コンセプトの教科書 あたらしい価値のつくりかた
細田高広
ダイヤモンド社
本書の要約
企業の成長に不可欠な要素の一つは明確で共感を呼び起こすコンセプトです。コンセプトは企業の核となる価値や哲学を示し、その企業を他社とは異なる存在として位置づけます。コンセプトは企業の方針や行動の指針となり、全体の一貫性を維持します。良いコンセプトの提示によって、従業員や顧客からの共感を得ることができます。
競争優位性の核となるコンセプトとは何か?
コンセプトメイキングとは新たな意味を創造することなのです。(細田高広)
企業の成長に欠かせない要素の一つが、明確で共感を呼び起こすコンセプトです。これは、企業の核となる価値や哲学を示し、その企業を他と異なるものとして位置付けます。成功している企業の中には、このコンセプトがしっかりと根付いており、顧客や従業員にとって魅力的なものとなっています。スターバックスの「サードプレイス」はその代表的な例です。
TBWA /HAKUHODOのCCOの細田高広氏は、コンセプトは、価値の設計図であり、以下の3つの役割を担っていると言います。
1. 判断基準になる。
2. 一貫性を与える
3. 対価の理由になる
コンセプトは企業の方針や行動の指針となり、全体の一貫性を保ちます。建築の図面のように、全体像を示すものと言えます。それは「価値の設計図」であり、それに基づいて製品やサービスが生み出されます。 顧客や従業員は、企業のコンセプトを通じて、その企業の価値や哲学に触れ、関わることの意義を感じることができます。
ビジネスの成功には、モノ自体の機能や性能だけでなく、モノが持つ意味を伝えることが欠かせません。顧客は単にモノを買うのではなく、そのモノが彼らの生活や価値観にどのような影響を与えるかを考えています。企業やブランドは、モノの背後にあるストーリーやコンセプトを明確にし、顧客との共感を生み出す努力をする必要があります。
したがって、モノが存在する意味を捉えたコンセプトは、ビジネスの成り立ちの中心を捉える重要な要素となります。顧客はモノ自体に魅力を感じるだけでなく、そのモノが彼らの生活にどのような意味をもたらすかを求めています。企業やブランドは、この点を理解し、顧客との共感を生み出すコンセプトを提供することで、成功を収めることができるのです。
スターバックスの場合、多くの人々がその「サードプレイス」というコンセプトに共感し、リラックスする場として店舗を利用しています。このように顧客が企業のコンセプトに共感することは、その企業の競争力を高める要因となります。
著者は企業のパーパス・ビジョン・ミッションが重要になってきていると言います。
そのような時代において、人が知りたがっているのは「なにを買うか」ではなく、「なぜ買うか」についての答え。したがってビジネスもまた、「それはなにか」(WHAT)ではなく、「なんのために存在するか」(WHY)と、存在の意味を中心に構想されるべきであるということです。
著者によれば、今日のビジネスの核心は「企業のパーパス・ビジョン・ミッション」に位置するとされています。これは、時代の流れとともに消費者の価値観が大きく変わりつつあることを示しています。 過去の消費者は、商品やサービスの特性や機能、価格など、「なにを買うか」に焦点を当てていました。
しかし、現代の消費者は、単に商品の機能や価格だけではなく、その背後にある価値や哲学、企業の存在意義に着目しています。彼らは「なぜこの商品やサービスを購入するのか」という深層的な理由を求めているのです。
このような変化は、企業にとって大きな意味を持ちます。企業は単に商品やサービスを提供するだけの存在ではなく、その背後にある「WHY」、すなわち「なんのために存在するのか」という核心的な価値や哲学を持ち、それを明確に伝えることが求められるようになっています。
機能するコンセプトに必要な要素とは?
機能するコンセプトを持つことは、ビジネスやプロジェクト成功の鍵となります。コンセプトが機能するためには、以下の要素が必要です。
①顧客目線
コンセプトは、顧客のニーズや問題点を解決するためのものでなければなりません。顧客の視点を持つことで、真の価値を提供できるのです。
②独自性
似たようなアイデアやサービスが多数存在する中で、ならではの発想やアプローチが求められます。これにより、競合から差別化されるとともに、顧客の関心を引き付けることができます。
③スケール可能性
コンセプトは、拡大や展開が可能でなければなりません。小規模のビジネスや地域限定のサービスも重要ですが、大きな市場や多くの顧客にアピールできるコンセプトが求められることもあります。
④シンプルさ
複雑すぎるコンセプトは、伝えるのが難しくなる場合があります。シンプルかつ分かりやすいコンセプトは、広く受け入れられやすくなります。
アイデアとコンセプトは異なります。その違いは、顧客目線の有無にあります。ビジネスアイデアは「商売を始める理由」ですが、それが「顧客がお金を払う理由」になるとは限りません。例えば、スターバックスの「イタリアのカフェ文化をアメリカにも持ち込みたい」という着想には、顧客の視点が欠けています。
顧客にとってイタリアのカフェ文化がどのような意味を持つのかを考える必要があります。それを言語化したのが「第3の場所」というコンセプトだったのです。 コンセプトは、顧客のインサイトに応えるものとして、そして組織やチームのビジョンを叶える一歩目として、2つの目的のために設計されます。顧客のニーズや欲求に対応することで、顧客満足度を高めることができます。
また、組織やチームのビジョンを明確にすることで、メンバーの共感と協力を得ることができます。 コンセプトメイキングは、アイデアを顧客目線で再構築し、実際の市場や現実に適応させる技術です。アイデアは抽象的であり、可能性は広がりますが、そのままでは実現しにくい場合が多いです。
それに対して、コンセプトは具体的で、実際のビジネスやプロジェクトに落とし込むことができる形になります。 この過程で大切なのは、アイデアの本質を理解しつつ、顧客の真のニーズや価値観に合わせて変化させる柔軟性を持つことです。そして、そのコンセプトには独自の色合いや魅力を持たせることで、他と差別化し、顧客の心をつかむことができます。
コンセプトを明確に伝えるための「1行化(キーフレーズ化)」には多様なアプローチがあります。JR東日本エキュート事業が掲げる「通過する駅から、集う駅へ」は、その象徴的な「変革話法」の適用例です。この方法は、変化や進歩のイメージを強力に伝達するキーフレーズを生み出すことを重視しています。
また、有名な「空飛ぶバス」は、サウスウェスト航空が用いた「メタファー法」です。これは、一般的なイメージや既知の概念を活用して、新しい視点や発想を表現する方法です。このメタファーによって、サウスウェスト航空は低価格帯のサービスでイノベーションを起こし、顧客からの支持を得ることに成功します。
「スライド法(ズラシ)」では要素と要素の組み合わせをズラして行くことで、新たなマーケットを開拓できます。オフィス・グリコや駅弁からヒントを得た空弁、作業着の世界を女子向けに変えたワークマン女子などのコンセプトは秀逸です。
これ以外にも著者が紹介する「比較強調法」「反転法」「矛盾法」など多様な基本構文を使い倒すことで、コンセプト作成が楽しくなるはずです。
コンセプトが成功するためには、常に変化する市場や顧客の動向に敏感であること、そしてそれを取り入れながらも自らのビジョンや信念を持ち続けるバランスが求められます。このバランス感覚を持つことで、長期的な成功やブランドの信頼を築くことができるようになりまう。
著者のフレームワークやケースから多くの学びを得られます。本書を活用し、コンセプトメイキングをマスターすることで、未来のビジネスやプロジェクトの成功を手助けする力強い武器を手にすることができます。顧客を感動させるコンセプトによって、市場や顧客とのコミュニケーションを深めることができるようになり、企業は圧倒的な優位性を得ることができます。
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