チームレジリエンス 困難と不確実性に強いチームのつくり方
池田めぐみ、安斎勇樹
日本能率協会マネジメントセンター
チームレジリエンス (池田めぐみ、安斎勇樹)の要約
心理的安全性が根付いた組織では、「集合天才」と呼ばれる多様なスペシャリストの採用が進みます。社内外の専門家が協力し、失敗を恐れず新しいアイデアや革新的な解決策を追求します。この積極的な課題解決の姿勢は、安心して挑戦できる環境から生まれるのです。組織の成長と革新を支える重要な要素といえるでしょう。
集合天才には心理的安全性が欠かせない理由
チームは自分たちだけで解決できない課題に直面することもあります。(池田めぐみ、安斎勇樹)
チームが直面する課題は多岐にわたり、その中には自力での解決が困難なものも少なくありません。そんな時、集合天才の概念を取り入れることで課題を解決する手助けができます。
この「集合天才」という考え方は、チームの潜在能力を最大限に引き出すための革新的なアプローチです。リンダ・A・ヒルらは、『「集合天才」とは一人の天才の出現に頼らず、組織のメンバーの才能を集めることでよい結果を出そうという考え方だ』と言います。(8月6日発売の最強Appleフレームワークでもこの集合天才を取り上げています。ぜひ、ご一読ください。)
この集合天才の概念は、Googleが短期間で急成長を遂げた要因の一つでもあります。ゼネラル・エレクトリックの創始者であるエジソンも、一人の天才に頼らず、多くの人々の才能を結集することで数々の発明を成し遂げました。集合天才が機能するためには、個々の才能や情報が有機的に結びつく環境とプロセスの構築が必要です。
Googleの元バイスプレジデント、ビル・コフランは、継続的なイノベーションを生み出す組織の構築を目指し、集合天才のリーダーシップの重要性に気づきました。彼はリーダーの役割を「新しいアイデアを生み出す意欲があり、また実際に生み出せる共同体をつくることだ」と定義し、リーダー育成に力を注ぎました。
才能豊かな人材が集まる企業でリーダーとして行動する際、リーダーはメンバーの「天才の片鱗」を引き出し、それを集合天才と呼ばれるイノベーションにまとめ上げる役割を果たします。問題は「いかにイノベーションを引き起こすか」ではなく、「イノベーションが起こる舞台をいかに設定するか」が重要なのです。
心理的安全性が確立された組織では、社員が課題解決に積極的に取り組むようになります。従来の方法にとらわれず、新しいアイデアを提案したり、革新的な解決策を模索したりすることができるのです。これは、失敗を恐れる必要がないという安心感から生まれる姿勢です。
さらに、心理的安全性は社内外のスペシャリストとの協力を促進します。組織内で自由なコミュニケーションが行われることで、異なる部署や専門分野の知識を持つ人々が協力しやすくなります。また、外部の専門家に相談することへの抵抗も減少し、より幅広い視点や専門知識を取り入れることが可能になります。
このような環境は、「集合天才」と呼ばれる現象を生み出す土壌となります。集合天才とは、個々の才能が組み合わさることで、個人の能力の総和以上の成果を生み出す状態を指します。心理的安全性が確保された環境では、それぞれの強みを発揮しやすく、互いの弱点を補い合うことができます。
集合天才の核心は、多様な背景や専門性を持つ個人が、オープンで建設的な環境の中で協働することにあります。この環境下では、各メンバーの独自の視点や知識が尊重され、相互に刺激し合うことで、個人では思いつかない革新的なアイデアや解決策が生まれます。特に複雑な問題に直面した際、このアプローチの効果は顕著です。
例えば、ある技術企業が新製品開発に取り組む場合、エンジニア、デザイナー、マーケティング専門家、顧客サービス担当者が一堂に会することで、技術的な実現可能性、ユーザビリティ、市場性、顧客ニーズを総合的に考慮した解決策が生まれます。
集合天才のアプローチを採用することで、組織にはいくつかの具体的な効果が期待できます。まず、イノベーションの加速が挙げられます。多様な視点の融合により、従来の枠にとらわれないアイデアが生まれやすくなるためです。次に、問題解決能力の向上が期待できます。
複雑な課題に対して、多角的なアプローチが可能となり、より効果的な解決策を見出せるからです。 また、リスク管理の改善も重要な効果です。多様な経験と知識を持つメンバーが協力することで、潜在的なリスクを早期に特定し、対策を講じることができるのです。
さらに、学習と成長の促進も見逃せません。メンバー間の知識共有が活発になり、チーム全体の能力が継続的に向上するためです。 そして、柔軟性と適応力の強化も大きなメリットです。内部リソースと外部専門家の知見を組み合わせることで、変化する環境にも迅速に対応できるからです。
このような集合天才のコンセプトと効果を踏まえると、チームの成功には内部の結束力と外部リソースの効果的な活用が不可欠であることがわかります。この2つの要素を巧みに組み合わせることで、真の「集合天才」が生まれます。
頼れるリストが課題解決やイノベーションに重要な理由
ジョージ・アリガーらの研究は、チームレジリエンスを高める具体的な方策を提示しています。彼らが提唱する「頼れる人のリスト」は、単なる連絡先リスト以上の戦略的ツールです。このリストには、各専門家の具体的な専門分野や連絡可能な時間帯といった詳細情報が含まれます。
Googleの元人事部門責任者であるラズロ・ボックの言葉、「心理的安全性は、高業績チームの最も重要な特性である」は、この文脈でさらに深い意味を持ちます。心理的安全性は、チーム内部だけでなく、外部の専門家との関係性にも適用されるべきです。チームメンバーが躊躇なく外部の助けを求められる環境を作ることで、問題解決の幅が大きく広がります。
私は「集合天才の頼れるリスト」を作成しています。財務や資金調達、デジタルマーケティング、PR、AI、組織戦略などのプロフェッショナルとの関係を構築しています。
アリガーは、このリストの有効性は維持と更新に大きく依存すると述べています。私もいくつもの企業で社外取締役やアドバイザーをつとめていますが、このネットワークから新たな出会いをデザインしています。また、書評ブログを書くことで、著者から直接学びを得ることで、課題を解決できるようになりました。
この「頼れる人のリスト」戦略を実践することで、チームの問題解決能力が大幅に向上し、より効果的な業務遂行が可能になるのです。外部の知恵を積極的に活用する文化を醸成することが、現代のビジネス環境では不可欠だと言えるでしょう。
マイクロソフトのCEO、サティア・ナデラの言葉、「すべてのイノベーションの源泉は、すべての人が備えるもっとも人間的な性質、すなわち共感だ」は、外部専門家とのネットワーク構築にも当てはまります。外部の専門家との関係性を単なる取引的なものではなく、互いの価値を理解し合う関係に発展させることで、より深い洞察と創造的な解決策が生まれる可能性が高まります。
この共有の文化は、心理学者エイミー・エドモンドソンが主張する「チームの学習能力の向上」にも直接的に寄与します。 自チームの限界を認識し、適切なタイミングで外部の専門家に助けを求めることは、決して弱さの表れではなく、むしろイノベーションへの道を開く強さの証だと考えましょう。
真の「集合天才」は、チーム内部の心理的安全性と外部専門家との効果的なネットワーク構築の両立から生まれます。ジョージ・アリガーの研究が示すように、「頼れる人のリスト」を戦略的に作成し維持することは、この両立を実現する具体的な方法の一つです。
チームは、内部の結束力を高めつつ、外部の知識やスキルを柔軟に取り入れることで、予期せぬ困難にも効果的に対応し、持続的なイノベーションを実現することができるのです。このアプローチを採用することで、チームは真の「集合天才」となり、複雑な問題解決とイノベーションの最前線に立ち続けることができるでしょう。
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