変貌する生活者の欲求を捕え、DX時代の事業を設計する 生活者モード戦略の書評


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変貌する生活者の欲求を捕え、DX時代の事業を設計する 生活者モード戦略
著者:佐藤智施、大倉幸祐 
出版社:日経BP

本書の要約

テクノロジーの進化が生活者の欲求をわかりづらくしています。「生活者・物・情報のつながり」から生じる新しいタイプの欲求に応えるためには、モノではなくコトを提供することが必要になります。「生活者・物・情報のつながり」の中に商品やサービスを入れ込み、つながりを活性化させることが求められています。

マーケターが意識すべき「生活者モード」とは何か?

つながるテクノロジーによる経験の変化によって、「生活者のネットワーク」が、「物と情報が結びついた環境」を、「感覚的」に選び、受容するという、新たな経験が現れ始めた。これに伴い、欲求は、「個々の生活者の属性」だけに影響を受けて生じていたところから、「生活者・物・情報のつながり」にも影響を受けて生じるようになった。このような、「生活者・物・情報のつながり」に影響を受けて生じる欲求のうち、生活者自身も気づいていないものを、我々は「生活者モード」と定義している。(佐藤智施、大倉幸祐)

事業やマーケティングの戦略を策定するにあたって、「生活者の行動」という深層の動きを把握することが重要です。生活者はどのように動いているのか?なぜそのように動くのか?など生活者を突き動かす原理が見えなければ、マーケティングで結果を残すことができません。

博報堂に所属する著者たちは、テクノロジーによってつながる時代の新たな事業戦略やマーケティング、メディアサービスの研究開発を推進してきたそうです。そこから得られた知見が本書のテーマである「生活者モード」で、生活者の欲求に基づいた事業やマーケティング活動を行うことで、企業は成功に近づけます。

企業は生活者の欲求を見つけ、彼らの課題を解決するプロダクトやサービスを提供する必要がありますが、5GやIoTなどのテクノロジーが進化することで、「生活者を取り巻く状況」も変化しています。欲求は、「生活者・物・情報のつながり」から生じるようになりましたが、つながり方も変化し、生活者自身も自分の欲求に気づけなくなっています。

著者たちは、この「生活者・物・情報のつながり」から生じる、生活者自身も気づいていない欲求を、「生活者モード」と定義しています。

では、この生活者モードを、どう捕えればいいのでしょうか?以下のステップで生活者モードを見つけられるようになります。

①「モノ提供ビジネス」から「コト提供ビジネス」への転換
欲求が生活者を取り巻く状況から生じる現代においては、商品やサービスをモノとして提供するだけでなく、コトとして提供することが必要となります。

②「生活者モード戦略」の策定
「コト提供ビジネス」を実現し、生活者モードを捕えるためには、個々のビジネスアクションの指針となるビジネス戦略の構築が重要となります。様々な企業間の共存共栄の関係=エコシステムを構想し、実現可能にする絵図を描くことによって、この戦略を策定します。

③生活者モードを捕える新たなマーケティング
従来は、生活者個人と企業が提供するモノをマッチングさせることが、マーケティングの役割でしたが、コト提供ビジネスにおいては、生活者の多様な状況と、企業が提供するコトをマッチングさせることが、マーケティングの役割となります。マーケティングにおいても生活者モードを捕えることが重要になるのです。

④「デジタルロケーションマーケティング」の可能性
「コト提供ビジネス」における新しいマーケティング手法の一つとして、生活者の状況の中でも「時空間」に着目したデジタルロケーションマーケティングが有効と考えられます。

人間を生活者としてまるごと観察すると、一人ひとりが多面的な顔を持つことに気づけます。職場では「会社員」のビジネスパーソンは、家庭では「夫」であり、「父親」でもあります。プライベートの趣味の時間では、「地元のサッカークラブのサポーター」であったり、「友人同士で結成したバンドのメンバー」であったり、「皇居ランナー」であったりします。さらには「SNS利用者」や「映画好き」「ガーデニングが趣味」といった顔も持ちます。生活者の「顔」が変われば、そのときの欲求も変化します。生活者の顔は、生活を営みながら、その時々で変わっていくことをマーケターは忘れないようにしましょう。

5G IoT AIなどのテクノロジーによって、新たなつながりが生まれています。
1、「生活者同士をつなげる」
2、「物と情報をつなげる」
3、「生活者と物・情報をつなげる」

「つながる」テクノロジーの発展によって、新たな経験が生活者の問で増加している。そこでの欲求は「生活者の内部」から発生するのではなく、「生活者を取り巻く状況」から発生するのではないかと我々は考えている。

つながる時代に生活者の体験は変化しています。SNSやテクノロジーがつながりを広げ、生活者の態度を感覚的に変えています。テクノロジーが経験の主体、対象、経験の仕方を変えてしまうのです。

・経験の主体
「生活者個人」から、「生活者のネットワーク」に拡張

・経験の対象経験
「製品やコンテンツそのもの」ではなく、「物と情報が結びついた環境」を経験

・経験の仕方
「意識的」ではなく、「感覚的」に選択・受容

生活者モードはテクノロジーによって変化する「生活者のつながり経験」を注視することで見えてきます。テクノロジーやSNSでつながっている生活者は仲間のような存在となり、コミュニケーションもつながりを意識すべきです。購入経験もつながるテクノロジーによって大きく変化しているのです。

つながりを意識した「無人コンビニ600」とは?

生活者モードを捕えるためには、「生活者・物・情報のつながり」の中に商品・サービスを入れ込み、つながりを活性化させること、つまり、商品・サービスをコトとして提供することが必要なのである。

本書にはボヘミアン・ラプソディSpotify、化粧品プラットフォームの「NOIN」「スタディプランナー」などの生活者モードを捕えたケーススタディが紹介されています。今日はこの中から「無人コンビニ600」をピックアップしたいと思います。

「無人コンビニ600」は常温・冷蔵対応のショーケース型「無人コンビニ」で、欲しい商品をクレジットカードで決済することで、簡単に購入できます。

無人コンビニ600 席チカコンビニ篇15秒CM

「600」を設置するオフィスやマンションの要望に応じて品揃えが決まり、商品は在庫状況に応じて週1~2回程度補充されます。飲料や食品だけでなく、文房具や日用品も扱うなど、商品カテゴリーは広くなっています。商品にはID情報を埋め込んだRFIDタグが付けられており、消費期限や購買データが管理されているます。現在は都内中心に展開されていて、オフィスやマンションに約100台設置されています。

「無人コンビニ600」の設置が広がっている理由。

1、「半径50m、徒歩1分」圏内に設置されていて、欲しいときにすぐ買えるという利便性の高さ。
一般的にコンビニの商圏は半径500m、スーパーの商圏は半径5000mですが、「無人コンビニ600」は、コンビニの10分の1の規模の商圏で展開します。コンビニの10分の1という近さゆえ、商品の売れ方にもコンビニとは違う特徴があります。オフィスの従業員が忙しいときほど、移動時間を惜しむ社員が、無人コンビニ600で買い物をします。午前中はプロテイン飲料など「これから頑張ろう」という気持ちに応える商品が売れます。ユーザーは「自宅の冷蔵庫を開けるような感覚」で購入するため、同じ人が同じ時間帯に同じ商品を購入する傾向がみられます。

2、「無人コンビニ600」がコミュニケーションのハブになっている。
「無人コンビニ600」がオフィスでいえば勤務スペースの真ん中、マンションならばロビーやカフェスペースなど交流の場に設けられています。この点で、奥まったスペースに置いてあることの多い自動販売機とは異なります。生活者のつながりの中に商品を入れ込むことで、今までのコンビニとは異なる売れ筋が生まれています。運営会社の600の代表取締役、久保渓氏の言葉を引用します。

マンションでは、子育て世代の方が幼稚園などのお迎えの後に、ロビーやカフェスペースで井戸端会議をよくするようですが、その際にコーヒーを飲んだり、お菓子を食べたりするようです。コーヒーカプセルやクッキー、ドーナツなどがよく売れます。オフィスだと、600の周りでスナックを食べながら簡単な会議をすることもあるようです。また、違う部署の人たちが集まって情報交換をする場にもなっているようです。マンションのケース、オフィスのケースともに、600の周りに人が集まってくる。600がコミュニティ形成に携わっていると言えるのではないでしょうか。(久保渓)

3、コンシェルジュサービス
ユーザーがLINEやSlackなどのチャットツールを通じて、600のスタッフである「コンシェルジュ」に対して、品揃えなどの要望を伝えられます。ユーザーからは、例えば炭酸飲料ならば、炭酸の強さ、フレーバーなど細かなスペックにこだわった要望が届きます。600はそれを受けて、品揃えを調整します。

コンシェルジュとオフィスのユーザーたちとの問で、商品のリクエストやそれに対するレコメンドがやり取りされることで、無人コンビニの品揃えは、設置されたオフィスやマンションのユーザーが求めるものに動的に変化していきます。久保氏は生活者の商品リクエストについて以下のように説明します。

花粉症の時期ならマスク、暑くなったら炭酸水といった季節商品のリクエストが基本としてある。他にも個別の事情が多数寄せられ、例えばオフィスであば、『仕事がうまく行ったときのご褒美に』と、高級チョコレートがリクエストされ、納入したこともあります。1房2700円のマスカットがリクエストされたときは、『みんなで食べて楽しかった』とのフィードバックもありました。600の周りに集まった人たちのコミュニケーションから要望が具体化していくことも多いようです。また、『社内のチャットで、この商品が話題になった』と、ユーザーからスクリーンショット入りで連絡をもらうこともあります。マンションではコーヒーに合わせたお菓子類の要望をいただくことが多いですね。

オフィスの従業員たちは、社内のチャットツールや、SNSのグループなどを通じてネットワーク化しています。従業員のネットワークでは、それぞれが取り組む仕事の内容や、従業員たちの個人的なニュース、ちょっとした世間話まで、様々なテーマで情報がやり取りされ、つながりが活性化されています。

「オフィスで働く」という経験は、テクノロジーの影響を受けて経験の主体、対象、仕方の観点で以下のように変化しています。
■経験の主体 
オフィスという時空間を共有しながら、ネットワークでもつながった従業員たちが主体になっています。

■経験の対象
現代のオフィスは、仕事をするただの物理的空間ではなくなってきています。オフィス管理システムの導入により、従業員は物理空間と情報システムが結びついた働く環境を経験しています。

■経験の仕方
テクノロジーによって、オフィスにはより多くの物や情報が届くようになっています。そのようなオフィスで働く忙しい従業員たちは、大量の物や情報の中から一つ一つ商品をチェックする時間はありません。物や情報の多くは、感覚的に選ばれていきます。

オフィスで働く従業員たちの欲求は、この生活者・物・情報がつながっている「オフィスで働く状況」から発生します。無人コンビニ600は「オフィスでのかすかな感情の機微に応えてくれる何かが欲しい」という欲求に応えているのです。

「SNSのグループへの投稿で同僚に子供ができたと知ったから、お祝いにちょっとしたお菓子を渡したい」「5分後に来客が会議室に到着するという通知がきたから、もてなしのためにおすすめの飲み物を持っていって迎えたい」などのオフィスの状況から発生したかすかな感情の機微をくすぐることで、オフィス内コンビニは繁盛します。

その心の揺れ動きにマッチした商品をその場で提供する小売りサービスは意外に少なく、その隙間を無人コンビニ600がうめたのです。ネット通販では、注文はすぐにできますが、商品が届くまで時間がかかります。コンビニに行くには、500m程度歩く時間がかかります。その頃には、湧き起こった感情はどこかに流れ去ってしまうのです。

「無人コンビニ600」は、社内コミュニティで話題になるような無人の売り場をオフィスの真ん中に設置し、さらにコンシェルジュサービスによる商品のリクエスト対応やレコメンデーションサービスによって、売り場の商品を動的に変化させていくことで、そのような欲求を見事に捕えている。

つながるテクノロジーによって変化した新しい経験の裏には、その経験においては、「生活者・物・情報のつながり」に影響を受けた、生活者自身も気づいていない欲求「生活者モード」が生じています。企業はその欲求を見つけ、「生活者・物・情報のつながり」の中に商品やサービスを入れ込み、つながりを活性化させることで、成功できるようになります。生活者との接点となるつながりを強化するプラットフォームを企業自ら作ることで、生活者から支持され、SNSで話題にされるようになるのです。

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