ナッジが人々の行動変容を起こす理由。NUDGE 実践 行動経済学の書評

red yellow and green trash binsNUDGE 実践 行動経済学
リチャード・セイラー,キャス・サンスティーン
日経BP

本書の要約

ナッジとは 親ゾウが、子ゾウの背中を鼻でちょっと押すように、 強制や禁止をせずに本人の「よりよい選択」を後押しすることです。自分と同じような人たちや信頼する人たちから行動を起こすように求められたり、多くの人が自分とは異なる行動をしているというナッジを与えることによって、人びとの行動変容を起こせます。

ナッジがテキサスのゴミを減らした理由

ナッジに社会的影響と社会規範を使うなら、自分と同じような人たち、そして自分が信頼する人たちから学び、同じように行動するように呼びかけるよがよさそうだ。(リチャード・セイラー,キャス・サンスティーン)

リチャード・セイラー,キャス・サンスティーンNUDGE 実践 行動経済学書評を続けます。著者の2人は行動経済学、特にナッジ理論を普及させた功労者として有名です。リチャード・セイラーは2017年にノーベル経済学賞を受賞しています。

ナッジとは 親ゾウが、子ゾウの背中を鼻でちょっと押すように、 強制や禁止をせずに本人の「よりよい選択」を後押しすることです。

自分が信頼する人からメッセージを受けることで、行動習慣を変えることができると著者らは指摘します。テキサスでは幹線道路に散乱するゴミを減らす取り組み(大々的な広告キャンペーン)を進めていましたが、なかなか改善できずにいました。

広告のコピーは「ゴミの投げ捨てをやめるのは市民の義務だ」というありふれたものでした。しかし、この官僚的なメッセージはゴミを投げ捨てる若者には全く響きませんでした。

そこで、反応の鈍い市民層にピンポイントでターゲットを絞り込み、アメフトチームのダラス・カウボーイズの人気選手たちに協力を求めて、テレビCMをつくったのです。選手たちがゴミを拾い、ビールの空き缶を素手でつぶし、「テキサスを汚すな!」というコピーで男性若者層に訴求しました。ウィリー・ネルソンなどの人気シンガーの別バージョンも制作し、ゴミを捨てる人たちに行動変容を求めました。

「テキサスを汚すな!」はステッカー、シャツ、マグカップなどのグッズにもなり、キャンペーンの認知は一気に高まりました。結果、テキサス州のゴミの量が1年間で29%も減ったのです。また、テキサス州の道路に捨てられるゴミは、6年間で72%減っています。テキサスのゴミは命令や脅しや強制によって減ったのではなく、すべて創意あふれるナッジを通じて起こったのです。

古い社会慣習を打破するナッジとは?

多元的無知とは、集団の全員、あるいは大半の人が、ほかの人がなにを考えているか知らない状況をいう。私たちがある慣習や伝統にしたがうのは、好きでやっているからでもなければ、それを正当化できると考えているからでもなく、ただ単に、ほかのほとんどの人はそれが好きでやっていると思い込んでいるからだろう。

数多くの社会的慣習が多元的無知から続いています。適切なナッジを与えることで、ダメな社会や慣習を打破できます。旧ソ連圏の共産主義がそれが続いたのは、その体制をどれだけ多くの人が嫌っていたか気づいていなかったからだと著者らは指摘します。多くの人が自分と同じように政権への不信感を持っていると気づいたことで、自分の意見を発信することで、ソ連という大国が崩壊していったのです。

アンデルセンは『裸の王様』で「社会的なナッジ」を的確に表現しています。遠慮のない子どもが「王様は裸だ」と大きな声で言うと、それを見ていた人たちは突然、自分もそう言ってよいのだと感じ、権威者である王様への態度を変えてしまったのです。

劇的な変化が生まれて、長く続いた慣習が拒否されるようになるときは、ナッジによって一種の「カスケード現象」や「バンドワゴン効果」が生まれます。ほかの人がほんとうはどう考えているのかがわかることで、自分自身の考えや意見を述べていいとわかり、行動を変えていくのです。

「ゲイの結婚」「#MeToo」「#BlackLivesMatter」はソーシャルメディアで拡散し、今まで長く沈黙を強いられてきた人たちが、情報発信を開始しました。「憤りや怒りを表明してもよい、そうする勇気をもたなければいけない」という気持ちになることで積極的に行動を起こしたのです。

これまで固く口を閉ざし、1人で苦しみ、傷つき、怒りにふたをしてきた人たちが、突然「声を上げてよい」と感じたことでカミングアウトする人が増えたのです。周りのマイノリティや被害者の数が増えることで、世の中の認識が変わったのです。

選択アーキテクトが「行動を変えさせたい、ナッジを使ってそうしたい」と思っているなら、「ほかの人がどう考えているか、どうしているか」を人びとに伝えるだけでよいかもしれない。ほかの人たちの考えや慣習が驚くようなものであったりすると、それに強く影響される。

ナッジによって税金の徴収率が上がることも明らかになりました。ミネソタ当局は納税者を4つのグループに分けて、以下の4種類の情報を与えました。  
1、自分たちが納めた税金は、教育、防犯、防火など、さまざまなよい仕事に使われていると伝えられた。
2、税金を納めないとこんな罰則があると脅かされた。
3、納税申告書の書き方にとまどったり、 よくわからないことがあったりするときにはどこに問い合わせればよいか、という情報を与えられた。
4、ミネソタ市民の9割以上がすでに税法に基づく義務を完全に果たしていると教えられた。

納税には4のメッセージが最も効果があったのです。メディアなどで脱税の情報が流れることで、多くの人が税金を払っていないと考えた人が事実を知ることで、税金の支払いに応じたのです。

多くの人が正しいことを行っているというナッジによって、人びとの行動変容を起こせます。自分の行動が他者とは異なっていると気づくこと、そういった空気をつくることで、多くの人が正しい選択をするようになるのです。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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