豊かな人だけが知っていること――時間貧困にならない51の習慣 (長倉顕太)の書評

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豊かな人だけが知っていること――時間貧困にならない51の習慣
長倉顕太
あさ出版

豊かな人だけが知っていること――時間貧困にならない51の習慣 (長倉顕太)の要約

「豊かな人だけが知っていること――時間貧困にならない51の習慣」は、忙しさの正体を「時間を埋める思考」にあると指摘します。時間を起点に、AIで生産性を高めて余白を生み、学習で視野を広げ、人とのつながりを築き、回復力と創造性を育てる構造です。今の時間の使い方を変えれば未来は変わる。余白を意図的につくることが、人生を動かす実践的な投資だと示しています。

「時間・能力・人脈・お金」という人生の4つの資産の使い方

私たちが考えるべきなのは 「時間という資産をどこに投資するか」 「どこに投資すれば最大のリターンが見込めるか」 なのです。 (長倉顕太)

多くの現代人は、忙しさを努力と取り違えています。予定が埋まり、通知に追われ、常に何かを処理している状態を「前に進んでいる」と錯覚しています。しかし冷静に振り返ると、数年前と立ち位置がほとんど変わっていない人は少なくありません。

時間を使っているつもりで、実際には時間に支配されている。この感覚に心当たりがあるなら、それは能力の問題ではなく、時間の設計を誤っているだけです。

豊かな人だけが知っていること――時間貧困にならない51の習慣のなかで、作家・プロデューサの長倉顕太氏が提示しているのは、まさにこの構造です。テクノロジーが進化し、効率化の手段がこれほど整っているにもかかわらず、人はなぜ忙しいままなのか。その答えは単純で、時間を増やす発想ではなく、時間を埋める発想で生きているからです。(本書の関連記事

年収や肩書きに関係なく、「時間がない」と感じている人は驚くほど多いのが実態です。お金は後から取り戻せますが、時間は取り戻せません。それにもかかわらず、多くのビジネスパーソンは、時間を最も安く扱い、最も雑に消費しています。その結果、努力はしているのに、人生の手応えだけが薄くなっていきます。

本書が前提としているのは、人生には時間・能力・人脈・お金という4つの資産があり、そのすべての起点が時間であるという考え方です。能力も人脈もお金も、時間の使い方の結果として生まれます。順番を間違えた瞬間に、どれだけ努力しても成果は積み上がりません。時間に投資せずして、人生が好転することはないという、極めて現実的な話です。

本書の中で、長倉氏が繰り返し強調しているのは、時間を「平等なもの」として扱わないという視点です。すべての時間を同じ価値で使おうとするから、忙しさから抜け出せなくなる。まず必要なのは、時間の質そのものを分けて考えることです。

時間を、「超・効率時間」と「非・効率時間」に分けるのです。「超・効率時間」には、生産性を上げ、時間を徹底的に短縮します。 今ならAIを使うことで、過去には想像もできないレベルまで生産性を上げることができます。生産性が2倍になればかかる時間は半分で済みます。その分、時間が余ります。その余った時間をなるべく「非・効率時間」に充てます。

長倉氏は、時間を「超・効率時間」と「非・効率時間」の2つに分けることを提案しています。超・効率時間とは、生産性を極限まで高め、できるだけ短時間で成果を出すための時間です。仕事の中で必ず発生する作業のうち、考えなくても進められるもの、仕組み化できるものは、ここに集約します。

この時間帯では、丁寧さよりも速さを優先し、完璧を目指さない。目的は、仕事を終わらせることではなく、時間を生み出すことにあります。 一方で、超・効率時間によって生まれた余白を、再び仕事で埋めてしまっては意味がありません。

そこで重要になるのが「非・効率時間」です。これは、すぐに成果を生まなくてもいい時間であり、何もしなくてもいい時間でもあります。一見すると無駄に見えますが、実はこの時間こそが、これからの時代に価値を生む源泉になります。 人と同じことを、同じやり方で、同じスピードで続けていても、差は生まれません。新しいアイデアやユニークな視点は、予定通りに動いている時間の外側から生まれます。

目的のない読書、ふと思いついて調べたこと、偶然の出会い。そうしたものはすべて、非・効率時間の中でしか起こりません。豊かな人生とは、成果を積み上げる人生ではなく、選択肢が増えていく人生です。その選択肢を増やすために必要なのが、意図的につくられた余白です。

この「超・効率時間で削り、非・効率時間で広げる」という発想があるからこそ、次に語られるAIの話が生きてきます。AIは、単に仕事を早く終わらせるための道具ではありません。非・効率時間を生み出すための、前提条件として位置づけられているのです。

私は実際にChatGPT、Gemini、Claudeを日常的に使い、自分の生産性を大きく引き上げています。ポイントは、どれか一つに依存することではありません。複数のAIを常に最新バージョンで使い分け、組み合わせながら使うことです。 文章の下書き、要約、構成整理、視点の補完、思考の壁打ち。これらをすべて自分の頭だけでやろうとすると、時間はいくらあっても足りません。

しかしAIを活用することで、思考の初速が一気に上がります。生産性が上がるというより、そもそもスタート地点が変わる感覚です。過去なら数時間かかっていた作業が、数十分で終わる。その差分が、確実に時間として手元に残ります。

ここで多くの人が間違えるのは、AIで浮いた時間を、さらに仕事で埋めてしまうことです。効率化の先にあるのは、さらなる忙しさではありません。時間の余白です。生産性が上がった結果として生まれた時間をどう使うかで、人生の質は決まります。AIは、働く時間を増やすための道具ではなく、考える余裕を取り戻すための道具です。

人生を変える51の習慣

「今」を変えれば「未来」は変わる。

人生の面白さは、どれだけ多くの偶然を取り入れられるかで決まります。その偶然を連れてくるのが「余白」です。予定で埋め尽くされた毎日には、偶然が入り込む隙がありません。余白があるからこそ、普段なら見過ごしてしまう情報が目に留まり、「少し気になる」「行ってみよう」「調べてみよう」という行動が自然と生まれます。

こうした小さな行動の積み重ねが、少しずつ視野を広げていきます。視野が広がると、判断基準が変わり、発想が変わり、選択肢が増えていきます。その結果、人と同じものを見ていても、まったく違う結論にたどり着けるようになります。これが「ユニーク」であるということです。

ユニークさは、生まれつきの才能ではありません。意図的につくった余白の中で、どれだけ偶然に身をさらしてきたか。その積み重ねの差にすぎません。未来は、特別な決断によって突然変わるものではなく、今この瞬間の時間の使い方によって、静かに形づくられていきます。

だからこそ、余白を持つことが重要です。 忙しさを減らすためではなく、人生の解像度を上げるために、あえて何も決めない時間を持つ。今日の時間の使い方を少し変えるだけで、入ってくる情報が変わり、考え方が変わり、行動が変わります。その小さな変化の延長線上に、これまでとは違う未来が生まれます。

私自身も、人生に意図的な余白をつくり、読書や散歩を習慣にしたことで、自分の人生を変えることができました。予定を詰め込むのをやめ、何もしない時間や考える時間を確保するようになってから、入ってくる情報の質が明らかに変わりました。本を読むことで他人の経験や思考を疑似体験できるようになり、それまで当たり前だと思っていた価値観が次々と書き換えられていきました。

その結果、行動の選択肢が増え、判断のスピードと精度が上がり、仕事の進め方そのものが変わりました。余白と読書は、気分転換のためのものではありません。今の時間の使い方を変えることで未来を変えるための、極めて実用的な投資だと実感しています。

本書の51の習慣では、習慣が明確な構造をもって整理されています。AI活用の習慣(1〜9)で「時間」を生み出し、学習・教養の習慣(10〜27)で「能力」と「視野」を広げ、人間関係の習慣(28〜35)で「つながり」という最強の資産を築く。そして、余白・リセットの習慣(36〜51)で「回復力」と「創造性」を育てていく。

この流れを見るだけでも、本書が人生全体をどう設計し直そうとしているのかがよく分かります。 たとえば「即レスを徹底する」という習慣。これは単なるスピード感の話ではなく、脳のメモリ管理の話です。未返信のメッセージは、目に見えないタスクとして思考を圧迫し続けます。

ボールを持ち続けないことで、判断力と集中力を取り戻す。即レスは、仕事を早く終わらせるためではなく、脳を空けるための戦略です。

「何もしない日をつくる」も同じ文脈にあります。スケジュールが埋まっていることを安心材料にしてしまう人は多いですが、それは同時に、チャンスを自ら拒絶している状態でもあります。本当に価値のある話や出会いは、予定の隙間に突然入り込んできます。その瞬間に動けるかどうかは、能力ではなく余白の問題です。何も入っていない時間を持っていることは、怠けではありません。むしろ、それ自体が豊かさの証です。

さらに印象的なのが、「異業種の人と会う」という習慣です。同じ業界の中に閉じこもっていては、発想はどうしても硬直していきます。異業種の人と対話することで、自分にとっては常識の外にある考え方が、容赦なく飛び込んできます。 その違和感こそが、思考を広げるきっかけになります。

自分の当たり前が揺さぶられることで、仕事の進め方や、時間の使い方そのものを見直す視点が生まれます。視野が広がれば、これまで無意識に選んでいた行動や判断にも、別の選択肢が見えてきます。 だからこそ、意識的に機会をつくることが重要です。

月に一度で構いません。まったく違う領域で生きている人と向き合い、話を聞く。その積み重ねが、思考の柔軟性を保ち、長期的には自分の市場価値を更新し続けることにつながります。

私自身も大学で教える立場にありますが、毎週学生と向き合う中で、多くの刺激を受けています。自分では思いつかない視点に触れるたびに、考え方や時間の使い方が更新されていく感覚があります。

本書では、このブログでもお馴染みの「感謝日記」をつけることや、ギバーとして振る舞うことも推奨されています。

51の習慣は、どれも派手ではありません。しかし共通しているのは、「時間を主語にして生きる」という姿勢です。安さより速さを選ぶ。買える時間は積極的に買う。無意味なコミュニケーションを減らす。これらは小手先のテクニックではなく、思想の問題です。忙しさを美徳とする価値観から降りない限り、時間貧困から抜け出すことはできません。

もし今、毎日予定は埋まっているのに、人生が前に進んでいる感覚がないのであれば、それは能力不足でも努力不足でもありません。時間への投資の仕方を、根本から見直すタイミングに来ているだけです。

AIを使って生産性を上げ、意図的に余白をつくる。その余白が、次の選択肢と偶然を連れてきます。時間を取り戻せば、人生は確実に動き始めます。私自身も、51の習慣の多くを実践することで、以前よりも豊かだと感じられる人生を送れるようになり、著者のアドバイスには強く共感しました。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
株式会社INFRECT取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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