社長! ホントにやっちゃって、いいんですか??-社員の「やりたい」を叶える〝夢応援〟経営
田中恵次
Clover出版
本書の要約
経営者が社員のやりたいことを応援することで、会社がワクワクな空間に変わります。新規事業が生まれるだけでなく、働きやすい環境をつくれるのです。経営者は社員のやりたいことに耳を傾けましょう!失敗を恐れず、社員の妄想を否定しない、チャレンジする環境を生み出すことで、閉塞感の漂う組織を強くできます。
社員の幸せを何より大切にする「要」とは?
僕は、社員が自分の夢を叶え、世の中全体にハピネスを広げるために『要』を使ってほしいと思っています。(田中恵次)
本書の著者の田中恵次氏は、私の経営者仲間なのですが、彼に会う度にエネルギーをもらえます。いつもワクワクしていて、笑顔が絶えません。その田中氏と私には、依存症から復活したという共通点があります。私は44歳までアルコールに苦しみ、自分の人生を生きられずにいました。その後、断酒を決め、人生を取り戻すことができました。
田中氏は私よりもはるかに厳しい体験をしています。彼はギャンブルにハマってしまい、私生活をボロボロにします。壮絶な体験を経て、日々もがき苦しみながら、必死に自分を改善していきます。
僕は32歳で依存症の専門医にギャンブル依存症と診断され、そこから自助グループに通っていました。ギャンブルにはまりすぎて、貯金を使い果たすどころか、妻に借金を肩代わりしてもらったことが何度もあるのです。
その後、田中氏はギャンブル依存症から立ち直ることで、自分の道を発見します。リーマンショック後、完全にギャンブルとのつながりを断つために公営ギャンプルの開発を行なっていた会社を去り、起業を選択します。貯金のない田中氏は奥さんに頭を下げ子供の学資保険を解約し、2010年株式会社要を設立します。その後、ワクワクなメンバーとの出会いを通じて、社員の夢を応援することが自分の経営者としての役割だと気付きます。
要はSESを主体にした開発会社ですが、起業時には特にビジョンがなかったと言います。エンジニア主体の会社に大きな変化が訪れたのが、ディズニーランドのジャングルクルーズの船長を採用したタイミングでした。ディズニーでキャストの教育経験があった船長は、そこで学んだ教育プログラムをIT分野で生かしたいと入社してきました。
船長は飲み会の席で、「今のままでは10年後だめになる、次に繋がらない! 僕は要を大きくしたい!」と田中氏に詰めよります。良い会社にしたいという彼の熱意に負け、未経験者を採用し、船長に教育を任せました。プログラミングを外部研修で学んでもらい、社内の研修は船長が行うことで、社内の雰囲気が代わり、未経験者の採用が活発になっていき、会社の雰囲気がよくなったと言います。
自身が失敗から立ち直ることができたことへの恩返しの意味もあり、IT未経験者や人生に一度つまずいた人材、元ギャンブル依存症などの人たちを積極的に採用していきます。失敗した人ともに夢を追い求める「要」というワクワクな場所を生み出しています。
人間性を重視した採用とディズ二―流の教育によって、会社はどんどんよくなっていきます。ディズニーランド出身のメンバーが増えることで、会社を楽しい職場に変わり、その中で夢を実現しようとしたいという社員も現れます。
妄想が世の中を変える!
妄想はビジョンにも通じます。例えば、小学校の授業で朝10分だけでも未来のビジョンを描いてみる時間があったら、どれだけ選択肢の多様性が生まれ、どれだけ多くの悩める子が救われ、どれだけ多くの子が夢に向かって努力し始めるでしょう?あるいは、企業の商品開発に用いていったら、どれだけ革新性のある商品・サービスが生まれるでしょう?
株式会社ウサギ代表取締役/おもちゃクリエーターの高橋晋平氏のアイデアから、「妄想商品マーケット」のMouMa(モウマ)という新サービスが生まれました。19文字以内で自分の妄想を言語化し、アイデアに好きな値段をつけてを出品することで化学反応が起こります。誰にも気兼ねしない、自分らしい妄想をシェアすることで、誰かが自分のアイデアを認めてくれ、購入ボタンをクリックしてくれます。そのアイデアからインスピレーションされ、新たなアイデアが生まれることもあります。
MouMaというアイデアを生み出す妄想サービスが普及すれば、イノベーションが生まれづらいと言われる日本企業からも面白いアイデアが生まれてくるはずです。アイデアを否定しないという要の組織文化が生み出したMouMaが、閉塞感漂う日本の社会に変化をもたらしてくれそうです。
日本の大企業がMouMaを活用し、他者の意見を否定しない文化を築ければ、自由闊達な意見が巻き起こり、イノベーションがもっと起こるはずです。お互いの妄想を認め合い、切磋琢磨することで企業は強くなれるのです。
面白い人間に面白いことをやらせていると、世の中のもっと面白い人につながっていき、アイデアや妄想のネットワークによって新しいものが生まれ、世の中が変わっていくということなのだと思います。
田中氏は数年前にプログラマーのネパール人を採用しました。彼のネパールに貢献したいというビジョンを聴くうちに田中氏は心を動かし、遂にはネパールを視察します。彼のエンジニアとしての成長を待っているとネパールへの貢献が遅れると考えた田中氏は、なんとIT事業とは程遠いコーヒー事業をスタートします。ネパールのスペシャリティコーヒーを輸入・販売することを新規事業にし、彼に成長を促したのです。
母国の役に立ちたいという思いから、生まれたヒマラヤンコーヒー事業がこの数年で軌道に乗ってきたと言います。実際、収益の一部をネパールの子供達の学びの支援に使っています。貧困に苦しむネパールの女性の就業や子供達の教育機会を増やすことが、社員のパッションから実現しました。
今後はコーヒー栽培にデジタルの技術を組み合わせ、自社の新しいサービスを生み出すことを考えていますが、その前に彼の夢を実現することにフォーカスしたのです。社員が「やりたい!」と提案すれば、様々なことにチャレンジできる環境が要にはあるのです。
失敗を恐れずチャレンジする環境を生み出すことの重要性を本書から学べました。経営者が社員のやりたいことを応援することで、会社がワクワクな空間に変わります。新規事業が生まれるだけでなく、働きやすい環境をつくれるのです。経営者は社員のやりたいことに耳を傾けましょう!
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