳は確実に消耗し、本当に重要な判断を下す力を失っていきます。だからこそ、効率化すべきなのは行動ではなく、思考です。

やるかやらないかを考える前に、そもそも考えなくていいことを減らす。それだけで、時間の密度は大きく変わります。 近年の脳科学研究では、必死に考えているときよりも、ぼんやりしているときのほうが創造的なひらめきが生まれやすいことが分かっています。

考えすぎをやめることは、怠けることではありません。アイデアが育つための余白を、意図的につくる行為です。さらに、リラックスした脳の状態では情報収集のアンテナが広く働き、結果として幸運な情報に気づきやすくなる、つまり運が良くなるという研究もあります。努力の量ではなく、思考の使い方が結果を左右するという、非常に示唆に富んだ話です。

とはいえ、「考えるな」と言われて考えなくなるほど、人間は単純ではありません。「考えないようにしよう」と思えば思うほど、かえって頭の中は騒がしくなります。本書が優れているのは、その現実を前提にしている点です。だからこそ、「考えてはいけないこと」を、あえてリスト化することで、自分の思考と行動を変えられるのです。

思考の渦に飲み込まれそうになったとき、そのリストを開けば、「これは考えると不幸になるだけの思考だな」と一歩引いて気づくことができます。それは完全に思考を止める魔法ではありませんが、一時的にでもブレーキをかけるきっかけにはなります。

ネガティビティ・バイアスと確証バイアスが人を不幸にする?

ネガティビティ・バイアスと確証バイアスの組み合わせによる最悪のループ。

ケース・ウェスタン・リザーブ大学のロイ・ボーマイスターらは、「Bad is Stronger than Good(悪いことは良いことよりも強い)」を提唱しました。人はポジティブな出来事よりも、ネガティブな出来事のほうを強く、そして長く記憶に残してしまうことを実証しました。うまくいったことよりも、失敗や否定的な出来事ばかりが頭に残るのは、性格の問題ではなく、人間の脳の仕様だということです。

ここに厄介なのが、確証バイアスと呼ばれる心のクセです。これは、自分が最初に抱いた思い込みを裏づける情報ばかりを集めてしまい、反対の事実には目を向けなくなる傾向のことを指します。一度「自分はダメだ」「評価されていない」と思い込むと、それを強化する材料だけが次々と集まり、ネガティブな思考は自己増殖を始めます。

こうして負のスパイラルは、本人の自覚がないまま、静かに深まっていくのです。 私たちは本能的に、他人と比べてしまう生き物です。比べることで自分の立ち位置を確認し、安心しようとします。しかし、その本能に振り回されすぎると、「あの人より劣っているのではないか」「自分は評価されていないのではないか」という推測の渦から抜け出せなくなります。

問題なのは、そこに事実がほとんど含まれていないことです。多くの場合、負の証拠はただの想像であり、脳内会議の暴走にすぎません。

だからこそ、本書が繰り返し伝えているのは、「どう思われているか」を考えないと決めることの重要性です。他人の評価は、自分ではコントロールできません。にもかかわらず、そこに思考を費やせば費やすほど、確証バイアスは強まり、ネガティブな出来事だけが記憶に刻まれていきます。

その回路を断ち切る最も現実的な方法は、「考えないこと」をあらかじめ決めておくことです。 「他人にどう思われているか」を考えないと決めたとき、人は驚くほど自由になります。心は軽くなり、比べるために使っていたエネルギーが、行動や創造に回り始めます。

ネガティブな出来事が起きなくなるわけではありません。ただ、それに長居をさせなくなるのです。それだけで、思考の景色は大きく変わります。 必要であれば、さらに脳科学寄りに厚みを出す、あるいは体験談との接続を強める調整もできます。どの方向に寄せるか、ご希望があれば教えてください。

カリフォルニア大学リバーサイド校のソニア・リュボミルスキーと、スタンフォード大学のリー・ロスによる研究では、幸せを感じやすい人と、不幸を感じやすい人とでは、社会的比較情報に対する反応が明確に異なることが示されています。

まず、不幸を感じやすい人は、まわりの人の成功や失敗に強く影響されます。他人が評価された、成果を出した、逆に失敗した。そうした情報に触れるたびに、自分の気分や自己評価が大きく揺れ動いてしまうのです。

そのため、日常のほんの小さな比較であっても、感情が上下しやすくなります。比べなくてもいい場面でまで比べてしまい、心が休まる暇がなくなっていきます。

一方で、幸せを感じやすい人は、社会的比較を無自覚に受け入れているわけではありません。むしろ、自分の気持ちや自己評価を守る方向に、比較の仕方をコントロールしています。他人の成功に過剰に反応せず、ときには他人の失敗や、自分より劣っている点にだけ注意を向けることで、心のバランスを保とうとします。

その結果、気分は安定しやすく、「自分はこういう人間だ」という感覚、いわゆるセルフコンセプトもぶれにくくなります。 結局のところ、幸せな人は社会的比較そのものを問題にしているのではありません。比較にどう反応するかを選び、自己評価が揺れないように調整しているのです。

反対に、不幸を感じやすい人は比較情報に過敏に反応し、そのたびに気分や自己評価を揺さぶられることで、不幸感を自ら増幅させてしまっていると考えられます。 この「不幸を感じやすい人」は、「自己肯定感が低い人」と言い換えることもできます。自己肯定感が低いと、他者との比較が常に脅威になります。

逆に、自己肯定感がある程度保たれていれば、比較は単なる情報の一つにすぎません。つまり、健全な比較になるか、不健全な比較になるかを分けているのは、比較そのものではなく、自己肯定感の状態なのです。

とりわけ、日本人の自己肯定感は世界的に見ても低い水準にあると言われています。これは、多くの日本人が他者と比較することに、無意識のうちに強いストレスを感じやすい状態にあることを意味します。

だからこそ、「他人にどう思われているか」「自分は劣っているのではないか」といった思考が止まりにくくなります。それは個人の弱さではなく、環境と脳の使い方の問題なのです。

人が最も後悔を抱きやすいのは、教育、キャリア、恋愛、子育てといった分野だと言われています。いずれも、成長や変化の可能性が大きく、「あのとき別の選択をしていれば」という想像が膨らみやすい領域です。逆に、すでに変えられないと感じている領域では、後悔は生まれにくい傾向があることが、これまでの研究から分かっています。

たとえば、安定した家族関係や健康に関する後悔は、若い世代よりも高齢者のほうが少ないとされています。 年齢によって後悔の生まれやすさが変わるのは、人生の各段階で「まだ変えられる」と人が感じる範囲が変化するからです。若い頃は、教育やキャリアなど選択肢が多く残されている分、後悔も生まれやすくなります。

一方で、年齢を重ねるにつれて、「もう変えられない」と受け入れる領域が増え、その分、後悔は静まっていくのです。 また、後悔には時間的な性質の違いもあります。

コーネル大学のトーマス・ギロビッチとヴィクトリア・メドヴェックの研究によれば、行動したことに対する後悔は短期的に強く感じられる一方で、行動しなかったことへの後悔は、時間が経っても長く心に残りやすいことが示されています。やらなかった選択は、いつまでも「もしも」という形で思考の中に居座り続けるのです。

過去は「時間旅行」の舞台ではなく、成長のための足場とはいえ、「後悔がどうしても苦しい」「嫌な記憶にとらわれている」と感じたら、意識的に別の見方を試してみましょう。逆に、良い思い出を思い返し、それを自分の力として取り入れることもできます。こうした習慣は心の回復力(レジリエンス)を高め、より良い人生を歩む助けとなります。

とはいえ、過去は「時間旅行」ができる場所ではありません。どれだけ考えても、出来事そのものを書き換えることはできません。ただし、過去は成長のための足場として使うことはできます。それでも、「後悔がどうしても苦しい」「嫌な記憶に何度も引き戻されてしまう」と感じることは誰にでもあります。

そのときに必要なのは、無理に前向きになろうとすることではありません。意識的に、別の見方を試してみることです。 たとえば、その出来事から何を学んだのか、あの経験がなければ今の自分はどうなっていただろうかと、少し距離を取って眺め直してみる。そうするだけで、過去は自分を責める材料から、今を支えている背景へと意味を変えていきます。

逆に、良い思い出をあえて思い返し、「あのとき自分は確かに乗り越えた」「ちゃんとやれていた瞬間があった」と確認することも有効です。成功体験や温かい記憶は、思い出すだけで自己効力感を静かに回復させてくれます。

こうした視点の切り替えを習慣にしていくことで、心の回復力、いわゆるレジリエンスは少しずつ高まっていきます。過去にとらわれ続けるのではなく、必要な分だけ参照し、前に進むための材料として使う。その距離感を身につけることができれば、人生は確実に歩きやすくなります。

過去を変えなくても、過去との付き合い方を変えるだけで、未来の重さは大きく変わるのです。私もこのスキルを身につけることで、後悔との向き合い方が変わりました。

また、著者が指摘しているように、私たちが日々抱えている心配事のうち、実に97%は現実には起こらないと言われています。この事実を知るだけでも、未来との向き合い方は大きく変わります。多くの人は、まだ起きてもいない出来事に時間とエネルギーを奪われ、その結果、今この瞬間を消耗させています。

しかし、そのほとんどが現実化しないのだと分かれば、「考えるだけ無駄な時間」がどれほど多かったかに気づくはずです。 未来を考えること自体が悪いのではありません。問題なのは、起こらない可能性の高い不安に、あたかも確定事項のように心を支配させてしまうことです。

心配の97%が起こらないと理解できれば、未来は恐れる対象ではなく、準備が必要なときだけ向き合えばいいものになります。そうして浮いた思考の余白が、今できる行動や集中に向けられたとき、人生は自然と前に進み始めるのです。

本書は、「それはあなたの思考ではない【他人・評価編】」「思考はタイムマシンにならない【過去・後悔編】」「まだ起きていないことで苦しまない【未来・不安編】」「自分という迷路から出る【自己否定・抽象思考編】」「終わりの見えないループを止める【思考の泥沼編】」という構成で、「考えてはいけないこと」を体系的に整理しています。

そこで扱われているのは、他人からの評価不安、過去への振り返り、未来への不安、自己評価や自己対話、そして反すう思考という五つの思考パターンです。いずれも、考えれば考えるほど消耗し、人生を前に進めなくする典型的な思考です。本書では、これらを感覚論で語るのではなく、世界中の学術研究に基づいたものだけを厳選したうえで、「考えない方法」を再現性のあるスキルとして紹介しています。

さらに興味深いのは、本書がただ「考えるな」と突き放して終わらない点です。第6章では、「考えないこと」を減らしたその先に、あえて「考えたほうがいいこと」も提示されています。

すべての思考を否定するのではなく、考える価値のあるものと、考えるほど消耗するものを仕分ける。その線引きを意識するだけで、私たちは悩みに費やしていた時間を大幅に減らすことができます。そして、その余白にこそ、行動や集中、そして静かな幸福感が戻ってくるのです。 

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
株式会社INFRECT取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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