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ハーバード・ビジネス・レビュー デザインシンキング論文ベスト10 デザイン思考の教科書
著者:ティム・ブラウン、ロジャー・マーティン
出版社:ダイヤモンド社
本書の要約
デザイン思考が様々なイノベーションを起こす源泉になってきました。デザインがリアルな人間のリアルな問題を解決でき、それは新たな経営戦略の立案にも使えるようになってきました。イノベーティブなプロダクトを出す場合にも、製品そのものをデザインするだけでなく、導入デザインを考えるようにすべきです。
デザイン思考でイノベーションを起こすステップ
新製品、なかでも革新的なものほど、経営陣にとってはゴーサインを出すのが大きな賭けになる。未知のものに対する恐怖心から新しいアイデアが潰されることは多い。だが素早い試作品づくりで、新製品チームは市場での成功に自信を持てるようになる。この効果は、複雑で実体をつかみにくいデザインであるほど重要性が増すことが判明した。(ティム・ブラウン、ロジャー・マーティン)
イノベーティブなプロダクトを世に問うことは、経営陣にとって大きなリスクになります。未知なるものへの恐怖心がイノベーションの芽をつむことが明らかになっていますが、経営者がデザイン思考を取り入れることで、それを解決できるようになります。新製品のプロトタイプをつくりフィードバックを得たり、導入ステップをデザインすることで、新たなマーケットを生み出せるようになります。(デザイン思考に関する参考記事)
ハーバード・ビジネス・レビュー デザインシンキング論文ベスト10 デザイン思考の教科書の中で、世界的デザインコンサルティング会社であるIDEOのCEOのティム・ブラウンとトロント大学ロットマンスクール・オブ・マネジメント教授のロジャー・マーティンは、デザイン思考がプロダクト開発だけでなく、経営にも影響を与えるようになったと指摘します。デザインがリアルな人間のリアルな問題を解決でき、それは新たな経営戦略の立案にも使えると2人は考えたのです。
企業戦略を立案する際、かつては社内もしくはコンサルタント会社のストラテジストを使って問題点を洗い出し、解決策を考えさせ、それを担当幹部に対して提案してきました。経営陣はその提案に対して以下のように答え、問題解決を先延ばしすることが多くなっていました。
①この解決策では、私が最重要だと考える問題を解決できない。
②私が洗い出しをしていれば、こうした問題は選ばない。
③私なら別のテーマを検討しただろう。
④この解決策には私を動かすほどの説得力がない。
4つの答えを用いることで、成功に必要な支援を経営者から得られず、企業は成長機会を失います。イノベーティブな新戦略を導入する場合には、経営陣を納得させるためのハードルはより高くなります。
ティム・ブラウンとロジャー・マーティンは、成功のためには、意思決定権者との対話を繰り返すべきだと言います。戦略デザイナーが担当幹部の元に前もって出向き、次のステップで質問と提案を繰り返します。数回の打ち合わせを通じて、担当幹部にコミットメントさせることが、戦略デザイナーの重要な仕事になります。
1回目のミーティングでの質問
●我々の見解では、これが解決すべき問題点だと思いますが、あなたの見方とどの程度一致していますか?
2回目のミーティングの質問
●前回あなたと我々で合意した問題点の洗い出しを前提にして、我々が検討したいと考えるテーマの候補はこれらです。あなたの考えていたテーマとどの程度一致していますか?
●前回何か我々が見逃しているテーマはありますか?
●前回あなたにとって検討に値しないと思えるテーマはありますか?
3回目のミーティングでの質問
●前回先日我々は、検討する価値があるテーマ候補について合意しました。それに基づき、我々はこのような調査研究を行うつもりです。あなたが我々の立場ならこれと同じような内容の調査研究を行うでしょうか?
●前回何か見落としているものはありますか?
これらの質問を繰り返し、経営幹部を味方にすることで、実際に新戦略を提案するという最終ステップは儀式と同様になります。新戦略にゴーサインを出す権限を持つ経営幹部は、すでに問題の洗い出しとテーマ候補の確認、そして調査研究内容の確定に関与しており、最終的に提案される新戦略に反対することはなくなります。導入のステップをデザインすることで、経営陣の関与を高められるのです。
新しい挑戦が組織や制度に変化をもたらす場合、たとえば新種の事業を立ち上げるとか、新しいタイプの学校を設立するなどの場合は、早い段階からの対話の対象範囲をさらに広げ、主要な利害関係者すべてを巻き込む必要がある。
新たな事業を起こす時には、戦略デザイナーは多くの幹部を巻き込み、納得させながら、事業を進めていく必要があります。デザイン思考を活用し、一つ一つステップを積み上げることで、経営陣だけでなく、顧客をも巻き込めるようになります。アイデア段階からプロトタイプをつくり、フィードバックを得ながら、新たなマーケットをつくるという発想をリーダーが身につけることで、経営改革のスピードもアップします。リーダーは組織のクリエイティビティを高めるサポートを積極的に行うようにすべきです。
イノベーティブなプロダクトの場合、導入するためのステップをデザインすることも重要になります。新しいコンセプトのプロダクトを発売する際には、いきなり全ての機能を盛り込むと、ユーザーから理解されないという失敗を犯すことになります。新しい製品は機能を絞って、リリースすべきです。デザイン思考をうまく使っているリーダーは、イノベーションのプロセスにも積極的に関与し、企業が顧客のために何をなすべきかを絶えず考えています。
優れたプラットフォーマーをデザイン思考を活用している!
ユーザーインターフェースの第一人者ビル・バクストンは、著書「ユーザー体験の概略をつかむ」において、アップルのiPodの成功には、3年間の準備期間があったことを明らかにしています。アップルはiPodの発売後も何度も機能やデザインに変更を加えています。賢いデザイナーは、自分の仕事がまずは、新しいプラットフォームを利用者に受け入れてもらうことであり、新しい特徴を加えるのはその後でいいと考えます。
iPodの当初の宣伝文句は「1000曲をポケットに」と極めてシンプルで、音楽プレーヤーとしての認知を優先しました。iTunesストアや写真、ゲーム、アプリといった機能は、まずユーザーがiPodというプラットフォームに慣れ、さらなる複雑さも受け入れられるようになった後で追加されました。そして、このプラットフォームがiPhoneに受け継がれることで、アップルは絶対的な存在になり、スマホという巨大なマーケットを創出します。
ジェフ・ホーキンスはPDA(携帯情報端末)の「パーム・パイロット」を開発した際、カレンダー、住所録、メモ帳の3つの機能に絞りました。機能がこの3つを超えると、ユーザーは最初からその複雑さにお手上げになるとホーキンスは考えました。時が経つにつれ、パーム・パイロットは徐々に多くの機能を搭載するようになっていきましたが、その頃には中核を成すユーザーたちはこのデバイスの使い方を十分に身につけていました。
デザイン思考の対象が戦略や大型システムに移ってくると、このように「市場投入とは、新しいコンセプトを世に送り出す全行程の単なる一段階にすぎない」と考えてみることがいっそう重要になるだろう。デザイナーは、デザイン対象となる人工物を市場投入する前の段階で、ターゲットユーザーやデザイン作業を管掌する意思決定権者と対話を重ねると、人工物の複雑さが増してくるという課題に直面する。(ティム・ブラウン)
革新的なプロダクトをリリース際、その導入ステップをデザインすることが、経営者とデザインチームに求められています。新たなコンセプトのプロダクトをリリースする際には、機能を特化し、ユーザーに受けて入れてもらうことを考えましょう。
早い段階でプロトタイプをつくってみんなに試してもらい、多様性に富む大勢のユーザー層からフィードバックを得ることがとても重要になります。製品そのものをデザインするだけでなく、導入デザインという考え方を採用することが、今後イノベーティブなプロダクトをリリースをする際に、不可欠な考え方になるはずです。リーダーがデザイン思考を身につけるか否かで、企業の成長スピードを左右します。企業を成長させるために、デザイン思考が重要なファクターになってきました。
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