MEGATHREATS(メガスレット)世界経済を破滅させる10の巨大な脅威
ヌリエル・ルービニ
日経BP、日本経済新聞出版
本書の要約
気候変動によるダメージはすでに今日の問題であって、遠い未来の話ではありません。これ以上先延ばしをすると激甚災害が頻発すると予測されています。気候変動が貧困と紛争をもたらし、沿岸部からの移住だけでなく、難民も増加しています。気候変動こそが人類にとっての最大のリスク(メガスレット)なのです。
人類がコントロールできない地球温暖化のリスク
繁栄をめざして200年にわたって続けられてきた人間の活動が生態系を破壊して気候変動を引き起こしたと言っても、 もはや誰も驚くまい。(ヌリエル・ルービニ)
ヌリエル・ルービニのMEGATHREATS(メガスレット)世界経済を破滅させる10の巨大な脅威の書評ブログを続けます。2008年のリーマンショックを予言した経済学者ヌリエル・ルービニ(破滅博士)は、今までの常識とは異なる「巨大な脅威」が迫っていると警鐘を鳴らしています。
■10の巨大な脅威(MEGATHREATS)
・積み上がる債務
・誤った政策
・人口の時限爆弾
・過剰債務の罠とバブル
・大スタグフレーション
・通貨暴落と金融の不安定化
・脱グローバル化
・人工知能
・米中新冷戦
・気候変動
気候変動の脅威は、人がコントロールできる問題ではなく、それを解決するためには、国際協力、とりわけ大国の協力が必須です。しかし、米中間の地政学的対立がそれを拒み、地球温暖化が進んでいます。気候変動を単独の問題として扱うことをやめ、他の巨大な脅威と連動して問題解決を図るべきです。
政府間パネル(IPCC)の2021年8月の報告では、温室効果ガス(GHG)の排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に地球温暖化は摂氏1.5度から2度上昇すると言います。今年の春の別のレポートでは、それがここ5年以内に起こると指摘され、温暖化のリスクが高まっています。「人類はこの報告を無視することもできますが、何か行動することもできるはずだ」と著者は述べています。
クライメート・アクション・トラッカーによると、今のペースが続くと2030年までに温室効果ガス排出量を半分に減らし、今世紀半ばまでに完全な脱炭素を実現するという目標は達成できないことが明らかにされました。
ピュリッツァー賞を受賞したエリザベス・コルバートは、平均気温を目標圏内に維持しようとすれば大規模な混乱は避けられないと警告します。そのためには以下のアクションをすぐに行うべきだと言うのです。
・農業システムの刷新
・製造業の全面改革
・ガソリン車とディーゼル車の廃棄処分
・全世界の発電所の大半の転換
この温暖化を放置すると沿岸に住む多くの人々が、移住をしなければならなくなります。
海水は温まると膨張する。南北両極の氷の溶解を計算に入れないとしても、海は地球表面の三分の二を覆っているのだから大問題だ。海岸線のいたるところで海が陸地を浸食することになる。そして、人口や重要施設が 密集しているのは、まさにこの海岸地帯なのである。
アメリカ海洋大気庁(NOAA)のデータによると、アメリカ人の10人に4人は沿岸部の人口密集地帯に住んでいます。こうした地域が洪水、海岸線浸食、大型ハリケーンの影響を受け始めています。国連の海洋地図によると、世界の10大都市のうち8つは危険な沿岸部またはそれに近い土地にあるのです。
大気温の上昇はグリーンランドと南極大陸を覆う氷床に深刻な影響を与えており、どちらも空前のペースで溶けています。グリーンランドだけで1992~2001年に毎年340億トンの氷が失われました。その後2016年までに毎年2470億トンが溶けてしまったのです。この数十年で七倍以上のペースで氷が溶けているのです。
海面が上昇して河口を遡行すれば、生態系に重大な影響をもたらす。とりわけ懸念されるのは、飲料水や灌概用水として欠かせない地下水脈に、塩水が多孔質の岩から滲出する事態だ。
エジプトの農作物の多くが耕作されているナイル・デルタ地帯にとって、広範囲の浸食と塩水の浸入は大打撃になります。エジプトには耕作に適した土地がほかにほとんどなく、温暖化が進むと国民は大打撃を受けます。ガイアナ、モルディブ、ベリーズ、スリナムなどの開発途上国は、壊滅的なリスクに直面しています。
また、タイ、バーレーンでは、都市部の人口の100%が海抜10メートル以下の土地に住んでいます。温暖化が進むことで、経済開発と成長がストップするだけででなく、都市部が居住不能になる可能性が高まっています。これ以外にもアメリカのマイアミや中国の沿岸部などが海面上昇のリスクに晒されています。
気候変動と激甚災害(旱魅、山火事、砂漠化、洪水、大型ハリケーンや台風)の頻発との関連性を裏付ける科学的データも積み上がってきました。
気候変動がもたらす未来のリスクとは?
気候変動によるダメージはすでに今日の問題であって、遠い未来の話ではない。
アメリカ全土で、人々は温暖化によって日常生活に支障を来すようになってっています。大気と海水が温まれば、猛暑と暴風雨、竜巻がこれまで以上に多くの場所で頻発するようになります。実際、オレゴン州セーラムでは、従来の記録より6度も高い観測史上最高の摂氏47度を記録しています。猛暑で空気が乾燥すれば、山火事(森林火災)が頻発するようになります。
今後50年以内に沿岸部では浸水が日常的に起き、また南部では広い範囲が暑過ぎて住めなくなると言われています。かなりのアメリカ人が中西部の北の方かカナダへの移住を余儀なくされる可能性が高まっています。グリーンランドか南極大陸の氷床が崩落し、海に溶ける事態となれば、沿岸部の住民が移住する時期はもっと早まる可能性があります。
気候変動が原因で、多くの国が立ち行かなくなるだろう。
森林は砂漠と化し、水の供給は途絶え、農業は安定した収穫が見込めなくなって家畜や地域社会を養えなくなります。結果、食料と水をめぐる争いが頻発するはずです。
こうした紛争がこの20年間にシリアさらには中東全域とアフリカ大陸の大半で起き、数多くの国が被害を被りましたが、今後、気候変動が進行すれば、こうした事態は一段と悪化します。実際、過去数十年にわたるアラブとイスラエルの紛争の原因の一つが、ゴラン高原の水利権にあるのです。
紛争と極貧に苦しむ人々は、かつてない規模で移住を始めます。経済が破綻し生計を立てる手段を失って、億単位の飢えた人々が国を離れようとすると著者は指摘します。
大気温が摂氏3~4度上昇するという最悪のシナリオでは、環境難民は数十億人とは言わないまでも数億人規模には達すると著者は述べていますし、エコノミスト誌も2021一年の特集で摂氏3度の温度上昇で世界に安全な場所はなくなるという記事を書いています。
COP21で先進国は大気温の上昇摂氏2度以下に抑えるための温室効果ガスの排出削減対策を行うと約束しましたが、これは自由意志による協定でしかなく、目標未達の場合の罰則がないために遵守されない可能せが高まっています。地球規模でフリーライド(タダ乗り)が起き、真面目に取り組む国がバカを見てしまうのです。
人口の多い中国やインド、他の新興国の排出量は今後10年間増え続けると予想されています。減少に転じることがあるとしても、2030年以降になります。彼らは気候変動の原因は先進国にあると主張し、自らの成長を優先します。
温暖化防止には莫大なコストがかかりますが、誰もこれを負担したくなく、先送りが行われています。2021年のCOP26ではパリ協定の気温上昇を1.5度に抑えるという目標実現に向けた進展はなかったのです。先進国は約束破りの常習者になることで、地球温暖化を防げずにいます。気候変動こそが人類にとっての最大のリスク(メガスレット)なのです。
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